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東大数理院試過去問解答例(2023B10)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B10の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

中の人の専門は解析でなく測度論に慣れていないので、数学的な誤りはもちろん慣例から外れた書き方・分かりづらい表現などがあるかもしれません。もしそのようなものを見つけられた場合、本記事へのコメントかX(旧Twitter)の 私のアカウント のリプ・DMで教えていただけると嬉しいです。

2023B10

測度空間$(\Omega,\mathcal{F},\mu)$$|\Omega|=1$であるようなものを考える。$\Omega$$\mu$可積分であるような実数値関数の為すバナッハ空間を$L^1(\Omega)$と表す。以下の問いに答えなさい。

  1. 任意の正の数$a$$f\in L^1(\Omega)$について不等式
    $$ \mu(|f|\geq a)\leq\frac{1}{a}\int_{\Omega}|f(x)|dx $$
    が成り立つことを示しなさい。
  2. $L^1(\Omega)$の間数列$\{f_n\}$が以下の条件を満たしているとする。
    (i) $\lim_{n\to\infty}\int_\Omega|f_n(x)-f_n(y)|dxdy=0$
    (ii) $\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_\Omega f_n^2dx\leq1$
    (iii) 任意の$n$について$\int_\Omega f_ndx=0$
    このとき極限
    $$ \lim_{n\to\infty}|f_n|dx=0 $$
    が成り立つことを示しなさい。
  3. (2)の条件(i)(ii)(iii)及び不等式
    $$ \inf_{n}\int_\Omega|f_n|^2dx>0 $$
    を満たすような測度空間$(\Omega,\mathcal{F},\mu)$及び関数列$f_n$の例を一つ挙げなさい。
  1. 初めに
    $$ E_{a}:=\{x\in\Omega||f(x)|\geq a\} $$
    とおく。このとき
    $$ \begin{split} \int_{\Omega}|f|dx&=\int_{\Omega\backslash E_{a}}|f|dx+\int_{E_{a}}|f|dx\\ &\geq \int_{E_{a}}|f|dx\\ &\geq \int_{E_{a}}adx&=a\mu(E_{a}) \end{split} $$
    であるから所望の結果が得られた。
  2. 初めに$a>0$を任意にとる。
    $$ C_{n,a}:=\{x\in\Omega|f_n(x)\geq a\} $$
    $$ D_{n,a}:=\{x\in\Omega|f_n(x)\leq -a\} $$
    とおく。ここで$\mu(C_{n_i,a})$$0$より大きい$\varepsilon$に収束するような数列$n_i$が取れたとすると、条件(iii)から任意の$b>0$に対して
    $$ \begin{split} 0=\int_{\Omega}f_{n_i}dx&=\int_{C_{n_i,a}}f_{n_i}dx+\int_{C_{n_i,0}\backslash C_{n_i,b}}f_{n_i}dx+\int_{D_{n_i,b}}f_{n_i}dx+\int_{D_{n_i,0}\backslash D_{n_i,b}}f_{n_i}dx \end{split} $$
    が成り立つ。${D_{n_i,b}}\xrightarrow{i\to\infty}0$であったとすると、ヘルダーの不等式及び条件(ii)から$\int_{D_{n_i,b}}f_{n_i}dx\xrightarrow{n\to\infty}0$が成り立つ。しかしこのとき$b=\frac{a\varepsilon}{2}$と置けば、上の等式の右辺は充分大きい$n$に対して$\frac{a\varepsilon}{3}$以上の値しか取らないようになってしまい上の等式に矛盾する。よってある$b$について
    $$ \mu(D_{n_i,b}) $$
    $0$に収束しない。しかしこのとき$|f_{n_i}(x)-f_{n_i}(y)|$$C_{n_i,a}\times D_{n_i,b}$上で$0$に収束しないから(i)に矛盾する。よって任意の$a>0$について収束
    $$ \mu(C_{n,a})\xrightarrow{n\to\infty}0 $$
    が成り立つ。同様にして
    $$ \mu(D_{n,a})\xrightarrow{n\to\infty}0 $$
    も成り立つから、$E_{n,a}:=C_{n,a}+D_{n,a}$の測度も$0$に収束することがわかる。このとき条件(ii)及びヘルダーの不等式から
    $$ \begin{split} \int_{\Omega}|f_n|dx&=\int_{\Omega\backslash E_{n,a}}|f_n|dx+\int_{E_{n,a}}|f_n|dx\\ &\leq a(1-\mu(E_{n,a}))+\int_{E_{n,a}}|f_n|dx\\ &\leq a(1-\mu(E_{n,a}))+\sqrt{\mu(E_{n,a})\int_{E_{n,a}}|f_n|^2dx}\\ &\leq a(1-\mu(E_{n,a}))+\sqrt{\mu(E_{n,a})}&\xrightarrow{n\to \infty}a \end{split} $$
    が従う。$a>0$は任意に取っていたから、以上から所望の結果が従う。
  3. $(\Omega,\mathcal{F},\mu)$$\mathbb{R}$上のルベーグ測度の閉区間$[0,1]$への制限とし、その上で定義された実数値関数
    $$ f_n(x):=\begin{cases} \sqrt{\frac{n}{{2}}}&(x\in\left[0,\frac{1}{n}\right])\\ -\sqrt{\frac{n}{{2}}}&(x\in\left(\frac{1}{n},\frac{2}{n}\right])\\ 0&(\textsf{if else}) \end{cases} $$
    を考える。これは$L^1(\Omega)$の元であり、更に直接計算することで
    $$ \int_0^1f_ndx=0 $$
    $$ \int_0^1\int_0^1|f_n(x)-f_n(y)|dxdy=2\sqrt{\frac{2}{n}}\left(1-\frac{1}{n}\right)\xrightarrow{n\to\infty}0 $$
    $$ \int_0^1f_n^2dx=1 $$
    であるから条件(i)(ii)(iii)及びを満たしていて$f_n^2$の積分も常に$1$である。よって上記で構成した$(\Omega,\mathcal{F},\mu)$及び$f_n$は所望の例になっている。
投稿日:610
更新日:610

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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント

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