こんにちは、KABATANです。先日までIMO2025オーストラリア大会に参加し、金メダルをいただけたので参加記を書こうと思います。主にIMOと春合宿の問題の内容や試験中のムーブ、あとは自分の数オリ人生について触れます。JMO予選・本選については 過去の記事 を見てください。また、IMOの生活・交流面での話いは財団通信の方に載せます。
前述の記事の通り、本選でまさかの銀賞を取ることができたので、本気で代表を狙うことにした(元々春に行ければいいや、と思っていた節がある)。春合宿は6完すれば通る、と言われているので一番級4問と2G,3Gを解いて通過しようと思い、春合宿前は幾何を重点的に解いた。また、USAMOなどを使ってIMO形式のばちゃを大量にこなした。途中APMOもあったが、まだ言及していいのかわからないので、ここでは触れません。
以降、春合宿の問題に関するネタバレを含みます。
P1. 正整数からなる空でない有限集合$S$であって, 任意の$S$の元$a,b$に対して$S$の元$c$が存在し, $a|b+2c$となるものを全て求めよ.
P2. 三角形$ABC$の辺$AB,AC$上に点$D,E$があり, 円$ABC$と$ADE$の交点を$P$とする. また$\angle{BAC}$の内角二等分線と円$ABC$の$A$でない交点を$M$とし, $PM$と$BC$の交点を$Q$とする. $DM$に関して$B$と対称な点を$B^{\prime}$, $EM$に関して$C$と対称な点を$C^{\prime}$とし, 線分$B^{\prime}C^{\prime}$上に$B^{\prime}Q^{\prime}:Q^{\prime}C^{\prime}=BQ:QC$を満たす$Q^{\prime}$をとる. 三角形$DEM$の外心を$O$とするとき, $QQ^{\prime} \parallel OM$を示せ.
P3. $n$を正整数とする. $n\times n$のマス目があり, 左上のマス目が黒で, それ以外のマス目が白で塗られている. ちょうど1マスが黒く塗られている$2\times 2$のマス目を選んで, 全て黒で塗ることを繰り返す時, 全てのマスを黒で塗れるような$n$を全て求めよ.
朝食時に2Gの日は3Nとかがいいなー、3Cは最悪。とか言ってたら2G3Cが来てしまいました!1,2を解いて3で部分点稼ぎかなーと思いながら1を解きにかかる。2のオーダーを見ると$S$の要素が全て奇数の場合に帰着できるとわかったが、それ以降特にいい進捗が出なかったので2に行く。2は明らかに回転相似の見た目をしているので適当に議論したあと、三角形$DEM$と$BCX$が相似になるような点$X$をとるとうまく行った。1に戻ってとりあえず$S$の最大元をとると普通に解けたので答案を書いた。結局2時間残しくらいで2完できた気がする。P3は$n$が2べきの時の構成をして、$n$で可能なら$\frac{n}{2}$でも可能なのかなーと思っていたが有効な議論はできなかった
P2は2番級にしては難しいような気がしていて、実際参加者は一完が多かった。JPN2がP2をベクトルで倒していて頭いい〜となった一方、自分の補助点($X$のこと)はかなり特殊だったらしく、解法を説明した時は驚かれた。JPN4が全完を主張していて怖かった。
P4. $n$を正整数とする. $n$人の生徒が$n$回の徒競走を行い, 各競走で別生徒と同着となった生徒はいなかった. 称号は正整数の組$(a,b)$によって表され, $n$回の徒競走において$b$位以内を少なくとも$a$回取った生徒に与えられる. また各生徒の得点を, その生徒が持つ称号$(a,b)$に関して, $a-b$の最大値として定める. $n$人の生徒全員の得点の総和として考えられる最大の値を求めよ.
P5. 正整数からなる集合$\{2^0,2^1,2^2,...\}$の部分集合$S$であって, 正整数に対して定義され正整数値をとる関数$f$が存在し, 以下を満たすものを全て求めよ.
$$S=\{f(a+b)-f(a)-f(b)|a,b \in \mathbb{N}\} $$
P6. $AB< AC< BC$なる三角形$ABC$の内心を$I$とし, $AI,BI,CI$と円$ABC$の交点のうち$A,B,C$でないものの交点を$M_A,M_B,M_C$とする. $AI$と$BC$の交点を$D$, $BM_C$と$CM_B$の交点を$X$, 円$XM_BM_C$と$XBC$の$X$でない交点を$S$, 円$SXM_A$と$BX,CX$の交点のうち$X$でないものを$P,Q$とする. 三角形$SID$の外心は$PQ$上にあることを示せ.
朝食時に3Gの日は1Nか1Aがいいなー、1Cは最悪。とか言っていたら1C3Gが来てしまいました!しっかり3を解いて2完していきたい。1は適当に生徒の順位を入れ替えて改善を繰り返していくと最適解が得られそうだが、答案がめんどいのでとりま3に行く。3はまたもや回転相似関連の問題で、そこし図を眺めると$SID$が$PQ$のアポロニウス円になっていることを示せばいいとすぐにわかった。これに気づけばもう終わりで、多少変なことをしたが1時間ちょっとで完答。正直P2の方が難しいと思う。1Cを解けば代表がほぼ確定するので、かなり余裕を持って解きに行く... が, 解けない. 解けない. 解けない. 解けなかった(試験終了後)。
3番級一完はもはやギャグなので、終了直後はかなり(笑)といった感じだった。他の参加者に出来を聞くと基本的にみんなP4を解いて一完で、初日のアドバンテージを失ってはいないが本来かなりリードできる場面でそれをできなかったのはやばいなーと思っていた。P5も自分が得意そうな問題であったことが後々判明したため、最後までP4に粘着して解ききれなかったはかなりの失敗。三日目以降のセットがGNAとACNであることが確定していたので、2Cを捨てて二番級以降のANをどれか解けるか解けないかの勝負だなーと感じていた。
P7. 正整数列$\{a_i\}$があり, 全ての$n\geq2025$に対して$a_n$は$a_1,a_2,...,a_{n-1}$のうち, $\frac{a_1+a_2+...a_{n-1}}{n-1}$以上のものの平均に等しい. 全ての$n\geq2025$に対して$a_n=a_{2025}$となることを示せ.
P8. 平面上に$1000$個の良い点があり, どの$3$点も同一直線上になく, 各点には実数が割り当てられている.
さて, 良い点の組$(A,B,C,D)$であって, 三角形$ABC$の内部に点$D$があるものを美しい組という.
さらに, 美しい組$(A,B,C,D)$であって, $A,B,C$に書かれた実数の平均が$D$に書かれた実数に等しいようなものをエモい組という.
任意の美しい組がエモい組であったとき, エモい組の個数としてありえる値の最大値を求めよ.
ただし, 割り当てられた実数が全て同じであることはないものとする.
P9. 正整数に対して定義され正整数値をとる関数$f$は以下を満たす。
$$ gcd(m,n)=1 \Leftrightarrow f(mn)^2=f(m^2)f(f(n))f(mf(n)) $$
各正整数$n$に対して, $f(n)$としてありうる値を全て求めよ.
分野はACN。とりあえずP7を早急に倒したくて、厳密に議論するのが少し大変だったが1時間くらいで完答できた。P8はぱっと見構成もわからず、昨日のこともあってCの自信が0だったので、これを完全に捨ててP9を全力で解きに行くことにした。少し議論をすると$f(1)=1$や$f(f(n))=f(n),f(m^2)=f(m)$などの使えそうな情報がゲットできて、そこから素数$p$に関して$f(p)$を調べると(結構頑張ると)$rad(f(p))=p$が言えた。このあとは素因数の数について帰納法が回って、$rad(f(n))=rad(n)$が示せた。(試験終了30分前)本来はこれでこの問題は解けているのだが、試験中の自分は$f$を全て求める問題だと勘違いしていたせいで、ここから完答することはできなかった(あほ)
完答はできなかったとはいえ、P9はほぼ解けた気がしていたので勝った気でいた。が、なんかみんなP8を解いていてそんなことはないらしいとなった。P9はかなり難しい問題だったようだが、自分はほぼ解けているようで安心。だがあくまで1日目のリードを守っているに過ぎず、4日目が勝負になる気がしていた。(ちなみに、P8を解いたと主張した人のほとんどが嘘であることが後々判明した。後述)
P10. ある円周上に$5$点$A_1,A_2,A_3,A_4,A_5$があり, 五直線$A_1A_3,A_2A_4,A_3A_5,A_4A_1,A_5A_2$がなす五角形は内接円を持つ. 三角形$A_1A_3A_4,A_2A_4A_5,A_3A_5A_1,A_4A_1A_2,A_5A_2A_3$の内心は同一円周上にあることを示せ.
P11. $n$を正整数とする. 整数係数多項式$P$が$n-good$であるとは, ある整数係数2次多項式$Q$が存在し, $Q(k)(P(k)+Q(k))$が任意の$k$に対して$n$で割り切れないことを言う. 任意の整数係数多項式が$n-good$であるような$n$を全て求めよ.
P12. $p,q$を互いに素な正整数とする. 無限正整数列$a_1,a_2,...$であって, 任意の$n\geq1$に対して以下を満たすものを全て求めよ.
$$max(a_n,a_{n+1},...,a_{n+p})-min(a_n,a_{n+1},...,a_{n+p})=p $$
$$max(a_n,a_{n+1},...,a_{n+q})-min(a_n,a_{n+1},...,a_{n+q})=q $$
1Gを速攻で倒して、頑張って2Nを倒したい。実際1Gは一番級にしては少し難しいとはいえ、30分弱で完答できた。というわけで2Nだが、またもや整数係数多項式の問題である。いい加減飽きたし、げんなりとしてしまうが仕方なく考察。$n=1,2$は明らかに条件を満たさず, $n=3$の時は実験の結果どうやら条件を満たすようである。また、よく考えればこの問題で$P$はそれほど意味はなく、$Q$だけが重要なようだ。つまり整数係数2次多項式の自由度に興味があるわけだが、よくわからないまま試験が終わってしまった...
一完なのでやべーみたいなことを思っていたが、他の参加者もP11,P12を解けていないようだったので一安心していた。JPN4が全完を主張していて怖かった。ともかく、1日目のリードを守り通した形ではあるが、代表になれるような気はしていた。
部活の合宿で雲取山に登った帰りに代表入りを知った。
強化合宿で春の答案が返却され、770/007/706/710で合計42点だった。P6とP9は(少なくとも代表内では)解いたのが僕だけだったようで、結構嬉しかった。面白いのがP8で、みんな完答を主張していたのにもかかわらず、代表内でも3点以上を獲得したのがJPN2だけだった。相当に嘘をつきやすい問題だったようで、Day3の自分は相当に運が良かったらしい。ちなみに代表ボーダーもかなり面白いことになっていたが、あんま言及しない方がいいらしいので、ここでは言いません。
ごちうさはすごいです。本選前にごちうさを読んで銀賞をとりましたが、今回の春合宿でも(Day2を除いて)ごちうさを読んでinゼリーを飲みました。実際Day2以外では一番級を解いてまともな成績を取っているので、ごちうさの凄さがよくわかりますね!
通信添削(と鉄緑と学校)が結構大変で、思うように対策が進まなかった。特に6月中にモチベ停滞期がきてやばかった。最終的に(極大とまでは言わないが)IMOごろにはモチベが回復し、万全の状態でIMOに臨むことはできた。具体的な勉強としては、ACNの強化を行った。Gは正味これ以上強くなる必要がないように思えたので、ANは三番級まで、Cは二番級まで太刀打ちできるようにISLやAoPSの問題を大量に解いた。結果的に3Nや3FEならある程度解けるようになり、2Cも半分以上は解けるようになった(通信添削では全敗したが)。
以降、IMO2025の問題に関するネタバレを含みます
きちんとごちうさとinゼリーをオーストラリアに持っていった。試験前日はJPNsでKoreaFinalRound2025を解いていた。
問題
分野はCGN。明日に2Cがないことも確定し、勝ちを確信した。あわよくば全完したいと思いながら2を解き始める。解けた。1をとく。答えが定数になったので不安になるが、さすがに間違ってないと思い完答。ここまで1時間ちょっと。この時点で全完をほぼ確信、P3に手をつける。$f(p)$の値が$p$べきであり、$f(p)=1$なる素数$p$が存在すれば$f(n)$が2冪になることが言えた。また$f(p)=p^e(e>1)$なる$p$があればある素数$q$が存在し$f(q)=1$となることが言えた。(謎にZigmondyの定理を使った)結局$f(p)=p$の時を考えれば良くなったが、これは自明だった。あれ、もう解けてしまった?答案を書き終わった時点で2時間くらい余ってしまったので、適当に明日の分野予想をしたり見直しをしたりして時間を潰していた、ら、終了30分前にミスに気づいた!(なんか嘘をついてP3の答えを$c=2$にしていた!)。急いで終了してギリギリで完答。なんとか全完できた。
終了直後にJPN4と答えが一致していることを確認し、簡単だったねー、みたいな話をしていた。JPNsの成績はかなり良く、試験後は明日来るであろう3G・3Cの対策を各々していた。
3Gが来た場合かなりの高確率で満点を取れる気がしていたので、うきうきしていた。
問題
分野を見る。NCC?はあ?(絶望)。試験前のうきうきを返してくれ。今年は3Gが来る流れだったでしょ?そんなことを言っても仕方ないのでP4を解き始める。数列$a$が十分先で$6\times N$という形をしていることはすぐにわかったが、そこから$a_1$を求めるのは面倒くさかったのでとりあえずP5にいく。ちょっと考察すると20をいっちゃだめゲームみたいなやつで使う必勝法と似たようなことができると気づいて、AもBもその戦略で勝てたので完答。P4もちゃんと考えればすぐに解けて完答。試験時間を3時間残してあとはP6のみとなった。が、解けない。そもそも構成に自信が持てないし、よくわからん!通信添削でちょっと似てる問題があったのでそこで見たような考察を少し書く程度で試験が終わってしまった。
実際P6はかなり難しかったらしく、その面では安心していた。しかしP4,P5が簡単なのは事実であり、35点を取る人がかなり多いであろうこと、P6の構成が1点であることを踏まえて、金ボーダーが36点ではないかと言われ始め、かなり不安だった。実際僕はP6に3時間も残せているわけだし、構成くらいはできるべきであったと反省していた。
777/770で35点、ボーダーちょうどで金メダルを得ることができた。確かに35点を得た選手は多かったものの、今年の日本の国別順位が4位(歴代二番目)であることから分かる通り、日本が強過ぎただけで海外の選手はそこまでP6の構成などをできていなかったことに救われた。ちなみに僕はP4の答案で「数列$a$が十分先で一定」を書き忘れていて減点をくらいそうになったが、メモの独り言に書いてあったので耐えたらしい。危なかった...
Xで言っていたと思うが、自分の数オリ人生はあまり良くないものであったと思う。算オリは小5,6の時に受けたがいずれも予選落ちしてしまったし、中一で受けたJJMOも(惜しくもなく)予選落ちだった。中二のJJMOは本選こそいけたもののかろうじて一問解けた程度で入賞にはほど遠かったし、毎回惰性で続けていた広中杯も、本選で受験者平均以下みたいな成績を取ってた気がする。OMCとかもやっていたが、基本的に水色で停滞し、レートの上下に一喜一憂する感じだった。始めの転機となったのは中三の12月なのかな?中学生ながら調子に乗ってJMOを受けることに決めた自分だが、当時の自分ではJMO予選を通れるか怪しいことが判明し、予選対策で過去問を解き始めた(それまでは過去問を解く対策とかをあんまりやっていなかった気がする)。何回かやってるうちにだんだん「どうやって問題を解くか」がわかり始め、予選7番以降もまともに解けるようになり、無事予選を通過することができた。そのまま春合宿に行きたいなあと思った自分はかなり数オリの勉強をしてJMO本選に望んだが、本番で見事に誤読、本選落ちだった。
本選落ちが確定してから、学校の友達と月一でコンテストを開くようになった(TKMO: たけまさ数学オリンピック)。これによって同学年内に競技数学erがかなり増えて、全体的なレベルも上がったのは良かったと思う。それでも自分の実力は大したことなくて、去年の夏休み時点では、自分の得意分野である幾何でさえ、2番級がギリギリ解けるかなーくらいだった。この頃にXにある初等幾何問題botの低難易度を埋め始めた気がする。
第二の転機は去年の9,10月くらいのことだと思う。XをいじってたらIMO三番級とかをポンポンといている某Kさんを見つけて、負けず嫌いからかIMOの3番級幾何を解き始めた。初等幾何問題bot埋めが功を奏してかなんか結構とけて、そのままIMOで2000年以降でた幾何を全てといたり、ISLの三番級幾何をほぼ解いたり、初等幾何問題botの高難易度をだいぶ埋めたりした。JMO2025の予選の頃には幾何はかなり強くなっていたと思う。
第三の転機はJMOで銀賞を取れたことな気がする。詳細は始めに載せた記事を読んでもらうとして、自分は予想外にも銀賞を取ることができた。元々自分は春合宿に行ければ十分かなーなどと内心思っていたが、この銀賞によって、代表を狙えるのでは?と真面目に思うようになった。特に幾何が十分に強いことは春合宿でアドバンテージになりそうだったし、幾何の成長に応じてAやNも結構解けるようになっていた(同級生くんのyくんが春合宿直前に送ってくれたNを解いたことでA,Nの自信がだいぶついた。ありがとう)。さらに大きいのは、自分に自信ができたことだと思う。今までJMOなどの試験で成功したことがなかったため、自分がコンテストでいい成績を取るのは夢のまた夢だと思っていた。しかし、今回の本選で流れに乗ったというべきか、なんか勝てるような気がしてきた。
この後のことは記事の前半で書いた通りである。実は今年のJPNsで春合宿初参加だったのは自分だけだったし、同様に実績が全くなかったのも自分だけだったので、そんな中でIMO金メダルを取れたの自分でもかなりの驚き。
今年のIMOで感じたのは、やっぱり「JPN4すごい」ということ。満点がすごいのはそうだし、そもそも僕とは思考の次元が違いそう。来年までには三番級Cも解けるようになって、あの域に達したいなあと思い、IMO前よりも数オリモチベが高くなった今日この頃でした。
自分語りを読んでくれてありがとう