1
現代数学解説
文献あり

クルル・秋月の定理

265
0
$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{A}[0]{\tilde{A}} \newcommand{aa}[0]{\mathfrak{a}} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{mf}[0]{\mathfrak} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事ではクルル・秋月の定理について簡単に解説していきます。

Krull-秋月の定理

 $A$$1$次元ネーター整域、$K$をその分数体、$L/K$を有限次拡大とする。
 このとき任意の$A\subseteq B\subseteq L$なる環$B$はネーター整域であり、また$B$の任意イデアル$I\neq0$に対し$B/I$$A$-加群として有限生成となる。

秋月の定理

 まず補題として秋月の定理(の一部)を示しておく。

秋月の定理

 環$R$がアルティン環であることと$0$次元ネーター環であることは同値である。

 この記事では($0$次元ネーター)$\Rightarrow$(アルティン)の部分のみを扱う。

  この記事 の補題5より
$$\p_1\p_2\cdots\p_r\subseteq(0)$$
つまり
$$\p_1\p_2\cdots\p_r=(0)$$
なる素イデアル$\p_1,\p_2,\ldots,\p_r$が存在する。
 このとき$\aa_i=\p_1\p_2\cdots\p_i$とおくと、$R$のネーター性よりこれは有限生成$R$-加群となるので、$\aa_i/\aa_{i+1}$は有限次元$R/\p_i$-線形空間、特にアルティン加群となる。
 いま$\aa_r=(0)$$\aa_{r-1}/\aa_r$はアルティン加群なので$\aa_{r-1}$もアルティン加群となり、同様に$\aa_i$$\aa_{i-1}/\aa_i$のアルティン性から$\aa_{i-1}$のアルティン性がわかるので、$\aa_0=R$はアルティン環となることが示された。

 $1$次元ネーター整域$A$とそのイデアル$I\neq0$に対し$A/I$はアルティン環となる。
 特に下に有界な$A$のイデアルの降鎖列
$$0\neq I\subseteq\cdots\subseteq I_2\subseteq I_1\subseteq I_0$$
は停留する。

 イデアルの対応定理から$A/I$$0$次元となることがわかるので秋月の定理より主張を得る。
 また降鎖列$I_m$$A/I$における像$I_m/I$は停留することから、イデアルの対応定理から$I_m$も停留することがわかる。

クルル・秋月の定理

 $A$$1$次元ネーター整域、$K$をその分数体、$B$$A\subseteq B\subseteq K$なる環とする。
 このとき任意の$a\in A\setminus\{0\}$に対し$B/aB$は有限生成$A$加群となる。

 次の手順で示していく。

  • Step1:任意の$x\in B$に対しある非負整数$h$が存在して$x\in a^{-h}A+aB$が成り立つことを示す。
  • Step2:ある非負整数$n$が存在して$B\subseteq a^{-n}A+aB$が成り立つことを示す。
  • Step3:$B/aB$は有限生成$A$-加群$(a^{-n}A+aB)/aB$に含まれることから主張を得る。

Step1

 $x=b/c$なる$b,c\in A$を取り、イデアルの降鎖列
$$I_m=a^mA+cA$$
を考えると補題3よりこれは停留するので$I_h=I_{h+1}=\cdots$とする。
 このとき$a^h\in I_h=I_{h+1}$より
$$a^h=a^{h+1}y+cz\quad(y,z\in A)$$
とおくと
\begin{align} x &=(1-ay)x+axy\\ &=a^{-h}cz\cdot x+axy\\ &=a^{-h}bz+axy\\ &\in a^{-h}A+aB \end{align}
を得る。

Step2

 $A$のイデアルの降鎖列
$$J_m=(a^m B\cap A)+aA$$
を考えると補題3よりこれは停留するので$J_n=J_{n+1}=\cdots$とする。
 いま任意の$x\in B$に対し$x\in a^{-h}A+aB$なる整数$h$であって最小のものを取り、これが$h>n$を満たしていると仮定する。このとき
$$x=a^{-h}\a+a\b\quad(\a\in A,\b\in B)$$
とおくと$h>n$より
$$\a=a^h(x-a\b)\in a^hB\cap A\subseteq J_h=J_{h+1}$$
が成り立つので
$$\a=a^{h+1}\b'+a\a'\quad(\a'\in A,\b'\in B)$$
と書けるが
\begin{align} x&=a^{-h}\a+a\b\\ &=a^{1-h}\a'+a(\b+\b')\\ &\in a^{1-h}A+aB \end{align}
となって$h$の最小性に矛盾。
 したがって$h\leq n$でなければならず、$x\in B$は任意であったので
$$B\subseteq a^{-n}A+aB$$
を得る。

Step3

 $(a^{-n}A+aB)/aB$$A$上で$a^{-n}\pmod{aB}$によって生成されるので、$A$のネーター性からその部分加群$B/aB$$A$上有限生成となることが示された。

Krull-秋月の定理

 $A$$1$次元ネーター整域、$K$をその分数体、$L/K$を有限次拡大とする。
 このとき任意の$A\subseteq B\subseteq L$なる環$B$はネーター整域であり、また$B$の任意イデアル$I\neq0$に対し$B/I$$A$-加群として有限生成となる。

 $L$$B$の分数体としてよく、また$\o_1,\o_2,\ldots,\o_n\in B$$L$$K$上の基底とする。
 このとき$c\in A\setminus\{0\}$を各$c\o_i$$A$上整となるように取り
$$\A=A[c\o_1,c\o_2,\ldots,c\o_n]$$
とおくと、これは$1$次元ネーター整域となる。実際$1$次元であることは$\A/A$が整拡大であることと この記事 の命題14から、ネーター性についてはヒルベルトの基底定理からわかる。
 また$\A$の分数体は$L$であり、$\A\subseteq B\subseteq L$を満たすので補題4より任意の$a\in\A\setminus\{0\}$に対し$B/aB$$\A$上有限生成、特に$A$上有限生成となる。
 いま$B$のイデアル$I\neq0$に対し任意に$a\in(I\cap A)\setminus\{0\}$を取ると、$I/aB\subseteq B/aB$$A$-加群として有限生成となるので$I$$B$-加群として有限生成となる。したがって$B$はネーター整域であることが示された。
 また自然な全射$B/aB\to B/I$によって$B/I$$A$-加群として有限生成であることがわかる。

 $A$をデデキント環、$K$をその分数体、$L/K$を有限次拡大、$B$$L$における$A$の整閉包とすると$B$はデデキント環となる。

 $B$$1$次元であることは$B/A$が整拡大であることと この記事 の命題14から、ネーター性はクルル・秋月の定理から、整閉性は この記事 の命題11からわかる。

参考文献

[1]
J. Neukirch 著, 足立恒雄 監修, 梅垣敦紀 訳, 代数的整数論, 丸善出版, 2012
投稿日:1116
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

子葉
子葉
989
229000
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中