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有限体上の既約多項式の個数2

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さて,いよいよ既約多項式の個数を数えます.ある$n$次多項式を因数分解することで$n$の約数である次数の既約多項式が全てちょうど1回出てくるということを見ます.すると,約数を渡る和に対しては後述するメビウスの反転公式が使えるので個数を求めることができます.

$x^{p^n}-x\in \mathbb{F}_p[x]$に対して次が成り立つ.
(1)$n$の全ての約数$m$に対し$x^{p^n}-x$$x^{p^m}-x$を因子にもつ.
(2)$n$の全ての約数$m$に対し$x^{p^n}-x$は次数$m$の全ての既約多項式を因子にもつ.
(3)$m$$n$の約数でなければ,$x^{p^n}-x$は次数$m$の既約多項式を因子にもたない.
(4)$x^{p^n}-x$$1$次以上の多項式の平方を因子にもたない.

  1. $\mathbb{F}_{p^n}$$\mathbb{F}_p$の代数閉包に含まれるとしてよい.$m|n$のとき$\mathbb{F}_{p^m}\subseteq\mathbb{F}_{p^n}$であり,$\mathbb{F}_{p^m}$,$\mathbb{F}_{p^n}$はそれぞれ$x^{p^m}-x=0$,$x^{p^n}-x=0$の解集合なので$x^{p^m}-x$$x^{p^n}-x$を割り切る.
  2. (1)によって$m|n$なる$m$に対し,$x^{p^m}-x $次数$m$の既約多項式を全て因子にもつことを示せば十分.もし$x^{p^m}-x$の因子にない次数$m$の既約多項式$f(x)$が存在するとする.$\mathbb{F}_{p}[x]$はPIDだから素イデアルは極大イデアルであり,$\mathbb{F}_p/(f(x))$は体である.これは拡大次数が$m$なので位数は$p^m$.前回の命題3からこの体の元は$\alpha^p=\alpha$を満たす.
    $\mathbb{F}_p[t]\to\mathbb{F}_p[x]/(f(x))$,$p(t)\mapsto p(x)$を考える.この写像の核は全体ではなく,$f(x)$はこの核に含まれる.さらに$x^{p^m}-x=0$なので$t^{p^m}-t$もこの核に含まれる.$\mathbb{F}_p[t]$はPIDで$f(t)$は既約だから,核は$(f(x))$で与えられる.よって$t^{p^m}-t$$f(t)$で割り切れる.これは矛盾である.
  3. $m$$n$の約数でなく,$\mathbb{F}_p$上既約な次数$m$の多項式$f(x)$$x^{p^n}-x$の因子になると仮定する.(2)から$f(x)$$x^{p^m}-x$の因子にも含まれ,$f(x)=0$の全ての解は$\mathbb{F}_{p^m}$,$\mathbb{F}_{p^n}$の両方に属する.$K=\mathbb{F}_{p^m}\cap \mathbb{F}_{p^n}$とおくと$K $は加減乗除で閉じているので$\mathbb{F}_{p^m}$,$\mathbb{F}_{p^n}$の共通の部分体である.よって前回の定理5によりある$k\in\mathbb{Z}_{>0}$が存在して$K=\mathbb{F}_{p^k}$,$k|m$,$k|n$である.一方で$f(x)=0$の全ての解が$K$に属することから$x^{p^k}-x$$f(x)$を因子にもち,$f(x)$$\mathbb{F}_{p}$上既約で次数$m$だから$k\geq m$.従って$k=m$であり,$m|n$となって矛盾する.
    (4)もし,$x^{p^n}-x $$1$次以上の多項式$f(x)$の平方を因子にもったと仮定すると
    $x^{p^n}-x=f(x)g(x)$,$g(x)\in \mathbb{F}_p[x]$と表され,この両辺を微分すると,標数が$p$であることから$-1=f(x)(2f^\prime(x)g(x)+f(x)g^\prime(x))$となって矛盾する.$\Box$

これで$x^{p^n}-x$の因数分解に現れる既約多項式の個数を数えればよいことがわかりました.因数分解に現れる既約多項式の次数全ての和が$p^n$に一致することがわかっているのでこれを使って個数を求めます.

メビウス関数

メビウス関数$\mu:\mathbb{Z}_{>0}\to \mathbb{C}$とは,$n$がある素数の$2$乗で割り切れるとき$\mu(n)=0$,$p_1,p_2,\dots,p_t$が相異なる素数なら$\mu(n)=(-1)^{t}$と定めることで得られる関数である.

メビウス関数は次の著しい性質を持ちます.

$\displaystyle\sum_{d|n} \mu(d)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 1\ (n=1) \\ 0\ (n>1) \end{array} \right. \end{eqnarray} $

まず,$m,n>1$が互いに素であるとき$\mu(mn)=\mu(m)\mu(n)$であることを示す.$m$または$n$がある素数の$2$乗で割り切れれば$mn$もその素数の$2$乗で割り切れるので$\mu(mn)=0$である.$m,n$がどの素数の$2$乗でも割り切れなければ,異なる素数$p_1,\dots,p_t$,$q_1,\dots,q_s$により$n=p_1\cdots p_t$,$m=q_1\cdots q_s$と表せる.$mn$の素因子の数は$t+s$となるので$\mu(n)=(-1)^t$,$\mu(m)=(-1)^s$,$\mu(mn)=(-1)^{s+t}$.よって$\mu(m)\mu(n)=\mu(mn)$.
次に$F(n)=\displaystyle\sum_{d|n} \mu(d)$とおく.$m,n $が互いに素であるとき$F(mn)=F(m)F(n)$であることをみる.$n=p_1^{a_1}\dots p_t^{a_t}$,$m=q_1^{b_1}\dots q_s^{b_s}$を素因数分解とする.ただし,$p_1,\dots,p_t,q_1,\dots,q_s$は全て異なる素数で$a_1,\dots,b_s>0$.$mn$の約数と$m$,$n$の約数の組が一対一に対応することをみる.$d$$mn$の約数なら$d=p_1^{\alpha_1}\cdots p_t^{\alpha_t}q_1^{\beta_1}\cdots q_s^{\beta_s}$,($\alpha_1\leq a_i,\beta_j\leq b_j$)という形である.$d_1=p_1^{\alpha_1}\cdots p_t^{\alpha_t}$,$d_2=q_1^{\beta_1}\cdots q_s^{\beta_s}$とおくと$d=d_1 d_2$,$d_1|m$,$d_2|n$である.逆に$d=d_1 d_2$,$d_1|n$,$d_2|m$なら$d_1|d$なので$d_1$の素因数分解で$p_i$のべきは$\alpha_i$以下だが,$\alpha_i$より真に小さければ$p_i$$d_2$の素因数分解に現れなければならない.しかし,$d_2|m$なのでこれは矛盾である.
従って$d_1=p_1^{\alpha_1}\cdots p_t^{\alpha_t}$,$d_2=q_1^{\beta_1}\cdots q_s^{\beta_s}$.また$d_1|n$,$d_2|m$なら$d_1 d_2|mn$.よって
$F(mn)=\displaystyle\sum_{d|mn} \mu(d)=\sum_{d_1|n,d_2|m}\mu(d_1 d_2)$.$d_1,d_2$は互いに素なので
$\mu(d_1 d_2)=\mu(d_1)\mu(d_2)$である.従って
$\displaystyle\sum_{d_1|n,d_2|m}\mu(d_1 d_2)=\sum_{d_1|n,d_2|m}\mu(d_1 )\mu(d_2)=F(m)F(n)$.
これにより$n$は素数べきであるとして示せばよい.$p$を素数,$a>0$として
$\displaystyle\sum_{d|p^a}\mu(d)=\mu(1)+\mu(p)+\cdots+\mu(p^a)=1-1+0+\cdots+0=0$.$\Box$

上の証明内で示した次の性質を持つ関数を乗法的関数といいます.

乗法的関数

$f:\mathbb{Z}_{>0}\to \mathbb{C}$が乗法的関数であるとは$f(1)=1$であり互いに素な整数$m,n$に対し$f(mn)=f(m)f(n)$を満たすもののことをいう.

つまり,メビウス関数は乗法的関数です.さらに,上で示したメビウス関数の$n$の約数に渡る和が再び乗法的関数になるという事実は,一般の乗法的関数に対して成り立ちます.証明も同様です.
さらに,次の反転公式により$n$の約数を渡る総和がわかっていれば$n$での値がわかります.

メビウスの反転公式

$f:\mathbb{Z}_{>0}\to \mathbb{C}$を関数とする.$F(n)=\displaystyle\sum_{d|n} f(d)$と定義すると,$f(n)=\displaystyle\sum_{d|n}\mu(d)F(\dfrac{n}{d})=\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})F(d)$.

$d$$\dfrac{n}{d}$で置き換えることにより$\displaystyle\sum_{d|n}\mu(d)F(\dfrac{n}{d})=\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})F(d)$となる.よって$f(n)=\displaystyle\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})F(d)$を示す.$F(n)$の定義より$\displaystyle\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})F(d)=\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})\sum_{e|d}f(e)$となる.$d|n$$e|d$の組を考えることは$d=ed_1$とおくと$e|n$$d_1|\dfrac{n}{e}$($d$$e$で割った値)を考えることと同じである.よって
$\displaystyle\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})\sum_{e|d}f(e)=\sum_{e|n}f(e)\sum_{d_1|\dfrac{n}{e}}f(\dfrac{n}{ed_1})=\sum_{e|n}f(e)\sum_{d_1|\dfrac{n}{e}}f(d_1)$.
命題2から$\dfrac{n}{e}=1$となる$e$つまり$e=n $だけ考えればよい.従って
$\displaystyle\sum_{e|n}f(e)\sum_{d_1|\dfrac{n}{e}}f(d_1)=f(n)$.$\Box$

こうしてついに目標であった式を得ます!

既約多項式の個数

$\mathbb{F}_p$上のモニックで既約な$n$次多項式の個数を$N_n$とする.
$N_n=\dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})p^d$である.

定理1から$x^{p^n}-x$の因数分解には$n$の約数である$d$に対し$d$次既約多項式が全てちょうど1回現れ,他の次数の既約多項式は現れない.それらの次数を足し合わせれば$p^n$であるから$\displaystyle\sum_{d|n}dN_d=p^n$.これにメビウスの反転公式を用いて$nN_n=\displaystyle\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})p^d$.よって$N_n=\displaystyle\dfrac{1}{n}\sum_{d|n}\mu(\dfrac{n}{d})p^d$.$\Box$

位数を$p^n$に置き換えることで他の有限体上の既約多項式でも同様だと考えられます.
最後に任意に$\epsilon>0$をとるとき$m^\prime$$m>m^\prime$なら$\dfrac{(\log_2{m}+1)^{(\log_2{m}+1)}}{p^{\dfrac{m}{2}}}<\epsilon$をみたすようにとると$\left|\dfrac{N_n}{\dfrac{p^n}{n}}-1\right|<\epsilon$であることがわかります.実際$m=p_1^{a_1}\cdots p_n^{a_n}$とおくとき$a_i$は高々$\log_2 m$,$n$も高々$\log_2 m$なので$p^{\dfrac{m}{2}}$以下で割られた数が高々$(\log_2{m}+1)^{(\log_2{m}+1)}$個出ます.

参考文献: 元祖ワシ的日記 有限体の既約多項式の数を求める
大阪うたら通信 有限体の勉強 〜素体上の既約多項式への分解〜
wikipedia 素数定理
整数論1,雪江明彦,日本評論社,2013

投稿日:2024113
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