3
大学数学基礎解説
文献あり

B1でもわかるKostant's convexity theoremについて Part.1

345
1

はじめに

基幹理工学部B1の卯月熊といいます. この記事は Wathematica Advent Calendar 2023 の12/24の記事です.B1が書いているので前提知識はB1数学です(本当か?). また間違いはないようにしますが、万が一何が間違ったことを言ってたり疑問点がある場合は正論とか質問攻めでぶん殴ってください. 今回はSchur-Horn theoremとそれの一般化であるKostant's convexity theoremについて解説していきます. Schur-Horn theoremはエルミート行列の固有値と対角成分との関係を述べる定理です. シンプレクティック幾何という微分幾何の一分野にモチベーションがあるそうですがあいにく何も知らないので, それ単独でも面白いステートメントだけ述べます.

エルミート行列・ユニタリ行列

エルミート行列とは以下のように定義される行列です.

エルミート行列

複素正方行列Hで, H=Hを満たすものをエルミート行列と呼ぶ. ただし, AAの共役転置を表す.

エルミート行列は以下のような性質を持ちます.

エルミート行列の固有値

エルミート行列Hは固有値がすべて実数である.

固有値の定義よりある固有値λに対して固有ベクトルxが存在して,Hx=λxを満たすので,
xHx=λxx
この式の共役転置を取ると,
xHx=λ¯xx
よってxHx=λ¯xx
xHx=λxxと比較するとλ=λ¯
よって固有値λは実数.

逆に与えられた実数の固有値に対してエルミート行列を作る事もできます.

ユニタリ行列

複素正方行列Uで, UU=Eを満たすものをユニタリ行列と呼ぶ. ただし, Eで単位行列を表す.

エルミート行列の対角化

エルミート行列Hはユニタリ行列Uを用いて対角化できる.

行列のサイズnに関する数学的帰納法で示す. n=1のときは任意の行列は既に対角行列なのでU=Eとすれば良い. n=k1のとき成立を仮定する。Hの固有値の一つをλ1とし, λ1に属する単位固有ベクトルをx1として, それで生成されるCnの部分空間をWとして, その直交補空間をW としてその正規直交基底をx2,,xn1, U=[x1,x2,,xn1]と定める(グラムシュミットの直交化法で存在が示せる)とユニタリ行列になりこの行列で基底を変換するとU1HU=(λ10H)
この式の共役転置を取るとエルミート行列とユニタリ行列の性質よりU1HU=(λ1t0H)
なのでHはエルミート行列となり, 結局
U1HU=(λ1t00H)
であり仮定よりH=UΛU1(Λは対角行列)なるユニタリ行列Uが存在するのでU=(1t00U)UとすればHUで対角化できる. よって題意は示された.

この事実により逆にエルミート行列は成分が実数の対角行列をユニタリ行列で変換したものということもできます.

Majorizationと二重確率行列

次に数列の偏りを表す概念について解説していきます. この記事においては明言がない限りn2以上の整数とします.

Majorization

n項の非増加実数列a={an}, b={bn}に対して, ab(b majorizes a)であるとは

  • i=1maii=1mbi(1mn1)
  • i=1nai=i=1nbi
    の条件を満たすことである. また, 非増加でないときは非増加列に並び替えて定義される.

これはもちろん推移律「abかつbcならばac」を満たします.
また, これと深く関わるT-変換も紹介しておきます. これは成分を二つ選んで均すことです.

T-変換

Rn上の点a=(a1,a2,,an)0t1に対してTa=(a1,a2,,tai+(1t)aj,,(1t)ai+taj,,an)とする線型変換TT-変換(T-transform)という.

T-変換の性質

Rn上のaに対してTaa.

ai,(Ta)ii番目に大きい成分を表す.
Sm=i=1maii=1m(Ta)iとおいて(Ta)i=ai+1aktai+(1t)aj (1t)ai+tajalaj1=(Ta)j
として計算すると, Sm={aiam+1    (imk1)(1t)(aiaj) (kml)am1aj    (l+1mj)0       (otherwise)
よって題意は示された.

Majorizationの関係がある数列同士は二重確率行列という行列で結びつけることができます.

二重確率行列

各成分が0以上で, 各行と各列の和が1となるような行列を二重確率行列(double stochasic matrix)と呼ぶ.

二重確率行列とMajorization

n項の実数列a,bRnのベクトルとみなしたとき, 以下は同値である:

  1. ab
  2. abの有限回のT-変換で書ける
  3. bの座標を並び替えてできる点のなす集合をb~として, a=iσib~iなるb~ib~iσi=1を満たす0以上のσiが存在する(b~の凸包にaが含まれるという, iσib~i凸結合(convex combination)という)
  4. ある二重確率行列Dに対してa=Db

(iii)はb~がなす多面体(pemutation polytope)の内部及び表面の点にaが属するということです.

ai,bii番目に大きいa,bの成分を表す.

  • (i)⇒(ii)
    n=2の時は一回のT-変換で表すことができるので, 帰納法で一般のnに拡張する. n1次元で成り立つと仮定する. abなのでbna1b1であるから, bka1bk+1なるkを選べ, a1=tb1+(1t)bkなる0t1が選べる. このtを用いてT-変換T1zRnに対して,
    T1z=(tz1+(1t)zk,z2,,zk1,(1t)z1+tzk,,zn)
    と定め,
    a=(a2,,an), b=(b2,,bk1,(1t)b1+tbk,,bn)とするとab. 実際, 2mk1で,
    j=2majj=2mbj
    kmnで,
    j=2mbj=j=1mbjtb1+(t1)bk=j=1mbja1 j=1maja1=j=2maj
    これはabよりm=nの時に等号が成立するのでab. よって帰納法の仮定からT-変換T2,,Trを用いてa=TrT2bと書けて,
    TrT2T1b=TrT2(a1,b)=aとなりn次元で成立する. よって題意は示された.
  • (ii)⇒(iii)
    有限回のT-変換は置換行列の凸結合, すなわち和が1となるような係数がかかった線形結合で表されるので成立.
  • (iii)⇒(iv)
    置換行列の凸結合は成分を計算すると二重確率行列になるので成立.
  • (iv)⇒(i)
    二重確率行列の(i,j)-成分をdijとする.
    j=1kbj=j=1ki=1ndijaiなので, もしti=j=1kdijとおけばki=1nti=0であり,
    j=1kbjj=1kaj=i=1ntiaii=1kai
    =i=1ntiaii=1kai+(ki=1nti)ak
    =i=1k(ti1)(aiak)+i=k+1nti(aiak)0
    k=nの時にti=1なので等号が成立するため, ab.

これを使ったいろいろな不等式があります. (証明は重み付き相加平均・相乗平均を使うので省略)

Muirheadの不等式

a=(a1,,an)b=(b1,,bn)に対してabならば
σxσ(1)a1xσ(n)anσxσ(1)b1xσ(n)bn

Karamataの不等式

a=(a1,,an)b=(b1,,bn)に対してabであり, fが凸関数ならばif(ai)if(bi)

詳しく知りたい方は, Muirheadの不等式に関しては これ を, Karamataの不等式に関しては これ を参照すると良いです. (どちらも高校数学の美しい物語のリンクです)

Schur-Horn theorem

また, 二重確率行列に関しては以下のような定理があります.

Birkhoff–von Neumann theorem

二重確率行列Dは置換行列の凸結合で表される.

証明は これ を参照してください. (これまた高校数学の美しい物語のリンクです)
この主張, さっき見たという方はこの定理を勘違いしていて, 「置換行列の凸結合は二重確率行列」というのは定理4の(iii)⇒(iv)で使いましたが, 今回は逆を主張しています.
また, 以下のような定理もあります.

ユニタリ行列の性質

ユニタリ行列U(i,j)-成分をuijとしたときにi|uij|2=j|uij|2=1
すなわち|uij|2を成分に持つ行列は二重確率行列.

UU=1(i,i)-成分を比較するとjuijuji=juijuij=1すなわちj|uij|2=1. ユニタリ行列は転置を取ってもユニタリ行列なので, 題意は示された.

Schur-Horn theorem

dλを非増加列であるn次元実ベクトルとする. この時以下は同値である.

  1. 対角成分d, 固有値λ(左上から)となるようなエルミート行列Hが存在
  2. dλ
  • (i)⇒(ii)
    命題2より, エルミート行列Hはユニタリ行列Uで対角化でき, 多角化後の行列をΛと書くと, H=UΛU1=UΛUとできるため, 行列H,U,U,UΛ(i,j)-成分をそれぞれhij,uij,uij,(UΛ)ijと書くと, hii=j=1n(UΛ)ijuji=j=1n(UΛ)ijuij=
    j=1nuijλjuij=j=1nλj|uij|2
    すなわち, |uij|2を成分とする二重確率行列Dが存在して, d=Dλとなるから, 定理4よりdλ.
  • (ii)⇒(i)
    行列A(成分aij, 対角成分dA)に対してξ(A)Cξ(A)ajk=ξ(A)ajkを満たすものとして,
    U(A)=(1ξt1ttξ1t1)
    (文字が入っている行, 列はj,k行, 列目であり, 他の対角成分は1)とすると, これはユニタリ行列であり, (U(A))1AU(A)の対角成分dAは(j,k番目の成分に対する)T-変換Tが存在して TdAと書ける. dλのときdλの有限回のT-変換で書けるので, λを対角成分として持つ対角行列をΛとし, Ui=U(Ui11U11ΛU1Ui1)と定義するとH=Un1U11ΛU1Undを対角成分に持つようなエルミート行列Hとなる. ここでユニタリ行列の積はユニタリ行列であることを使った.

次回これの拡張をします.

位相空間

 Schur-Horn theoremを拡張するために嘘つき集団リー群(Lie group)を定義する必要があるのですが, そのためにまずは位相空間と呼ばれるものを定義します. ざっくり言えば線形空間と違ってぐにゃぐにゃした空間も含めた"空間"の概念です. 知っている方は次の記事まで飛ばすか粗探ししてください.

位相空間

Xを集合としOXの冪集合の部分集合とする. Oが以下の条件を満たすとき, 組(X,O)位相空間(topological space)と呼ぶ. また, Oを開集合系といい, その元を開集合(open set)という. また開集合の補集合を閉集合(closed set)という.

  • ,XO
  • どのようなO1,O2Oに対してもO1O2O
  • Λで添字付けられた集合族{Oλ}λΛ(OλO)(edited: 2023/12/24 17:03)に対してλΛOλOに含まれる

まあここを間違える人はいないと思いますが, 閉集合は開集合ではない集合ではないです. (実際に開集合でも閉集合でもない集合と開集合でも閉集合でもある集合がある場合があります)
距離空間と呼ばれる, 距離という写像が入った空間にはこの位相空間の構造が入ります.

距離空間

集合Xに対して写像d:X×XRが存在して, 以下の条件を満たすとき集合と写像の組(X,d)距離空間(metric space)という.

  1. 全てのx,yXに対しd(x,y)0であり d(x,y)=0ならばx=y
  2. 全てのx,yXに対しd(x,y)=d(y,x)
  3. 全てのx,y,zXに対しd(x,y)+d(y,z)d(x,z)(三角不等式)
開近傍

正の実数ε, 距離空間X上の点xに対してd(x,y)<εを満たすyYの集合をxε-近傍(ε-neighborhood)と呼び, Bε(x)で表す.

距離空間の位相

距離空間Xの部分集合UですべてのxUに対してBε(x)Uに含まれるようなεが存在するUの集まりOを開集合系とすると位相空間になる.

Oは明らかでXOは定義7(i)より成立するので, 他の二つを示す.

  • どのようなO1,O2Oに対してもO1O2O
    O1,O2Oを取ってきたとき, O1O2が空集合になった場合は成立するし, それ以外の時はO1O2に含まれるxをとるとBε1(x),Bε2(x)O1,O2に含まれるようなε1,ε2が存在するのでε:=min{ε1,ε2}とすればO1O2O

  • Λで添字付けられた集合族(Oλ)λΛに対してλΛOλOに含まれる
    xλΛOλをとると, あるμΛに対してxOμであるため, Bε(x)Oμに含まれるようなεが存在する.

ということで我々のよく知っているユークリッド空間には距離が入るので位相が入ります.

ユークリッド空間の位相

Rn上の点x=(x1,,xn), y(y1,,yn)の距離をd(x,y)=i(xiyi)2
で定めると距離空間になり, 命題8より位相空間になる. (三角不等式以外は簡単に示せ, 三角不等式はCauchy–Schwarzの不等式で示せる)

あとそういえば言い忘れてましたがε-近傍は開集合です.

ε-近傍は開集合

距離空間Xに対して,Bε(x)OX

任意のyBε(x)に対して, d(x,y)<εとなるので, ε=εd(x,y)とおくとε>0となる.
任意のzBε(y)を取ると, 三角不等式より
d(x,z)d(x,y)+d(y,z)<d(x,y)+ε=εd(x,y)+d(x,y)=ε
なのでzBε(x)
すなわちBε(y)Bε(x). よって命題8の開集合系の条件を満たしているので, Bε(x)OX.

ところで, 位相空間って相当条件が緩いので条件を付けないと密着位相(開集合は空集合と全体のみ)とか離散位相(すべて開集合)とかいう変な位相も入れることができちゃうんですよね. ということでいい感じの条件を付けていきましょう(適当). 以下の条件はなんか説明に必要ないい感じの性質という適当な印象しかないので詳しい情報をお持ちの方は@uzukikumaまで.

位相空間に追加する条件

位相空間(X,O)に対して,

  • すべてのx,yXに対してxO1O, yO2OとなるようなO1,O2で(O1,O2をそれぞれx,y開近傍(open neighborhood)という), O1O2=なるものが選べるものをハウスドルフ空間(Hausdorff space)という.
  • Oの元がBの元の和集合で表されるとき, B開基(basis)といい, Bの元が可算個, すなわち自然数からBへの全単射があるとき, 第二可算空間(second-countable space)という.
  • 開集合の集合族{Uλ}λΛがあるXの部分集合Aに対してAλΛUλを満たすとき{Uλ}λΛA開被覆(open cover)といい, 有限集合SΛに対してAλSUλとできるならAコンパクト集合(compact set)という.
  • 空でない開集合A,Bで, AB=となるようなものを用いてX=ABとできないような位相空間を連結(connected)であるという.

ユークリッド空間は第二可算でハウスドルフです.

ユークリッド空間の性質

ユークリッド空間は第二可算でハウスドルフ.

  • 第二可算性
    中心が, 座標がすべて有理数の点(有理点)で半径が有理数の開球の集合をQとする. 任意のOOを取って, O=xOQxとなるようなQxQを取ることができればよい.
    xOに対して, 開集合の定義からBε(x)(x)Oとなるε(x)>0を取ることができ, ε(x)ε(x)2とすると, 有理数の稠密性からBε(x)(x)の中の有理点qxを取れ, d(x,qx)<ε(x)=ε(x)2 なのでε(x)2=ε(x)ε(x)>rx>d(x,qx)となるような有理数rxが取れることより, xBrx(qx). Qx=Brx(qx)とすると, OxOQxであり, また, Qxの任意の元yに対して,
    d(y,x)d(y,qx)+d(x,qx)<rx+ε(x)2<ε(x)2+ε(x)2=ε(x)
    からyBε(x)(x)O. よってOxOQx. QxQなのでユークリッド空間は第二可算.
  • ハウスドルフ性
    ユークリッド空間上の二点x,yを取ったとき, ε=d(x,y)2とする. この時, Bε(x)Bε(y)=である. 実際, zBε(x)Bε(y)なるzがあるとすると, d(x,y)d(x,z)+d(z,y)<2ε=d(x,y)より矛盾.

また, 二つの位相空間に対して写像を考えます.

連続・同相写像

二つの位相空間(X,OX), (Y,OY)に対してXからYへの写像fがあって,

  • VOYならばf1(V)OX」をみたすならばf連続写像(continuous map)
  • 連続で, 全単射で, 逆写像が連続な写像のことを同相写像(homeomorphism)

という.

この連続性の定義は距離空間ではε,δ-論法と同値になります.

ε,δ-論法と位相空間での写像の連続性

距離空間(X,OX), (Y,OY)XからYへの写像fに対して以下は同値である.

  1. VOYならばf1(V)OXをみたす.
  2. すべてのxX, ε>0に対して, 「すべてのyXに対してdX(x,y)<δならばdY(f(x),f(y))<ε」を満たすようなδ>0が存在する.
  • (i)⇒(ii)
    任意のxX,ε>0を取ると, 命題9よりBε(f(x))OYなので, (i)の仮定からf1(Bε(f(x)))OXとできて, f1(f(x)){x}{f(x)}Bε(f(x))からxf1(Bε(f(x)))であり, 距離空間の開集合系の定義からあるδ>0に対してBδ(x)f1(Bε(f(x))).
    すなわちすべてのyXに対してdX(x,y)<δならばyf1(Bε(f(x)))f(y)Bε(f(x))なのでdY(f(x),f(y))<ε.
  • (ii)⇒(i)
    任意のVOYを取るとすべてのxf1(V)に対してf(x)VOYで, 距離空間の開集合系の定義からあるε>0に対してBε(f(x))V, 仮定より「すべてのyXに対してdX(x,y)<δならばdY(f(x),f(y))<ε」となるようなδが取れる, すなわち「すべてのf(y)f(Bδ(x))に対してdY(f(x),f(y))<εf(Bδ(x))Bε(f(x))
    よって任意のzBδ(x)を取るとf(z)f(Bδ(x))Bε(f(x))zf1(Bε(f(x)))f1(V)よってBδ(x)f1(V)となって開集合の定義に当てはまるのでf1(V)OX.

多様体

これで多様体を定義する準備が整いました.

多様体

第二可算でHausdorffな位相空間(M,O)に対して, 任意のpMに対して,

  • pの開近傍U
  • 開近傍UからRnの開集合Uへの同相写像φU

が存在するとき, Up座標近傍(coordinate neighborhood)といい, 組(U,φU)チャート(chart)といい, 位相空間(M,O)のことをn次元位相多様体(topological manifold)という.

Hausdorff性は流石に成り立っててほしいのでともかく, 第二可算が条件に付いてる理由が分かりませんが, まあいい感じの性質なので入れといても問題はないでしょう(これも詳しく知っている方は @uzukikuma まで). これは, 各点の周りで部分的にユークリッド空間と見れるような位相空間を多様体と呼んでいるという感じで, 例えば我々が考えるような曲面(十分近くを見ればまっすぐに見える)とかみたいなイメージです.

アトラス

位相多様体Mに対して, チャートの族{(Uλ,φUλ)}λΛで, M=λΛUλを満たすようなものをアトラス(atlas)という.

要するに多様体を全部覆うようなチャートの族のことですね.

これを用いるといくらでも微分できる多様体, C多様体が定義できます. その前に通常のユークリッド空間についてみていきましょう.

ユークリッド空間におけるC級写像

開集合URmに対して, 連続写像f:URnC級写像であるとは, 各変数に対して何回でも偏微分可能であることを言う.

微分同相

開集合U,VRnに対し同相写像φ:UV微分同相写像(diffeomorphism)であるとは, φφ1C級であることを言う.

C多様体

n次元位相多様体で, あるアトラスAの任意のチャート(U,fU), (V,fV)UVとなるようなものに対してfUfV1:(Rn)fV(UV)fU(UV)(Rn)座標変換(coordinate transformation)と呼び, 座標変換が微分同相であったらアトラスAC級アトラスといい, そのようなアトラスがある多様体をn次元C多様体, あるいは滑らかな多様体という.
 また, チャート(U,fU), (V,fV)に対して座標変換が微分同相であること自体は二つのチャートは両立する(compatible)と呼ばれる.

 ユークリッド空間は部分的にユークリッド空間とみなせるどころかユークリッド空間そのものなので, 位相多様体であり, 恒等写像という変換してない座標変換というC写像を持っていますからC多様体です.

C多様体としてのユークリッド空間

ユークリッド空間は任意のUV=なる開集合U,Vに対してfU:URn, xxfV:VRn, xxと定めるとfUfV1:fV(UV)fU(UV)が微分同相なのでC多様体.

fUfV1は恒等写像なので, xの成分をxiとすると任意のi,jに対してxi(fUfV1)=t(0,,0,1,0,,0), xjt(0,,0,1,0,,0)=0, 0はどの変数でどれだけ偏微分しても0なのでC級, fUfV1:UVUVは全単射であり, 逆写像も同様にC級, 開集合の逆像は恒等写像なので開集合に移り連続であるため, 微分同相.

(まあ一枚の(Rn,id)というデカすぎるチャートからなるアトラスでもいいのですが)

また, 議論がアトラスに依存しないように, 出来るだけチャートを詰め込んだ極大アトラスを定義します.

極大アトラス

位相空間MC級アトラスAに対しAを含むようなアトラスで, 包含関係に対して極大(edited: 2023/12/24 18:10)であるものを極大アトラス(maximal atlas)という.

追記(2023/12/24 18:10)

同相であるが微分同相でない可微分多様体の例があるそうなのでC級多様体とみなせる位相空間Mの極大アトラスが一意に定まるというわけではないそうです.

 C多様体は今後この極大アトラスが搭載(?)されているものとします.
 C多様体M,Nに対して, 位相, チャートの直積を取って積多様体M×Nを定義することもできます.

積多様体

C多様体M,Nに対して, M×NM,Nの開集合の直積で得られる集合を開集合とした直積位相(product topology)を定めることができ, これはハウスドルフかつ第二可算(本当は証明が必要)であり, M,NCアトラスM,Nのチャート(U,fU), (V,fV)の直積を取った((U,V),(fU,fV))を集めたものはCアトラスとなり(これも本当は証明が必要), C多様体M×Nという積多様体(product manifold)を作ることができる.

また, 多様体間の写像に関してもC級を定められます.

C級写像

C多様体M,Nに対してf:MNC級写像であるとは, すべてのpMに対して以下の条件を満たすMのチャート(U,fU), Nのチャート(V,fV)が存在することである.

  • pUかつf(p)V
  • f(U)V
  • fVffU1C

 リー群についてはもうこの時点で定義できるのですが, リー代数について定義するために, 接空間まわりに関して定義していきます. 本来はチャートの像(局所座標と呼ばれる)に依存しない定義としてライプニッツ則と線形性を持つものを微分と思うことにして接空間上のベクトルとみなす定義(方向微分)があるのですが, 以下に示す定義だと具体的な計算がしやすいということでそちらを採用します.

接空間

C(M)MRC写像の全体を表すこととする.
C多様体M上の点pにおいてその点におけるチャート(U,φ)に対してxi|p:C(M)R,ffxi(p):=(fφ1)xi(φ(p))n個のベクトルを基底(自然基底という)とするベクトル空間を点pにおける接空間(tangent space)と言い, TpMで表す. また, 接空間上のベクトルを接ベクトル(tangent vector)という. 但し, xiを多様体上のi番目の座標, xiRn上のi番目の座標としている.

複雑な定義なのですが, fφ1(Rn)VRなのでxiで偏微分することができます.
 ところで, 多様体M上の曲線は以下のように定義されます.

曲線周りの定義

Rの開区間Iから多様体MへのC写像をC曲線(C curve)という. またC曲線γに対してdγdt(t0)(f):=d(fγ)dt(t0)となるようなdγdt(t0):C(M)Rp=γ(t0)速度ベクトル(tangent vector)という.

接空間はある曲線の速度ベクトルで表すことができます.

接空間と速度ベクトル

C多様体M上の任意の点pに対してその任意の接ベクトルvTpMp=γ(0)となるようなある曲線γの速度ベクトルである.

M上の任意の点pに対してpを含むチャートとして(U,φ)を取ると,
φは平行移動することによってφ(p)=0となるようにできる.
任意の接ベクトルvに対してv=ivixi|p(viR)とおいてγ(t)=φ1((tv1,,tvn))(ただし定義域は十分小さい正の実数εに対し, t(ε,ε))とおき, vv(t)=(tv1,,tvn)で定義される写像とすると
dγdt(0)(f)=d(fγ)dt|t=0
=d(fφ1v)dt|t=0
=dvdtd(fφ1)dv|v=0
=(v1,,vn)d(fφ1)dv|v=0
=(v1,,vn)t((fφ1)x1,,(fφ1)xn)|φ(p)
=(v1,,vn)t(fx1,,fxn)|p
=ivixi|p(f)
=v(f)
より示された.
(ここで, fφ1φの定義域と終域がユークリッド空間の部分集合であることを用いてchain ruleを適用している)

これで写像の微分の定義ができます.

写像の微分

C多様体M, Nに対してC写像F:MNが与えられたとき, pMにおけるFの微分(differential of F at p)とは,
vが速度ベクトルとなるような曲線γv(γv(0)=p)に対して,
TpF:TpMTF(p)N, v((C(N))fd(fFγv)dt(0))(edited:2023/12/24 18:10)

写像の微分は線形写像です.

写像の微分は線形写像

C多様体M, Nに対してC写像F:MNが与えられたとき, TpFは線形写像.

疲れたのでここの証明は追っていませんが, 多様体のような曲がった空間上にくっついたまっすぐな接平面同士のでの基底変換なのでそれはそうみたいな感じしますね(疲れ).

区切りがいいのでここで一旦切ります. 続き(ふくせんかいしゅう)は明日.

参考文献

[2]
Barry C. Arnold, Majorization and the Lorenz Order: A Brief Introduction, Lecture Notes in Statistics, Springer New York, NY, 2012, 14
[3]
Rajendra Bhatia, Matrix Analysis, Graduate Texts in Mathematics, Springer New York, NY, 2013, 33-34
[4]
Albert W. Marshall , Ingram Olkin , Barry C. Arnold, Inequalities: Theory of Majorization and Its Applications, Springer Series in Statistics, Springer New York, NY, 2010
[6]
Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds, Universitext
投稿日:20231223
更新日:20231224
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. エルミート行列・ユニタリ行列
  3. Majorizationと二重確率行列
  4. Schur-Horn theorem
  5. 位相空間
  6. 多様体
  7. 参考文献