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2^√2を有理数列で定義する

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はじめに

今回は$2^{\sqrt{2}}$を定義してみます
ここで、有理数$p$に対して$2^p$が定義されている(単調性、指数法則等)事を前提としておきます。また、ℝの完備性等の解析学の基礎知識を前提にしています。

$2^{\sqrt2}$の定義

$2^{\sqrt{2}}$を次のように定義する。
任意の$\sqrt{2}$に収束する$\lbrace p_n \rbrace_{n=1}^{\infty}$を取る。この時、$$ \lim_{n \to \infty}2^{p_n}:=2^{\sqrt{2}} $$
と定義する。

well-definedか

ここで、well-definedかを確かめて行きましょう。
有理数列を任意に選んだ時に極限が実数内に存在し、それが一意的かを確かめればOKです。

補題1

まずは次の補題を示します。

任意の正実数$\epsilon$に対してある正有理数$p \in \mathbb{Q}$が存在して
$$ 2^p<1+\epsilon $$
が成り立つ

証明
正実数$\epsilon$を任意に取る
この時、実数のアルキメデス性から$n\epsilon >1$となるような正整数$n$を取れる
すると、$2<1+n\epsilon$である。
また、
$$ 1+n\epsilon\leq\sum_{i=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_i {\epsilon}^i =(1+\epsilon)^n $$
より、
$$ 2<1+n\epsilon\leq (1+\epsilon)^n $$
とり、正実数$x$に対して$x^{1/n}$は狭義単調増加なので、
$$ 2^{\frac{1}{n}}<1+\epsilon $$
となる。
$n$は正整数なので、$1/n$は正有理数。(終)

補題2

同様に次の補題を示します

補題名(任意)

任意の正実数$\epsilon$に対して、ある負有理数$p$が存在して、
$$1-\epsilon<2^p$$
が成り立つ

正実数$\epsilon$を任意に取る
$\epsilon\geq 1$なら、どんな負有理数$p$を取っても成り立つので自明である。
よって、$\epsilon<1$の時を考える
$0<1-\epsilon$であり、$\epsilon>0$であるから、$-\epsilon<0$
よって、$0<1-\epsilon<1$となる。
これより、
$$\frac{1}{1-\epsilon}>1$$
となる。
これより、ある正実数$\delta$を取れば、
$$1+\delta=\frac{1}{1-\epsilon}$$
と出来る。
ここで、補題1より、ある正有理数$p$が存在して$2^p<1+\delta$
よって、
$$2^p<\frac{1}{1-\epsilon}$$
となるから、
$$1-\epsilon<2^{-p}$$
$p$は正有理数であるから、$-p$は負有理数(終)

一意性

次に、$\sqrt{2}$に収束する有理数列$\lbrace a_n\rbrace_{n=1}^\infty,\lbrace b_n\rbrace_{n=1}^\infty$に対して、
$\lim_{n \to \infty}2^{a_n}-2^{b_n}=0$を示そう。

数列$\lbrace c_n \rbrace_{n=1}^\infty,\lbrace d_n\rbrace_{n=1}^\infty$を次のように定める。
$c_n=\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_n(\mathrm{if} a_n\geq b_n)\\ b_n(\mathrm{if} b_n>a_n) \end{array} \right. \end{eqnarray}$
$d_n=\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} b_n(\mathrm{if}a_n\geq b_n) \\ a_n(\mathrm{if}b_n>a_n) \end{array} \right. \end{eqnarray}$
すると、$n=1,2,3,...$に対して明らかに
$$ d_n\leq a_n\leq c_n $$ $$ d_n\leq b_n\leq c_n $$
が成り立つ。
特に、$c_n-d_n\geq 0$が成り立つ
ここで、
$$ \lim_{n \to \infty}c_n=\sqrt{2}$$ $$ \lim_{n \to \infty}d_n=\sqrt{2} $$
を示す。
正実数$\epsilon$を任意にとる。
すると、ある正整数$ N_1,N_2$が存在して$n\geq N_1$ならば、$|a_n-\sqrt{2}|<\epsilon$
また、$n\geq N_2$ならば、$|b_n-\sqrt{2}|<\epsilon$
よって、$N_0=\mathrm{max}\lbrace N_1,N_2\rbrace$と置くと、$n\geq N_0$ならば、$n\geq N_1,n\geq N_2$より、$|a_n-\sqrt{2}|<\epsilon$かつ、$|b_n-\sqrt{2}|<\epsilon$
よって、$|c_n-\sqrt{2}|<\epsilon$かつ、$|d_n-\sqrt{2}|<\epsilon$が成り立つ
よってわかる。
ここで、
$$ \lim_{n\to\infty}2^{c_n}-2^{d_n}=0 $$
を示す。
ここで、収束列は有界なので、ある正有理数$p$が存在して全ての$n=1,2,3,...$に対して$d_n\leq p$となる。
ここで、正実数$\epsilon$を任意に取る。
ここで、$\frac{\epsilon}{2^p}>0$より、補題1より、ある正有理数$q$が存在して、$2^{2q}-1<\frac{\epsilon}{2^p}$が成り立つ。
また、
$$\lim_{n\to\infty}c_n=\sqrt{2} $$
かつ、
$$\lim_{n\to\infty}d_n=\sqrt{2}$$
より、ある正整数$ N$が存在して、$n\geq N$なら$|c_n-\sqrt2|< q$かつ、$|d_n-\sqrt2|< q$が成り立つ。
よって、$c_n< q+\sqrt2$かつ、$-d_n<-\sqrt2+q$が成り立つ。
これより、
$$0\leq c_n-d_n<2q$$
が成り立つ。
よって、$2^a(a\in\mathbb{Q})$の単調性から、
$$1\leq 2^{c_n-d_n}<2q$$
が成り立つ。
これより、$n\geq N$ならば、
$$|2^{c_n}-2^{d_n}|$$
$$=2^{d_n}|2^{c_n-d_n}-1|$$
$$\leq 2^p(2^{c_n-d_n}-1)$$
$$<2^p(2^{2q}-1)$$
$$<2^p\cdot \frac{\epsilon}{2^p}$$
$$<\epsilon$$
となり、わかる。
これより、
$$\lim_{n\to\infty}2^{d_n}-2^{c_n}=0$$も明らか
ここで、
$$-c_n\leq-b_n\leq-d_n$$
かつ
$$d_n\leq a_n\leq c_n$$
より、
$$d_n-c_n\leq a_n-b_n\leq c_n-d_n$$
よって、$2^a(a\in\mathbb{Q})$の単調増加性から、
$$2^{d_n-c_n}\leq 2^{a_n-b_n}\leq 2^{c_n-d_n}$$となるから
$$2^{d_n-c_n}-1\leq 2^{a_n-b_n}-1\leq 2^{c_n-d_n}-1$$
$$2^{b_n}(2^{d_n-c_n}-1) \leq 2^{a_n}-2^{b_n}\leq 2^{b_n}(2^{c_n-d_n}-1)$$
となる。
ここで、収束列は有界なので、ある有理数pが存在して、全ての$n=1,2,3,...$に対して$b_n\leq p$が成り立つ。
よって、
$$2^p(2^{d_n-c_n}-1)\leq 2^{b_n}(2^{d_n-c_n}-1)\leq 2^{a_n}-2^{b_n}\leq 2^{b_n}(2^{c_n-d_n}-1)\leq 2^p(2^{c_n-d_n}-1)$$
が成り立つ。
ここで、
$$\lim_{n\to\infty}2^{c_n-d_n}-1=0$$
を示す
まず、収束列は有界なので、ある有理数$q$が存在して、全ての$n=1,2,3,...$に対して
$q\leq d_n$が成り立つ。
ここで、正実数$\epsilon$を任意にとる。
すると、
$$\lim_{n\to\infty}2^{c_n}-2^{d_n}$$より、
ある正整数$ N$が存在して、$n\geq N$ならば、$|2^{c_n}-2^{d_n}|<2^q\epsilon$
が成り立つ。
よって、
$$2^q|2^{c_n-d_n}-1|\leq 2^{d_n}|2^{c_n-d_n}-1|<|2^{c_n}-2^{d_n}|<2^q\epsilon$$
となるから、
$$|2^{c_n-d_n}-1|<\epsilon$$
となり、わかる。
同様に、$\lim_{n\to\infty}2^{d_n-c_n}-1=0$も、
$ \lim_{n\to\infty}2^{d_n}-2^{c_n}=0 $と数列$\lbrace c_n\rbrace$の有界性から明らかである。
よって、
$$2^p(2^{d_n-c_n}-1)\leq 2^{a_n}-2^{b_n}\leq 2^p(2^{c_n-d_n}-1)$$
であるから、はさみうちの原理により、
$$\lim_{n\to\infty}2^{a_n}-2^{b_n}=0$$
を得る(終)

存在性

次に、$\sqrt2$に収束する任意の有理数列$\lbrace p_n\rbrace_{n=1}^{\infty}$に対して、$\lbrace 2^{p_n}\rbrace_{n=1}^\infty$が収束列であることを示す。
これは数列$\lbrace 2^{p_n}\rbrace_{n=1}^\infty$がコーシー列であることを示せば良い。

$\sqrt2$に収束する任意の有理数列$\lbrace p_n\rbrace_{n=1}^{\infty}$を取る。
収束列は有界なので、ある正の有理数$c$が存在して、全ての$n=1,2,3,...$に対して$p_n\leq c$が成り立つ。
ここで、任意の正実数\epsilonを取る。すると、補題1、補題2より、ある正の有理数pと負の有理数qがそれぞれ存在して、
$$2^p<1+\frac\epsilon{2^c}$$
$$1-\frac\epsilon{2^c}<2^q$$
が成り立つ。
ここで、正有理数$p_0$$p_0=\mathrm{min}(p,-q)$
と定めると、
明らかに$p_0\leq p,-p_0\geq q$が成り立つ。
ここで、収束列はコーシー列なので、ある正整数$ N$が存在して、$n,m\geq N$ならば、
$$|p_n-p_m|< p_0$$である
よって、
$$ -p_0< p_n-p_m< p_0 $$
であるから、
$$ q\leq-p_0< p_n-p_m< p_0\leq p $$
ここで、$2^p(p\in\mathbb{Q})$は単調増加なので、
$$ 2^q<2^{p_n-p_m}<2^p $$
これより、
$$ 1-\frac\epsilon{2^c}<2^q<2^{p_n-p_m}<2^p<1+\frac\epsilon{2^c} $$
となるから、
$$2^c|2^{p_n-p_m}-1|<\epsilon$$
であり、$c$の定義から、
$$ |2^{p_n}-2^{p_m}|=2^{p_m}|2^{p_n-p_m}-1|\leq2^c|2^{p_n-p_m}-1|<\epsilon $$
を得る
よって、$\lbrace p_n\rbrace_{n=1}^\infty$はコーシー列であり、$\mathbb{R}$は完備なので、収束列である。(終)

これで、任意の$\sqrt2$に収束する有理数列に対して$2$の冪の極限が存在する事が分かった。
そこで、それらが全て同じ値を示す事だが、これは1つ前の証明で真であると結論を与えた。
よって、この定義はwell-definedであることが確かめられた。

終わりに

これは余談ですが、Twitterで話題になっていたので久々に記事を書いてみました。
本当はもっと進んで$2^x(x\in\mathbb{R})$の定義や、その指数法則、連続性も議論したかったのですが、流石に記事が長いかなと思って辞めました

投稿日:16日前
更新日:16日前
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