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正規部分群のいちばんかわいいところ(正規部分群~準同型定理のお気持ち)

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A「先輩、『群論廻戦』見てます?」

B「スマン、途中まで見たけどアレはちょっときちぃ。あの「正規部分群」とかいうキャラがさ、登場してすぐ主役みたいな空気出してるのがちょっと…」

A「うわ!!!わかります!!!あの「左剰余類と右剰余類が一致します(ドヤァ)」っていうシーンですよね!設定が細かすぎて、身内こそ「剰余群が作れるのは彼のおかげ!」って神格化してるけど、外から見たら何が起きてるか一切わからない(笑)」

B「そうなんだよ~!なんかガロア理論?とかいう「伝説の神回」まで行けば見せ場があるって言うじゃん?でもさぁ~!そこまでに「環論事変編」「加群回游編」を超えなきゃいけないし。そこまで脱落せずに付き合えるのって熱狂的な信者だけだから。」

A「本当よくないですよね。このままだと「昔は覇権コンテンツだった」って語り継がれるだけになっちゃう。新規が「正規さんマジ主役!」てなってSNSでバズらせるような華やかさが、今の正規部分群には足りないですよねぇ…」

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これは由々しき事態です。なんとかしなければならない。正規部分群のいちばんかわいいところを皆にわかってほしい。そうすればきっと武道館にだって立てるはず。
そんな思いをもって書きました。

注意

剰余類や正規部分群の定義は記事内でも与えますが、群の定義などはフォローしていません。
正規部分群の定義は知っているけれど、結局何だったのか分からない、くらいの人にピッタリです。

剰余類のイメージ

正規部分群さんを紹介する前に、剰余類ちゃんについて理解しなくてはなりません。彼は一体何がしたかったのか、具体例を基に考えてみましょう。
剰余群の定義は以下です。

左剰余類

$G$を群、$H$$G$の部分群とする。$G$上の同値関係を以下で定める:
$g \sim g' \Leftrightarrow {}^\exists h \in H [g=g'h]$
この同値関係による商集合$G/\sim$$G/H$とかき,$G/H$の元を$G$$H$による左剰余類という。

複雑な定義ですが、ちゃんと読み解いていきましょう!
商集合は硬い言葉では「同値関係による同値類の全体」と表現されますが、簡単に言うと「もとの集合のなかで同値な元は同一視する集合」です。
剰余類も商集合の一種ですから、同値関係によって$G$の元を同一視しているはずです。
その同値関係が以下でした:

$^\exists h \in H [g=g'h] $

これを日本語に直すと「$H$の元を右から掛けて同じになるものは同値」です。
つまるところ$G/H$とは「$G$の元のうち、$H$の元を右からかけて同じになるものは区別しない」集合と考えることができます。
このあたりは、飲み込めるまで口に出して読んでみるとよいと思います。

$G/H$は「$G$の元のうち、$H$の元を右からかけて同じになるものは区別しない」集合

覚えましたか?
この定義から分かるように、$G/H$の元はすべて$gH$のような形をしています。
これで剰余類の正体がわかりましたね!
万事解決!スタバでも行って帰りましょう!

困った

さて、剰余類は群を潰したものなので、群の構造を保っていほしかったのですが、ここで残念なことが起こります。
一般には剰余類は群ではないのです。

剰余群のモチベーションのひとつに「もとの群だと大きすぎるのである程度同一視して(潰して)調べたい」というものがあります。ですから、
「群を潰したらなんとびっくり群じゃありませんでした(笑)調べられませんね(笑)ドッキリ大成功^^v」
なんてやろうもんなら、数学者は怒ってそいつの臓器に演算を入れるに違いありません。

少しズルいですが、他の例で言い換えるとわかりやすいかもしれません。
「位相空間を潰したら位相空間じゃなかった」
「線形空間を潰したら線形空間じゃなかった」
「夢だけど夢じゃなかった」
…あまり嬉しくないイメージが湧きますでしょうか。

「ヤツ」が来る

さて、「もとの群を潰して(小さくして)調べたい」というモチベーションに則り、剰余類を群にしてみましょう。
群には演算が必要ですね。どのような演算を入れたらよいでしょうか。

「もとの群を潰して調べたい」と言っているので、剰余類になったとたん摩訶不思議な動き(演算)をされたら困ります。ある程度もとの群に近い動きをしてほしい。つまり演算はもとの群のものを引き継いでほしいわけです。
したがって、演算は以下のように入れます:

剰余類の演算

$gH,g'H \in G/H$に対し、演算を以下で定める:
$gH \cdot g'H =gg'H$

補足
準同型が分かる人であれば、この演算は「写像$\pi:G \to G/H ; g \mapsto gH$が準同型になるような演算」ということもできます。この$\pi$自然な準同型というやつで、任意の元を自分の同値類に送るような写像、つまり「潰す写像」ですね。

$G/H$$G$を潰した群とみて調べるなら、$\pi$が準同型になってほしいのは納得です。「演算してから潰したのと、潰してから演算したので結果が違う」というのでは、もとの群の構造を保って潰したとは言えないですよね。

これで綺麗に演算が入って万事解決狂喜乱舞…とはなりません!まだ踊るのは早いです。
この演算は剰余類に入っているものなので、well-defined性をチェックしなくてはなりませんね。

well-defined性に関する補足

群論の文脈で、剰余類が絡む写像には注意が必要です。
今回我々は$gH \cdot g'H = gg'H$と定めました。
$gH,g'H$は同値類なので、もし$g \sim k,g' \sim k'$ならば、$G/H$のなかで$gH=kH,g'H=k'H$です。
ここで、もし$gH \cdot g'H \neq kH \cdot k'H$だと「同じ元を演算したのに結果が異なる」という事態になってしまいます。
たとえるなら「$1+1=2$だったが$\frac{1}{1}+\frac{1}{1}=3$だった」というようなもので、まともに演算が定義できていない状態です。

このような事態を避けるために、以下が成り立つ必要があります:
$gH=kH,g'H=k'H$ ならば $gH \cdot g'H=kH \cdot k'H$

いま$gH=kH,g'H=k'H$を仮定します。
このとき$g \sim k,g' \sim k'$ですから、同値関係を思い出すと以下が成り立ちます:

$^\exists h,h' \in H [g=kh,g'=k'h']$

これを用いて式変形すると、
$gH \cdot g'H=gg'H=khk'h'H$
であることが分かります。

$G/H$は「右から$H$の元をかけて同じになるものは区別しない」ルールだったので、$khk'h \sim khk'$、つまり$khk'h'H=khk'H$ですね。
したがって
$gH \cdot g'H = khk'H$
が従います。

最後には(右辺)=$kk'H$となってほしいので、無理やり$kk'$を作り出しておきます。

$gH \cdot g'H = (kk')(k'^{-1}hk')H$

さて、右辺が$kk'H$に一致するためにはどうしたらよいでしょうか?
それはつまり$(kk')(k'^{-1}hk') \sim kk'$ということですから、定義より$k'^{-1}hk' \in H $が必要十分です。
これが任意の$k \in G,h \in H$について成り立たなくてはならないので、記号を直すと、この演算がwell-definedになる条件は以下になります:

${}^\forall g \in G,{}^\forall h \in H [g^{-1}hg \in H]$

これは、正規部分群の定義そのものですね!

正規部分群のいちばんかわいいところ

正規部分群

$G$を群、$H$$G$の部分群とする.
以下が成り立つとき,$H$$G$正規部分群であるという:
${}^\forall g \in G,{}^\forall h \in H [g^{-1}hg \in H]$

補足として、正規部分群の定義と以下は同値です:
$^\forall g \in G [g^{-1}Hg \subset H]$
$^\forall g \in G [g^{-1}Hg = H]$
$^\forall g \in G [gH=Hg]$
ここで$Hg$右剰余類といい、$H \backslash G $の元です。
$H \backslash G$$G/H$の構成における同値関係の、$g$$h$の位置を逆にすることで得られる商集合です。

そしてここまでの考察から、以下の命題を得ます:

剰余群の演算

剰余群$G/H$に演算$gH \cdot g'H = gg'H$を定めるとき、これがwell-definedであることと$H$が正規部分群であることは同値。

さて、ここまでの流れで分かる通り、正規部分群の定義は剰余類に演算を定める過程で自然と出てくるものなので、決してポッと出主人公気取り初見バイバイキャラクターなんかではありません。
しっかり今後の重要キャラなわけですね。

準同型定理まで

予定では上の内容で終わりだったのですが、消化不良というか、内容的にもう少しいけそうだったので準同型定理まで突っ走ってみましょう。
必要な道具を揃えます。

準同型写像

$G,G'$を群、$f:G \to G'$とする.
$f$$[^\forall g,g'\in G[f(gg')=f(g)f(g')]]$を満たすとき、$f$$G$から$G'$への準同型写像という。

全単射な準同型写像を同型写像という。

同型写像が存在する群どうしを同型であるといい、同型な群を$G \simeq G'$のように表す。

核と像

$f:G \to G'$を準同型写像、$e' \in G'$を単位元とする。

$\ker f = \{g \in G \; | \; f(g)=e' \}$
と定め、これを$f$という。

$\mathrm{im} f = \{f(g) \in G' \; | \; g \in G \} $
と定め、これを$f$という。

同型な群は同じ構造の群だと思ってよいです。
それはなぜなのか、という問いはそれはそれで深淵を覗くことになるのでここでは触れません。「同型写像を通して同じ振る舞いをするから」程度で大丈夫です。

そして、準同型写像の核と像に関して、以下の嬉しい性質が成り立ちます。

準同型写像の核と像

$f:G \to G'$を準同型写像とすると、
$\ker f $$G$の正規部分群、$\mathrm{im} f$$G'$の部分群である。

ここでは証明は割愛します。

皆さん、正規部分群を見つけましたね!正規部分群を見つけた時に思うことはただ一つ、「割りたい」です!

「正規部分群を見つけたら剰余群を作りたい」という気持ちはずっと持っておくとよいです。

先ほどまでに述べたように、正規部分群は剰余群を作るために生を受けた存在です。せっかく正規部分群があるのに割らないようではかわいそうです。
そこで、始域の群$G$$\ker f$で割ってみよう、というのが準同型定理です。

準同型定理

$G,G'$、準同型写像$f:G \to G'$に対し、$G / \ker f \simeq \mathrm{im} f$が成り立つ。

ふつう準同型定理は「~な同型写像が存在する」の形で表記されますが、はじめのうちは専ら上の事実を用いるため、モチベーションが分かりやすい形を採用しています。

準同型定理の証明はここではしませんが、当たり前だと納得して終わることにしましょう。

この記事の序盤で述べたように、$G/H$とは「$H$の元を右からかけて同じになるものは区別しない」ような集合でした。
つまり$G/\ker f$$\ker f$の元を右からかけて同じになるものは区別しない」ような集合です。

$\ker f$は正規部分群ですから、同値条件「$gH=Hg」$より、左右の区別は必要ありません。

つまり$G/\ker f$は「$\ker f$の元をかけて同じになるものは区別しない」ような集合です。
記号を使って書くと$f(a)=e'$なら、任意の$g\in G$に対し$g$$ga$は区別しない」という意味になります。

一方、$\mathrm{im}f$の世界で$g$$ga$がどのような関係か考えてみると、
$f(ga)=f(g)f(a)=f(g)e'=f(g)$
つまり$\mathrm{im}f$のなかで$f(ga)=f(g)$であることがわかります。

これらを踏まえて準同型定理の主張は以下のようなものです:

$f$で送って同じになるものを送る前から区別しなければ、同型な群が得られる

…これって当たり前のことじゃないですか?
準同型定理の主張って(ある意味)当たり前なんだな、と思ってもらえていれば嬉しいです。
当たり前だから不要な定理かというとまったくもってそんなことはない最強定理なわけですが…

そのあたりとか、環論事変編、加群回游は気が向いたら書くことにします。
読んでいただきありがとうございました!

投稿日:18日前
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投稿者

数理科 B2 / 整数論(解析数論・数論幾何の双方)に興味があります / 詳しい興味:p進解析、Ergodic理論、Anabelian幾何 / 数学のほか、自然言語文法と、うんたねこの生態に関心があります

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