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大学数学基礎解説
文献あり

最大公約元と最小公倍元をイデアルの言葉で書く

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0. はじめに

整域の最大公約元と最小公倍元を, イデアルの言葉で書くだけの記事です.

1. Notations

  1. この記事では$A$は可換な整域のこととする.
  2. $\mathbb Z$は整数環とする.

2. 定義と言い換え

約元, 倍元
  1. $a,b\in A, a\ne 0$とする. このとき$b=ac$となるような$c\in A$が存在するとき, $b$$a$倍元(倍数), $a$$b$約元(約数, 因子)という. また, このとき$a|b$とかく.

$a,b\in A, a\ne 0$のとき,
\begin{gather} a|b\Leftrightarrow (a)\supset (b). \end{gather}

  1. ($\Rightarrow$について) 仮定より$b=ac$となる$c\in A$が存在する. よって$b\in (a)$なので$(b)\subset (a)$.
  2. ($\Leftarrow$について) $b\in (b)\subset (a)$であるから$b=ac$となる$c\in A$が存在するので$a|b$.
公約元, 公倍元
  1. $a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとする. $b\in A$$a_1,\dots,a_n$の約元のとき, $b$$a_1,\dots,a_n$公約元(公約数)という. $b\in A$$a_1,\dots,a_n$の公約元で, $c\in A$$a_1,\dots,a_n$の任意の公約元としたときに$c$$b$の約元なら, $b$$a_1,\dots,a_n$最大公約元(最大公約数)といい, $\text{GCD}(a_1,\dots,a_n):=(b)$とかく.
  2. $a_1,\dots,a_n\in A\backslash \{0\}$とする. $b\in A$$a_1,\dots,a_n$の倍元のとき, $b$$a_1,\dots,a_n$公倍元(公倍数)という. $b\in A$$a_1,\dots,a_n$の公倍元で, $c\in A$$a_1,\dots,a_n$の任意の公倍元としたときに$c$$b$の倍元なら, $b$$a_1,\dots,a_n$最小公倍元(最小公倍数)といい, $\text{LCM}(a_1,\dots,a_n):=(b)$とかく.

$\text{GCD}(a_1,\dots,a_n), \text{LCM}(a_1,\dots,a_n)$は一般的にはイデアルではなく, 最大公約元, 最小公倍元自体で定義される. 今回イデアルで定義したのは, 最大公約元, 最小公倍元の単元倍の不定性を無視するためである(補題6,7を参照のこと).

$a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとし, $b\in A$とするとき,
\begin{gather} b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の公約元}\Leftrightarrow\sum_{i=1}^n(a_i)\subset(b). \end{gather}

  1. ($\Rightarrow$) 仮定より$a_1=bc_1,\dots,a_n=bc_n$となる$c_1,\dots c_n$が存在する. よって$d\in\sum_{i=1}^n(a_i)$に対して
    \begin{gather} d=\sum_{i=1}^nd'_i a_i=b\left(\sum_{i=1}^nd'_i c_i\right) \end{gather}
    となる$d'_1,\dots,d'_n\in A$が存在する. よって$d\in(b)$.
  2. ($\Leftarrow$) $a_1,\dots,a_n\in\sum_{i=1}^n(a_i)\subset(b)$なので$a_1=bc_1,\dots,a_n=bc_n$とわかり, $b$$a_1,\dots,a_n$の公約元とわかる.

$a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\},b\in A$とするとき,
\begin{gather} b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の公倍元}\Leftrightarrow\bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(b). \end{gather}

  1. ($\Rightarrow$) 仮定より$b=a_1c_1=\dots =a_nc_n$となる$c_1,\dots c_n$が存在する. よって$d\in(b)$に対して
    \begin{gather} d=d'b=(d'c_1)a_1=\dots=(d'c_n)a_n \end{gather}
    となる$d'\in A$が存在する. よって$d\in\bigcap_{i=1}^n(a_i)$.
  2. ($\Leftarrow$) $b\in(b)\in\bigcap_{i=1}^n(a_i)$なので$b=a_1c_1=\dots =a_nc_n$とわかり, $b$$a_1,\dots,a_n$の公倍元とわかる.

$a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとし, $b\in A$とするとき,
\begin{gather} b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の最大公約元}\Leftrightarrow(b)\text{は}\sum_{i=1}^n(a_i)\text{を含む単項イデアルの中で最小のもの}. \end{gather}

  1. ($\Rightarrow$) 命題2より
    \begin{gather} \sum_{i=1}^n(a_i)\subset(b) \end{gather}
    である. さらに,
    \begin{gather} \sum_{i=1}^n(a_i)\subset(c) \end{gather}
    が成り立つ$c\in A$$a_1,\dots,a_n$の公約元である. 仮定より, そのような任意の$c$に対して$c$$b$の約元であるから命題1より$(b)\subset(c)$. よって$(b)$$\sum_{i=1}^n(a_i)$を含む単項イデアルのうち最小のものである.
  2. ($\Leftarrow$) $(c)$$\sum_{i=1}^n(a_i)$を含む任意の単項イデアルとする(つまりこの$c\in A$$a_1,\dots,a_n$の公約元である). 仮定より$(b)\subset(c)$であるが, これは$c$$b$の約元であることを表す. $\sum_{i=1}^n(a_i)\subset(b)$に注意すると$b$$a_1,\dots,a_n$の最大公約元であることがわかる.

$a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\},b\in A$とするとき,
\begin{gather} b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の最小公倍元}\Leftrightarrow(b)\text{は}\bigcap_{i=1}^n(a_i)\text{に含まれる単項イデアルの中で最大のもの}. \end{gather}

  1. ($\Rightarrow$) 命題3より
    \begin{gather} \bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(b) \end{gather}
    である. さらに,
    \begin{gather} \bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(c) \end{gather}
    が成り立つ$c\in A$$a_1,\dots,a_n$の公倍元である. 仮定より, そのような任意の$c$に対して$c$$b$の倍元であるから命題1より$(b)\supset(c)$. よって$(b)$$\bigcap_{i=1}^n(a_i)$に含まれる単項イデアルのうち最大のものである.
  2. ($\Leftarrow$) $(c)$$\bigcap_{i=1}^n(a_i)$に含まれる任意の単項イデアルとする(つまりこの$c\in A$$a_1,\dots,a_n$の公倍元である). 仮定より$(b)\supset(c)$であるが, これは$c$$b$の倍元であることを表す. $\bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(b)$に注意すると$b$$a_1,\dots,a_n$の最小公倍元であることがわかる.

$a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとし, $b\in A$とするとき, $b,c$がどちらも$a_1,\dots,a_n$の最大公約元ならばある$u\in A^\times$が存在し, $b=uc$となる.

定理4により, $(b)$$(c)$
\begin{gather} \sum_{i=1}^n(a_i) \end{gather}
を含む最小の単項イデアルである. $(b)$$(c)$の最小性から$(b)\subset(c)$かつ$(b)\supset(c)$となるから$(b)=(c)$である. ここで, $\sum_{i=1}^n(a_i)$$0$イデアルではないので$b\ne0$である. $(b)=(c)$から$b=uc,c=vb$となる$u,v\in A$が存在し, この2式から$c$を消去することで$b(1-uv)=0$となり, $A$が整域であることから$uv=1$, つまり$u,v$は単元であることがわかる.

$a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\},b,c\in A$とするとき, $b,c$がどちらも$a_1,\dots,a_n$の最小公倍元ならばある$u\in A^\times$が存在し, $b=uc$となる.

定理5により, $(b)$$(c)$
\begin{gather} \bigcap_{i=1}^n(a_i) \end{gather}
に含まれる最大の単項イデアルである. $(b)$$(c)$の最大性から$(b)\subset(c)$かつ$(b)\supset(c)$となるから$(b)=(c)$である. ここで$(b)$の最大性から, $\bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(b)\supset(a_1\cdots a_n)\ne(0)$となるので$b\ne0$である. $(b)=(c)$から$b=uc,c=vb$となる$u,v\in A$が存在し, この2式から$c$を消去することで$b(1-uv)=0$となり, $A$が整域であることから$uv=1$, つまり$u,v$は単元であることがわかる.

3. 単項イデアル整域

$A$のイデアルがすべて単項イデアルのとき, $A$単項イデアル整域(PID)という.

$\mathbb Z$は単項イデアル整域である. 例えば
\begin{gather} (12,15)=(3) \end{gather}

$k$を体として, 多項式環$k[x]$は単項イデアル整域である.

$A$が単項イデアル整域なら,

  1. $a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとすると
    \begin{gather} \text{GCD}(a_1,\dots,a_n)=\sum_{i=1}^n(a_i). \end{gather}
  2. $a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\}$とすると
    \begin{gather} \text{LCM}(a_1,\dots,a_n)=\bigcap_{i=1}^n(a_i). \end{gather}
  1. $A$は単項イデアル整域なので, ある$d\in A$が存在して
    \begin{gather} \sum_{i=1}^n(a_i)=(d) \end{gather}
    が成立する. よって$(d)$$\sum_{i=1}^n(a_i)$を含む単項イデアルで最小のものなので, 定理4より$d$は最大公約元. よって主張が成立する.
  2. $A$は単項イデアル整域なので, ある$d\in A$が存在して
    \begin{gather} \bigcap_{i=1}^n(a_i)=(d) \end{gather}
    が成立する. よって$(d)$$\bigcap_{i=1}^n(a_i)$に含まれる単項イデアルで最大のものなので, 定理5より$d$は最小公倍元. よって主張が成立する.

4. 半順序を用いてGCD, LCMを理解

整域$A$の単項イデアル全体の半順序集合を$(\text{PI}(A),\subseteq)$とする. このとき

  1. $a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとき, 最大公約元が存在するなら
    \begin{gather} \text{GCD}(a_1,\dots,a_n)=\sup_{\text{PI}(A)}\{(a_1),\dots,(a_n)\}. \end{gather}
  2. $a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\}$のとき, 最小公倍元が存在するなら
    \begin{gather} \text{LCM}(a_1,\dots,a_n)=\inf_{\text{PI}(A)}\{(a_1),\dots,(a_n)\}. \end{gather}

定理4,5より明らか.

単項イデアル整域においては, $(\text{PI}(A),\subseteq)$は束を成すので必ず上限と下限が存在し, 結びはイデアルの和に, 交わりはイデアルの共通部分になる.

参考文献

[1]
雪江明彦, 代数学2 環と体とガロア理論, 日本評論社
投稿日:912
更新日:922
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投稿者

代数にかたよりがち

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