整域の最大公約元と最小公倍元を, イデアルの言葉で書くだけの記事です.
$a,b\in A, a\ne 0$のとき,
\begin{gather}
a|b\Leftrightarrow (a)\supset (b).
\end{gather}
$\text{GCD}(a_1,\dots,a_n), \text{LCM}(a_1,\dots,a_n)$は一般的にはイデアルではなく, 最大公約元, 最小公倍元自体で定義される. 今回イデアルで定義したのは, 最大公約元, 最小公倍元の単元倍の不定性を無視するためである(補題6,7を参照のこと).
$a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとし, $b\in A$とするとき,
\begin{gather}
b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の公約元}\Leftrightarrow\sum_{i=1}^n(a_i)\subset(b).
\end{gather}
$a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\},b\in A$とするとき,
\begin{gather}
b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の公倍元}\Leftrightarrow\bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(b).
\end{gather}
$a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとし, $b\in A$とするとき,
\begin{gather}
b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の最大公約元}\Leftrightarrow(b)\text{は}\sum_{i=1}^n(a_i)\text{を含む単項イデアルの中で最小のもの}.
\end{gather}
$a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\},b\in A$とするとき,
\begin{gather}
b\text{は}a_1,\dots,a_n\text{の最小公倍元}\Leftrightarrow(b)\text{は}\bigcap_{i=1}^n(a_i)\text{に含まれる単項イデアルの中で最大のもの}.
\end{gather}
$a_1,\dots,a_n\in A$はすべては$0$でないとし, $b\in A$とするとき, $b,c$がどちらも$a_1,\dots,a_n$の最大公約元ならばある$u\in A^\times$が存在し, $b=uc$となる.
定理4により, $(b)$と$(c)$は
\begin{gather}
\sum_{i=1}^n(a_i)
\end{gather}
を含む最小の単項イデアルである. $(b)$と$(c)$の最小性から$(b)\subset(c)$かつ$(b)\supset(c)$となるから$(b)=(c)$である. ここで, $\sum_{i=1}^n(a_i)$は$0$イデアルではないので$b\ne0$である. $(b)=(c)$から$b=uc,c=vb$となる$u,v\in A$が存在し, この2式から$c$を消去することで$b(1-uv)=0$となり, $A$が整域であることから$uv=1$, つまり$u,v$は単元であることがわかる.
$a_1,\dots,a_n\in A\backslash\{0\},b,c\in A$とするとき, $b,c$がどちらも$a_1,\dots,a_n$の最小公倍元ならばある$u\in A^\times$が存在し, $b=uc$となる.
定理5により, $(b)$と$(c)$は
\begin{gather}
\bigcap_{i=1}^n(a_i)
\end{gather}
に含まれる最大の単項イデアルである. $(b)$と$(c)$の最大性から$(b)\subset(c)$かつ$(b)\supset(c)$となるから$(b)=(c)$である. ここで$(b)$の最大性から, $\bigcap_{i=1}^n(a_i)\supset(b)\supset(a_1\cdots a_n)\ne(0)$となるので$b\ne0$である. $(b)=(c)$から$b=uc,c=vb$となる$u,v\in A$が存在し, この2式から$c$を消去することで$b(1-uv)=0$となり, $A$が整域であることから$uv=1$, つまり$u,v$は単元であることがわかる.
$A$のイデアルがすべて単項イデアルのとき, $A$を単項イデアル整域(PID)という.
$\mathbb Z$は単項イデアル整域である. 例えば
\begin{gather}
(12,15)=(3)
\end{gather}
$k$を体として, 多項式環$k[x]$は単項イデアル整域である.
$A$が単項イデアル整域なら,
整域$A$の単項イデアル全体の半順序集合を$(\text{PI}(A),\subseteq)$とする. このとき
定理4,5より明らか.
単項イデアル整域においては, $(\text{PI}(A),\subseteq)$は束を成すので必ず上限と下限が存在し, 結びはイデアルの和に, 交わりはイデアルの共通部分になる.