有限群の同型類の数え上げは非常に難しい問題だが、無限濃度でのそれは例によって簡単になる。無限基数$\kappa$を位数に持つ群の同型類は$2^\kappa$あることを示す。
上からの評価は簡単である。
位数$\kappa$の群の同型類は高々$2^\kappa$個しかない。
群$G$の元を$\kappa$で番号付けする、$G=\set{g_i}{i<\kappa}$とする。$G$の群構造は「各$(i,j,k)\in\kappa^3$に対して$g_i\times g_j=g_k$かどうか」という情報だけで決まるから、高々$2^{\kappa^3}=2^\kappa$しかない。
有限体係数の上三角行列がなす群は冪零群の典型例だが、行列のサイズは中心列の長さに現れる。これの長さを順序数に広げる(サイズが順序数の上三角行列を考える)。そのような群の幾つかの直和を取る($\kappa$個ある群を入れるか入れないか選択肢が$2^\kappa$通り)と、これらは中心列を取ることで同型かどうかが見分けられる。
群$G$に対してその部分群を次のように再帰的に定める:
$$G_0:=G,\quad G_{\alpha+1}:=[G,G_\alpha],\quad G_\alpha:=\bigcap_{\beta<\alpha}G_\beta,\ \text{if }\alpha\text{:limit}$$
任意の後続順序数$\alpha$に対し、群$G$が存在して次を満たす:
$$G_\alpha=1,\quad\forall\beta<\alpha\ G_\beta\supset Z(G)\neq1$$
更に、$\abs{\alpha}=\infty$のときは$\abs{G}\leq\abs{\alpha}$となる。$\alpha$が有限のときは$G$も有限にとれる。
この定理の証明は後回しにし、先に元の問題を説明する。
位数$\kappa$の群の同型類の濃度は$2^\kappa$である。
前の補題と合わせると、互いに非同型な位数$\kappa$の群を$2^\kappa$個作ればいい。上の定理により存在する群を$G(\alpha)$と書き、$I\subset\kappa\cap\{\text{後続順序数}\}$に対し$G(I):=\oplus_{\alpha\in I}G(\alpha)$の降中心列の情報から$I$が復元されることを見る。特に異なる$I$に対してこれらの群は非同型である。
$$Z(G(I))=\oplus_\alpha Z(G(\alpha)),\qquad G(I)_\lambda=\oplus_\alpha G(\alpha)_\lambda$$
より、$G(I)_\lambda\cap Z(G(I))=\oplus_{\alpha\in I,\alpha>\lambda}$となる。特に、$\lambda\in I$と$G(I)_{\lambda-1}\cap Z(G(I))\neq G(I)_{\lambda}\cap Z(G(I))$と同値。これで$I$が復元できた。
$K=\mathbb{F}_2$とする。
$$\UT(\alpha):=\{\alpha\times\alpha\text{の上三角行列であって対角成分が全て$1$、非対角成分は有限個除き$0$なるもの全体}\}$$
生きている成分が有限個だけだから演算が有限回で終わり、行列積により群となる。ちゃんと確認したければ、$K^{\oplus\kappa}$への忠実な作用が定まることを確認すればいい。
$\UT(\alpha)$は基本行列$\{E_{ij}\}_{i< j<\alpha}$により生成される。基本行列とは、非対角成分が$(i,j)$成分を除いて0(その他は全て1)となる上三角行列のことである。
基本変形を繰り返せばいい。$g\in\UT(\alpha)\neq1$に対し、非ゼロな非対角成分$(i,j)$を取る。そういうものの中で添え字$j$が最大なものを取り、$g$に左から$E_{ij}$を掛ける。この操作とは$j$列目を$i$列目に足す操作だが、$j$列目は最大性から$j$番目以外0なので、丁度$(i,j)$成分だけに変化する。この操作は有限回で停止し、$g=1$となる。
$$\UT(\alpha)_\beta=\{i< j\leq i+\beta\text{の成分が全て0なもの全体}\}$$
$$H_\beta:=\{i< j\leq i+\beta\text{の成分が全て0なもの全体}\}$$
という部分群を考える。これが正規部分群であることを見る、上の補題から$E_{ij}$による共役で閉じていればいいから簡単な計算により分かる。$H_\beta=\UT(\alpha)_\beta$を示すためには、$\UT(\alpha)_\beta$の再帰的定義を$H_\beta$が満たすことを確認すればいい。非自明なのは$H_{\beta+1}=[G,H_\beta]$だけである。上の補題の証明から$H_\beta$は$\{E_{ij}\}_{j>i+\beta}$により生成されることが分かるので、$G,H_\beta$の生成元の交換子が$H_{\beta+1}$に入ることを示せばいい(ここで$H_\beta,H_{\beta+1}$が正規であることを使った)。$[E_{ij},E_{jk}]=E_{ik},\text{他の交換子}=0$から分かる。
後続順序数$\alpha$に対して$Z(\UT(\alpha))=\{1,E_{0,\alpha-1}\}$
有限次元でこれを示せと言われたら、行列書いて条件からどこがゼロになって……と考える。同じことをすればいい。
以上をまとめると定理の証明になっている。