この記事ではクルル・秋月の定理について簡単に解説していきます。
$A$を$1$次元ネーター整域、$K$をその分数体、$L/K$を有限次拡大とする。
このとき任意の$A\subseteq B\subseteq L$なる環$B$はネーター整域であり、また$B$の任意イデアル$I\neq0$に対し$B/I$は$A$-加群として有限生成となる。
まず補題として秋月の定理(の一部)を示しておく。
環$R$がアルティン環であることと$0$次元ネーター環であることは同値である。
この記事では($0$次元ネーター)$\Rightarrow$(アルティン)の部分のみを扱う。
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の補題5より
$$\p_1\p_2\cdots\p_r\subseteq(0)$$
つまり
$$\p_1\p_2\cdots\p_r=(0)$$
なる素イデアル$\p_1,\p_2,\ldots,\p_r$が存在する。
このとき$\aa_i=\p_1\p_2\cdots\p_i$とおくと、$R$のネーター性よりこれは有限生成$R$-加群となるので、$\aa_i/\aa_{i+1}$は有限次元$R/\p_i$-線形空間、特にアルティン加群となる。
いま$\aa_r=(0)$と$\aa_{r-1}/\aa_r$はアルティン加群なので$\aa_{r-1}$もアルティン加群となり、同様に$\aa_i$と$\aa_{i-1}/\aa_i$のアルティン性から$\aa_{i-1}$のアルティン性がわかるので、$\aa_0=R$はアルティン環となることが示された。
$1$次元ネーター整域$A$とそのイデアル$I\neq0$に対し$A/I$はアルティン環となる。
特に下に有界な$A$のイデアルの降鎖列
$$0\neq I\subseteq\cdots\subseteq I_2\subseteq I_1\subseteq I_0$$
は停留する。
イデアルの対応定理から$A/I$は$0$次元となることがわかるので秋月の定理より主張を得る。
また降鎖列$I_m$の$A/I$における像$I_m/I$は停留することから、イデアルの対応定理から$I_m$も停留することがわかる。
$A$を$1$次元ネーター整域、$K$をその分数体、$B$を$A\subseteq B\subseteq K$なる環とする。
このとき任意の$a\in A\setminus\{0\}$に対し$B/aB$は有限生成$A$加群となる。
次の手順で示していく。
$x=b/c$なる$b,c\in A$を取り、イデアルの降鎖列
$$I_m=a^mA+cA$$
を考えると補題3よりこれは停留するので$I_h=I_{h+1}=\cdots$とする。
このとき$a^h\in I_h=I_{h+1}$より
$$a^h=a^{h+1}y+cz\quad(y,z\in A)$$
とおくと
\begin{align}
x
&=(1-ay)x+axy\\
&=a^{-h}cz\cdot x+axy\\
&=a^{-h}bz+axy\\
&\in a^{-h}A+aB
\end{align}
を得る。
$A$のイデアルの降鎖列
$$J_m=(a^m B\cap A)+aA$$
を考えると補題3よりこれは停留するので$J_n=J_{n+1}=\cdots$とする。
いま任意の$x\in B$に対し$x\in a^{-h}A+aB$なる整数$h$であって最小のものを取り、これが$h>n$を満たしていると仮定する。このとき
$$x=a^{-h}\a+a\b\quad(\a\in A,\b\in B)$$
とおくと$h>n$より
$$\a=a^h(x-a\b)\in a^hB\cap A\subseteq J_h=J_{h+1}$$
が成り立つので
$$\a=a^{h+1}\b'+a\a'\quad(\a'\in A,\b'\in B)$$
と書けるが
\begin{align}
x&=a^{-h}\a+a\b\\
&=a^{1-h}\a'+a(\b+\b')\\
&\in a^{1-h}A+aB
\end{align}
となって$h$の最小性に矛盾。
したがって$h\leq n$でなければならず、$x\in B$は任意であったので
$$B\subseteq a^{-n}A+aB$$
を得る。
$(a^{-n}A+aB)/aB$は$A$上で$a^{-n}\pmod{aB}$によって生成されるので、$A$のネーター性からその部分加群$B/aB$も$A$上有限生成となることが示された。
$A$を$1$次元ネーター整域、$K$をその分数体、$L/K$を有限次拡大とする。
このとき任意の$A\subseteq B\subseteq L$なる環$B$はネーター整域であり、また$B$の任意イデアル$I\neq0$に対し$B/I$は$A$-加群として有限生成となる。
$L$は$B$の分数体としてよく、また$\o_1,\o_2,\ldots,\o_n\in B$を$L$の$K$上の基底とする。
このとき$c\in A\setminus\{0\}$を各$c\o_i$が$A$上整となるように取り
$$\A=A[c\o_1,c\o_2,\ldots,c\o_n]$$
とおくと、これは$1$次元ネーター整域となる。実際$1$次元であることは$\A/A$が整拡大であることと
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の命題14から、ネーター性についてはヒルベルトの基底定理からわかる。
また$\A$の分数体は$L$であり、$\A\subseteq B\subseteq L$を満たすので補題4より任意の$a\in\A\setminus\{0\}$に対し$B/aB$は$\A$上有限生成、特に$A$上有限生成となる。
いま$B$のイデアル$I\neq0$に対し任意に$a\in(I\cap A)\setminus\{0\}$を取ると、$I/aB\subseteq B/aB$が$A$-加群として有限生成となるので$I$は$B$-加群として有限生成となる。したがって$B$はネーター整域であることが示された。
また自然な全射$B/aB\to B/I$によって$B/I$も$A$-加群として有限生成であることがわかる。
$A$をデデキント環、$K$をその分数体、$L/K$を有限次拡大、$B$を$L$における$A$の整閉包とすると$B$はデデキント環となる。