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大学数学基礎解説
文献あり

付値環と加法付値は同じものの2つの側面であるとみなせる

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$$\newcommand{Ast}[0]{\operatorname{Ast}} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{Max}[0]{\operatorname{Max}} \newcommand{Spec}[0]{\operatorname{Spec}} $$

以下環といえば, 単位元をもつ可換環とします.

付値環と加法付値

付値環

付値環

整域$R$付値環であるとは, その商体$K$の各元$x$について
$$ x \notin R \implies x^{-1} \in R $$
が成り立つことをいう. このとき$R$$K$の付値環ともいう.

$\mathbb{Z}$の素イデアル$2 \mathbb{Z}$による局所化$\mathbb{Z}_{2 \mathbb{Z}}$は付値環です. 実際, $\mathbb{Z}_{2 \mathbb{Z}}$の商体は有理数体$\mathbb{Q}$であり, 既約分数$a / b$$\mathbb{Z}_{2 \mathbb{Z}}$の元でないならば$b$は偶数ですから$a$は奇数, したがって$(a / b)^{-1} = b / a \in \mathbb{Z}_{2 \mathbb{Z}}$です.

付値環の$R$のイデアルの集合は全順序集合です. すなわち, 次が成り立ちます.

$I, J$が付値環$R$のイデアルならば$I \subseteq J$または$J \subseteq I$が成り立つ.

$x \in I, x \notin J$とすると, 任意の$0 \neq y \in J$について$x / y \in R$ではありえないから$y / x \in R$, したがって$y \in I$.

付値環は局所環である.

加法付値

全順序群

$G$$G$上の順序関係$\le$の組$(G, \le)$全順序群であるとは, $G$上の全順序$\le$であって, 任意の$x, y, z \in G$に対し$x \le y$ならば$x + z \le y + z$かつ$z + x \le z + y$が成り立つものが存在することをいう.

加法付値

$K$を体, $H$を全順序Abel群, $\infty$$H$のどの元よりも大きい定数とする, $K$から$H \cup \set{\infty}$への写像$v$が次の条件をすべてみたすとき, $vをK$加法付値という :
(1) $v(x y) = v(x) + v(y)$,
(2) $v(x + y) \ge \min\set{v(x), v(y)}$,
(3) $v(x) = \infty \iff x = 0$.

$K$の乗法群を$K^\times$とすると, 上の$v$$K^\times$から$H$への群準同型写像を定めます. この像を$v$値群といいます.

$K, v$を定義3と同様とする. $R_v = \set{x \in K \mid v(x) \ge 0}$とするとこれは付値環であり, その極大イデアルは$\mathfrak{m}_v = \set{x \in K \mid v(x) > 0}$である. $R_v$$v$の付値環, $\mathfrak{m}_v$の付値イデアルという.

$v(x) = -v(x^{-1})$であることに注意すれば容易にわかります.

付値環と加法付値の関係

付値環と加法付値の定義などを確認しました. 命題2から, この2つには関係がありそうです. 実際, 次が成り立ちます.

$R$を付値環, $K$をその商体とする. $H, H'$を値群とする$K$の2つの加法付値$v, v'$がともに$R$を付値環としてもてば, $H$から$H'$の上への順序を保つ同型写像$\varphi$があって$v' = \varphi \circ v$が成り立つ.

$v_\ast = v|_{K^\ast}, v_\ast' = v'|_{K^\ast}$とし, $N = \Ker{v_\ast}, N' = \Ker{v_\ast'}$とおく. $R$の極大イデアルを$\mathfrak{m}$とすると$R = \set{x \in K \mid v(x) \ge 0}, \mathfrak{m} = \set{x \in K \mid v(x) > 0}$だから$N = \mathrm{U}(R)$である. 同様に$N' = \mathrm{U}(R)$. したがって準同型定理により$H \simeq K^\times / N = K^\times / N' \simeq H'$であり, $K^\times / N \stackrel{\sim}{\to} H, K^\times / N' \stackrel{\sim}{\to} H'$はそれぞれ$a + N \mapsto v_\ast(a), a + N' \mapsto v_\ast'(a)$で与えられるから, $g \circ f^{-1}$$H$から$H'$への同型写像である. $\varphi = g \circ f^{-1}$とし, これが定理の条件をみたすことを示す. $v' = \varphi \circ v$であることは次の図式からわかる :
$$ \begin{xy} \xymatrix{ {} & K^\times / N \ar[rd]^f \ar@{=}[ld] & {}\\ K^\times / N' \ar[rd]^g & K^\times \ar[u] \ar[d]^{v_\ast'} \ar[l] \ar[r]^{v_\ast} \ar@{}[ld]|(.25)\circlearrowleft \ar@{}[ru]|(0.3)\circlearrowleft& H \ar[ld]^{\varphi = g \circ f^{-1}}\\ {} & H' & {} } \end{xy} $$
$\varphi$が順序を保つ, すなわち$x \le y \iff \varphi(x) \le \varphi(y)$が成り立つことを示すには$0 \le x \iff 0 \le \varphi(x)$が成り立つことを示せば十分である. $x \in H, x \ge 0$とする. このとき$v(a) = x$となる$a \in R$が存在し, $v'$$R$を付値環としてもつから$v'(a) = \ge 0$, よって$\varphi(x) = v'(a) \ge 0$である. 逆向きの矢印も同様にして示せる.

この定理と命題3を合わせると, 加法付値が定まると付値環が定まり, 逆に付値環が定まれば加法付値が (値群ど同型の差を除いて) 定まる, すなわち, 付値環と加法付値は同じものの2つの側面であるとみなせることがわかります.

参考文献

[1]
松村英之, 復刊 可換環論, 共立出版, 2000
投稿日:49
更新日:410

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