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大学数学基礎解説
文献あり

ln det(A) = tr ln(A) (A: 一般の正方行列)の証明

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$$\newcommand{all}[1]{\left\langle#1\right\rangle} \newcommand{blr}[1]{\left[#1\right]} \newcommand{car}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{di}[0]{\displaystyle} \newcommand{fr}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{llangle}[0]{\langle\!\langle} \newcommand{llangle}[0]{\langle\!\langle} \newcommand{lr}[1]{\left(#1\right)} \newcommand{ma}[1]{\(\di{#1}\)} \newcommand{rrangle}[0]{\rangle\!\rangle} \newcommand{rrangle}[0]{\rangle\!\rangle} \newcommand{slashed}[1]{\centernot{#1}} \newcommand{test}[0]{\oalign{{X}\crcr{Y}}} $$

小ネタ。Mathlogに同内容の記事があったらすみません。

次の定理が成立します:

任意の正方行列$A$に関し
\begin{align} \hspace{1.5cm} \ln \det A=\tr \ln A \end{align}
が成立する

ここで右辺の$\ln$は行列に関する対数であり、テイラー展開により
\begin{align} \hspace{1.5cm} \ln A:=\sum_{k=1}^\infty\frac{(-1)^{k+1}}{k}(A-\boldsymbol{1})^k \end{align}
で定義されます。定理1の関係式は物理学ではよく用いられます。以下定理1を証明します。

$A$が対角化可能な場合

定理1は$A$が対角化可能な場合にはすぐに証明できます。

$\tilde A$を対角行列、$P$を正則行列として$A=P^{-1}\tilde AP$と書けるとします。また$A$の固有値、すなわち$\tilde A$の対角成分を$a_i\ (i=1,2,\cdots,n)$とします。このとき
\begin{align} \hspace{1.5cm}\det A=\det(P^{-1}\tilde AP)=\det(P^{-1})\det(P)\det(\tilde A)=\det(\tilde A)=\prod_{i=1}^na_i \end{align}
なので
\begin{align} \hspace{1.5cm} (\text{定理1の左辺})=\ln\det A=\sum_{i=1}^n\ln a_i \end{align}
です。一方定理1の右辺に関し、$\ln A=P^{-1}(\ln \tilde A)P$であり($(A-\boldsymbol{1})^k=P^{-1}(\tilde A-\boldsymbol{1})^kP \ (k\in \mathbb{N})$より$\ln A$のテイラー展開の各項で$P^ {-1}$は左に、$P$は右に括り出せる)、また$\tilde A$が対角行列であることから$(\ln \tilde A)_{ii}=\ln a_i \ (i=1,2,\cdots n)$なので、$\tr$内の行列の巡回置換による不変性より
\begin{align} \hspace{1.5cm} (\text{定理1の右辺})=\tr \ln A=\tr\ln \tilde A=\sum_{i=1}^n\ln a_i \end{align}
となり、定理1が成立します。

一般の$A$の場合

一般の$A$ではどうでしょうか。この場合、任意の正方行列が三角行列に相似であることを用います:

任意の正方行列$A$に関し
\begin{align} \hspace{1.5cm} A=P^{-1}JP \end{align}
となる$P$および$J$が存在する。ここで$P$はユニタリ行列:$P^\dagger P=P P^\dagger =1$$J$は上半三角行列。

以下Ref.Fuukeiに基づく。

帰納法で示す。$1\times 1$の"正方行列"に関しては題意が成立する。$n\times n$の正方行列に関して題意が成立することを仮定する。このとき$(n+1)\times (n+1)$の正方行列$A$を考える。$A$の固有値の1つを$\lambda_1$、その固有ベクトルを$\boldsymbol{x}_1$とする(ノルムは1とする)。正規直交系$\{\boldsymbol{x}_i\}_{i=1,2,\cdots,n+1}$を用意し、$P:=(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2,\cdots,\boldsymbol{x}_{n+1})$とする。$P$はユニタリ行列であり、このとき
\begin{align} \hspace{1.5cm} P^{-1}AP&=\mqty(\boldsymbol{x}_1^\dagger\\\boldsymbol{x}_2^\dagger\\ \vdots \\\boldsymbol{x}_{n+1}^\dagger)A(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2,\cdots,\boldsymbol{x}_{n+1})\\ &=\mqty(\boldsymbol{x}_1^\dagger\\\boldsymbol{x}_2^\dagger\\ \vdots \\\boldsymbol{x}_{n+1}^\dagger)(\lambda_1\boldsymbol{x}_1,A\boldsymbol{x}_2,\cdots,A\boldsymbol{x}_{n+1})\\ &=\mqty(\lambda_1 & * \\ 0 & A_1) \end{align}
となる。ここで$A_1$$n\times n$の正方行列。仮定より$A_1$はあるユニタリ行列$T$により上半三角行列$T^{-1}A_1T$に三角化することができる。$T_1:=\mqty(1 & 0 \\ 0 & T)$とすれば、$T$がユニタリであるから$T_1$もユニタリである。そして
\begin{align} \hspace{1.5cm} T_1^{-1}P^{-1}APT_1&= T_1^{-1}\mqty(\lambda_1 & * \\ 0 & A_1)T_1\\ &=\mqty(1 & 0 \\ 0 & T^{-1})\mqty(\lambda_1 & * \\ 0 & A_1)\mqty(1 & 0 \\ 0 & T)\\ &=\mqty(\lambda_1 & ** \\ 0 & T^{-1}A_1T) \end{align}
$T^{-1}A_1T$が上半三角行列なので$(n+1)\times (n+1)$の上半三角行列である。よって$U:=PT_1$とすれば任意の$(n+1)\times (n+1)$行列$A$$U$で三角化できる。また$P$$T_1$もユニタリなので$U=PT_1$もユニタリである。以上より任意の正方行列はユニタリ行列と相似である。${}_\blacksquare$

定理2では$J$を上半三角行列としましたが、特定の形をした上半三角行列であるジョルダン標準形にすることが一般に可能ですJordan。しかし以下の証明では$J$は上半三角行列で十分です。定理1の証明は$A$が対角化可能である場合とそれほど変わりません。以下の定理を用います:

  1. 定理2の$A=P^{-1}JP$において、$J$$ij$成分を$j_{ij} \ (i,j=1,2,\cdots,n)$とする。このとき
    \begin{align} \hspace{1.5cm} \det A=\det J=\prod_{i=1}^n j_{ii} \end{align}
    である。

    証明

    $S_n$$n$コの要素を並べ替える置換群、$\sigma$をその要素、$\text{sgn}(\sigma)$$\sigma$の符号関数とすると\begin{align}\hspace{1.5cm} \det J=\sum_{\sigma\in S_n}\text{sgn}(\sigma)j_{\sigma(1) 1}j_{\sigma(2) 2}\cdots j_{\sigma(n) n} \end{align}
    と書ける。$J$は上半三角行列なので$j_{ij}=0 \text{ for }i>j$である。$\sigma_0$を恒等置換とすると、$\sigma\neq \sigma_0$の場合、必ず$\sigma(k)>k$となる整数$k$が存在する。このとき$j_{\sigma(k)k}=0$なので
    \begin{align} \hspace{1.5cm} \det J=\text{sgn}(\sigma_0)j_{11}j_{22}\cdots j_{nn}=\prod_{i=1}^n j_{ii} \end{align}
    が成立する。${}_{\blacksquare}$

  2. 上記$A$に対して
    \begin{align} \hspace{1.5cm} \ln A&=P^{-1}(\ln J) P,\\ (\ln J)_{ii}&=\ln j_{ii} \end{align}
    である。

    下の式の証明

    $B,C$を上半三角行列とし、それぞれ$ij$成分を$b_{ij},c_{ij}$と書く。このとき$BC$も上半三角行列になる。なぜなら$(BC)_{ij}=\sum_k b_{ik}c_{kj}$に関して$i>j$とすると
    $k\ge i$ならば$k\ge i>j$なので$c_{kj}=0$
    $k< i$ならば$b_{ik}=0$
    だからである。また$(BC)_{ii}=b_{ii}c_{ii}$。なぜなら$(BC)_{ii}=\sum_k b_{ik}c_{ki}$において$b_{ik}c_{ki}$$i>k$でも$i< k$でも明らかにゼロだからである。以上より、$J$を上半三角行列として、$J^k \ (k\in\mathbb{N})$が上半三角行列かつその対角成分が$j_{ii}^k$ならば
    $J^{k+1}$は上半三角行列
    $(J^{k+1})_{ii}=(J^k J)_{ii}=j_{ii}^k\times j_{ii}=j_{ii}^{k+1}$
    である。$J^1$は上半三角行列かつその対角成分は$j_{ii}^1$なので、数学的帰納法より
    \begin{align} \hspace{1.5cm} (J^k)_{ii}=j_{ii}^k \end{align}
    となる。

    いま上半三角行列$J$の関数$f(J)$$\sum_{k=0}^\infty f_k J^k$で定義されているとする。このとき
    \begin{align} \hspace{1.5cm} (f(J))_{ii}&=\sum_{k=0}^\infty f_k(J^k)_{ii}\\ &=\sum_{k=0}^\infty f_k j_{ii}\\ &=f(j_{ii}) \end{align}
    である。$f$$\ln$にすれば
    \begin{align} \hspace{1.5cm} (\ln J)_{ii}=\ln j_{ii} \end{align}
    が成立する。${}_\blacksquare$



これらを用いれば定理1の証明は$A$が対角化可能な場合と同じです:
\begin{align} \hspace{1.5cm} &\text{定理1の左辺}: \ln \det A=\ln \prod_{i=1}^n j_{ii} =\sum_{i=1}^n\ln j_{ii}\\ &\text{定理1の右辺}: \tr\ln A=\tr(P^{-1}(\ln J)P)=\tr \ln J=\sum_{i=1}^n \ln j_{ii} \end{align}
これで一般の正方行列$A$に関して定理1が成立することが証明できました。

おしまい。${}_\blacksquare$

参考文献

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bisaitama
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