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大学数学基礎解説
文献あり

多項式版Fermat予想

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$$\newcommand{Ker}[1]{\mathrm{Ker}\,{#1}} $$

多項式版Fermat予想

Fermat予想 (フェルマーの最終定理) と呼ばれる定理は, 次のものです.

フェルマーの最終定理

$3$以上の自然数$n$に対し,
\begin{equation} x^{n} + y^{n} = z^{n} \end{equation}
を満たす自然数$x, y, z$は存在しない.

1995年にアンドリュー・ワイルズによって証明されました. フェルマーの死後3世紀以上, 誰も証明できなかったことで有名ですね.

今回証明する, "多項式版Fermat予想"とは, 次のものです.

多項式版Fermat予想

$K$は, 標数$0$の体とする. $3$以上の自然数$n$に対し, 定数でない多項式$a, b, c \in K[x]$
\begin{equation} a^{n} + b^{n} = c^{n} \end{equation}
を満たすものは存在しない.

フェルマーの最終定理によく似ていますね. まずは, 多項式版Fermat予想を証明するのに必要な2つの道具である, "次数"と"微分"について説明します.

次数と微分

次数

$f \in K[x], f(x) = \sum\limits_{i = 0}^{n} a_{i} x^{i} \neq 0$とします. ただし, $K$は体とします. $f$の係数$a_{n}, a_{n - 1}, \dots, a_{0}$で, 最初に$0$でないものの添数を$f$次数とよび, $\deg{f}$と書きます. また, $f = 0$のときは$\deg{f} = -\infty$とすることが多いです.

次数に関して, 次の関係が成り立ちます.

\begin{align} \deg{f g} &= \deg{f} + \deg{g} \text{,}\\ \deg{(f \pm g)} &\le \max\{\deg{f}, \deg{g}\}\text{.} \end{align}

また, $g$$f$を割り切るとき, すなわち多項式$h \in K[x]$が存在して$f = g h$となるとき, $\deg{g} \le \deg{f}$, $\deg{h} \le \deg{f}$です.

微分

$f \in K[x], f(x) = \sum\limits_{i = 0}^{n} a_{i} x^{i}, a_{n} \neq 0$とします. ただし, $K$は体です. このとき, 写像$D \colon K[x] \to K[x]$で,
\begin{equation} D(f) = \sum_{i = 1}^{n} i a_{i} x^{i - 1} \end{equation}
となるものが定義できます. これを微分とよび, $D(f(x))$を通常$f'(x)$と表します. これは, 高校で習った微分の公式$(x^{n})' = n x^{n - 1}$と同じですね.

$K$が標数$0$のとき,
\begin{equation} \deg{f'} = \deg{f} - 1 \end{equation}
です. しかし, $K$の標数が$p > 0$のときは, $(x^{p})' = p x^{p - 1} = 0$となってしまうため, $\deg{f'} \le \deg{f} - 1$となります.

証明

それでは, 上で説明したことを使って, 多項式版Fermat予想を証明したいと思います.

定理が正しくないとし, ある$n \ge 3$に対して$a^{n} + b^{n} = c^{n}$となる$a, b, c \in K[x]$が存在するとする. $a, b, c$がある共通素因子$p$をもつとすると, $a_1 = a / p, b_1 = b / p, c_1 = c / p$とすれば$a_1^n + b_1^n = c_1^n$が成り立つので, $a, b, c$は互いに素であるとしてよい. $a^{n} + b^{n} = c^{n}$の両辺を微分して$n a^{n - 1} a' + n b^{n - 1} b' = n c^{n - 1} c'$, よって
\begin{equation} (a^{n} + b^{n}) c' = c^{n} c' = c (a^{n - 1} a' + b^{n - 1} b') \text{,} \end{equation}
これを整理して$a^{n - 1} (a' c - a c') = b^{n - 1} (b' c - b c')$. ここで, $a' c - a c' \neq 0$である. 実際, $a' c = a c'$とすると, $a$$c$は互いに素だから$a$$a'$を, $c$$c'$を割り切るが, $a, c$が定数であることになってしまい, 矛盾である. 同様に$b' c - b c' \neq 0$. 仮定より$a$$b$は互いに素だから$a$$b' c - b c'$を割り切り, 次数を比較して
\begin{equation} \deg{a^{n - 1}} = (n - 1) \deg{a} \le \deg(b' c - b c') \le \max\{\deg{b' c}, \deg{b c'}\} = \deg{b} + \deg{c} - 1 \text{.} \end{equation}
同様に$(n - 1) \deg{b} \le \deg{c} + \deg{a} - 1, (n - 1) \deg{c} \le \deg{a} + \deg{b} - 1$である. $d \coloneqq \deg{a} + \deg{b} + \deg{c} > 0$であり, 辺々足し合わせて
\begin{equation} (n - 1) d \le 2 d - 3\text{,} \quad (n - 3) d \le - 3 < 0 \text{.} \end{equation}
$n \ge 3, d > 0$から, これは矛盾である.

整数の場合と多項式の場合でこんなに難易度が違うわけ

フェルマーの最終定理の証明には3世紀もの時を要し, その証明のすべてを理解している人は, 世界でも数人であるといわれています. しかし, 多項式版Fermat予想は, このように簡単に証明できました. なぜでしょう? そのわけは, 多項式には"微分"と"次数"の概念があるからだそうです. 上の証明をみても, 多項式の微分と多項式の次数をたくさんつかっていることがわかります. しかし, 整数環$\mathbb{Z}$には多項式における"微分", "次数"の概念がありません. このことが, 証明の難しさにつながっているようです.

参考文献

投稿日:120
更新日:124

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