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行列の行列乗の具体的な数値による計算

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定義について

正方行列A,Bにおいて、AB=eBlogA, e(logA)Bのどちらかで定義する必要があるのですが、今回はBlogA, (logA)Bが可換であるときに定義されるものとして計算します。

解法について

指数の底に当たる行列において、行列が対角化が可能な場合、任意の固有値xC|kx1|<1を満たすようなkCが存在するなら、下記に書かれる解法を適用できます。不等式を満たすkを取れない場合の回避方法も以下に書いています。

問題

A=[1135], B=[6132]

ABの値を求めよ。

logAの値を求める

logxを級数展開する

log(1+x)=n1(1)n1nxn (|x|<1)
平行移動して
logx=n1(1)n1n(x1)n
=n1(1)n1nk=0n(nk)(1)nkxk
logx=n1k=0n(1)k+1n(nk)xk
収束半径は0<x<2

Aを対角化する

固有ベクトルを求める

Eを単位行列として
det(λEA)=0
|λ113λ5|=λ26λ+8=0
λ=2, 4

λの値をそれぞれ代入して固有ベクトルを求めると

[1133][11]=[00], [3131][13]=[00]

[11], [13]が固有ベクトルである。


P1APを計算する

P=[1113]とおく

このときP1APの値は
P1AP
=(12)[3111][1135][1113]
=[2004]
A=P[2004]P1

両辺を4で割ってからn (nN)乗すると

(A4)n=P[12001]P1P[12001]P1P[12001]P1=P[12001]nP1
(A4)n=P[(12)n001]P1


logAを求める

A4で割った理由

さて、メインパートを始めていきたいところなのですが、
ここでなぜ下準備2でA4で割ったかを説明します。

A4で割らずにそのままn乗すると
An=P[2n004n]P1

logxの級数展開よりxAとすると
logA=n1k=0n(1)k+1n(nk)Ak
=n1k=0n(1)k+1n(nk)(P[2k004k]P1)
=P(n1k=0n(1)k+1n(nk)[2k004k])P1

総和は行列の各成分に分配して計算ができるのですが...
級数の終息半径は0<x<2であり、各成分の級数はこのとき収束しません
そのため、あらかじめ4で割ることで級数が適応できるようにします。


logAの分解

まず、級数が収束するようにlogAを分解しましょう。
logA=log(4E)+log(A4)

「よし、計算できる形になったぞ!」と言いたいところなのですが、実は4Eの方はまだ級数が収束しません。4Eの計算にはもう少し工夫が必要になりますが、log(A4)を先に計算していきます。

log(A4)の計算

log(A4)=n1k=0n(1)k+1n(nk)(A4)k
=n1k=0n(1)k+1n(nk)(P[(12)k001]P1)
=P(n1k=0n(1)k+1n(nk)[(12)k001])P1

確かに12, 1は収束半径0<x<2に入っているので、これは収束して
log(A4)=P[log1200log1]P1=P[log2000]P1

P=[1113]よりPを代入して

log(A4)=[1113][log2000][1113]1
=(log2)(12)[1113][1000][3111]
log(A4)=12log2[3131]

log(4E)の計算

αRにおいてlog(αE)について考えます。
log(αE)=n1k=0n(1)k+1n(nk)(αE)k
=n1k=0n(1)k+1n(nk)αkE
0<α<2のとき、これは収束して
log(αE)=Elogα
となる。

ここでα=2とおくと、0<2<2より
log(E2)=Elog2
左辺、右辺の式をそれぞれ4倍すると
4log(E2)=log(E424)=log(4E)
4Elog2=(2log2)E

よって
log(4E)=(2log2)E=2log2[1001]

logAの値を計算する

logA=log(4E)+log(A4)=12log2[3131]+2log2[1001]
logA=12log2[1135]=(12log2)A

ABを求める

logA, Bの可換性を調べる

logA=(12log2)Aより A, Bの可換性を調べればよい。

AB=[1135][6132]=[91313]
BA=[6132][1135]=[91313]
よって、AB=BAつまりBlogA=(logA)Bである。

BlogAn乗を求める

AB=BA, BlogA=(logA)Bより
BlogA=(12log2)AB=12log2[91313]

det(λEAB)=0
|λ913λ13|=λ222λ+120=0
λ=10, 12


xn (nN)x222x+120で割った余りを求める。
xn=(x222x+120)P(x)+c1x+c2
x=10, 12を代入して
10n=10c1+c2, 12n=12c1+c2
これを解いてc1=12n10n2, c2=610n512n


ケイリー・ハミルトンの定理より(AB)222AB+120=Oが成り立つから
(AB)n=((AB)222AB+120E)P(AB)+c1AB+c2E
=12n10n2AB+(610n512n)E
=12[310n12n10n12n312n310n312n10n]

よって
(BlogA)n=(12log2)n(AB)n
=(12log2)n12[310n12n10n12n312n310n312n10n]
=(log2)n12[35n6n5n6n36n35n36n5n]
=12[3(5log2)n(6log2)n(5log2)n(6log2)n3(6log2)n3(5log2)n3(6log2)n(5log2)n]

ABを計算する

BlogA=(logA)BよりABはただ一つの値に定まる。
exのマクローリン展開より
ex=n01n!xn
xBlogAに置き換えると
AB=n01n!(BlogA)n
=12n01n![3(5log2)n(6log2)n(5log2)n(6log2)n3(6log2)n3(5log2)n3(6log2)n(5log2)n]
exのマクローリン展開の収束半径は無限大であるから、各成分に分配すると
=12[3e5log2e6log2e5log2e6log23e6log23e5log23e6log2e5log2]
=12[32526252632632532625]
=24[3212323321]
=24[1135]
=[16164880]

解答

AB=[16164880]

logxの級数展開の収束半径を回避する方法

解法1でネックだったlogのマクローリン展開の収束半径を回避して、A=elogAの逆算で求める方法です。

A=[3164]のときlogAを求めよ。

A=elogAからlogAを求める

Aを対角化して
A=[1161][3002][1161]1

ここでlogAが存在して、対角化が可能であるとすると
logA=P[a00b]P1
(logA)n=P[an00bn]P1

exのマクローリン展開より収束半径は無限大であるから
ex=n0xnn!
x=logAを代入して
elogA=P(n01n![an00bn])P1=P[ea00eb]P1

Aを対角化したものと比較して
A=[1161][3002][1161]1
もちろんA=elogAであるから、ea=3, eb=2, P=[1161]が成り立つ。
log(1)=iπよりa=iπ+log3, b=log2

logA=[1161][iπ+log300log2][1161]1
=15[1161][iπ+log300log2][1161]
=15[6log2log3iπlog2+log3+iπ6log26log36iπlog2+6log3+6iπ]

定理

αC{0}, 単位行列Eにおいて以下の等式が成立する。
log(αE)=(logα)E

α=reiθ ({r, θ}R, r0)とおく
log(αE)=log(rE)+log(eiθE)

(I) log(rE)=(logr)Eを示す

(i) 0<rの場合 mZ;0<r1m<2
log(r1mE)=n1k=0n(1)1+kn(nk)(r1mE)k
=n1k=0n(1)1+kn(nk)(r1m)kE
=(logr1m)E
=(1mlogr)E

mlog(r1mE)=m(1mlogr)E

log(rE)=(logr)E (Em=E)

(ii) r<0の場合
log(rE)=log(E)+log(rE)
(i), 0<rより
log(rE)=(log(r))E
次にlog(E)=iπE=log(1)Eを示す。
eiπE=cos(πE)+isin(πE)
cos(πE)=n0(1)n(2n)!(πE)2n=Ecosπ=E
sin(πE)=n0(1)n(2n+1)!(πE)2n+1=Esinπ=O
よって eiπE=E
対数をとって
log(E)=iπE=log(1)E
したがって
log(rE)=log(E)+log(rE)
=log(1)E+log(r)E
=(logr)E

(i),(ii)より
log(rE)=(logr)E (rR{0})


(II) log(eiθE)=log(eiθ)Eを示す
次に
eiθE=cos(θE)+isin(θE)
cos(θE)=n0(1)n(2n)!(θE)2n=Ecosθ
sin(θE)=n0(1)n(2n+1)!(θE)2n+1=Esinθ
よって
eiθE=(cos(θ)+isin(θ))E=eiθE
対数をとって
iθE=log(eiθE)

logrE (rR)を足して
(log(reiθ))E=log(reiθE)
(I), (II)より
αC{0}において
log(αE)=(logα)E
が成立する

類題 Aの固有多項式が重解のパターン

A=[2114], B=[5221]
ABの値を求めよ。

ジョルダン標準形を求める

単位行列をEとする。
det(λEA)=(λ2)(λ4)1(1)=(λ3)2=0
λ=3
固有ベクトルを求めると
(3EA)[11]=[1111][11]=[00]
広義固有ベクトルを求めると
(3EA)[10]=[1111][10]=[11]

Pを以下のように定める。
P=[1110]

よって、P1AP
P1AP=[0111][2114][1110]=[3103]
となる。

Anを求める

An=P[3103]nP1

ここで[0100]2=Oまた、二項定理より

[3103]n=([3003]+[0100])n=[3n3n1n03n]

これよりAnを求めると
An=P[3n3n1n03n]P1=3n1[3nnnn+3]
(A3)n=[1n3n3n3n3+1]

logAを求める

logA3=n1k=0n(1)k+1n(nk)[1k3k3k3k3+1]
今、これを計算するには二つの級数を求めればよい
定数(=1)のみの項は
logx=n1k=0n(1)k+1n(nk)xk (0<x<2)
x=1を代入して
n1k=0n(1)k+1n(nk)=log1=0


一方、kが含まれる部分は
n1k=0n(1)k+1n(nk)k=n1k=1n(1)k+1n(nk)k
=n1k=1n(1)k+1(n1k1)
=n1k=1n(1)k1(n1k1)
=n1{1+(1)}n1
=n10n1=1
以上より
logA3=n1k=0n(1)k+1n(nk)[1k3k3k3k3+1]
=[013131313+0]=13[1111]
定理1より
logA=log3E+logA3=(log3)E+logA3
logA=[log3131313log3+13]

ABを求める

logA, Bの積の可換性

BlogA=[5221][log3131313log3+13]=[5log312log3+12log31log3+1]

(logA)B=[log3131313log3+13][5221]=[5log312log3+12log31log3+1]
BlogA=(logA)B

BlogAn乗からABを計算する

det(λEB(logA))=|λ5log3+12log312log3+1λlog31|
=(λ5log3+1)(λlog31)(2log31)(2log3+1)
=λ2(6log3)λ+9(log3)2

このときxnx2(6log3)x+9(log3)2で割った余りは
xn=(x2(6log3)x+9(log3)2)P(x)+(3log3)n2(3log3n)x+n(3log3)n1
である。
ケイリー・ハミルトンの定理より
(BlogA)2(6log3)(BlogA)+9(log3)2E=O
であるから
(BlogA)n=(3log3)n2(3log3n)B(logA)+n(3log3)n1E
=(3log3)n2(3log3n)[5log312log3+12log31log3+1]+n(3log3)n1[1001]
=(3log3)n1[5log312log3+12log31log3+1]+(3log3)n2n[2log3+12log312log3+12log31]

exのマクローリン展開より 収束半径は無限大であるから
ex=n01n!xn
この式を用いると

AB=n01n!((3log3)n1[5log312log3+12log31log3+1]+(3log3)n2n[2log3+12log312log3+12log31])

ここで求める級数2つは
n01n!(3log3)n1=e3log33log3=9log3
n01n!(3log3)n2n=n11(n1)!(3log3)n2=e3log33log3=9log3
となる。

AB=9log3([5log312log3+12log31log3+1]+[2log3+12log312log3+12log31])
AB=[270027]

投稿日:2024511
更新日:2024527
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  2. 解法について
  3. 問題
  4. logAの値を求める
  5. logxを級数展開する
  6. Aを対角化する
  7. logAを求める
  8. ABを求める
  9. 解答
  10. logxの級数展開の収束半径を回避する方法
  11. A=elogAからlogAを求める
  12. 定理
  13. 類題 Aの固有多項式が重解のパターン
  14. ジョルダン標準形を求める
  15. Anを求める
  16. logAを求める
  17. ABを求める