2

二項係数の和・平方和・立方和・逆数和

469
0

二項係数の和・平方和

以下に示す二項係数の和・平方和はよく知られている.

 k=0n(nk)=2n,  k=0n(nk)2=(2nn).

では, 二項係数の立方和についてはどのくらい知られているのだろか?

the Franel numbers (二項係数の立方和)

fn:=k=0n(nk)3で定義される数を"Franel numbers"といい, 閉じた式は知られていない(作れない?). このfnについて知られていることを書いておこう. [1]で, Franelはfnについて次の漸化式を得ている.

Franel (1884)

n1に対して,
 (n+1)2fn+1=(7n2+7n+2)fn+8n2fn1.

次に, Strehlによって得られた魅力的な関係式([2.1],[2.2])を証明付きで紹介する. これは私のお気に入りの公式の1つである.

Strehl (1993)

n0に対して,
 k=0n(nk)3=k=0n(nk)2(2kn).

(ni)(nj)(ik)(jk)=n!i!(ni)!n!j!(nj)!i!k!(ik)!j!k!(jk)!
=(n!k!(nk)!)2(nk)!(ni)!(ik)!(nk)!(nj)!(jk)!=(nk)2(nkni)(nknj).

Vandermondeの恒等式と上の関係式を使って,
  k=0n(nk)3i+j=n(ni)(nj)(i+ji)=i+j=n(ni)(nj)k=0n(ik)(jk)
 =k=0n(nk)2i+j=n(nkni)(nknj)=k=0n(nnk)2i+j=n(kj)(ki)=k=0n(nk)2(2kn). 

その他の二項係数の立方を含む和

Dixonによる以下の関係式([3])は非常に有名である. (いろいろな書き方があるが, 本テーマに合わせた表現にしてある)

Dixon (1891)

n0に対して,
 k=02n(1)k(2nk)3=(1)n(3n)!(n!)3.

また, 私も以下の二項係数の立方を含む和についての関係式を見つけることができた.

n0に対して,
 k=0n(nk)(2nk)3=n2(2nn)j=n2n1(jn)(jn1).    (1)

上記の内容をイタリアの数学者Taurasoがうまく拡張し, Amer. Math. Monthlyに共著問題 ([4])として提供した.

with Tauraso (2015)

m>n0に対して,
 k=0n(m2k)(mk)3=(mn)(mn)j=0m1(jn)(jmn1).

確かに, この関係式においてm=2nとすれば(1)を得る.
AMM2017年3月号には, Stong (solution I)とAmdeberhan and Ekhad (solution Ⅱ)によるエレガントな証明が掲載されている.

二項係数の逆数和

ところで, 二項係数の指数部分を下げることにも興味がある. Rockettは二項係数の逆数和についてある関係式を見つけている ([5]). それを証明付きで紹介しよう.

Rockett (1981)

整数n0に対して
 k=0n(nk)1=n+12n+1k=1n+12kk.

以下はRockettの証明をより読みやすく書き直したものである.

帰納法による

n=0のとき左辺=右辺=1となり成り立つ. 次に, nのときに成り立つと仮定すると, n+1でも成り立つことを示す.
 (n+1k)1+(n+1k+1)1=k!(n+1k)!(n+1)!+(k+1)!(nk)!(n+1)!=(n+1kn+1+k+1n+1)k!(nk)!n!=n+2n+1(nk)1.
この関係式を用いて,
 2k=0n+1(n+1k)1=k=0n[(n+1k)1+(n+1k+1)1]+(n+1n+1)1+(n+10)1=n+2n+1k=0n(nk)1+2.
上記の式を12倍し, さらに帰納法の仮定を用いて,
 k=0n+1(n+1k)1=n+22(n+1)n+12n+1k=1n+12kk+1=n+22n+2(k=1n+22kk2n+2n+2)+1=n+22n+2k=1n+22kk.
したがって, 目的の関係式は成り立つ.  

その後, SuryとTrifは独立にベータ関数を使った証明を与えている([6,7]).

(参考文献)
[1] J.Franel, "On a question of Laisant." L’intermédiaire des mathématiciens 1.3(1894)
[2.1] V.Strehl, "Binomial Sums and Identities" Maple Technical Newsletter 10(1993)
[2.2] V.Strehl, "Binomial Identities--Combinatorial and Algorithmic Aspects", Discrete Math. 136(1994)
[3] A.C.Dixon, "On the sum of the cubes of the coefficients in a certain expansion by the binomial theorem", Messenger of mathematics 20(1891)
[4] H.Ohtsuka and R.Tauraso, Problem 11844, Amer. Math. Monthly 122.5(2015)
[5] A.M.Rockett, "Sum of the inverse of binomial coefficients" Fibonacci Quarterly 19.5(1981)
[6] B.Sury, "Sum of the reciprocals of the binomial coefficients." European journal of combinatorics 14.4(1993)
[7] T.Trif, "Combinatorial sums and series involving inverses of binomial coefficients." Fibonacci Quarterly 38.1(2000)

投稿日:202482
更新日:202482
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

Y.K.
Ricardo Albahari

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

H.O.
H.O.
45
3015

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 二項係数の和・平方和
  2. the Franel numbers (二項係数の立方和)
  3. その他の二項係数の立方を含む和
  4. 二項係数の逆数和