はじめに
この記事では代数的整数論において重要な対象であるデデキント環の基本性質について簡単に解説していきます。
個人的なメモ書き程度の内容となっているので粗雑な部分も多いですが悪しからず。
定義
デデキント環
環が次の三条件
- ネーター環である。
- クルル次元が以下である。
- 整閉整域である。
より明示的に言えば
- 任意のイデアルの昇鎖列に対しあるが存在しが成り立つ。
- 任意のでない素イデアルは極大イデアルとなる。
- の分数体の元があるモニック多項式の根であればが成り立つ。
を満たすとき、はデデキント環であると言う。
デデキント環にはいくつかの同値な特徴付け、例えば
- 任意のでないイデアルは有限個の素イデアルの積に分解できる。
- 任意のでない分数イデアルは可逆である。
- はネーター整域であり、任意の極大イデアルによる局所化は離散付値環となる。
などによる定義があるが、ここではこの同値性については特に解説しない。
ネーター整域と分数イデアル
本題に入っていく前にまずネーター環と分数イデアルの基本性質を紹介しておこう。
環について以下の三条件は同値である。
- はネーター環である。
- のイデアルは-加群として有限生成である。
- のイデアルからなる集合は包含関係がなす順序について極大元を持つ。
(i)(iii)(ii)(i)の順に示す。
(i)(iii)
に極大元が存在しないものと仮定すると、任意のに対して無限昇鎖列
が取れることになり矛盾を得る。
または包含関係について帰納的であることからZornの補題を用いてもわかる。
(iii)(ii)
のイデアルに対し
とおくとよりなのでは極大元を持つ。
このときであると仮定すると、任意のに対し
はを満たすことになりの極大性に矛盾。よっては有限生成であることが示された。
(ii)(i)
イデアルの昇鎖列に対し
とおくとこれはのイデアルとなるので有限生成である。
特にその生成元に対しなるを取り
とおくとが成り立つ。
分数イデアル
整域の分数体のでない部分-加群であって、あるが存在してを満たすようなもののことをの分数イデアルと言う。
またこれに対して通常のイデアルのことを整イデアルと言うことがある。
ネーター整域の分数体の部分-加群に対し以下の二条件は同値である。
- はの分数イデアルである。
- は-加群として有限生成である。
(i)(ii)
あるに対しはのイデアルとなるのでのネーター性よりこれは有限生成であり、したがっても有限生成となる。
(ii)(i)
の生成元に対しとなるようなを取り
とおくとが成り立つ(ネーター性は必要ない)。
整域の分数イデアル全体のなす集合に対し乗法演算
を考えるとはを単位元とするモノイドとなる。
またに対し分数イデアルを
と定めると、が可逆であればが成り立つ。
前半の主張については明らか。
後半の主張についてはからが成り立ち、またからが成り立つのでを得る。
一般にの分数イデアルに対し
と定められる分数イデアルのことをイデアル商、あるいはコロンイデアルと言う。
イデアル群と素イデアル分解
先でちらっと言及したようにデデキント環はイデアル論的性質として
- 任意の分数イデアルは可逆である。
- 任意のイデアルは有限個の素イデアルの積に一意的に分解できる。
という特徴を持つ。以下でこのことを示していこう。
補題
をなる整域とする。このとき任意のに対し以下の二条件は同値である。
- は上整である。
- ある有限生成-加群が存在しが成り立つ。
(i)(ii)
が
を満たすとすると、はによって生成され、またを満たす-加群となる。
(ii)(i)
の生成元をとおくとより
なる係数の正方行列が取れる。したがっては係数のモニック多項式の根であることがわかる(ただしは単位行列とした)。
ネーター整域の任意のイデアルに対し
を満たすようなでない素イデアルが存在する。
主張を満たさないようなイデアル全体の集合が空でないものと仮定し矛盾を導く。
いまのネーター性からは極大元を持ち、の取り方よりは素イデアルではないのでかつを満たすようなが存在する。このとき
とおくとおよびの極大性から
なる素イデアルが存在するがより
となっての取り方に矛盾。よって主張を得る。
の定義より明らかにが成り立つので、特には非空であることを示せばよい。
任意にを取り、また上の補題のような素イデアル
であってが最小となるようなものを取る。
このときは素イデアルであることからのいずれかはに含まれるのでとしてよい。特にクルル次元がであることからとなることに注意する。
いまの最小性より
が成り立つのでなるが取れる。このときかつとなることからは非空であることが示された。
デデキント環のでないイデアルと素イデアルに対しが成り立つ。特には可逆である。
は明らかなのでであることを示せばよい。
もしとすれば補題4より任意のは上整となるが、は整閉であるのでつまりとなりであったことに矛盾。よって主張を得る。
またおよびの極大性よりが成り立つのでは可逆であることがわかる。
イデアル群
デデキント環において任意の分数イデアルは可逆である。特には群となる(これを(分数)イデアル群と言う)。
任意のでない整イデアルが可逆であることを示せばよい。実際そうであれば任意の分数イデアルに対しなるを取ることでは可逆であることがわかる。
いま可逆でない整イデアル全体が空でないものと仮定するとのネーター性よりこれは極大元を持つ。このときなる極大イデアルを取ると補題7からが成り立つのでの極大性よりは可逆となるが、も可逆ということになり矛盾。よっては空であることが示された。
(別証明)
以下で示すように任意の分数イデアルは素イデアルの積
に分解できるのでは逆元
を持つことがわかる。
デデキント環の整イデアルに対し整除関係を
によって定めると
が成り立つ。
は可逆であることからが成り立つことに注意するとわかる。
素イデアル分解
デデキント環において任意のでないイデアルは有限個の素イデアルの積
に順序を除いて一意的に分解できる。
分解の存在性
素イデアル分解ができないようなイデアル全体が空でないものと仮定するとのネーター性よりこれは極大元を持つ。このときなる極大イデアルを取ると補題7からが成り立つのでの極大性よりは素イデアル分解を持つことがわかるが、も素イデアル分解を持つことになり矛盾。よっては空であることが示された。
分解の一意性
が二通りの分解
を持つとする。
このときよりのいずれかはに含まれるので適当に順番を取り替えることでとするとの極大性よりが成り立つ。また同様にしていくことでおよびであることがわかる。
任意の分数イデアルは有限個の素イデアルを用いて
のように一意的に表せる。
特にはの素イデアルによって生成される自由アーベル群となる。
が整イデアルとなるようなを取り、およびを素イデアル分解することでわかる(一意性については明らか)。
整域の拡大
次にデデキント環に対しその任意の整拡大は再びデデキント環となることを示していく。
を整域、をその分数体、をの代数拡大、をにおけるの整閉包とする。
このような状況設定のことをあるいは単にと言うことにする。
整閉性
整拡大
整域の拡大(つまり)においてが上整であるときは整拡大であると言う。
整域の拡大においておよびが整拡大であればも整拡大となる。
任意のに対し、が満たす上の方程式を
とおくとは有限生成-加群でありを満たすことから補題4よりは上整となることがわかる。
におけるの整閉包をとおくと上の命題よりは上整となるのでの定義よりつまりを得る。
クルル次元
整拡大においてのでない素イデアルに対しはのでない素イデアルとなる。
がの素イデアルであることは明らかなのでであることを示せばよい。
そのことは任意にを取りこれが満たす方程式を
とおいたとき
となることからわかる。
一般に整拡大においてクルル次元は保たれることが知られている。
の任意のでない素イデアルが極大イデアルとなることを示せばよい。
いまとおき単射準同型
を考えることでとみなす。このときは整拡大であることからも整拡大であり、またの極大性よりは体であったので上の補題よりも体となる。よっては極大イデアルであることがわかる。
ネーター性
一般に次の事実が成り立つことが知られている。これについては書くと長くなるので気が向いたときにまた別の記事にまとめたいと思う(追記:書きました)。
クルル-秋月の定理
を次元ネーター整域、をその分数体、を有限次拡大とする。このとき任意のなる環はネーター環となる。
なおが分離拡大であるときは比較的簡単に示すことができる。
においてを有限次分離拡大とすると、がネーター整閉整域であればもネーター整閉整域となる。
仮定よりなる元が取れ、このときその共役元をとおくとに関する判別式は
を満たすことに注意する。
いま任意のに対し
なるを取るとは一次方程式
の解とみなせるのでに注意すると
が成り立つことがわかる。
特に
が成り立つので「ネーター環上の有限生成加群の部分加群は再び有限生成となる」という事実からの任意のイデアルは有限生成-加群ひいては有限生成-加群となることがわかる。
まとめ
命題11、命題14、クルル・秋月の定理を組み合わせると以下の主張が得られる。
においてを次元ネーター整域、を有限次拡大とするとはデデキント環となる。
デデキント環の例
最後にデデキント環の簡単な例を少しだけ紹介しておこう。
次元であることは明らか。ネーターであることはイデアルの有限生成性からわかる。
整閉であることは補題4を用いればわかる。実際が上整、つまりある分数イデアルに対しを満たしたとすると、あるが存在してが成り立つのでを得る。
よく扱われるデデキント環は大体以下のような単項イデアル整域をの出発点とすることが多い。
有理整数環、体係数多項式環、離散付値環などは単項イデアル整域、特にデデキント環である。
代数体(の有限次拡大体)の整数環(におけるの整閉包)はデデキント環である。
またデデキント環っぽいがデデキント環ではない例も一つ紹介しておこう。
次元であることはが整拡大であることから、ネーターであることはが有限次拡大であることからわかる。
整閉でないことは
がおよび
を満たすことからわかる。