はじめに
基幹理工学部B1の卯月熊といいます. この記事は
Wathematica Advent Calendar 2023
の12/24の記事です.B1が書いているので前提知識はB1数学です(本当か?). また間違いはないようにしますが、万が一何が間違ったことを言ってたり疑問点がある場合は正論とか質問攻めでぶん殴ってください. 今回はSchur-Horn theoremとそれの一般化であるKostant's convexity theoremについて解説していきます. Schur-Horn theoremはエルミート行列の固有値と対角成分との関係を述べる定理です. シンプレクティック幾何という微分幾何の一分野にモチベーションがあるそうですがあいにく何も知らないので, それ単独でも面白いステートメントだけ述べます.
エルミート行列・ユニタリ行列
エルミート行列とは以下のように定義される行列です.
エルミート行列
複素正方行列で, を満たすものをエルミート行列と呼ぶ. ただし, での共役転置を表す.
エルミート行列は以下のような性質を持ちます.
固有値の定義よりある固有値に対して固有ベクトルが存在して,を満たすので,
この式の共役転置を取ると,
よって
と比較すると
よって固有値は実数.
逆に与えられた実数の固有値に対してエルミート行列を作る事もできます.
ユニタリ行列
複素正方行列Uで, を満たすものをユニタリ行列と呼ぶ. ただし, で単位行列を表す.
エルミート行列の対角化
エルミート行列はユニタリ行列を用いて対角化できる.
行列のサイズに関する数学的帰納法で示す. のときは任意の行列は既に対角行列なのでとすれば良い. のとき成立を仮定する。の固有値の一つをとし, に属する単位固有ベクトルをとして, それで生成されるの部分空間をとして, その直交補空間を としてその正規直交基底を, と定める(グラムシュミットの直交化法で存在が示せる)とユニタリ行列になりこの行列で基底を変換すると
この式の共役転置を取るとエルミート行列とユニタリ行列の性質より
なのではエルミート行列となり, 結局
であり仮定より(は対角行列)なるユニタリ行列が存在するのでとすればをで対角化できる. よって題意は示された.
この事実により逆にエルミート行列は成分が実数の対角行列をユニタリ行列で変換したものということもできます.
Majorizationと二重確率行列
次に数列の偏りを表す概念について解説していきます. この記事においては明言がない限りは以上の整数とします.
Majorization
項の非増加実数列, に対して, ( majorizes )であるとは
- ()
の条件を満たすことである. また, 非増加でないときは非増加列に並び替えて定義される.
これはもちろん推移律「かつならば」を満たします.
また, これと深く関わるT-変換も紹介しておきます. これは成分を二つ選んで均すことです.
T-変換
上の点とに対してとする線型変換をT-変換(T-transform)という.
で番目に大きい成分を表す.
とおいて
として計算すると,
よって題意は示された.
Majorizationの関係がある数列同士は二重確率行列という行列で結びつけることができます.
二重確率行列
各成分が以上で, 各行と各列の和がとなるような行列を二重確率行列(double stochasic matrix)と呼ぶ.
二重確率行列とMajorization
項の実数列をのベクトルとみなしたとき, 以下は同値である:
- はの有限回のT-変換で書ける
- の座標を並び替えてできる点のなす集合をとして, なるとを満たす以上のが存在する(の凸包にが含まれるという, を凸結合(convex combination)という)
- ある二重確率行列に対して
(iii)はがなす多面体(pemutation polytope)の内部及び表面の点にが属するということです.
で番目に大きいの成分を表す.
- (i)⇒(ii)
の時は一回のT-変換で表すことができるので, 帰納法で一般のに拡張する. 次元で成り立つと仮定する. なのでであるから, なるを選べ, なるが選べる. このを用いてT-変換をに対して,
と定め,
, とすると. 実際, で,
で,
これはよりの時に等号が成立するので. よって帰納法の仮定からT-変換を用いてと書けて,
となり次元で成立する. よって題意は示された. - (ii)⇒(iii)
有限回のT-変換は置換行列の凸結合, すなわち和がとなるような係数がかかった線形結合で表されるので成立. - (iii)⇒(iv)
置換行列の凸結合は成分を計算すると二重確率行列になるので成立. - (iv)⇒(i)
二重確率行列の-成分をとする.
なので, もしとおけばであり,
の時になので等号が成立するため, .
これを使ったいろいろな不等式があります. (証明は重み付き相加平均・相乗平均を使うので省略)
詳しく知りたい方は, Muirheadの不等式に関しては
これ
を, Karamataの不等式に関しては
これ
を参照すると良いです. (どちらも高校数学の美しい物語のリンクです)
Schur-Horn theorem
また, 二重確率行列に関しては以下のような定理があります.
Birkhoff–von Neumann theorem
証明は
これ
を参照してください. (これまた高校数学の美しい物語のリンクです)
この主張, さっき見たという方はこの定理を勘違いしていて, 「置換行列の凸結合は二重確率行列」というのは定理4の(iii)⇒(iv)で使いましたが, 今回は逆を主張しています.
また, 以下のような定理もあります.
ユニタリ行列の性質
ユニタリ行列の-成分をとしたときに
すなわちを成分に持つ行列は二重確率行列.
の-成分を比較するとすなわち. ユニタリ行列は転置を取ってもユニタリ行列なので, 題意は示された.
Schur-Horn theorem
とを非増加列である次元実ベクトルとする. この時以下は同値である.
- 対角成分, 固有値(左上から)となるようなエルミート行列が存在
- (i)⇒(ii)
命題2より, エルミート行列はユニタリ行列で対角化でき, 多角化後の行列をと書くと, とできるため, 行列の-成分をそれぞれと書くと,
すなわち, を成分とする二重確率行列が存在して, となるから, 定理4より. - (ii)⇒(i)
行列(成分, 対角成分)に対してをを満たすものとして,
(文字が入っている行, 列は行, 列目であり, 他の対角成分は1)とすると, これはユニタリ行列であり, の対角成分は(番目の成分に対する)T-変換が存在して と書ける. のときはの有限回のT-変換で書けるので, を対角成分として持つ対角行列をとし, と定義するとでを対角成分に持つようなエルミート行列となる. ここでユニタリ行列の積はユニタリ行列であることを使った.
次回これの拡張をします.
位相空間
Schur-Horn theoremを拡張するために嘘つき集団リー群(Lie group)を定義する必要があるのですが, そのためにまずは位相空間と呼ばれるものを定義します. ざっくり言えば線形空間と違ってぐにゃぐにゃした空間も含めた"空間"の概念です. 知っている方は次の記事まで飛ばすか粗探ししてください.
位相空間
を集合としをの冪集合の部分集合とする. が以下の条件を満たすとき, 組を位相空間(topological space)と呼ぶ. また, を開集合系といい, その元を開集合(open set)という. また開集合の補集合を閉集合(closed set)という.
- どのようなに対しても
- で添字付けられた集合族()(edited: 2023/12/24 17:03)に対してがに含まれる
まあここを間違える人はいないと思いますが, 閉集合は開集合ではない集合ではないです. (実際に開集合でも閉集合でもない集合と開集合でも閉集合でもある集合がある場合があります)
距離空間と呼ばれる, 距離という写像が入った空間にはこの位相空間の構造が入ります.
距離空間
集合に対して写像が存在して, 以下の条件を満たすとき集合と写像の組を距離空間(metric space)という.
- 全てのに対しであり ならば
- 全てのに対し
- 全てのに対し(三角不等式)
開近傍
正の実数, 距離空間上の点に対してを満たすの集合をの-近傍(-neighborhood)と呼び, で表す.
距離空間の位相
距離空間の部分集合ですべてのに対してがに含まれるようなが存在するの集まりを開集合系とすると位相空間になる.
は明らかでは定義7(i)より成立するので, 他の二つを示す.
どのようなに対しても
を取ってきたとき, が空集合になった場合は成立するし, それ以外の時はに含まれるをとるとがに含まれるようなが存在するのでとすれば
で添字付けられた集合族に対してがに含まれる
をとると, あるに対してであるため, がに含まれるようなが存在する.
ということで我々のよく知っているユークリッド空間には距離が入るので位相が入ります.
ユークリッド空間の位相
上の点, の距離を
で定めると距離空間になり, 命題8より位相空間になる. (三角不等式以外は簡単に示せ, 三角不等式はCauchy–Schwarzの不等式で示せる)
あとそういえば言い忘れてましたが-近傍は開集合です.
任意のに対して, となるので, とおくととなる.
任意のを取ると, 三角不等式より
なので
すなわち. よって命題8の開集合系の条件を満たしているので, .
ところで, 位相空間って相当条件が緩いので条件を付けないと密着位相(開集合は空集合と全体のみ)とか離散位相(すべて開集合)とかいう変な位相も入れることができちゃうんですよね. ということでいい感じの条件を付けていきましょう(適当). 以下の条件はなんか説明に必要ないい感じの性質という適当な印象しかないので詳しい情報をお持ちの方は@uzukikumaまで.
位相空間に追加する条件
位相空間に対して,
- すべてのに対して, となるようなで(をそれぞれの開近傍(open neighborhood)という), なるものが選べるものをハウスドルフ空間(Hausdorff space)という.
- の元がの元の和集合で表されるとき, を開基(basis)といい, の元が可算個, すなわち自然数からへの全単射があるとき, 第二可算空間(second-countable space)という.
- 開集合の集合族があるの部分集合に対してを満たすときがの開被覆(open cover)といい, 有限集合に対してとできるならをコンパクト集合(compact set)という.
- 空でない開集合で, となるようなものを用いてとできないような位相空間を連結(connected)であるという.
ユークリッド空間は第二可算でハウスドルフです.
- 第二可算性
中心が, 座標がすべて有理数の点(有理点)で半径が有理数の開球の集合をとする. 任意のを取って, となるようなを取ることができればよい.
に対して, 開集合の定義からとなるを取ることができ, をとすると, 有理数の稠密性からの中の有理点を取れ, なのでとなるような有理数が取れることより, . とすると, であり, また, の任意の元に対して,
から. よって. なのでユークリッド空間は第二可算. - ハウスドルフ性
ユークリッド空間上の二点を取ったとき, とする. この時, である. 実際, なるがあるとすると, より矛盾.
また, 二つの位相空間に対して写像を考えます.
連続・同相写像
二つの位相空間, に対してからへの写像があって,
- 「ならば」をみたすならばは連続写像(continuous map)
- 連続で, 全単射で, 逆写像が連続な写像のことを同相写像(homeomorphism)
という.
この連続性の定義は距離空間では-論法と同値になります.
-論法と位相空間での写像の連続性
距離空間, とからへの写像に対して以下は同値である.
- ならばをみたす.
- すべての, に対して, 「すべてのに対してならば」を満たすようなが存在する.
- (i)⇒(ii)
任意のを取ると, 命題9よりなので, (i)の仮定からとできて, とからであり, 距離空間の開集合系の定義からあるに対して.
すなわちすべてのに対してならばなので. - (ii)⇒(i)
任意のを取るとすべてのに対してで, 距離空間の開集合系の定義からあるに対して, 仮定より「すべてのに対してならば」となるようなが取れる, すなわち「すべてのに対して」
よって任意のを取るとよってとなって開集合の定義に当てはまるので.
多様体
これで多様体を定義する準備が整いました.
多様体
第二可算でHausdorffな位相空間に対して, 任意のに対して,
が存在するとき, をの座標近傍(coordinate neighborhood)といい, 組をチャート(chart)といい, 位相空間のことを次元位相多様体(topological manifold)という.
Hausdorff性は流石に成り立っててほしいのでともかく, 第二可算が条件に付いてる理由が分かりませんが, まあいい感じの性質なので入れといても問題はないでしょう(これも詳しく知っている方は @uzukikuma まで). これは, 各点の周りで部分的にユークリッド空間と見れるような位相空間を多様体と呼んでいるという感じで, 例えば我々が考えるような曲面(十分近くを見ればまっすぐに見える)とかみたいなイメージです.
アトラス
位相多様体に対して, チャートの族で, を満たすようなものをアトラス(atlas)という.
要するに多様体を全部覆うようなチャートの族のことですね.
これを用いるといくらでも微分できる多様体, 多様体が定義できます. その前に通常のユークリッド空間についてみていきましょう.
ユークリッド空間における級写像
開集合に対して, 連続写像が級写像であるとは, 各変数に対して何回でも偏微分可能であることを言う.
微分同相
開集合に対し同相写像が微分同相写像(diffeomorphism)であるとは, とが級であることを言う.
多様体
次元位相多様体で, あるアトラスの任意のチャート, でとなるようなものに対してを座標変換(coordinate transformation)と呼び, 座標変換が微分同相であったらアトラスを級アトラスといい, そのようなアトラスがある多様体を次元多様体, あるいは滑らかな多様体という.
また, チャート, に対して座標変換が微分同相であること自体は二つのチャートは両立する(compatible)と呼ばれる.
ユークリッド空間は部分的にユークリッド空間とみなせるどころかユークリッド空間そのものなので, 位相多様体であり, 恒等写像という変換してない座標変換という写像を持っていますから多様体です.
多様体としてのユークリッド空間
ユークリッド空間は任意のなる開集合に対して, と, と定めるとが微分同相なので多様体.
は恒等写像なので, の成分をとすると任意のに対して, , はどの変数でどれだけ偏微分してもなので級, は全単射であり, 逆写像も同様に級, 開集合の逆像は恒等写像なので開集合に移り連続であるため, 微分同相.
(まあ一枚のというデカすぎるチャートからなる雑アトラスでもいいのですが)
また, 議論がアトラスに依存しないように, 出来るだけチャートを詰め込んだ極大アトラスを定義します.
極大アトラス
位相空間の級アトラスに対しを含むようなアトラスで, 包含関係に対して極大(edited: 2023/12/24 18:10)であるものを極大アトラス(maximal atlas)という.
追記(2023/12/24 18:10)
同相であるが微分同相でない可微分多様体の例があるそうなので級多様体とみなせる位相空間の極大アトラスが一意に定まるというわけではないそうです.
多様体は今後この極大アトラスが搭載(?)されているものとします.
多様体に対して, 位相, チャートの直積を取って積多様体を定義することもできます.
積多様体
多様体に対して, にの開集合の直積で得られる集合を開集合とした直積位相(product topology)を定めることができ, これはハウスドルフかつ第二可算(本当は証明が必要)であり, のアトラスのチャート, の直積を取ったを集めたものはアトラスとなり(これも本当は証明が必要), 多様体という積多様体(product manifold)を作ることができる.
また, 多様体間の写像に関しても級を定められます.
級写像
多様体に対してが級写像であるとは, すべてのに対して以下の条件を満たすのチャート, のチャートが存在することである.
リー群についてはもうこの時点で定義できるのですが, リー代数について定義するために, 接空間まわりに関して定義していきます. 本来はチャートの像(局所座標と呼ばれる)に依存しない定義としてライプニッツ則と線形性を持つものを微分と思うことにして接空間上のベクトルとみなす定義(方向微分)があるのですが, 以下に示す定義だと具体的な計算がしやすいということでそちらを採用します.
接空間
での写像の全体を表すこととする.
多様体上の点においてその点におけるチャートに対しての個のベクトルを基底(自然基底という)とするベクトル空間を点における接空間(tangent space)と言い, で表す. また, 接空間上のベクトルを接ベクトル(tangent vector)という. 但し, を多様体上の番目の座標, を上の番目の座標としている.
複雑な定義なのですが, はなのでで偏微分することができます.
ところで, 多様体上の曲線は以下のように定義されます.
曲線周りの定義
の開区間から多様体への写像を曲線( curve)という. また曲線に対してとなるようなをの速度ベクトル(tangent vector)という.
接空間はある曲線の速度ベクトルで表すことができます.
接空間と速度ベクトル
多様体上の任意の点に対してその任意の接ベクトルはとなるようなある曲線の速度ベクトルである.
上の任意の点に対してを含むチャートとしてを取ると,
は平行移動することによってとなるようにできる.
任意の接ベクトルに対して()とおいて(ただし定義域は十分小さい正の実数に対し, )とおき, をで定義される写像とすると
より示された.
(ここで, との定義域と終域がユークリッド空間の部分集合であることを用いてchain ruleを適用している)
これで写像の微分の定義ができます.
写像の微分
多様体, に対して写像が与えられたとき, 点におけるの微分(differential of at )とは,
が速度ベクトルとなるような曲線()に対して,
, (edited:2023/12/24 18:10)
写像の微分は線形写像です.
写像の微分は線形写像
多様体, に対して写像が与えられたとき, は線形写像.
疲れたのでここの証明は追っていませんが, 多様体のような曲がった空間上にくっついたまっすぐな接平面同士のでの基底変換なのでそれはそうみたいな感じしますね(疲れ).
区切りがいいのでここで一旦切ります. 続きは明日.