2

代数的数×代数的数は代数的数?

296
2

円周率π

X(旧Twitter)で、πについて割り切れない数(整数の比で表せない数=無理数)であることを説明するとして、全然説明になっていない間違った文が「わかりやすい」として話題になっていて、それに関連してπが超越数であることを示せば無理数であると言えるのでπが超越数であることの証明も話題になっていました。
それで、昨年放送された「笑わない数学」でπの超越数であることの証明を見たとき考えたことを思い出したので改めてここに書こうと思いました。(Xにもポストしていますが、流れてしまい探しにくいので。)

TV番組「笑わない数学」超越数回で見たπが超越数であることの証明

2022年-2023年にNHKで放送された番組「笑わない数学」はとても面白い番組でした。
最先端の現代数学のいくつかのテーマをお笑い芸人トリオ「パンサー」のメンバーの尾形さんと映像とナレーションが親しみやすく説明してくれる素晴らしい番組でした。
昨年のシーズン2のうち超越数回は傑作と呼べる回で大変面白い回でした。「 周期 」という最先端で研究されている概念があることも紹介されていて大変興味深かったです。
[Link]「#5 超越数(シーズン2) - 笑わない数学 - NHK」 https://www.nhk.jp/p/ts/Y5R676NK92/blog/bl/pmg0p5PX8L/bp/p642yOd1NJ/
この回で尾形さんが「πが超越数であること」を証明していました。

代数的数

有理数係数の代数方程式の根になる複素数を代数的数という

超越数

複素数のうち代数的数ではないものを超越数という

問題

(円周率)πが超越数であることを証明せよ

以下のエルミート-リンデマンの定理とオイラーの式は証明なしに使ってよいとします。

エルミート-リンデマンの定理

αが代数的数ならば、eαは超越数である。

オイラーの式

eiπ=1

尾形さんの証明の流れは以下の通り。

背理法でπが代数的数と仮定して矛盾を導く

πが代数的数と仮定(仮定◇とする)
虚数単位iも代数的数(∵x2+1=0の根だから)
i×πも代数的数(←「※代数的数×代数的数は代数的数であることは証明できる」…★と画面右下に出ていた)
エルミート-リンデマンの定理でα=iπとすることにより
eiπは超越数
ところが、オイラーの式eiπ=1であり、-1はx+1=0の根なので
eiπは代数的数
超越数の定義に矛盾。
仮定◇「πが代数的数」が誤りであったことになる。
πは超越数∎

となって尾形さん、見事にπが超越数であることを証明していました。

代数的数×iは代数的数であること自分なりの証明

放送を見たとき画面右下のテロップ「※代数的数×代数的数は代数的数であることは証明できる」★に気づかず、「πが代数的数のときi×πも代数的数」がなぜ言えるのかすぐにわからないなと感じたので、自分なりに考えてみました。

α,βが代数的数なら、積αβが代数的数

は(結論から言えば)もちろん正しい命題ですが、これは簡単には示せなかったので、その特別な場合(β=i)(そして、πの超越性の上記の証明で使用するには十分である)、

αが代数的数なら、αiが代数的数

については、高校の数学で習う知識で示すことができました。

αは代数的数なので、多項式f(x)で、
f(x)=anxn+an1xn1+...+akxk+...+a1x+a0
f(α)=anαn+an1αn1+...+akαk+...+a1α+a0=0
となるものがある。
f(x)=(kakxk)+(kakxk)
のように分けて、x2でまとめると
f(x)=g(x2)+h(x2)x
の形にできる。ghは多項式で係数はfの係数の一部。
ここで、多項式m(x)
m(x):=g(x2)2+h(x2)2x2
と定義する。fの係数が有理数ならmの係数も有理数。
x=αiを代入すると、
m(αi):=g((αi)2)2+h((αi)2)2(αi)2
=g(α2)2h(α2)2α2
=(g(α2)+h(α2)α)(g(α2)h(α2)α)
=f(α)(g(α2)h(α2)α)
=0
αiは有理数係数の代数方程式m(x)=0の根になるので、代数的数である。∎

αが代数的数なら、αiが代数的数」は示せたので、「πの超越性の上記の証明」ではα=πとして使えます。
上記のπの超越性の証明には不要ですが、「α,βが代数的数なら、αβも代数的数」はまだ示していません。この具体的な方法?では私はいまだに示せていません。。(示せた人は教えてください。)
当初、実は書きたかったのはここまでなのですが、記事タイトルを「代数的数×代数的数は代数的数?」としたのでそれを示すためまだ続けます。
一般の場合「代数的数×代数的数は代数的数」は、線形代数の事実を使うと、示すことができます。

代数的数×代数的数は代数的数?

厳密にやるのは長くなるので、概略を記載します。それでも長くなってしまいました。

有理数を拡大する

有理数全体の集合をQと書きます。
αQとなる代数的数αを考えます。fα(α)=0となる有理数係数の多項式fαがあります。
fαの次数をnとします。
fαはより低い次数の有理数係数の多項式には因数分解しないとします。
多項式の割り算を行って、
f(x)=q(x)fα(x)+r(x)
r(x)0の次数はfα(x)の次数nより小さいものが取れます。
係数が有理数の多項式のうち、この割り算を行って余りがr(x)となるものをすべて同一視します。
r(x)=j=0n1cjαjの係数を抜き出すと、n個の有理数(c0,c1,c2,...cn1)となります。
これをn次元ベクトルの成分とみなすと、r(x)はベクトルと同一視できます。
定数項の成分以外の成分が0であるベクトル(c0,0,0,...0)は有理数c0と同一視できます。
また多項式の四則演算から、同一した集合でも四則演算が成り立ち、演算結果もまたfα(x)で割ることにより、結果もまたn次元ベクトルになります。
この演算で有理数と同一視した部分も通常の四則演算になります。
このベクトルの集合(αと有理数の多項式(をfαで割ったあまりで分類した集合))は有理数を拡張したものと見なせます。基底{1,α,α2,...,αn1}の空間です。これを、Q(α)と書きます。
βも代数的数なら、fβ(β)=0となるQ係数の多項式fβがあります。Q(α)係数の多項式ともみなせて、
Q(α)上の多項式として因数分解してβを根に持つ既約因子を改めてfβとおき(←指摘により追加修正 2024/7/27
fβの次数をmとすると、二変数α,βの有理数係数の多項式は、m個のQ(α)の要素を成分としたベクトルと考えられます。そのようなベクトル全体は基底{1,β,β2,...,βm1}のベクトル空間になります。
各成分はQ(α)要素なので、それぞれQの要素n個に対応しています。結局、全体では有理数nm個を成分とするベクトルに対応しています。
基底は{1,α,β,α2,αβ,...,αn1βm1}になります。これを、Q(α,β)=Q(α)(β)と書きます。

線形代数の事実を使う

n次元ベクトル空間の基底のベクトルの数nは一定

という事実を使うと、γQ(α,β),γ0,γQ で、{1,γ,γ2,...,γnm1}Q(α,β)の基底になります。
(「←基底になるとは限らない、以下に関係ない」との指摘により取り消し線追加 24/7/27)

n次元ベクトル空間のn+1個のベクトルは 線形従属

は数学的帰納法で証明できます(後述の「おまけ」で証明)が、これを使用すると、nm+1個のベクトル{1,γ,γ2,...,γnm}は線形従属となり、
j=0nmcjγj=0となる有理数の組(c0,c1,c2,...,cmn)(0,0,0,...,0)が取れます。
h(x):=j=0nmcjxjと置くと、
h(γ)=0なので、γを根とする有理数係数代数方程式が見つかったことになり、γは代数的数です。
例えば、γ:=αβQ(α,β)とすれば、αβも代数的数となります。∎
途中で使用した「n次元ベクトル空間のn+1個のベクトルは線形従属」の証明をおまけとして、以下に記述しました。

おまけ

n次元ベクトル空間のn+1個のベクトルは 線形従属

ベクトル空間の次元に関する数学的帰納法による

n次元ベクトル空間の基底を{b1,b2,...,bn}として、ベクトル空間を<b1,b2,...,bn>で表す。

n=1の時、v1,v2∈<b1>とすると、v1=λ1b1,v2=λ2b1なので、
λ2v1λ1v2=λ1λ2b1λ1λ2b1=0
つまり、(λ2,λ1)(0,0)があることになるので、v1,v2は線形従属

n=k1までは成り立っていると仮定して、n=kの時も成り立つことを示す。
vj∈<b1,b2,...,bk>,j=1,2,...,k,k+1とする。

v1=a1,1b1+a1,2b2++a1,kbk
v2=a2,1b1+a2,2b2++a2,kbk

vk=ak,1b1+ak,2b2++ak,kbk
vk+1=d1b1+d2b2++dkbk
dj のどれかは0でないとしてよい(もし、すべて0であればvk+1=0であり、任意のλk+1λk+1vk+1=0となるので、線形従属で証明は終わる)から、必要なら並べ替えてdk0とできる。

vj=aj,1b1+aj,2b2++aj,kbkから
vk+1=d1b1+d2b2++dkbkの両辺にaj,kdkを掛けたものを引くと、bkの項は消えて、
vjaj,kdkvk+1=(aj,1aj,kdkd1)b1+(aj,2aj,kdkd2)b2++(aj,k1aj,kdkdk1)bk1
右辺∈<b1,b2,...,bk1>
{vjaj,kdkvk+1∈<b1,b2,...,bk1>|j=1,2,...,k}は、k1次元ベクトル空間のk個のベクトルなので帰納法の仮定より、線形従属。
(λ1,λ2,...,λk)(0,0,...,0)が存在して、
j=1kλj(vjaj,kdkvk+1)=0
vk+1の項を整理して係数を置きなおすことにより、v1,v2,...,vk+1
(λ1,λ2,...,λk,λk+1)(0,0,...,0,0)が存在して
j=1k+1λjvj=0
となる。つまり、v1,v2,...,vk+1は線形従属。∎

投稿日:2024721
更新日:2024726
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

IIJIMAS
13
2872

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 円周率π
  2. TV番組「笑わない数学」超越数回で見たπが超越数であることの証明
  3. 代数的数×iは代数的数であること自分なりの証明
  4. 代数的数×代数的数は代数的数?
  5. おまけ