この記事は 🐟️🍊みかん🍊🐟️様のこの記事 を参考にしています。
この記事
にもある通り、例えば$\ln 5$を近似しようとして、
$$\dfrac{1}{5}\int_{0}^{4}x^n(1-x)^n\: dx <\int_{0}^{4}\dfrac{x^n(1-x)^n}{1+x} < \int_{0}^{4}x^n(1-x)^n\: dx$$
と不等式を作ったとしても、$n=2,4,8$で順に、(大体)
\begin{align}
0.9166 &< \ln 5 < 20.5834\\
-6.6131 &< \ln 5 < 387.721\\
-2275.5 &< \ln 5 < 267854.5\\
\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad
\end{align}
みたいに全然うまくいかないのです。直接それだけを求めるというのは結構無理そうなので少しだけ変えた手法で近似しようと思います。
とはいえ仕組みは結構単純なもので、$\displaystyle\int_{0}^{1}\dfrac{x^n(1-x)^n}{1+x}\: dx$の分子は変えずに分母をいじるだけです。
例えば$\ln 3$を求めたいなら
$$\dfrac{1}{3}\int_{0}^1x^n(1-x)^n\: dx< \int_{0}^1\dfrac{x^n(1-x)^n}{2+x}\: dx < \dfrac{1}{2}\int_0^1x^n(1-x)^n\: dx$$
とすればいいだけです。
この式を見た瞬間に分かる人もいるとは思いますが、この積分、$\ln 2$と$\ln 3$が両方とも出るので$\ln2$の近似が必要ですし、なんならその誤差をそのまま持ち越します。
まず$\ln 2$の近似が必要なので
$$\dfrac{1}{2}\int_0^1x^n(1-x)^n \: dx< \int_0^1\dfrac{x^n(1-x)^n}{1+x}\: dx < \int_0^1x^n(1-x)^n\: dx$$
で近似します。$\ln3$等々を近似するときに必要になるので、ここは精度よく$n=8$にしましょう。(ちなみに計算結果は
参考の記事
にもあります。)
$$\dfrac{1}{2}\int_0^1x^8(1-x)^8\: dx = \dfrac{8!8!}{2\times17!} = \dfrac{1}{437580}\quad (こっそりベータ関数の公式を使用しています。)$$であることと、
\begin{eqnarray*}\
&&\int_{0}^{1}\dfrac{x^8(1-x)^8}{1+x}\: dx = \int_{0}^{1}\left\{x^{15}-9x^{14}+37x^{13}-93x^{12}+163x^{11}-219x^{10}+247x^9-255x^8\right.\\
&&\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad \left.+256(x^7-x^6+x^5-x^4+x^3-x^2+x-1)+\dfrac{256}{1+x}\right\}\: dx\\
&&= \left[\dfrac{x^{16}}{16}-\dfrac{3x^{15}}{5}+\dfrac{37x^{14}}{14}-\dfrac{93x^{13}}{13}+\dfrac{163x^{12}}{12}-\dfrac{219x^{11}}{11}+\dfrac{247x^{10}}{10}-\dfrac{85x^9}{3}+32x^8\right.\\
&&\qquad\qquad\qquad\qquad\left.-\dfrac{256x^7}{7}+\dfrac{128x^6}{3}-\dfrac{256x^5}{5}+64x^4-\dfrac{256x^3}{3}+128x^2-256x+256\ln (1+x)\right]_{0}^{1}\\
&&= 256\ln 2 -\dfrac{42629549}{240240}
\end{eqnarray*}であることから、
$$\dfrac{1}{437580} < 256\ln 2 -\dfrac{42629549}{240240} < \dfrac{2}{437580}$$
$$\dfrac{1}{256}\left(\dfrac{1}{437580}+\dfrac{42629549}{240240}\right) < \ln 2 < \dfrac{1}{256}\left(\dfrac{2}{437580}+\dfrac{42629549}{240240}\right)$$
$$(適当な小数表示\quad 0.6931471775 < \ln 2 < 0.6931471864)$$
これを基に$\ln 3$を計算するのですが、$n=8$で計算すると
$$\dfrac{1}{1102449553920}+\dfrac{98165766053}{242106568704}+\ln2 < \ln 3 < \dfrac{1}{734966369280}+\dfrac{98165766053}{242106568704}+\ln2$$
となり$\ln2$の7桁精度に見合わないくらい高い精度で出てきてしまいます。
(適当な小数表示 $1.09861228562 < \ln 3 < 1.09861229455$ ほぼ$\ln 2 $の誤差しか残ってないことが分かる)
ここでこの謎を解明するために$x^n(1-x)^n$を$m+x$で割った余りに着目したいと思います。
$n,m$を整数とする。$x^n(1-x)^n$を$m+x$で割った余りの絶対値は$m^n(m+1)^n$である。
$(-1)^nx^{2n}+(-1)^{n-1}\combin{n}{1}x^{2n-1}+(-1)^{n-2}\combin{n}{2}x^{2n-2}+\cdots +x^n$を$x+m$で割る操作を筆算式で考えるとき、計算途中の余り(みたいなもの)を追うと、
$(-1)^{n-1}(m+\combin{n}{1})x^{2n-1}$、$(-1)^{n-2}(m^2+\combin{n}{1}m + \combin{n}{2})x^{2n-2}\cdots$と変化していき、$x^n$の項まで計算したときの余り(みたいなもの)の係数は、
$$\sum_{k=0}^n\combin{n}{k}m^k = (m+1)^n$$となる。あとは、$x^{n-1}$の項から定数項まで係数が$0$であることを考えると、余り(みたいなもの)は順に$-m$倍されていくので、最終的な余りは
$(-1)^n\cdot m^n(m+1)^n$と表せる。
書き方が下手なんじゃ。まぁつまり何が言いたいかというと、$m$の値が大きくなるほど、積分した際の$\ln (m)$の係数が存外大きくなるということです。求める際にはその係数で割るので、思ったより精度良く出てしまうということだったんですね。
$\ln (m)$の近似を既知とし、その誤差(上限と下限の差)を$\varepsilon_m$とする。このとき、$\ln (m+1)$の近似は
$$\dfrac{1}{m+1}\int_0^1x^n(1-x)^n \: dx< \int_0^1\dfrac{x^n(1-x)^n}{m+x}\: dx < \dfrac{1}{m}\int_0^1x^n(1-x)^n \: dx$$で計算でき、その誤差$\varepsilon _{m+1}$は
$$\varepsilon_{m+1} = \dfrac{n!n!}{m^{n+1}(m+1)^{n+1}(2n+1)!}+\varepsilon_m$$で与えられる。
とりあえず一般化したもの。ベータ関数の公式使うと結構すっきりしますね。
ちなみに降順もいけます。
$\ln (m+1)$の近似を既知とし、その誤差(上限と下限の差)を$\varepsilon_{m+1}$とする。このとき、$\ln (m)$の近似は
$$\dfrac{1}{m+1}\int_0^1x^n(1-x)^n \: dx< \int_0^1\dfrac{x^n(1-x)^n}{m+x}\: dx < \dfrac{1}{m}\int_0^1x^n(1-x)^n \: dx$$で計算でき、その誤差$\varepsilon _{m+1}$は
$$\varepsilon_{m} = \dfrac{n!n!}{m^{n+1}(m+1)^{n+1}(2n+1)!}+\varepsilon_{m+1}$$で与えられる。
ということでこちらの問題です。
$156<5^\pi < 157$を示せ。 (国際信州学院大学 '22 改)
$5^\pi$は整数か。のままだといろいろ大変ですのでこうしました。
この問題は言い換えると
$$\dfrac{\ln 156}{\ln 5} < \pi < \dfrac{\ln 157}{\ln5}$$
を示せばよいことになるので、早速近似の準備をしましょう。
$\ln 2$と$\ln 3$の近似はさっきのを使いまわします。計算量を出来るだけ削減したいならば$\ln 3$の近似は$n=7とかn=6$でも十分です。
$\ln 5$は$\ln 4$の近似値が分かれば求められますが$\ln 4 =2\ln 2$なのでもうわかってますね。$\dfrac{4!4!}{9!\times 20^5}\approx 5\times 10^{-10}$なので$n=4$で十分。
予め$20^4$で割ってあげると計算が楽です。
$$\dfrac{1}{20^4\cdot 5 \cdot 630}+2\ln 2<\ln 5 +\dfrac{1}{20^4}\left(\dfrac{1}{8}-\dfrac{8}{7}+\dfrac{38}{6}-\dfrac{156}{5}+\dfrac{625}{4}-\dfrac{2500}{3}+5000-40000\right)<\dfrac{1}{20^4\cdot 4 \cdot 630}+2\ln 2$$
(小数表示$1.6094379060 < \ln 5 <1.6094379244$)
$\ln 156 = \ln(2^2\cdot 3\cdot 13)=2\ln 2 +\ln 3 +\ln 13$なので$\ln 13$の近似値が分かればよいです。
$\ln 13$の近似をするために$\ln 12$の値が必要ですが、$\ln12 = 2\ln 2 + \ln 3$なので分かっていますね。$\dfrac{3!3!}{7!\times (12\times 13)^4}\approx 10^{-11}$から$n=3$で十分。色々整理して、
$$\dfrac{1}{156^3}\left(\dfrac{3646505}{12}-\dfrac{1}{12\cdot 140}\right)+2\ln 2 +\ln 3 <\ln 13 < \dfrac{1}{156^3}\left(\dfrac{3646505}{12}-\dfrac{1}{13\cdot 140}\right)+2\ln 2 +\ln 3$$
(小数表示$2.5649493482<\ln13<2.5649493751$)
よって、
$$5.0498559888 < \ln 156 < 5.0498560425$$
であることが分かる。
といっても$\ln 156$が近似できているのでさっきの公式をそのまま使うだけです。ここまで$m$の値が大きければ$n=1$でも十分です。
$$\dfrac{1}{156\cdot 157}\left(\dfrac{313}{2}-\dfrac{1!1!}{3!\cdot 156}\right)+\ln 156 < \ln 157 < \dfrac{1}{156\cdot 157}\left(\dfrac{313}{2}-\dfrac{1!1!}{3!\cdot 157}\right)+\ln 156$$
(小数表示:$5.0562457867<\ln 157 < 5.0562458407$)
上記から、$$\dfrac{\ln 156}{\ln 5}<\dfrac{5.0498560425}{1.6094379060} < 3.13765199$$
$$\dfrac{\ln 157}{\ln 5}>\dfrac{5.0562457867}{1.6094379244}>3.14162212$$
であり、$\pi$は、
参考の記事
から、($n=2$の場合を引用して、)
$3.14159231<\pi<3.1415929$
(近似の方法の説明は上記の記事に丸投げします。すみません。)
であるので、
$\dfrac{\ln 156}{\ln 5}<\pi<\dfrac{\ln157}{\ln 5}$が示された。
まだ結構余裕があるので計算量減らせそうですね。
$7$月$14$日は本学初代学長コナン・ロシュフォールの誕生日である.$2^n$の 先頭$3$桁が$714$となるような正の整数$n$が存在することを示せ.ただし,$n=1800$がそのような$n$であることを示すために$2^{1800}$を直接手計算する, という証明方法も認める.
(R6 国際信州学院大学理学部)
また国際信州学院大学です。
これも
$\log_{10}7.14 \leq 1800\log_{10}2 -\lfloor1800\log_{10}2\rfloor<\log_{10}7.15$
$\dfrac{\ln 714}{\ln 10}-2 \leq 1800\dfrac{\ln 2}{\ln10}-\left\lfloor1800\dfrac{\ln 2}{\ln 10}\right\rfloor < \dfrac{\ln 715}{\ln 10} -2$
を示せれば良いです。
(おまけ1までの計算結果は使いまわします。)
$\ln 10$は$\ln 2 +\ln5$で表せるので、
$$2.3025850835 < \ln 10 < 2.3025851108$$
となります。
$715 = 5\times 11 \times 13$より$\ln 11$が求まれば$\ln 715$が求まります。
$\ln12\rightarrow \ln11、n=3$で近似すると
$$\dfrac{1}{132^3}\left(\dfrac{1}{12\times 140}-\dfrac{12007403}{60}\right) + \ln 12 < \ln 11 < \dfrac{1}{132^3}\left(\dfrac{1}{11\times 140}-\dfrac{12007403}{60}\right) + \ln12$$
(小数表示$2.3978952636 < \ln 11 < 2.3978952904$)
$\ln 715 = \ln5 + \ln11+\ln13$より
$$6.5722825178 < \ln 715 < 6.5722825899$$
$\ln 715 \rightarrow \ln 714$,$n=1$で近似すると
$$\dfrac{1}{714\cdot715}\left(\dfrac{1!1!}{3!\cdot 715}-\dfrac{1429}{2}\right)+ \ln 715 < \ln 714 < \dfrac{1}{714\cdot 715}\left(\dfrac{1!1!}{3!\cdot 714}-\dfrac{1429}{2}\right)+\ln 715$$
(小数表示:$6.5708829379 < \ln 714 < 6.5708830101$)
$$\dfrac{\ln 714}{\ln 10}-2 < \dfrac{6.5708830101}{2.3025850835}-2 <0.85369824429$$
$$\dfrac{\ln 715}{\ln 10}-2 > \dfrac{6.5722825178}{2.3025851108} > 0.85430600891$$
$$0.85398561295 < 1800\dfrac{\ln2}{\ln 10}-\left\lfloor1800\dfrac{\ln 2}{\ln 10}\right\rfloor < 0.85399899469$$
であるから、
$$\dfrac{\ln 714}{\ln 10}-2<0.85369824429<0.85398561295 < 1800\dfrac{\ln 2}{\ln 10}-\left\lfloor1800\dfrac{\ln 2}{\ln 10}\right\rfloor < 0.85399899469< 0.85430600891 < \dfrac{\ln 715}{\ln 10}-2$$
よって示された。
これが出来ることによって$p,q$を有理数($q>0$)としたとき、$\ln p$とか$\log_{q}p$とかの近似が高校範囲でできます。実用性までは考えてません。あとこれやってると昔やってたマージゲームを思い出します。若干違うけど。そして 🐟️🍊みかん🍊🐟️ 様には大変感謝です。
計算ミス等があれば教えてください。
各学部の過去問 | 国際信州学院大学, 閲覧日2024年9月3日https://kokushin-u.jp/prospective-student/past-questions/
円周率を積分で近似計算する | 🐟️🍊みかん🍊🐟️, 閲覧日2024年9月3日 https://mathlog.info/articles/F5qZheDGn1M44uI6BFaD