この記事は、前回の記事( AIに新しい円周率公式を探してもらってみた )の続編です。今回は数値実験だけでなく証明までつきましたが、計算と文献の照合の多くは AI(Claude)に手伝ってもらっています。調べた範囲の文献には見当たりませんでしたが、既知の可能性は残っています。ご存じの方がいれば教えてください。
整数列
$$a_n=\sum_{j+k+l=n}\left(\frac{n!}{j!\,k!\,l!}\right)^3=1,\ 3,\ 27,\ 381,\ 6219,\ \dots$$
(多項係数の三乗和)は、4階の Calabi–Yau 型微分方程式の表(AESZ の表 [2])で #17 として載っている数列です。Apéry が $\zeta(3)$ の無理数性の証明に使った数列と同じように、$a_n$ も漸化式を満たし、その漸化式の「もう一つの解」との比がある定数に収束します。この極限を Apéry 極限 と呼びます。
Almkvist–van Straten–Zudilin [1] は、こうした Apéry 極限を多くの微分方程式について計算し、正体が分かったものと分からなかったものを表にしています。#17 は「正体不明」の欄に $0.30975387904678591806\dots$ として載っています。
今回、漸化式を最も短いものに取り直すと、#17 の Apéry 極限はきれいに
$$\frac{\pi^2}{24}$$
になり、しかもこれが証明できることが分かりました。その報告です。
$a_n$ は次の4項の漸化式を満たします($n\ge 0$、負の添字の項は $0$)。
$$\sum_{i=0}^{3}P_i(n-i)\,a_{n-i}=0$$
$$P_0(n)=n^4(21n^2-77n+71)$$
$$P_1(n)=-567n^6-189n^5+477n^4+378n^3-81n^2-165n-45$$
$$P_2(n)=567n^6+2457n^5+4689n^4+5064n^3+3168n^2+1056n+144$$
$$P_3(n)=-15309n^6-127575n^5-429381n^4-747954n^3-713691n^2-355023n-72171$$
$B_0=0,\ B_1=1$ から始めて、$n\ge2$ でこの漸化式を満たす列を $B_n$ とします($B_n=0,\,1,\,12,\,\tfrac{1423}{9},\,\tfrac{7648}{3},\dots$)。$21n^2-77n+71$ は判別式が負なので、$P_0(n)\neq0$($n\ge1$)で、$B_n$ は一意に決まります。
$$\lim_{n\to\infty}\frac{B_n}{a_n}=\frac{\zeta(2)}{4}=\frac{\pi^2}{24}$$
Franel 数 $f_m=\sum_k\binom{m}{k}^3$(1, 2, 10, 56, 346, …)は
$$(m+1)^2u_{m+1}=(7m^2+7m+2)\,u_m+8m^2\,u_{m-1}$$
を満たします。多項係数は $\binom{n}{j}\binom{n-j}{k}$ と書けるので、
$$a_n=\sum_{j=0}^{n}\binom{n}{j}^3 f_{n-j}$$
です(この表示は OEIS A141057 にあります)。そこで、数列 $u$ に対して
$$(Tu)_n=\sum_{j=0}^{n}\binom{n}{j}^3u_{n-j}$$
という変換 $T$ を考えると、$a=Tf$ です。証明の筋は、$B$ も Franel 側の第2解 $g$ から同じ $T$ で作れる、ということです。
Franel の漸化式を満たし $g_0=0,\ g_1=1$ となる列 $g$ は
$$g_m=\frac18\sum_{k=0}^{m}\binom{m}{k}^3\Bigl[H^{(2)}_k+H^{(2)}_{m-k}+3\,(H_k-H_{m-k})^2\Bigr]$$
($H_k=\sum_{i\le k}1/i$、$H^{(2)}_k=\sum_{i\le k}1/i^2$)。また $g_m/f_m\to\zeta(2)/4$。
これは Straub–Zudilin [4] の $t$ 変形の式と、Dougherty-Bliss–Zeilberger [5] の Lemma 1 の $s=3$ の場合にあたります。極限 $\zeta(2)/4$ そのものは Zagier [3] の表(散在列 A)にあります。今回は次の方法で確かめ直しました。
$\varepsilon$ を形式変数として $\tilde F(n,k)=\dfrac{n!^3\,\Gamma(1+\varepsilon)^3\Gamma(1-\varepsilon)^3}{\Gamma(k+1+\varepsilon)^3\,\Gamma(n-k+1-\varepsilon)^3}$ とおくと、$\varepsilon$ について展開した2次の係数がちょうど上の括弧の中身(の $\tfrac32\binom{n}{k}^3$ 倍)になります。$F=\binom{n}{k}^3$ に対する Zeilberger の証明書
$$G=R\,F,\quad R(n,k)=\frac{k^3(n+1)^2\,(4k^3-18k^2n-30k^2+27kn^2+93kn+78k-14n^3-74n^2-128n-72)}{(n+1-k)^3(n+2-k)^3}$$
は $k\to k+\varepsilon$ としてもそのまま成り立つので、$\varepsilon^2$ の係数を取ると $g$ が Franel の漸化式を満たすことが出ます(境界項は $O(\varepsilon^3)$)。極限は、重み $\binom{m}{k}^3/f_m$ が $k=m/2$ のまわりに集中することから初等的に示せます。
ここからが今回の本題です(以下、上の補題を補題1、次の補題を補題2と呼びます)。
$u$ が $m\ge1$ で Franel の漸化式を満たせば、$Tu$ は $n\ge2$ で #17 の最低階の漸化式を満たす。
$m=n-j$ として、$0\le j\le n-1$ で
$$\sum_{i=0}^{3}c_i(n)\binom{n+i}{j}^3u_{m+i}=G(n,j+1)-G(n,j)$$
となる $G(n,j)=\binom{n}{j}^3\bigl[R_0(n,j)\,u_m+R_1(n,j)\,u_{m+1}\bigr]$ を探します(creative telescoping)。$c_i(n)=P_{3-i}(n+i)$ は漸化式を前進形にした係数です。$R_s$ は $j^3N_s(n,j)/((m+1)(m+2)(m+3))^5$ の形で、$N_s$ は $j$ について13次の整数係数多項式になります。$u_{m+1},u_{m+2},u_{m+3}$ を Franel の漸化式で $(u_m,u_{m-1})$ に落とすと、両辺は $u_m$ と $u_{m-1}$ の係数ごとに $(n,j)$ の有理関数の恒等式になり、計算機代数で恒等的に $0$ になることを確かめました。$j$ について足すと、境界の項も恒等的に消えます($N=2$ だけは直接計算)。証明書は長いので、ここでは形だけ示します。
補題2から $T g$ と $B$ は初期値($n=0,1$)が同じで同じ漸化式を満たすので、$B=Tg$ です。同時に、$a=Tf$ が上の漸化式を満たすことも証明されます。両方を合わせて $j,k,l$ について対称化すると、Apéry の証明に出てくるのと同じ型の閉じた形になります。
$$B_n=\sum_{j+k+l=n}\left(\frac{n!}{j!\,k!\,l!}\right)^3\left[\frac{H^{(2)}_j+H^{(2)}_k+H^{(2)}_l}{12}+\frac{(H_j-H_k)^2+(H_k-H_l)^2+(H_l-H_j)^2}{8}\right]$$
$v_j=\binom{n}{j}^3f_{n-j}/a_n$ とおくと $v_j\ge0$、$\sum_j v_j=1$ で
$$\frac{B_n}{a_n}-\frac{\zeta(2)}{4}=\sum_{j}v_j\left(\frac{g_{n-j}}{f_{n-j}}-\frac{\zeta(2)}{4}\right)$$
です。補題1より、$m$ が大きければ括弧の中は小さくなります。$m=n-j$ が小さい項の重みは、$a_n\ge(3^n/\binom{n+2}{2})^3$ から $n\to\infty$ で $0$ に行きます。よって極限は $\zeta(2)/4$ です。
AESZ の表には、まだ正体の分からない Apéry 極限がたくさん残っています。今回のように「漸化式の取り方」や「既知の数列への変換」で説明がつくものが、他にもあるかもしれません。計算の途中では、AESZ #34 などの極限が Bessel 関数の積分 $\int_0^\infty K_0(t)^N t^j\,dt$ で書けるという数値的な観察も得ています(こちらは証明していません)。
前回と同じく、計算・証明書の探索・文献の照合の多くを AI(Claude)に手伝ってもらいました。証明書は計算機代数で記号的に検証し、極限の評価の部分は手で確かめています。