3

一次分数変換

144
0
$$\newcommand{bm}[0]{\boldsymbol} \newcommand{C}[0]{\mathbb C} \newcommand{GL}[0]{\operatorname{GL}_2(\C)} \newcommand{m}[1]{\left(\matrix{#1}\right)} \newcommand{o}[2]{\ordi{#1}{#2}{}} \newcommand{ok}[2]{\ordi{}{#1}{#2}} \newcommand{ordi}[3]{\frac{d #1^{#3}}{d #2^{#3}}} \newcommand{p}[2]{\part{#1}{#2}{}} \newcommand{part}[3]{\frac{\partial #1^{#3}}{\partial #2^{#3}}} \newcommand{pk}[2]{\part{}{#1}{#2}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{Res}[0]{\operatorname{Res}} \newcommand{SL}[0]{\operatorname{SL}_2(\C)} $$

はじめに

今回からシリーズとして,連分数について色々書いていきたいと思う.個人的に連分数の導入として自然なものが二つあるので,今回の記事では一次分数変換による導入を,次回の記事ではまた別の導入を行うことにする.今回の記事では,主に連分数の収束性を述べる.次回以降では級数と連分数の関係について,いくつか述べていき,その後通常の連分数とは異なる,連分数の類似について現在知られたことをまとめる予定である.

一次分数変換

まず,複素数成分の$2$次行列のうち,行列式の値が$0$でないものを$\GL$で表し,行列式の値が$1$であるものを$\SL$で表す.即ち,
\begin{align} \GL&=\left\{A=\m{a&b\\c&d}:a,b,c,d\in\C,\det A\ne0\right\}\\ \SL&=\left\{A=\m{a&b\\c&d}:a,b,c,d\in\C,\det A=1\right\} \end{align}
である.以下この記事では,特記なき限り$A,B,C\dots$のような大文字を行列の元を表すことにし,$a,b,c,\dots$のような小文字で複素数の元を表すことにする.簡単に次の命題がわかる.

$\GL,\SL$は単位行列$I$を単位元として,行列の積に関して群をなす.

また,重要なこととして,一次分数変換の合成と写像の積が対応することが知られている.即ち,次の命題が成立する.

$A=\m{a&b\\c&d}\in\GL$$z\in\C$に対して,
$$ Az=\frac{az+b}{cz+d} $$
と定める.但し,$\hat\C$としての自己同型になるように 
\begin{align} A(\infty)&=\begin{cases}\frac ac&c\ne0\\\infty&c=0\end{cases}\\ A(-d/c)&=\infty\qquad c\ne0 \end{align}
と定めておく.このとき,
$$ (AB)z=A(Bz) $$
が成立する.

これは,単純な計算のみであるため証明は省略する.ここで,仮に結合律を完全に認めるのであれば
$$ c(Az)=(cA)z=Az $$
となるので(最後の等号は約分に相当する),適当な定数因子を書けることによって一次分数変換という立場においては$\GL$の元であっても$\SL$の元とみなしてもよいことになる.従って,以下では一般の$A\in\GL$に対して
$$ A=\frac 1{(\det A)^\frac12}A\in\SL $$
の意味のことと了解することにする.(指数は主値をとる)

連分数

さて,一次分数変換の合成によって連分数を表記することができる.具体的には,
$$ A_n=\m{a_n&b_n\\1&0} $$
とおくことによって,相乗記号は右側から次々にかけていくものとすれば
\begin{align} \left(\prod_{n\ge k\ge0}A_k\right)z &=(A_0A_1A_2\dots A_n)z\\ &=a_0+\frac{b_0}{a_1+\frac{b_1}{a_2+\frac{b_2}{a_3+\frac{b_3}{\ddots\frac{}{a_n+\frac{b_n}z}}}}} \end{align}
と表せることになる.このようにして,一般の連分数を記述することができることになる.上記式で$n\to\infty$の極限をとることにより,無限連分数が行列の無限積の極限で表すことができる.ここで,
$$ \mathcal A_n=\prod_{n\ge k\ge0}A_k=\m{\alpha_n&\beta_n\\\gamma_n&\delta_n}\to\mathcal A(n\to\infty) $$
とおく.このとき,
\begin{align} \mathcal A0&=\lim_{n\to\infty}\frac{\beta_n}{\delta_n},\\ A\infty&=\lim_{n\to\infty}\frac{\alpha_n}{\gamma_n} \end{align}
となることから,"連分数"$\cal A$が一定の値に収束するためには少なくとも
$$ \lim_{n\to\infty}\frac{\beta_n}{\delta_n}=\lim_{n\to\infty}\frac{\alpha_n}{\gamma_n}=k\in\C $$
が成立する必要がある(このとき連分数は,収束するならば$k$に収束する).逆にこのような状況のとき,$\cal A z$$k$にいつでも収束するのであろうか.この疑問に答えるのが次の命題である.

上の状況で,
$$ \lim_{n\to\infty}\mathcal A_nz=k $$
が成立する.

数列$\{-\delta_n/\gamma_n\}$の集積点全体を$\aleph$とする.$z\in\C\setminus\aleph$であるとき,ある$\delta>0,n_0$に対し
$$ \frac1{\left\lvert z+\frac{\delta_n}{\gamma_n}\right\rvert}<\delta, \quad\forall n>n_0 $$
となるので,
\begin{aligned} |\mathcal A_nz-k| &=\left\lvert\mathcal A_nz-\frac{\gamma_n}{\delta_n}+\frac{\gamma_n}{\delta_n}-k\right\rvert\\ &\le\left\lvert\mathcal A_nz-\frac{\gamma_n}{\delta_n}\right\rvert+\left\lvert\frac{\gamma_n}{\delta_n}-k\right\rvert\\ &=\frac{\left\lvert\frac{\alpha_n}{\beta_n}-\frac{\gamma_n}{\delta_n}\right\rvert\left\lvert z\right\rvert}{\left\lvert z+\frac{\delta_n}{\gamma_n}\right\rvert}+\left\lvert\frac{\gamma_n}{\delta_n}-k\right\rvert\\ &\le\left(\left\lvert\frac{\alpha_n}{\beta_n}-k\right\rvert+\left\lvert\frac{\gamma_n}{\delta_n}-k\right\rvert\right)|z|\delta+\left\lvert\frac{\gamma_n}{\delta_n}-k\right\rvert \end{aligned}
となることと,
$$ \lim_{n\to\infty}\frac{\beta_n}{\delta_n}=\lim_{n\to\infty}\frac{\alpha_n}{\gamma_n}=k $$
であることから,所望の命題が従う.

この命題は連分数の収束性の必要十分条件を与えているともいえる.つまり,連分数が収束するような状況では$\lim_{n\to\infty}\mathcal A_nz$$z$に依存しない.なので,単に
$$ k=\mathcal A=\prod_{n\ge0}A_n $$
のように書くこととする.記号の濫用ではあるが,混乱は起こらないであろう.これによって,収束無限連分数の特殊値問題は,行列の積から生成される漸化式で定義される数列の極限値を求める問題に帰着されることになる.(とは言っても,あまり簡単にはなっていないが)

具体例

先の章だけでは,行列表現の有用性が分かりにくくなっていたと思うので,ここまでの知識のみで分かる具体例について述べることにする.

$$ \prod_{n\ge1}\m{a&b\\1&0}=\frac{a+\sqrt{a^2+4b}}{2} $$
が成り立つ.

$\cal A_n$を求める.まず
\begin{align} \m{\alpha_{n+1}&\beta_{n+1}\\\gamma_{n+1}&\delta_{n+1}}=\m{a&b\\1&0}\m{\alpha_n&\beta_n\\\gamma_n&\delta_n} \end{align}
なので,漸化式
\begin{cases} \alpha_{n+1}=a\alpha_n+b\gamma_n\\ \beta_{n+1}=a\beta_n+b\delta_n\\ \gamma_{n+1}=\alpha_n\\ \delta_{n+1}=\beta_n \end{cases}
を考えればよい.$\alpha,\beta$の漸化式で考えると,
\begin{cases} \alpha_{n+2}=a\alpha_{n+1}+b\alpha_n\\ \beta_{n+2}=a\beta_{n+1}+b\beta_n \end{cases}
ここで,$x^2-ax-b=0$の解を$t=\frac{a+\sqrt{a^2+4b}}{2},s=\frac{a-\sqrt{a^2+4b}}{2}$とおくと,定数係数線形差分方程式の解の一般論から,ある定数$x,y,z,w$があって
$$ \alpha_n=xs^n+yt^n,\beta_n=zs^n+wt^n $$
のように書けることになる.よって,
\begin{align} \lim_{n\to\infty}\frac{\beta_n}{\delta_n} &=\lim_{n\to\infty}\frac{\beta_{n+1}}{\beta_n}\\ &=\lim_{n\to\infty}\frac{zs^{n+1}+wt^{n+1}}{zs^n+wt^n}\\ &=s,\\ \lim_{n\to\infty}\frac{\alpha_n}{\gamma_n} &=\lim_{n\to\infty}\frac{\alpha_{n+1}}{\alpha_n}\\ &=\lim_{n\to\infty}\frac{xs^{n+1}+yt^{n+1}}{xs^n+yt^n}\\ &=s. \end{align}
となることから,命題3によって命題が従う.

特に,$a=b=1$とすることでよく知られた
$$ \phi=1+\frac1{1+\frac1{1+\frac1{1+\frac1\ddots}}} $$
を得ることができる.

投稿日:317
更新日:317

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

怠惰なB1らしいです.どうしてB1になってしまったのであろうか

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中