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大学数学基礎解説
文献あり

sl(n,F)の単純性の証明

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 以下、体Fの標数は2でない0とします。
今回は、(自然な)証明を思いついたので書き起こしました。

sln(F)の単純性

 特殊線型Lie代数sln(F)n2のとき、単純である。

この定理を示すのがこの記事の目的です。

定義の復習

まず、sln(F)と単純の定義を復習します。

特殊線型Lie代数 sln(F)

 sln(F):={Xgln(F)|TrX=0}

単純

Lie代数Lが単純であるとは、Lのイデアルは自明なもの({0}またはL)のみであることをいう。

定理の証明のために、よく出会うかっこ積の計算結果を公式として述べます。

 Eij,Eklgln(F)=Mn(F)とする。
 このとき、[Eij,Ekl]=δjkEilδliEkjが成り立つ。

定理の証明

 まず、sln(F)の基底を書き下そう。
{Eij|ij}{EiiEnn|in}(この2種類に基底を分けるのは大事!)

さて、Isln(F)のイデアルで、I{0}とする。このとき、I=sln(F)となることを示す。(単純性を示すにはこれが常套手段です。)

I{0}より、I0でない元Xがとれる。Xを上の基底で成分表示すると、

X=klaklEkl+k=1n1bk(EkkEnn)

これを使って、ijのときのad(Eij)2(X)を計算する。

 ad(Eij)2(Ekl)=ad(Eij)([Eij,Ekl])=ad(Eij)(δjkEilδliEkj)
ijより、
 [Eij,Eil]=δjiEilδliEij=δliEij
 [Eij,Ekj]=δjkEijδjiEkj=δjkEij
よって、
 ad(Eij)2(Ekl)=δjk(δliEij)δli(δjkEij)=2δjkδliEij
これより、
 ad(Eij)2(EkkEnn)=2δjkδkiEij+2δjnδniEijだが、
ijより、δjkδki=δjnδni=0
したがって、ad(Eij)2(EkkEnn)=0

以上より、ad(Eij)2(X)=klakl(2δjkδliEij)+0=2ajiEij

aji0のとき EijIとなる。
ki,jのとき [Eki,Eij]=EkjδjkEii=Ekj
まとめると、jを固定して、kjのときEkjI
さらに、lj,kのとき [Ejl,Ekj]=δlkEjjEkl=Ekl
まとめると、kを固定して、lkのとき EklI
これにより、EijIからEklI(kl)がわかる。

knのとき、EnkIなので、[Ekn,Enk]=EkkEnn
つまり、knのとき、EkkEnnI
以上より、Isln(F)の基底を含むので、I=sln(F)がわかる。

すべてのijについてaij=0のとき 
あるknが存在して、EkkEnnIとなる。
このとき、ad(Ekn)(EkkEnn)=2Eknより、EknI
したがって、直前の議論に帰着され、I=sln(F)となる。
すなわち、sln(F)のイデアルは自明なものに限る。
以上より、sln(F)は単純である。

補足

Fの標数が2でないという条件は、かっこ積の計算で出てきた係数の2で割るために必要な仮定です。
Fの標数がnのとき、Insln(F)となり、スカラー行列の全体という非自明なイデアルが存在するので、定理が成り立たず、標数を0という仮定に直しました。行列のサイズと体の標数の関係がうまくいけば、スカラー行列を含まないようにできるので、もう少し仮定はゆるくできるはずだと思います。
また、参考文献ではsl2(F)の場合を証明していましたが、sln(F)のルート分解や同時固有ベクトルの結果を知っていると上の計算はそんなに突飛なものでは無いと思います。

参考文献

[1]
James E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory
投稿日:20241219
更新日:17
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  1. $\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})$の単純性
  2. 定義の復習
  3. 定理の証明
  4. 補足
  5. 参考文献