3
大学数学基礎解説
文献あり

代入写像や多項式環とは普遍性である!

195
1
$$\newcommand{cl}[0]{\colon} \newcommand{GF}[0]{\varPhi} \newcommand{Gf}[0]{\varphi} \newcommand{Hom}[0]{\text{Hom}} \newcommand{id}[0]{\text{id}} \newcommand{Nbb}[0]{\mathbb{N}} $$

って書くとインパクト強くてインプレッション数稼げていいってtiktokで見た気がする.まぁこうして記事を書くのも集合知への寄与と承認欲求を満たすためだけっていうのもあるしね,そういう意識は大事.

モノイド環の普遍性とついでに代入写像について.

 正式なタイトルは上に書いてある通りです.元ネタは参考文献の[1]に書いてありますが,あまりに読みにくいので自分の慣れ親しんだ形に書き直したものになります.前提知識は環とかmoduleとか準同型の定義くらい.途中で読めなくなったら最後にまとめが書いてあるので,そちらだけでも目を通してくださいな.あと二日くらいでぴゃって書いた記事なので,誤字脱字ミス等あったらすいません.

なっがーい準備

 この記事中では環と言えば可換です.ただ以降の議論は可換性を課してなくても成り立つ部分がほとんど(自分が分かっている限りだと3,4か所は可換性が必要)なので,環は可換でない人は可換でないと思ってもらって構わないです.その場合は$R$加群はすべて左$R$加群で置き換えて読んでください.

自由$R$加群の持つ普遍性

 $R$を環とし$X$を集合とする.写像$f\cl X\to R$であって有限個の$x_1,\ldots,x_n\in X$を除いて$f(x)=0$となるようなもの全体の集合を$R^{(X)}$と書き,これを$X$上の自由$R$加群と呼ぶ.

 有限個の$x_1,\ldots,x_n\in X$を除いて$f(x)=0$となるとは,$X\setminus f^{-1}(\{0\})$が有限集合となること.この集合に次で加法とスカラー倍を入れる:$f,g\in R^{(X)}$$r\in R$に対して,各点ごとに
\begin{align*} (f+g)(x)&=f(x)+g(x),\\ (r\cdot f)(x)&=rf(x) \end{align*}

で定義する.ここで$rf(x)$とは$R$の積である.区別のために今後は$\cdot$を明記する.

 $X$上の自由$R$加群$R^{(X)}$$R$加群の構造を持つ.

 定義を確かめればよい.任意の$f,g\in R^{(X)}$$r,s\in R$に対して
\begin{align*} (r\cdot (f+g))(x)&=r((f+g)(x))=r(f(x)+g(x))=rf(x)+rg(x)=(r\cdot f)(x)+(r\cdot g)(x)=(r\cdot f+r\cdot g)(x),\\ ((r+s)\cdot f)(x)&=(r+s)f(x)=rf(x)+sf(x)=(r\cdot f)(x)+(s\cdot f)(x)=(r\cdot f+s\cdot f)(x),\\ (r\cdot(s\cdot f))(x)&=r\left((s\cdot f)(x)\right)=r(sf(x))=(rs)f(x)=((rs)\cdot f)(x),\\ (1\cdot f)(x)&=1f(x)=f(x) \end{align*}
であるので,確かに$R$加群となる.

 各$x\in X$に対して,$e_x\in R^{(X)}$が次で定まる.
\begin{align*} e_x(y)=\begin{cases} 1 & (x=y),\\ 0 & (x\not=y) \end{cases} \end{align*}

 そうすると各$r\in R$に対して$r\cdot e_x\in R^{(X)}$を対応させることで,写像$\Gf_x\cl R\to R^{(X)}$が定義できる.これが$R$加群の準同型になっていることを確認しよう(当たり前だが$R$は自身の持つ積により$R$加群の構造を持つ).任意の$r,s,t\in R$に対して
\begin{align*} \Gf_x(r+s)&=(r+s)\cdot e_x=r\cdot e_x+s\cdot e_x=\Gf_x(r)+\Gf_x(s),\\ \Gf_x(tr)&=(tr)\cdot e_x=t\cdot (r\cdot e_x)=t\cdot \Gf_x(r) \end{align*}
ゆえ,確かに$R$加群の準同型になる.

 任意の$f\in R^{(X)}$について,次の等式が成り立つ.
\begin{align*} f=\sum_{x\in X}\Gf_x(f(x)) \end{align*}

 まず$X\setminus f^{-1}(\{0\})$は有限集合だから$\Gf_x(f(x))=f(x)\cdot e_x$も有限個の$x\in X$を除いて$0$となる.つまり上の等式の右辺は$R^{(X)}$における有限和であるからwell-defined.任意に$y\in X$をとると,
\begin{align*} \left(\sum_{x\in X}(\Gf_x(f(x)))\right)(y)&=\sum_{x\in X}(f(x)\cdot e_x)(y)\\ &=\sum_{x\in X}f(x)e_x(y)\\ &=f(y) \end{align*}
であるから,確かに等式が成り立つ.

 $X$上の自由$R$加群$R^{(X)}$$R$加群の準同型の族$\{\Gf_x\}_{x\in X}$は次の普遍性を持つ:任意の$R$加群$M$と,$X$で添え字づけられた$R$加群の準同型の族$\{f_x\}_{x\in X}=\{f_x\cl R\to M\}_{x\in X}$に対して,ある$R$加群の準同型$F\cl R^{(X)}\to M$であって任意の$x\in X$に対して$f_x=F\circ \Gf_x$が成り立つものがただ一つ存在する.

 $f(x)\not=0$となるような$x\in X$は有限個しかないから右辺は有限和になる.したがってこの写像はwell-defined.任意に$x\in X$をとって固定する.このとき任意の$r\in R$に対して
\begin{align*} (F\circ \Gf_x)(r)&=F(\Gf_x(r))\\ &=F(r\cdot e_x)\\ &=\sum_{y\in X}f_y(r\cdot e_x(y))\\ &=f_x(r) \end{align*}
が成り立つから,$f_x=F\circ \Gf_x$が成り立つ.$x\in X$は任意だったから,任意の$x\in X$に対して$f_x=F\circ \Gf_x$となる.
 次に$F$$R$加群になることを示す.まず任意の$f,g\in R^{(X)}$に対して
\begin{align*} F(f+g)&=\sum_{x\in X}f_x((f+g)(x))\\ &=\sum_{x\in X}f_x(f(x))+f_x(g(x)) \end{align*}
が成り立つが,この和は有限和だから分けることができて,
\begin{align*} \sum_{x\in X}f_x(f(x))+f_x(g(x))&=\sum_{x\in X}f_x(f(x))+\sum_{x\in X}f_x(g(x))=F(f)+F(g) \end{align*}
となる.次に任意の$f\in R^{(X)}$$r\in R$に対して
\begin{align*} F(r\cdot f)&=\sum_{x\in X}f_x((r\cdot f)(x))\\ &=\sum_{x\in X}f_x(rf(x))\\ &=r\sum_{x\in X}f_x(f(x))=rF(f) \end{align*}
となるので,確かに$F$$R$の加群の準同型になる.最後に一意性を示す.ほかに任意の$x\in X$に対して$f_x=G\circ \Gf_x$が成り立つ写像$G\cl R^{(X)}\to M$が存在するとすれば,補題2.から任意の$f\in R^{(X)}$
\begin{align*} f=\sum_{x\in X}\Gf_x(f(x)) \end{align*}
と書けるのだから,
\begin{align*} G(f)&=\sum_{x\in X}G(\Gf_x(f(x)))\\ &=\sum_{x\in X}f_x(f(x))\\ &=F(f) \end{align*}
となって,一意性も成り立つと分かる.

 任意に$R$加群$M$と写像$s\cl X\to M$をとる.このとき各$x\in X$に対して写像$s_x\cl R\to M$$s_x(r)=rs(x)$で定義すれば,これは$R$加群の準同型となる.実際,任意の$t,r,r'\in R$に対して
\begin{align*} s_x(r+r')&=(r+r')s(x)=rs(x)+r's(x)=s_x(r)+s_x(r'),\\ s_x(tr)&=(tr)s(x)=t(rs(x))=ts_x(r) \end{align*}
が成り立っている.すると命題3.からこの準同型の族$\{s_x\}$$M$に対して,$R$加群の準同型$s^\ast\cl R^{(X)}\to M$であって任意の$x\in X$に対して$s_x=s^\ast\circ \Gf_x$を満たすものが一意的にとれる.具体的には,任意の$f\in R^{(X)}$に対して
\begin{align*} s^\ast(f)=\sum_{x\in X}s_x(f(x)) \end{align*}
で与えられる.さらに写像$\tau_X\cl X\to R^{(X)}$$\tau_X(x)=e_x$で定義すれば,任意の$x\in X$に対して次の等式が成り立つ.
\begin{align*} (s^\ast\circ \tau_X)(x)&=s^\ast(e_x)\\ &=\sum_{y\in X}s_y(e_x(y))\\ &=\sum_{y\in X}e_x(y)s(y)\\ &=s(x) \end{align*}
 つまり$s^\ast \circ \tau_X=s$が成り立つ.これをまとめると次のようになる.

 $R$を環,$X$を集合とする.このとき任意の$R$加群$M$と写像$s\cl X\to M$に対して,ある$R$加群の準同型$s^\ast\cl R^{(X)}\to M$であって$s=s^\ast\circ \tau_X$を満たすものが一意的に存在する.

 まだ序盤です.

自由$R$加群の間の準同型

 $X,Y$を集合とし,$g\cl X\to Y$を写像とする.このとき合成$\tau_Y\circ g\cl X\to R^{(Y)}$が取れるわけだから,先ほどの構成により$R$加群の準同型
\begin{align*} (\tau_Y\circ g)^\ast\cl R^{(X)}\to R^{(Y)} \end{align*}
が次の式で定まる.
\begin{align*} (\tau_Y\circ g)^\ast(f)&=\sum_{x\in X}(\tau_Y\circ g)_x(f(x))\\ &=\sum_{x\in X}f(x)\cdot e_{g(x)} \end{align*}
 ただし$(\tau_Y\circ g)_x\cl R\to R^{(Y)}$$(\tau_Y\circ g)_x(r)=r\cdot e_{g(x)}$で与えられている.

$X,Y,Z$を集合とし,$g\cl X\to Y,h\cl Y\to Z$を写像とする.このとき
\begin{align*} (\tau_Z\circ h)^\ast \circ (\tau_Y\circ g)^\ast&=(\tau_Z\circ (h\circ g))^\ast,\\ (\tau_X\circ \id_X)^\ast&=\id_{R^{(X)}} \end{align*}
が成り立つ.

 まず$F=(\tau_Z\circ h)^\ast \circ (\tau_Y\circ g)^\ast\cl R^{(X)}\to R^{(Z)}$とおく.もし$\tau_Z\circ (h\circ g)=F\circ \tau_X$が成り立てば,先に示した$R$準同型の一意性から$F=(\tau_Z\circ (h\circ g))^\ast$が成り立つと分かる.ところで
\begin{align*} \tau_Z\circ (h\circ g)&=(\tau_Z\circ h)\circ g\\ &=((\tau_Z\circ h)^\ast\circ \tau_Y)\circ g\\ &=(\tau_Z\circ h)^\ast\circ (\tau_Y\circ g)\\ &=(\tau_Z\circ h)^\ast \circ ((\tau_Y\circ g)^\ast\circ \tau_X)\\ &=F\circ \tau_X \end{align*}
が成り立つから,$F=(\tau_Z\circ (h\circ g))^\ast$を得る.また
\begin{align*} \tau_X\circ \id_X&=\tau_X=\id_{R^{(x)}}\circ \tau_X \end{align*}
であるから,同様にして$(\tau_X\circ \id_X)^\ast=\id_{R^{(X)}}$が成り立つ.

自由$R$加群に入る代数構造

積演算の導入

 $X$が群になる場合を考える(実はモノイドでよい).$g\in G$を一つ固定して,写像$\psi_g\cl G\to G$$\psi_g(k)=gk$とおく.このとき各$h\in G$に対して$(\tau_G\circ \psi_g)_h\cl R\to R^{(G)}$
\begin{align*} (\tau_G\circ \psi_g)_h(r)=r\cdot (\tau_G\circ \psi_{g})(h) \end{align*}
で与えれば,$R$加群の準同型$(\tau_G\circ \psi_{g})^\ast\cl R^{(G)}\to R^{(G)}$
\begin{align*} (\tau_G\circ \psi_{g})^\ast(f)&=\sum_{h\in G}(\tau_G\circ \psi_{g})_h(f(h)) \end{align*}
与えられるのであった.これらをある程度計算しておくと,
\begin{align*} r\cdot (\tau_G\circ \psi_{g})(h)&=r\cdot \tau_G(gh)=r\cdot e_{gh},\\ \sum_{h\in G}(\tau_G\circ \psi_{g})_h(f(h))&=\sum_{h\in G}f(h)\cdot e_{gh} \end{align*}
となる.つまり$g\in G$に対して$(\tau_G\circ \psi_g)^\ast\in \Hom(R^{(G)},R^{(G)})$が取れると分かった.この写像を$F$とおけば,$R$は可換環ゆえ$\Hom(R^{(G)},R^{(G)})$$R$加群になる.各$h\in G$に対して$F_h\cl R\to \Hom(R^{(G)},R^{(G)})$
\begin{align*} F_h(r)=rF(h)=r(\tau_G\circ \psi_h)^\ast \end{align*}
で定めれば,普遍性によって$R$加群の準同型$F^\ast \cl R^{(G)}\to \Hom(R^{(G)},R^{(G)})$
\begin{align*} F^\ast(f)&=\sum_{k\in G}F_k(f(k)) \end{align*}
で与えられる.ただし$f\in R^{(G)}$.この右辺を計算すると
\begin{align*} \sum_{k\in G}F_k(f(k))&=\sum_{k\in G}f(k)(\tau_G\circ \psi_k)^\ast \end{align*}
となる.特にこの和は有限だから,任意の$f'\in R^{(G)}$に対して
\begin{align*} \left(\sum_{k\in G}f(k)(\tau_G\circ \psi_k)^\ast\right)(f')&=\sum_{k\in G}\left(f(k)\cdot (\tau_G\circ \psi_k)^\ast\right)(f')\\ \end{align*}
である.ここで
\begin{align*} \left(f(k)\cdot (\tau_G\circ \psi_k)^\ast\right)(f')&=\sum_{l\in G}\left(f(k)\cdot (\tau_G\circ \psi_k)^\ast\right)_l(f'(l))\\ &=\sum_{l\in G}(f'(l)f(k))\cdot e_{kl} \end{align*}
であるから,
\begin{align*} F^\ast(f)(f')= \left(\sum_{k\in G}f(k)(\tau_G\circ \psi_k)^\ast\right)(f')&=\sum_{k\in G}\sum_{l\in G}(f'(l)f(k))\cdot e_{kl} \end{align*}
を得る.さていま,写像$\GF\cl R^{(G)}\times R^{(G)}\to R^{(G)}$
\begin{align*} \GF(f,f')=F^\ast(f)(f') \end{align*}
で定義すると,この写像によって$R^{(G)}$は可換モノイドになる.すなわち,

  1. ある$e\in R^{(G)}$が存在して,任意の$f\in R^{(G)}$に対して$\GF(e,f)=\GF(f,e)=f$が成り立つ.
  2. 任意の$f,f',f''\in R^{(G)}$に対して$\GF(\GF(f,f'),f'')=\GF(f,\GF(f',f''))$が成り立つ.
  3. 任意の$f,f'\in R^{(G)}$に対して$\GF(f,f')=\GF(f',f)$が成り立つ.

 1.を示そう.$G$の単位元を$1_G$とおく.このとき写像$e_{1_G}\in R^{(G)}$をとれば,任意の$f\in R^{(G)}$に対して
\begin{align*} \GF(e_{1_G},f)&=\sum_{k\in G}\sum_{l\in G}(f(l)e_{1_G}(k))\cdot e_{kl}\\ &=\sum_{l\in G}f(l)\cdot e_{l}\\ &=\sum_{l\in G}\Gf_l(f(l))\\ &=f \end{align*}
となる.$\GF(f,e_{1_G})=f$についても同様.続いて2.を示す.まず
\begin{align*} \GF(f,f')&=\sum_{g\in G}\sum_{h\in G}(f'(h)f(g))\cdot e_{gh},\\ \GF(f',f'')&=\sum_{k\in G}\sum_{l\in G}(f''(l)f'(k))\cdot e_{kl} \end{align*}
であるが,簡単のために$G=\GF(f,f'),G'=\GF(f',f'')$とおく.このとき任意の$u\in G$に対して
\begin{align*} G(u)&=\sum_{g,h\in G,gh=u}f'(h)f(g),\\ G'(u)&=\sum_{k,l\in G,kl=u}f''(l)f'(k) \end{align*}
が成り立つ.いま,任意の$v\in G$に対して
\begin{align*} (F^\ast(G)(f''))(v)&=\left(\sum_{s\in G}\sum_{t\in G}(f''(t)G(s))\cdot e_{st}\right)(v)\\ &=\sum_{s\in G}\sum_{t\in G}((f''(t)G(s))\cdot e_{st})(v)\\ &=\sum_{s,t\in G,st=v}f''(t)G(s)\\ &=\sum_{s,t\in G,st=v}f''(t)\left(\sum_{g,h\in G,gh=s}f'(h)f(g)\right)\\ \end{align*}
が成り立ち,これらの和が有限和であることに注意すれば
\begin{align*} (F^\ast(G)(f''))(v)&=\sum_{s,t\in G,st=v}\sum_{g,h\in G,gh=s}f''(t)f'(h)f(g)\\ &=\sum_{g,h,t\in G,ght=v}f''(t)f'(h)f(g) \end{align*}
となる.同様にして
\begin{align*} (F^\ast(f)(G'))(v)&=\left(\sum_{s'\in G}\sum_{t'\in G}(G'(t')f(s'))\cdot e_{s't'}\right)(v)\\ &=\sum_{s'\in G}\sum_{t'\in G}((G'(t')f(s'))\cdot e_{s't'})(v)\\ &=\sum_{s',t'\in G,s't'=v}G'(t')f(s')\\ &=\sum_{s',t'\in G,s't'=v}\left(\sum_{k,l\in G,kl=t'}f''(l)f'(k)\right)f(s')\\ &=\sum_{s',k,l\in G,s'kl=v}f''(l)f'(k)f(s') \end{align*}
となるから,($s'=g,k=h,l=t$と置き直せば)$(F^\ast(G)(f''))(v)=(F^\ast(f)(G'))(v)$が任意の$v\in G$で成り立つ.したがって$F^\ast(G)(f'')=F^\ast(f)(G')$を得る.3.に関しては積の定義からただちに従う.

 これによって群$G$上の自由$R$加群$R^{(G)}$には$R$加群の構造と,そこから誘導される可換モノイドの構造が入ると分かった.これらの構造の間に整合性がある,つまり両側分配法則が成り立つことを確認しよう.任意の$f,f',f''\in R^{(G)}$に対して
\begin{align*} \GF(f+f',f'')&=\GF(f,f'')+\GF(f',f''),\\ \GF(f,f'+f'')&=\GF(f,f')+\GF(f,f'') \end{align*}
が成り立つことを示せばよい.しかしこれは$F^\ast\cl R^{(G)}\to \Hom(R^{(G)},R^{(R)})$$R$加群の準同型であり,任意の$f\in R^{(G)}$に対して$F^\ast(f)\cl R^{(G)}\to R^{(G)}$もまた$R$加群の準同型であることから直ちに従う.以上をまとめれば,次が成り立つ.

 $R$を環とする.群(モノイド)$G$上の自由$R$加群$R^{(G)}$は以上の構成により環になる.

$R$代数

 $R$を環とする.環$A$と環準同型$f\cl R\to A$の組$(A,f)$$R$上の代数,あるいは単に$R$代数と呼ぶ.また二つの$R$代数$(A,f),(B,g)$に対して,写像$h\cl A\to B$$(A,f)$から$(B,g)$への$R$代数の準同型であるとは,$h$が環準同型であって$g\circ h=f$が成り立つときをいう.

 $R$加群の準同型$\Gf_{1_G}\cl R\to R^{(G)},r\mapsto r\cdot e_{1_G}$は環準同型になる.

 加法を保つことは既に見た.また単位元に関しても$1_R\cdot e_{1_G}=e_{1_G}$が成り立つからよい.示すことは$r,s\in R$に対して
\begin{align*} \Gf_{1_G}(rs)=\GF(\Gf_{1_G}(r),\Gf_{1_G}(s)) \end{align*}
である.この右辺を計算すると
\begin{align*} \GF(\Gf_{1_G}(r),\Gf_{1_G}(s))&=\sum_{g\in G}\sum_{h\in G}((\Gf_{1_G}(s)(h))(\Gf_{1_G}(r)(g)))\cdot e_{gh}\\ &=\sum_{g\in G}\sum_{h\in G}((s\cdot e_{1_G})(h)(r\cdot e_{1_G})(g))\cdot e_{gh}\\ &=\sum_{g\in G}\sum_{h\in G}(se_{1_G}(h)re_{1_G}(g))\cdot e_{gh}\\ &=\sum_{h\in G}(se_{1_G}(h)r)\cdot e_{h}\\ &=(sr)\cdot e_{1_G}\\ &=\Gf_{1_G}(rs) \end{align*}
となる.

定義語句(任意)

 組$(R^{(G)},\Gf_{1_G})$$R$代数になる.

 以上に見るように,群/モノイド$G$上の自由$R$加群には$G$の積から誘導される積が定まり,それにより環,特に$R$代数の構造を持つことが分かった.これを次のように定義しよう.

 $R$を環,$G$を群,あるいはモノイドとする.このとき$G$上の自由$R$加群$R^{(G)}$を,$G$$R$上の群環,あるいは$G$$R$上のモノイド環と呼ぶ.

 以降は話の都合上,モノイド環について見ていく.

準備が終わったので,本題に.

モノイド環の普遍性

 ここから群環/モノイド環の普遍性について見ていく.ただどちらもやり方は同じだから,とりあえずすぐに使うモノイド環のほうだけ.まず次が成り立つ.

 $(A,f)$$R$代数とするとき,$A$$f$から定まる$R$加群の構造を持つ.

作用$\Psi\cl R\times A\to A$$\Psi(r,a)=f(r)a$で定めると,これは環作用になる.

 すると任意の$R$代数$(A,f)$とモノイド準同型$s\cl G\to A$に対して(ただし$A$はその積によって可換モノイドとみなして),($s$は特に写像なのだから)$R$加群の準同型$s^\ast\cl R^{(G)}\to A$であって$s^\ast \circ \tau_X=s$を満たすものが取れるわけだが,実はこの$s^\ast$$R$代数の準同型になる.これを示そう.
まず任意に$g,h\in R^{(G)}$をとってその積$\GF(g,h)$$s^\ast$で送ると,
\begin{align*} s^{\ast}(\GF(g,h))&=\sum_{k\in G}s_k(\GF(g,h)(k)) \end{align*}
となる.ここで$s_k$とは各$k\in G$に対して$s_k(r)=rs(k)$で定義された写像$s_k\cl R\to A$のことで,これは$R$加群の準同型になるのであった.これを計算すると,
\begin{align*} \sum_{k\in G}s_k(\GF(g,h)(k))&=\sum_{k\in G}\GF(g,h)(k)s(k) \end{align*}
となる.ここで$\GF(g,h)(k)$について,
\begin{align*} \GF(g,h)(k)&=\sum_{u\in G}\sum_{v\in G}((h(v)g(u))\cdot e_{uv})(k)\\ &=\sum_{u,v\in G,uv=k}h(v)g(u) \end{align*}
であるから,
\begin{align*} \sum_{k\in G}s_k(\GF(g,h)(k))&=\sum_{k\in G}\left(\sum_{u,v\in G,uv=k}h(v)g(u)\right)s(k) \end{align*}
となる.一方で$A$における積$s^\ast(g)s^\ast(h)$を計算すると,有限和であることに注意すれば
\begin{align*} s^\ast(g)s^\ast(h)&=\left(\sum_{a\in G}g(a)s(a)\right)\left(\sum_{b\in G}h(b)s(b)\right)\\ &=\sum_{a,b\in G}h(b)g(a)s(a)s(b)\\ &=\sum_{a,b\in G}h(b)g(a)s(ab) \end{align*}
となる.この最後の式について,$ab=k$とおいて,$k$を固定して$a,b$を動かして和を取ってから$k$に関して総和をとる操作と$a,b$それぞれについて総和を取る操作は一致するから
\begin{align*} s^\ast(g)s^\ast(h)&=\sum_{k'\in G}\left(\sum_{a,b\in G、ab=k'}h(b)g(a)\right)s(k') \end{align*}
となって,したがって$s^{\ast}(\GF(g,h))=s^\ast(g)s^\ast(h)$が成り立つと分かる.$R^{(G)}$の単位元は$e_{1_G}$であったから,
\begin{align*} s^\ast(e_{1_G})&=\sum_{k\in G}e_{1_G}(k)s(k)\\ &=s(1_G)\\ &=1_A \end{align*}
が成り立つ.したがって$s^\ast$が環準同型になることが分かった.最後に$f=s^\ast \circ \Gf_{1_G}$が成り立つことを確認する.任意の$r\in R$に対して
\begin{align*} (s^\ast \circ \Gf_{1_G})(r)&=s^{\ast}(r\cdot e_{1_G})\\ &=\sum_{k\in G}s_k(r\cdot e_{1_G}(k))\\ &=\sum_{k\in G}(r\cdot e_{1_G})(k)s(k)\\ &=f(r)s(1_G)\\ &=f(r) \end{align*}
であるので,$s^\ast \circ \Gf_{1_G}=f$となる.以上により,次を得る.

 $R$を環,$G$をモノイドとする.このとき任意の$R$代数$(A,f)$とモノイド準同型$s\cl G\to A$に対して,ある$R$代数の準同型$s^\ast\cl (R^{(G)},\Gf_{1_G})\to (A,f)$であって$s=s^\ast\circ \tau_X$を満たすものがただ一つ存在する.

 そうすると$G$を集合として見たときと同様にして,モノイド準同型$s\cl G\to G'$に対して$R$代数の準同型$s^\ast\cl R^{(G)}\to R^{(G')}$が取れるし,次の命題も成り立つことが分かる.

 $G,G',G''$をモノイドとし,$g\cl G\to G',h\cl G'\to G''$をモノイド準同型とする.このとき
\begin{align*} (\tau_{G''}\circ h)^\ast \circ (\tau_{G'}\circ g)^\ast&=(\tau_{G''}\circ (h\circ g))^\ast,\\ (\tau_G\circ \id_G)^\ast&=\id_{R^{(G)}} \end{align*}
が成り立つ.

代入写像の一意性

 $G=\Nbb$とれば,$R^{(\Nbb)}$の元$f$
\begin{align*} f=\sum_{n\in \Nbb}f(n)\cdot e_n \end{align*}
と書ける.さらに任意の自然数$n\in \Nbb$に対して
\begin{align*} e_n&=e_{n-1+1}=\GF(e_{n-1},\GF(e_1)) \end{align*}
とできるから,帰納的に$e_n$$e_1$$n$回の積によって書き表される.したがって$R^{(\Nbb)}$からの環準同型は$e_1$の行き先だけ分かればすべて決定される.
 また,$(A,f)$$R$代数とする.このとき$a\in A$に対して写像$\psi_a\cl \Nbb\to A$$n\mapsto a^n$で定義する.これに対応する$R$代数の準同型$(\psi_a)^\ast\cl R^{(\Nbb)}\to A$を具体的に表示すると,任意の$g\in R^{(\Nbb)}$に対して
\begin{align*} (\psi_a)^\ast(g)&=\sum_{n\in \Nbb}g(n)a^n \end{align*}
となる.特に$g=e_{1}$とすれば$n=1$の場合だけが残って,
\begin{align*} (\psi_a)^\ast(e_{1})=a \end{align*}
が成り立つ.したがって次が分かる.

 任意の$R$代数$(A,f)$に対して,$\psi(e_1)=a$を満たす$A$代数の準同型$\psi\cl R^{(\Nbb)}\to A$はただ一つしか存在しない.

 ぶっちゃけここまで書いたら$R^{(\Nbb)}$とか$(\psi_a)^\ast$が何かって分かっちゃうよね.だから(慣習に沿って)次のように定義します.

 $R$を環とする.$\Nbb$$R$上のモノイド環$R^{(\Nbb)}$$R$上の多項式と呼び,各$a\in A$に対して$(\psi_a)^\ast\cl R^{(\Nbb)}\to A,e_1\mapsto a$$a$を代入する写像,あるいは単に代入写像という.

$G=\mathbb{Z}$の場合に"代入写像"と呼べるものはあるか?逆に,モノイドにどのような性質を課せば"代入写像"と呼べるものが得られるか?

まとめ.

  • 代入写像とは普遍性(から自然に導入できる写像)である!
  • 多項式環とは普遍性(を持つような数学的対象)である!

 以上.タイトルに詐欺なし,(そんなに極端な)嘘は言ってない.

まじめなまとめ

 関手だとか随伴だとかそういう難しい(?)言葉を使わないようにして普遍性の話をしよう,と思って書いてみたわけですが,間違いなく読みづらいと思います.ごめんね.ここまで頑張って読んでくださった方,本当に感謝です.
 参考文献[1]ではsec.「自由$R$加群に入る代数構造」におけるモノイドをすぐに$\Nbb$でとることで多項式環の普遍性などに言及しています.ただ圏論に慣れていないと読み解けない文章になっているので,この記事のどの部分が関手の話でどの部分が随伴の話をしているのか分からないなら,おそらく読んでも実入りは少ないんじゃないかなと思います.あと(記憶が正しければ)ぽつぽつ証明に穴があるので,通読する本と思うとやっぱり苦しいんじゃないかなと思います.悪い本じゃあないんだけどね…….
 あと最後の問題はおまけです.自分もまだわかってないので,みんなに考えてもらって完全に解決出来たら嬉しいな~とか考えていたり.問題設定が雑なので,気が向いた時にでもぜひ.

参考文献

[1]
斎藤 毅, 数学原論
投稿日:221

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

ほし
ほし
4
486
ぴちぴちJK/ほったる~ん/やってる分野の備忘録と過去の進捗

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中