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単純な行列の逆行列

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$$$$

$\begin{bmatrix} 3&1&1 \\ 1&3&-1\\ 1&-1&3 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} I_1 \\ I_2\\ I_3 \end{bmatrix}=\begin{bmatrix} 4 \\ -2\\ 2 \end{bmatrix}$

$\therefore\begin{bmatrix} I_1 \\ I_2\\ I_3 \end{bmatrix}=\dfrac{1}{4}\begin{bmatrix} 2&-1&-1 \\ -1&2&1\\ -1&1&2 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} 4 \\ -2\\ 2 \end{bmatrix}$

三次正方行列の中でも、
1.対角成分が等しい
2.そこ以外の絶対値が同じ
3.対称行列
を満たす奴の逆行列は、簡単に出せるというお話です。

証明

$\begin{bmatrix} a&b&c \\ b&a&d\\ c&d&a \end{bmatrix}$($b^2=c^2=d^2, (行列式)\neq0$)の逆行列を求めていきます。

前準備

まずは余因子行列で大雑把な形を把握したいところですが、その前に。
こいつは対称行列なので、逆行列も対称行列です。
($\because(AA^{-1})^t=I^t\Longleftrightarrow (A^{-1})^tA=I\Longleftrightarrow (A^{-1})^t=A^{-1}、転置が同じ。$)
なので、余因子行列の$ij$成分を$\Delta _{ij}$とできます。元の行列の$ij$成分と一致して楽。
更に、対称行列なので、対角より上側の三つがそのまま下側の値になります。
なので、上部分だけを扱い、下部分は省略することにします。
$\dfrac{\begin{bmatrix} a^2-d^2&cd-ab&bd-ac \\ &a^2-c^2&bc-ad\\ &&a^2-b^2 \end{bmatrix}}{a^3+2bcd-ac^2-ab^2-ad^2}$

行列式の簡略化、仲間外れ

まず行列式を整理すると、
$a(a^2-b^2-c^2-d^2)+2bcd$
二乗の部分は、条件からまとめられそうですね。でも、$bcd$はそれだけじゃダメそう。
ここで、$bcd$がどういう数かを考えます。これは、絶対値は$|b^3|$などと等しいが、符号が違う数です。
例えば、$b=1,c=1,d=-1$とすると、$bcd=-1, b^3=1,c^3=1,d^3=-1$
どれも、符号だけ違います。でも、$bcd=d^3$ですね?
他の例も見てみましょう。
$b=-1,c=1,d=1$であれば、$bcd=b^3$
$b=-1,c=1,d=-1$であれば、$bcd=c^3$
ここから分かることは、$「bcdは仲間外れの三乗」$ということでしょう。
($b=c=d$だと仲間外れはいませんが、どれを選んでも$bcd$になるので、便宜的に全部仲間外れとします。)
ここで、仲間外れの数を$e$とします。$bcd=e^3$を満たすような数です。
また$eがb,c,d$のどれかであることには変わりないので、$b^2=c^2=d^2=e^2$も満たします。
これを使って行列式を整理すると、
$a(a^2-b^2-c^2-d^2)+2bcd$
$=a(a^2-3e^2)+2e^3$
$=a^3-3ae^2+2e^3$
この式は$a=eで0になるので(a-e)で括れて、$
$=(a-e)(a^2+ae-2e^2)$
$=(a-e)^2(a+2e)$
無事因数分解されました。

余因子行列の簡略化

\begin{bmatrix} a^2-d^2&cd-ab&bd-ac \\ &a^2-c^2&bc-ad\\ &&a^2-b^2 \end{bmatrix}
次に、これを簡略化できないか考えてみます。
二乗部分は明らかに$a^2-e^2$となって、$(a-e)(a+e)$と因数分解されるので、他の部分もどっちかを因数に持たせたいですね。
まあ、$cd-ab$とか、どれも引き算なので、$a-e$で括るのが自然でしょう。
括れるとしたら、$cd-ab = -b(a-e)$となり、$cd=be$なんてのが成り立たないといけない様です。なんだこれは。
ああ、両辺に$bをかければbcd=b^2e=e^3。e^2を都合よく利用しているだけでした$
式にしてみせれば、$bcdから一つ選んだものをfとすると、bcd=ef^2\Longleftrightarrow \dfrac{bcd}{f}=ef。$
$fとeの積は、f以外の積に等しいということです。仲間外れのeであればなるほどそんなこともありそうです。$
これを使って整理すると、
\begin{bmatrix} a^2-d^2&cd-ab&bd-ac \\ &a^2-c^2&bc-ad\\ &&a^2-b^2 \end{bmatrix}
$=\begin{bmatrix} a^2-e^2&-b(a-e)&-c(a-e) \\ &a^2-e^2&-d(a-e)\\ &&a^2-e^2 \end{bmatrix}$

$=(a-e)\begin{bmatrix} a+e&-b&-c \\ &a+e&-d\\ &&a+e \end{bmatrix}$
単純明快

後始末

余因子行列と行列式をくっつけましょう。
$\dfrac{(a-e)\begin{bmatrix} a+e&-b&-c \\ &a+e&-d\\ &&a+e \end{bmatrix}}{(a-e)^2(a+2e)}$

$=\dfrac{\begin{bmatrix} a+e&-b&-c \\ &a+e&-d\\ &&a+e \end{bmatrix}}{(a-e)(a+2e)}$
これにて、この形の行列の逆行列の公式が導かれました。
$対角はa+e、それ以外はマイナス、行列式は(a-e)(a+2e)$
これだけ覚えておけば、このタイプの逆行列を一発で導けるという訳です。

余談

どこにそんな都合のいい状況があるんだ、と思うかもしれません。
私の場合はキルヒホッフの法則の問題です。解法の都合上、たぶん必ず対称行列が出てきます。もちろん対角成分が同じじゃなかったり、そこ以外の絶対値が異なることもありますが、このタイプの時も割とあります。
そしてなぜかそのときだけ、逆行列を求めるのが必須になってることが多いです。問題製作者側だけの検算公式なのかしら。

投稿日:2023518

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