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[2024年]Z/2024Zの乗法群を求めよう!~円分体のGalois群~

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記事を開いていただいてありがとうございます!
2024年なので(?), $(\mathbb{Z}/2024\mathbb{Z})^×$を求めていきたいと思います.

はじめに

この記事では, 群や環の定義を最低限知っていることを前提に, 群論の教科書によく出てくる$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×$の構造を紹介します.
進んだ勉強をされている方にとっては少々物足りなく感じる部分もあると思いますが, 群論を勉強した, または現在勉強しているB1, B2の方向けに, このような群を考えるひとつの理由を紹介していきます.
また, 後半のGalois理論のパートは厳密性に欠いている部分があるとは思いますが, 今回は主に$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×$の応用をテーマとしているため, ご容赦いただければと思います. 完全に誤っている部分があれば, コメント欄で教えていただけると幸いです.

乗法群$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{×}$の求め方

可換環$A$に対して,
$$A^× = \{x \in A \mid \exists y \in A\, \mathrm{s.t.}\, xy = 1\}$$
を, $A$の乗法群という.

$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$は可換環なので, その乗法群はアーベル群になります. つまり, $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×$は有限アーベル群ですから, 巡回群の直積で表せそうですね. また, $a$$n$が互いに素であることが$a \in \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$が可逆元であることの必要十分条件なので, $|(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×| = \varphi(n)$とわかります. (ただし, $\varphi$はオイラー関数で, $\varphi(n)$$n$と互いに素な$n$以下の自然数の個数を表します.)
まずは, 剰余類に関する以下の定理を思い出してみましょう.

中国剰余定理

$a$$b$が互いに素であるとき,
$$\mathbb{Z}/a\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/b\mathbb{Z} \simeq \mathbb{Z}/ab\mathbb{Z}$$
が成り立つ.

$f:\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/a\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/b\mathbb{Z}$を各成分への自然な全射とする.
$\mathrm{Ker}f = a\mathbb{Z}\cap b\mathbb{Z} = ab\mathbb{Z}$であるから, 準同型定理より, $\mathbb{Z}/a\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/b\mathbb{Z} \simeq \mathbb{Z}/ab\mathbb{Z}.$

組($m$$a$でわったあまり, $m$$b$でわったあまり)と, $m$$ab$でわったあまりが一対一に対応する, という定理です. 受験数学でも, 一次不定方程式の問題としてよく出題されますね.
さらに一般化された次の定理も知られています.

中国剰余定理(一般ver.)

$a_1,\,a_2,\,\dots,\,a_r$がどのふたつも互いに素であるとき,
$\mathbb{Z}/a_1\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/a_2\mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}/a_r\mathbb{Z} \simeq \mathbb{Z}/a_1a_2\cdots a_r\mathbb{Z}$
が成り立つ.

百五減算

Aさんの年齢を3でわると2あまり, 5でわると2あまり, 7でわると4あまります. Aさんの年齢を105でわったあまりはいくつでしょうか?

さて, $n(>1)$の素因数分解を,
$$n = p_1^{e_1}p_2^{e_2}\cdots p_r^{e_r} $$
としましょう. (ただし, $i \neq j$なら$p_i,\,p_j$は異なる素数, 各$i$に対して, $e_i \geq 0.$)
$p_i^{e_i}$$p_j^{e_j}$は互いに素なので, 前の定理から,
$$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \simeq \mathbb{Z}/p_1^{e_1}\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/p_2^{e_2}\mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}/p_r^{e_r}\mathbb{Z}$$
となります. $n = 2024$の場合を考えると, $2024 = 2^3 \cdot 11 \cdot 23$なので,
$$\mathbb{Z}/2024\mathbb{Z} \simeq \mathbb{Z}/2^3\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/11\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/23\mathbb{Z}$$
となりますね.
これで, 大きな環を小さな環に分解することができましたが, 乗法群の情報 (笑うところ) はどのようになっているのでしょうか? 以下の命題をみてみましょう.

$A, B$に対して,
(1)$A \simeq B \Rightarrow A^{×} \simeq B^{×},$
(2)$(A \times B)^{×} = A^{×}\times B^{×}.$

環の同型と群の同型がごちゃ混ぜになっているので注意が必要ですが, (1)は環同型が乗法群の同型を導くことを, (2)は直積の乗法群が乗法群の直積と等しいことを主張しています.
証明は省略して, $\mathbb{Z}/2024 \simeq \mathbb{Z}/2^3\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/11\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/23\mathbb{Z}$に適用してみましょう. すると,
$$(\mathbb{Z}/2024)^{×} \simeq (\mathbb{Z}/2^3\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/11\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/23\mathbb{Z})^{×} \simeq (\mathbb{Z}/2^3\mathbb{Z})^{×} \times (\mathbb{Z}/11\mathbb{Z})^{×} \times (\mathbb{Z}/23\mathbb{Z})^{×}$$
が成り立ちます! 一般の場合を考えても, $(\mathbb{Z}/p^e\mathbb{Z})^{×}$の構造がわかれば良さそうです!
この記事では証明はしませんが, 結論は以下のようになっています.

(1)$p$$3$以上の素数とするとき,
$(\mathbb{Z}/p^e\mathbb{Z})^{×} \simeq \mathbb{Z}/p^{e-1}(p-1)\mathbb{Z}. $
(2)
$(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{×} \simeq \{1\}, (\mathbb{Z}/2^2\mathbb{Z})^{×} \simeq \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} .$
(3)$e$$3$以上の整数とするとき,
$(\mathbb{Z}/2^e\mathbb{Z})^{×} \simeq \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times \mathbb{Z}/2^{e-2}\mathbb{Z}.$

例えば$n=2024$の場合をみてみると,
$$\begin{align} (\mathbb{Z}/2024)^{×} &\simeq (\mathbb{Z}/2^3\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/11\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/23\mathbb{Z})^{×}\\ &\simeq (\mathbb{Z}/2^3\mathbb{Z})^{×} \times (\mathbb{Z}/11\mathbb{Z})^{×} \times (\mathbb{Z}/23\mathbb{Z})^{×}\\ &\simeq (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}) \times \mathbb{Z}/10\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/22\mathbb{Z} \end{align} $$
となって, $\mathbb{Z}/2024\mathbb{Z}$の乗法群を求めることができましたね.

Galois理論へ

群論の教科書(例えば赤雪江2.4.14.など)では紹介だけされている$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{×}$ですが, そもそもなぜこのような群を考えるのでしょうか? その理由のひとつとして, Galois理論を紹介します.

(1)可換環$A$に対して, $A^{×} = A -\{0\}$が成り立つとき, すなわち, $A$の加法単位元以外がすべて可逆であるとき, $A$という.
(2)$K$が体で, $K \subset L$を満たす$L$$K$と同じ演算で体になるとき, $L$$K$の拡大体といい, $L/K$と表す.

(1)有理数全体$\mathbb{Q}$は, 通常の加法と乗法で体になる.
(2)$\mathbb{Q}\subset \mathbb{R}\subset \mathbb{C}$は, 体の拡大の列である.
(3)集合$\{a + b\sqrt{2} \mid a,\,b \in \mathbb{Q}\}$は, 体である. これを, $\mathbb{Q}(\sqrt{2})$とかく. $\mathbb{Q}(\sqrt{2})/\mathbb{Q}$は体の拡大である.

体の拡大$L/K$は, その定義から$K$上のベクトル空間になっています.

$L/K$の, $K$-ベクトル空間としての次数を, $L/K$の拡大次数といい, $[L:K]$と表す. $[L:K] < \infty$のとき, $L/K$を有限次拡大という.

  1. 体の拡大$\mathbb{Q}(\sqrt{2})/\mathbb{Q}$の, $\mathbb{Q}$上の基底は$\{1,\,\sqrt{2}\}$であるから, $[\mathbb{Q}(\sqrt{2}):\mathbb{Q}] = 2$である.
  2. $1$の原始$n$乗根を$\zeta_n$とおくと, $\mathbb{Q}(\zeta_n)/\mathbb{Q}$は体の拡大であり, $\mathbb{Q}(\zeta_n)$を円分体という. その拡大次数は$\varphi(n)$である.

ここで, 有理数係数の$n$次多項式$f(x)$を考えます. $f(x) = 0$の解のひとつを$\alpha$として, $\mathbb{Q}$$\alpha$の加減乗除で作られる集合を$\mathbb{Q}(\alpha)$とすると,
$\mathbb{Q}(\alpha) = \{a_0 + a_1\alpha + a_2\alpha^2 + \cdots \mid \forall i,\,a_i \in \mathbb{Q}\}$
となり, これを$\mathbb{Q}$$\alpha$を添加した体といいます. これは有限次拡大体となることがわかります. これを繰り返して, $f(x) = 0$$n$個の解$\alpha_1,\,\dots,\,\alpha_n$を添加した体, $L = \mathbb{Q}(\alpha_1,\,\dots,\,\alpha_n)$を, 多項式$f(x)$の分解体といいます.

(1)$f(x) = x^2-2$の解は$\pm \sqrt{2}$なので, $f$の分解体は, $\mathbb{Q}(\sqrt{2},\,-\sqrt{2}) = \mathbb{Q}(\sqrt{2})$である.
(2)$\Phi(x) = x^n -1$の解は$1,\,\zeta_n,\,\zeta_n^2,\,\dots ,\,\zeta_n^{n-1}$なので, $\Phi$の分解体は, $\mathbb{Q}(1,\,\zeta_n,\,\zeta_n^2,\,\dots ,\,\zeta_n^{n-1}) = \mathbb{Q}(\zeta_n)$となる.

$L/\mathbb{Q}$がある多項式の分解体であるとき, $f$のGalois群$\mathrm{Gal} (f)$が定義できます. しかも, その位数が$[L:\mathbb{Q}]$と一致しています!

(1)$\sigma : L/K \to L/K$が次を満たすとき, $\sigma$を体の自己同型という.
(a): 任意の$x,\,y \in L/K$に対して, $\sigma(x\,+\,y) = \sigma(x)\,+\,\sigma(y), \sigma(xy) = \sigma(x)\sigma(y).$
(b): 任意の$\alpha \in K$に対して, $\sigma(\alpha) = \alpha.$
(c): $\sigma$は全単射.

(2)体の拡大$L/\mathbb{Q}$がある$n$次多項式$f$の分解体であるとする.
このとき, 自己同型$\sigma: L/\mathbb{Q} \to L/\mathbb{Q}$の全体は, 写像の合成を演算に群になる. これを, $f$のGalois群といい, $\mathrm{Gal} (f)$とかく.

$f(x) = x^2-2$のとき, $L = \mathbb{Q}(\sqrt{2})$$f$の分解体である. $\sigma \in \mathrm{Gal}(f)$とすると,
$\sigma(a\,+\,b\sqrt{2}) = \sigma(a)+\sigma(b\sqrt{2}) = a + b\sigma(\sqrt{2})$となるので, $\sigma$$\sqrt{2}$の行き先だけで決まる. ここで,
$\sigma(\sqrt{2})^2 = \sigma(2) = 2$
となるから, $\sigma(\sqrt{2}) = \sqrt{2}$または, $\sigma(\sqrt{2}) = -\sqrt{2}$である. 前者は, 恒等写像であるから, $1$とおき, 後者を$\sigma$と置き直すと,
$\mathrm{Gal}(f) = \{1,\,\sigma\mid \sigma^2 = 1\} \simeq \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$
である.

このように, $f$のGalois群を求めることができました. さて, 次は$\Phi$のGalois群を求めていきましょう.

$\Phi(x) = x^n -1$の分解体$\mathbb{Q}(\zeta_n)/\mathbb{Q}$に対して, $\mathrm{Gal}(\Phi) \simeq (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×$である.

工事中

前半のパートですでに$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^×$の構造が決定できているので, これで「体」という非常に大きく2種類の演算を持つ複雑な構造を, 「(有限)群」という比較的小さく1種類の演算しか持たない構造に置き換えることができます. これが, Galois理論を考えるひとつの理由です.

おわりに

今回は, 群論の教科書に出てくる$(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{×}$を考える理由として, 円分体のGalois群を紹介しました.
私自身まだまだ勉強中なので, これ以外の応用例はたくさんあると思いますし, 円分体についてもさらにたくさんの美しい性質があることでしょう. もしこの記事を読んでGalois理論や円分体に興味を持った方がいらっしゃたらとても嬉しいです. 一緒に勉強していきましょう!
最後まで読んでいただいてありがとうございました. 質問や誤りがありましたら, コメント欄で教えていただけますと幸いです.

投稿日:20231231
更新日:528
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ispc
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