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現代数学解説
文献あり

素イデアルの分解法則1:基本等式

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はじめに

 このシリーズではデデキント環の拡大における素イデアルの分解法則についてまとめていきます。
 今回は素イデアル分解の基本事項と基本等式
[L:K]=i=1reifi
について解説していきます。

補題

 本題に入っていく前にまず補題を一つ示しておく。

中山の補題

 有限生成R-加群MRのイデアルIに対しIM=Mが成り立つとき
rM=0かつr1(modI)
満たすようなrRが存在する。

 x1,x2,,xnMの生成系とするとM=IMより
[x1x2xn]=[x1x2xn]γ
なるI係数の正方行列γが存在する。
 このときEを単位行列とすると
[x1x2xn](Eγ)=0
となるので、これにEγの余因子行列を掛けることで
[x1x2xn]det(Eγ)=0
つまりdet(Eγ)M=0が成り立つ。また
det(xEγ)xn(modI)
に注意すると
det(Eγ)1(modI)
が成り立つのでr=det(Eγ)は主張を満たすことがわかる。

基本事項

 Aをデデキント環、Kをその分数体、LKの有限次拡大、BLにおけるAの整閉包とする。
 このような状況設定のことをAKLB setupあるいは単にAKLBと言うことにする。

  この記事 の命題17として紹介したようにAKLBにおいてBはデデキント環となることに注意する。

 整域の整拡大B/Aにおいて

  • AのイデアルaAに対しaBB
  • Bのイデアルb0に対しbA0

が成り立つ。

 もしaB=Bであれば
i=0naixi=1
を満たすようなaia,xiB取れる。このとき
M=A[x1,x2,,xn]
とおくとx1,x2,,xnA上整なのでMは有限生成A-加群であり、またaM=Mを満たすので中山の補題よりあるr0に対しrM=0、つまりM=0とならなければならず矛盾。よってaBBを得る。
 また任意のxbに対しf(x)=0(f(0)0)なる多項式f(X)A[X]を取るとf(0)bAとなることがわかる。

 AKLBにおいて

  • A0でない素イデアルはあるB0でない素イデアルに割り切られる。
  • B0でない素イデアルはあるA0でない素イデアルを割り切る。
  • A,B0でない素イデアルp,qqpBを満たすときp=qAが成り立つ。
  • A0でない素イデアルpに対し、pBBよりpBqつまりqpBなる極大イデアルqが存在する。
  • B0でない素イデアルqに対し、p=qAA0でない素イデアルでありpqよりqpBを満たす。
  • pqAAおよびpの極大性からp=qAを得る。
分岐指数・惰性次数

 AKLBにおいてA0でない素イデアルpBにおいて
pB=q1e1q2e2qrer
と分解されたとする。このとき

  • eiL/Kにおけるqi分岐指数と言う。
  • 剰余体の拡大次数fi=[B/qi:A/p]L/Kにおけるqi惰性次数(あるいは剰余次数、相対次数)と言う。
分岐・不分岐
  • 分岐指数がei=1であり、また剰余体の拡大(B/qi)/(A/p)が分離的であるときqiL/Kにおいて不分岐であると言い、そうでなければ分岐すると言う。
  • iに対しqiが不分岐であるとき、pLにおいて不分岐であると言い、そうでなければ分岐すると言う。
その他
  • qiが分岐し、またfi=1を満たすとき、qi完全分岐であると言う。
  • iに対しei=fi=1が成り立つとき、p完全分解すると言う。
  • r=1であるとき、p不分解であると言う。
  • r=f1=1のとき、p惰性すると言う。

基本等式

 AKLBにおいてL/Kが分離的であればBは有限生成A-加群となる。

  この記事 の命題16の証明からわかる。

 AKLBにおいてBが有限生成A-加群であるとき、A0でない素イデアルpに対しB/pB[L:K]次元A/p-線形空間となる。

 B/pBA/p上の基底をω1,ω2,,ωmとおく。このときその代表元ω1,ω2,,ωmBLK上の基底となることを示す。

独立性

 いま0でないKの元a1,a2,,amに対しこれらが生成するAの分数イデアルをaとおく。このとき任意にαa1a1pを取ると各iに対してαaiAかつあるiに対しαaipが成り立つのでB/pBにおいて
i=1mαaiωi0(modp)
特にLにおいて
i=1maiωi0
となることがわかる。

全域性

M=Aω1+Aω2++Aωm,N=B/M
とおいたとき、BA-加群として有限生成であったのでNも有限生成であり、またB=M+pよりpN=Nが成り立つ。したがって中山の補題よりあるaA{0}が存在してaN=0、特にaBMが成り立ち
L=KB=KM=Kω1+Kω2++Kωm
を得る。

 AKLBにおいてB0でない素イデアルqの分岐指数と惰性次数をそれぞれe,fとおくとB/qeef次元A/p-線形空間となる(ただしp=qAとした)。

 簡単のためκ=A/pとおく。
 まず任意の非負整数iに対し加法群の商qi/qi+1κ-線形空間としてB/qと同型であることを示す。いま任意にπqq2を取りκ-線形写像
B/qqi/qi+1,x+qxπi+qi+1
を考えるとこれは単射であり、また
πiB+qi+1=gcd(πiB,qi+1)=qi
より全射でもあることがわかる。
 したがってdimκ(qi/qi+1)=dimκ(B/q)=fが成り立ち
dimκ(B/qe)=i=0e1(dimκ(qi/qe)dimκ(qi+1/qe))=i=0e1dimκ(qi/qi+1)=ef
を得る。

 AKLBにおいてBが有限生成A-加群であるとき(特に例えばL/Kが分離的であるとき)、素イデアルの分解
pB=q1e1q2e2qrer
において基本等式
[L:K]=i=1reifi
が成り立つ。

 中国剰余定理より
B/pBi=0rB/qei
が成り立つので、この両辺のA/p-ベクトル空間としての次元を比較することでわかる。

 なおBの有限生成性は補題4の全域性にしか用いていないので一般には
[L:K]i=1reifi
が成り立つ。

参考文献

[1]
J. Neukirch 著, 足立恒雄 監修, 梅垣敦紀 訳, 代数的整数論, 丸善出版, 2012
投稿日:2024627
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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