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有理数を使わない実数の構成

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昔から,クリスマスと正月を隣どうしに並べる意味がわからなかった.華やかで精気にあふれるクリスマスと,質素であまり活力のない正月は,真反対の性格をもつ.クリスマスの本家である古代ローマ人からすれば,$12$$25$日のうちにクリスマスツリーと家の装飾をしまいこみ,炬燵を出して,年末年始に飾り気のない料理を食べる日本の文化は異常と映ることだろう.

だからか,自分は$12$月中旬辺りからこうして炬燵に入っている方が落ち着く.勉強するべきことが溜まっている中,けばけばしい風習に加わる気など起こるわけもないと,数学書と勉強道具を見ながら思う.

先週から大学の冬休みに入った.普通ならこの時期は帰省や大掃除をするものだが,下半期にさんざん大学をサボっていた自分は,これまでのしわ寄せで冬休みの間に全部の授業の講義資料を見ながら試験勉強をする必要がある.

これまでと同じように,いくらか復習をすればそこそこの成績がとれることはわかっている.けれど,そろそろひとつの事を勉強し続けるのに飽きてきてしまった.

もともと,数学と家事以外の事をやる器量があるのでもない.かといって,試験の事を思い出すような何かをすれば嫌な気分になる.

そういうわけだから,試験から逃げる思いで,今日はある意味当たり障りのない実数の構成法について書こうと思う.どの大学であれ数学科の学生なら一年次の初期に習うものだが,実は,意外と周知されていない楽な方法がある.以前,とある人に教えてもらったプレプリントに書かれていた.その方法は,教科書によく出てくる Dedekind の切断や Cauchy 列の類別による定義と同じくらい単純で,面倒な証明が要らず,心持ちの悪いところがあまりない.

$\quad\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ $

実数の構成法といえば,大学に入ったばかりの頃にひとつ幽かな思い出がある.解析学の講義のあと黒板の前で手荷物の整理をしていた教授のところへ話しに行って,

「この授業では,実数の定義は紹介しないのですか」

と質問した.いや,正確にいえば,質問をしたのは私ではなく,偶然近くに居合わせていた同じクラスの学生で,私はその人と先生との会話を傍らの座席に座りながら盗み聞いただけなのだった.新参のわらべから飛んできた微妙に答えづらい質問に,教授がどう答えるのか興味があった.

教授は五秒から十秒くらい悩んでいる様子だったが,深慮の末に,答えを話し出した.

「教えていません.解析学を勉強する上では,Dedekind の切断の“公理”がわかれば十分ですから」

なるほど,ごもっともだと思った.

学生は,にわかに合点が行ったような声を出して,他人行儀な礼をしてから満足気に自分の荷物のところへ戻っていった.私もいい話を聞くことができて会心したので,教室を出ようというところだった.近くの席では,別の学生たちのグループが,「Dedekind の切断は“公理”として扱うよりも“定義”として扱うべきじゃないか」とか,「Dedekind の切断は古い方法だから要らないけれど,Cauchy 列による定義は要ると思う」とかと,集合論の売り文句のような言葉を並べながら,前方の席でディスカッションを続けている.

要るか要らないかといえば,どちらとも要らない.

初年の勉強には微積分の教養や証明の書き方を学ぶ方が向いている.無論,集合論の勉強は二年以降のためにも肝心だが,厳密になり過ぎてもいい事はない.高校数学の延長として数学を学びに来ているのなら,初年生は曲線論や初等整数論のような解像度の高い分野を好みそうなものだが,どうにも集合の公理や数の定義に傾倒するきらいがあると,通り過ぎながら思った.

$\quad\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ $

教授が話していた Dedekind の切断の公理というのは,実数全体の集合を$A$$B$に分割して,すべての$a\in A,b\in B$にたいして$a< b$となるようにしたとき,$A$が最大値をもち$B$は最小値をもたないか,または$A$は最大値をもたず$B$が最小値をもつ,というものである.実数の連続性や完備性とよばれる本質的な性質は,すべてこの公理を軸にして証明される.Dedekind 流の実数の構成法では,この文言が“公理”から“定理”になる.

大学一年の微積分を学ぶ場合,高校までと同じようにイメージ的な理解で済ませることもできるが,きちんとした論理を学ぶためには実数の性質を諸に扱う必要がある.そのためほとんどの講義ではまず実数の定義の仕方から習い始め,そこで諸性質を導出したあと数列の極限に入る.その点,先の教授の講義は変わっていたといえるだろう.確かに,証明の無駄を省くという観点からいえば,実数というものの集合論的な中身を知っている必要はないのだ.それがどんな性状のものかを知っておくだけで事足りる.

とはいうものの,大学三年になった今,自分のクラスの数学仲間に実数の定義を知らない者が居るかといえば,多分ひとりも居ないのが現実である.

一度要らないといわれても,何かと好奇心が湧いて調べてしまうのが物好きの性なのだろう.自分が元から知っていたのも,過去に調べたことがあったからである.

Dedekind の切断による定義も Cauchy 列による定義も,代数系の講義に出てくる他の概念と似通ったところがあってそれなりに面白いことは周知の通りである.集合論様の話題といえど,数学の領野であることは変わらない.大学初年次の貴重な時間を割いて学ぶ価値があるか否か$\cdots$というだけで,学んで悪いものではないのだ.

かくいう自分も,教授の口から「必要ない」という意味の言葉を聞いたときには,納得しつつも妙にもやリとした.自分の好物を「必要ない」といわれれば誰でも腹が立つ.よくよく考えれば,必要ないとまではいっていなかったかも知れないのだが,やはり,ある程度の数学好きなら一生に一度くらい勉強しておいても悪くはなかろうと思う.それが一番納得の行く答えだ.恐らくその事を解析の先生,質問に答えた教授は了解していながら,今の学生が過去に失敗した学生たちの轍を踏まないように謀ったのだろうと思う.

$\quad\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ $

これから書く実数の定義は,有理数の集合$\mathbb{Q}$を経由せずに,整数の集合$\mathbb{Z}$とその上の加法,乗法,大小関係のみを用いる.その点で Dedekind の切断や Cauchy 列の類別による定義よりも優良である.

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加法

$a\;\colon\;\mathbb{Z}\rightarrow\mathbb{Z}$傾きであるとは,集合
\begin{equation*} \{a(m+n)-a(m)-a(n)\mid m,n\in\mathbb{Z}\} \end{equation*}
が有界となることである.傾き全体の集合を$G$で表す.

$G$を点ごとの加法によって Abel 群とみなす.

すべての有界な傾きの集合を$H$とおくと,$H$$G$の部分群である.$\mathbb{R}=G/H$とおき,$\mathbb{R}$の元を実数という.

標準的な射影を$[\;\cdot\;]\;\colon\;G\rightarrow G/H,\ a\mapsto[a]$で表す.

すべての$n\in\mathbb{Z}$にたいして傾き$\mathbb{Z}\rightarrow\mathbb{Z},\ m\mapsto mn$を与える写像は単射な群準同型である.この準同型により,$\mathbb{Z}$$\mathbb{R}$の部分群とみなす.

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順序

つぎに,$\mathbb{R}$上の全順序$\leqslant$を定義する.

$a\in G$にたいし,$a$黒集合$B(a)$
\begin{equation*} B(a)=\bigl(a(\mathbb{Z}_{>0})\cap\mathbb{Z}_{<0}\bigr)\cup\bigl(a(\mathbb{Z}_{<0})\cap\mathbb{Z}_{ >0}\bigr) \end{equation*}
で定め,白集合$W(a)=B(-a)$で定める.

空でない$X,Y\subseteq\mathbb{Z}$にたいし,
\begin{equation*} X+Y=\{x+y\mid x\in X,y\in Y\} \end{equation*}
と書く.すると,すべての$a,b\in G$にたいし,
\begin{equation*} B(a+b)\subseteq B(a)+B(b) \end{equation*}
がなりたつ.

$[a]\in\mathbb{R}$とする.$B(a)$が有界であるとき,$0\leqslant[a]$と定める.

この定義が well-defined であることは実数の定義からわかる:$[a]=[b]\in\mathbb{R}$とすると,$b-a\in H$だから,$B(b-a)$は有界である.よって,$B(a)$が有界ならば,$B(b)\subseteq B(a)+B(b-a)$により,$B(b)$も有界である.

$[a],[b]\in\mathbb{R}$とする.このとき,

$(1)$ $0\leqslant0.$
$(2)$ $0\leqslant[a],\ 0\leqslant-[a]$ならば,$[a]=0.$
$(3)$ $0\leqslant[a],\ 0\leqslant[b]$ならば,$0\leqslant[a]+[b].$
$(4)$ $0\leqslant[a]$または$0\leqslant-[a].$

$(1)$ $B(0)=\emptyset$だから,$0\leqslant0.$

$(2)$ このとき,$W(a),B(a)$は有界だから,$a$は有界である.よって,$a\in H$であり,$[a]=0.$

$(3)$ このとき,$B(a),B(b)$は有界であり,$B(a+b)\subseteq B(a)+B(b)$だから,$B(a+b)$は有界である.ゆえに,$0\leqslant[a+b]=[a]+[b]$がなりたつ.

$(4)$ 何かうまい方法はないだろうか.$\Box$

以上から,$\mathbb{R}$上の全順序$\leqslant$が得られる.これが$\mathbb{Z}$の順序の拡張であること,すなわち$n< n+1\ (n\in\mathbb{Z})$がなりたつことは明らかである.

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整数部分

最初につぎの不等式を用意する.

$a\in G$とする.このとき,$t\in\mathbb{Z}^{>0}$が存在して,すべての$m,n\in\mathbb{Z}$にたいし,
\begin{equation*} -t(m+n)\leqslant ma(n)-na(m)\leqslant t(m+n). \end{equation*}

$\mathbf{1^\circ.}$ $a\in G$により,ある$t\in\mathbb{Z}^{>0}$が存在して,$m,n\in\mathbb{Z}$にたいし,
\begin{equation*} -t\leqslant a(m+n)-a(m)-a(n)\leqslant t.\quad(\ast) \end{equation*}

$\mathbf{2^\circ.}$ $m,n\in\mathbb{Z}$にたいし,
\begin{equation*} -nt\leqslant a(mn)-na(m)-a(0)\leqslant nt\quad(\ast\ast) \end{equation*}
を示す.$n=0$のときは明らかになりたつ.また,$m,n\in\mathbb{Z}$にたいし,$(\ast)$により,
\begin{equation*} -t\leqslant a(m(n+1))-a(mn)-a(m)\leqslant t. \end{equation*}
よって,再帰的に$(\ast\ast)$を得る.

$\mathbf{3^\circ.}$ $2^\circ$と同様に, $m,n\in\mathbb{Z}$にたいし,
\begin{equation*} -mt\leqslant a(mn)-ma(n)-a(0)\leqslant mt. \end{equation*}

$\mathbf{4^\circ.}$ 以上$2^\circ,3^\circ$により,命題の不等式を得る.$\Box$

$[a]<[b]$となる$[a],[b]\in\mathbb{R}$にたいし,$[[a],[b])$は半開区間を表す.

$n\in\mathbb{Z}_{>0}$にたいし,$\displaystyle[-n,n)=\bigcup_{k=-n}^{n-1}[k,k+1)$であり,右辺は非交和である.

$n$に関して帰納法を用いる.本筋から逸れるので,省略する.

$\displaystyle\mathbb{R}=\bigcup_{k\in\mathbb{Z}}^{\phantom{k}}[k,k+1)$であり,右辺は非交和である.

$\supseteq$は明らかだから,$\subseteq$を示す.

$[a]\in\mathbb{R}$を任意にとる.命題 2 により,$n\in\mathbb{Z}$にたいし,
\begin{equation*} -t(n+1)\leqslant a(n)-na(1)\leqslant t(n+1) \end{equation*}
だから,$s=\max\{t+a(1),t-a(1)\}$とおくと,$-s\leqslant[a]\leqslant s$がわかる.

ここから,$-s\leqslant[a]< s$または,$[a]=s$がなりたつ.よって,$[a]\in[-s,s)$または$[a]\in[s,s+1)$だから,前の命題により,$[a]$は右辺に属する.

したがって,所望の等式を得る.右辺が非交和であることは,前の命題から出る.$\Box$

$[a]\in\mathbb{R}$とする.前の命題により,$[a]\in[k,k+1)$をみたす$k\in\mathbb{Z}$がただひとつ存在する.この$k$$[a]$整数部分といい,$\lfloor[a]\rfloor$で表す.

$[a],[b]\in\mathbb{R}$とし,$[a]\leqslant[b]$とする.このとき,$\lfloor[a]\rfloor\leqslant\lfloor[b]\rfloor.$

整数部分の定義により,
\begin{equation*} \lfloor[a]\rfloor\leqslant[a]\leqslant[b]<\lfloor[b]\rfloor+1 \end{equation*}
であり,左辺と右辺は整数だから,$\lfloor[a]\rfloor\leqslant\lfloor[b]\rfloor.$ $\Box$

$[a]\in\mathbb{R}$とし,$b(n)=\lfloor n[a]\rfloor\ (n\in\mathbb{Z})$によって,$b\;\colon\;\mathbb{Z}\rightarrow\mathbb{Z}$を定める.このとき,$b\in G$であり,$[a]=[b].$

$\mathbf{1^\circ.}$ $b\in G$を示す.$m,n\in\mathbb{Z}$を任意にとる.このとき,整数部分の定義により,
\begin{align*} \begin{array}{rcl} -1<&b(m+n)-(m+n)[a]&\leqslant0,\\ 0\leqslant&m[a]-b(m)&<1,\\ 0\leqslant&n[a]-b(n)&<1 \end{array} \end{align*}
だから,
\begin{equation*} -1< b(m+n)-b(m)-b(n)<2. \end{equation*}
よって,$b\in G$が示された.

$\mathbf{2^\circ.}$ $[a]=[b]$を示す.

$n\in\mathbb{Z}$を任意にとる.命題 2 により,ある$t\in\mathbb{Z}^{>0}$が存在して,
\begin{equation*} -t(m+n)\leqslant ma(n)-na(m)\leqslant t(m+n)\quad(m\in\mathbb{Z}) \end{equation*}
だから,実数の順序の定義により,
\begin{equation*} -t\leqslant a(n)-n[a]\leqslant t \end{equation*}
がなりたつ.

また,整数部分の定義により,
\begin{equation*} 0\leqslant n[a]-b(n)<1. \end{equation*}

よって,
\begin{equation*} -t\leqslant a(n)-b(n)< t+1 \end{equation*}
だから,$a-b\in H$であり,$[a]=[b]$がなりたつ.$\Box$

この辺りは改良の余地がある.

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完備性

$A\subseteq\mathbb{R}$は上に有界とし,$A\neq\emptyset$する.このとき,$A$の上限が存在する.

$\mathbf{1^\circ.}$ $A$は上に有界だから,ある$[c]\in\mathbb{R}$が存在して,$[a]\leqslant [c]\ ([a]\in A)$がなりたつ.

すべての$[a]\in A$にたいし,$b_{[a]}\;\colon\;\mathbb{Z}\rightarrow\mathbb{Z}$$b_{[a]}(n)=\lfloor n[a]\rfloor\ (n\in\mathbb{Z})$で定めると,命題 6 により,$[a]=[b_{[a]}].$

同様に,$b_{[c]}\;\colon\;\mathbb{Z}\rightarrow\mathbb{Z}$$b_{[c]}(n)=\lfloor n[c]\rfloor\ (n\in\mathbb{Z})$で定めると,$[c]=[b_{[c]}].$

$\mathbf{2^\circ.}$ 以下,$A$の上限$[s]$に対応する傾き$s$を構成する.

$n\in\mathbb{Z}^{>0}$を任意にとる.命題 5 により,写像
\begin{equation*} \varphi_n\;\colon\;A\rightarrow\mathbb{Z},\ [a]\mapsto b_{[a]}(n) \end{equation*}
は非減少であり,かつ,$b_{[c]}(n)$$\varphi_n(A)$の上界である.よって,$\varphi_n(A)$は最大値$s(n)$をもつ.

つぎに,$n\in\mathbb{Z}^{<0}$を任意にとる.命題 5 により,写像
\begin{equation*} \varphi_n\;\colon\;A\rightarrow\mathbb{Z},\ [a]\mapsto b_{[a]}(n) \end{equation*}
は非増加であり,かつ,$b_{[c]}(n)$$\varphi_n(A)$の下界である.よって,$\varphi_n(A)$は最小値$s(n)$をもつ.

最後に,$s(0)=0$とおく.

$\mathbf{3^\circ}$ $s\in G$は簡単に示される.

$\mathbf{4^\circ}$ $[a]\leqslant[s]\ ([a]\in A)$は簡単に示される.

$\mathbf{5^\circ}$ $[a]\leqslant[s']\ ([a]\in A)$ならば$[s]\leqslant[s']$は簡単に示される.$\Box$

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乗法

$a,b\in G$にたいし,$a\circ b\in G.$

$a\in G$により,つぎの$2$個の函数は有界である.
\begin{align*} u(m,n)&=a(b(m+n))-a(b(m)+b(n))-a(b(m+n)-b(m)-b(n)),\\ v(m,n)&=a(b(m)+b(n))-a(b(m))-a(b(n)). \end{align*}
また,$b\in G$により,$\{b(m+n)-b(m)-b(n)\mid m,n\in\mathbb{Z}\}$は有限集合だから,$\{a(b(m+n)-b(m)-b(n))\mid m,n\in\mathbb{Z}\}$は有限集合である.よって,
\begin{equation*} w(m,n)=a(b(m+n)-b(m)-b(n)) \end{equation*}
は有界である.ゆえに,
\begin{equation*} u+v+w=a(b(m+n))-a(b(m))-a(b(n)) \end{equation*}
は有界である.したがって,$a\circ b\in G$を得る.$\Box$

$a,b,c,d\in G$にたいし,

$(1)$ $[a]=[b],[c]=[d]$ならば,$[a\circ b]=[c\circ d].$
$(2)$ $[a\circ(b\circ c)]=[(a\circ b)\circ c].$
$(3)$ $[a\circ b]=[b\circ a].$

$(1)$ $[b]=[d]$により,$\{b(n)-d(n)\mid n\in\mathbb{Z}\}$は有限集合だから,$\{a(b(n)-d(n))\mid n\in\mathbb{Z}\}$は有限集合である.よって,$n\mapsto a(b(n)-d(n))$は有界である.

また,$a\in G$だから,
\begin{equation*} n\mapsto a(b(n))-a(d(n))-a(b(n)-d(n)) \end{equation*}
は有界である.

ゆえに,$n\mapsto a(b(n))-a(d(n))$は有界だから,$a\circ b-a\circ d\in H$であり,$[a\circ b]=[a\circ d]$がなりたつ.

さらに,$[a]=[c]$だから,$n\mapsto a(d(n))-c(d(n))$は有界である.よって,$a\circ d-c\circ d\in H$であり,$[a\circ d]=[c\circ d]$がなりたつ.

以上により,$[a\circ b]=[c\circ d]$を得る.

$(2)$ 写像の合成に関する結合律から明らか.

$(3)$ 命題 6 により,$c(n)=\lfloor n[a]\rfloor,$ $d(n)=\lfloor n[b]\rfloor$ $(n\in\mathbb{Z})$と定めると,$c,d\in G$であり,$[a]=[c],$ $[b]=[d].$

よって,$(1)$により,$[a\circ b]=[c\circ d],$ $[b\circ a]=[d\circ c]$がなりたつ.

また,整数部分の定義により,
\begin{equation*} -([a]+[b]+1)\leqslant c(d(n))-d(c(n))\leqslant [a]+[b]+1 \end{equation*}
$(n\in\mathbb{Z})$が示されるので,$c\circ d-d\circ c\in H$であり,$[c\circ d]=[d\circ ]$がなりたつ.よって,$[a\circ b]=[b\circ a]$である.$\Box$

$[a],[b]\in\mathbb{R}$の積を$[a][b]=[a\circ b]$によって定める.

命題 9$(1)$によりこの定義は well-defined である.

$[a],[b],[c]\in\mathbb{R}$とする.このとき,

$(1)$ $1[a]=[a].$
$(2)$ $([a][b])[c]=[a]([b][c]).$
$(3)$ $[a][b]=[b][a].$

$(1)$ $1=[\mathrm{id}_{\mathbb{Z}}]$だから,$1[a]=[\mathrm{id}_{\mathbb{Z}}\circ a]=[a].$
$(2)$ 命題 9$(2)$から得られる.
$(3)$ 命題 9$(3)$から得られる.$\Box$

$[a]\in\mathbb{R},$ $[a]\neq0$とする.このとき,$[a][b]=1$をみたす$[b]\in\mathbb{R}$が存在する.

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加法と順序

加法と順序が整合的であることは,順序の定義から明らかである.

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乗法と順序

乗法と順序が整合的であること,すなわち$0\leqslant[a],0\leqslant[b]$ならば$0\leqslant[a][b]$であることも,比較的簡単に証明できる.

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加法と乗法

最後に,分配法則$[a]([b]+[c])=[a][b]+[a][c]$は傾きの定義と乗法の定義から簡単に示される.

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傾きを使った実数の構成法は,力学系か,ホモトピーらしいところがある.もしかすると無理数回転や Strum 列でよく使う議論が使えるかも知れない.傾きの定義それ自体は,何かの空間のコホモロジーで表現できそうにも見えるが,今のところよくわからない.

このように,実数の定義という実用性に欠ける事物からでも得られるものはあるし,ここに書いたような議論を理解することで,養われる感性はあると思う.そのような感性を身につけることが数学を学ぶ意義(そんな仰々しいものについて語ってよい器でないのは承知の上だが)の一部分である以上,学部生が実数の定義を勉強してはならない,ということにはならないだろう.

数学は全部根底のところで繋がっているので,学んで悪いなどということはあまりない.学ぶ価値がないと思うものは,ほとんどの場合その値打ちを知らないだけだ.

どんなに滑稽なものにも意味を与えてくれるところは,数学の面白さのひとつかも知れない.

$\quad\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ \ast\ $

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コメント

思っていたよりも証明が複雑で丸二日かけてしまいました.試験まで残り一週間.何とか間に合いそうな気もしますが,果たして.

参考にしたプレプリントはこちら:

Norbert A’Campo, "A natural construction for real numbers," CoRR (2003).

http://arxiv.org/abs/math/0301015v1

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投稿日:17日前
更新日:17日前
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Yu
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