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東大数理院試過去問解答例(2022B02)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2022B02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2022B02

$R=\mathbb{C}[X,Y]/(X^2)$及びその極大イデアル$\mathfrak{m}:=(X,Y)/(X^2)$を考える。このとき$\mathbb{C}$-線型空間$R\oplus\mathfrak{m}$に積
$$ (a,z)\ast(b,w)=(ab,aw+bz) $$
を定める。この積によって$R\oplus\mathfrak{m}$$\mathbb{C}$-代数と見做したものを$R\ast\mathfrak{m}$とおく。
(1) $R\ast\mathfrak{m}$の部分集合
$$ \mathfrak{m}\ast\mathfrak{m}:=\{(a,z)\in R\ast\mathfrak{m}|a\in\mathfrak{m}\} $$
$R\ast\mathfrak{m}$の極大イデアルであることを示せ。
(2) $\mathbb{C}$-線型空間$(\mathfrak{m}\ast\mathfrak{m})/(\mathfrak{m}\ast\mathfrak{m})^2$の次元$n$を求めなさい。
(3) 上記の$n$に対して全射環準同型$\mathbb{C}[T_1,\cdots,T_n]\twoheadrightarrow R\ast\mathfrak{m}$を構成し、その核のイデアルとしての生成系をひとつ挙げなさい。

  1. まず
    $$ S=\mathbb{C}[X,Y,XZ,YZ]/(X^2,X^2Z^2,Y^2Z^2,XYZ^2,X^2Z) $$
    とおき、写像
    $$ \begin{split} R\ast\mathfrak{m}&\to S\\ (a,z)&\mapsto a+zZ \end{split} $$
    で定める。このとき$f$$1$及び加法を保ち、また
    $$ \begin{split} f((a\ast z)(b\ast w))&=f((ab,aw+bz))\\ &=ab+(aw+bz)Z\\ &=(a+zZ)(b+wZ)=f(a\ast z)f(b\ast w) \end{split} $$
    であるから全射環準同型である。また
    $$ \begin{split} S&\to R\ast\mathfrak{m}\\ f(X,Y)+Zg(X,Y)&\mapsto (f,g) \end{split} $$
    と定義する。まず$S$の元で$Z^2$を含む項は$0$であるから、$g$はwell-definedな写像である。$g$$1$を保ち
    $$ \begin{split} g((s+tZ)(a+bZ))&=g(sa+(sb+ta)Z)\\ &=(sa,sb+ta)\\ &=(s,t)(a,b)\\ &=g(s+tZ)g(a+bZ) \end{split} $$
    であるから環準同型であり、$f$$g$は一方が他方の逆を定めている。よって環同型$R\ast\mathfrak{m}\simeq S$が従う。このとき$\mathfrak{m}\ast\mathfrak{m}$に対応するのは$\mathfrak{n}:=(X,Y,XZ,YZ)/(X^2,X^2Z^2,XYZ^2,Y^2Z^2,X^2Z)$であり、これは$S$の極大イデアルである。
  2. 上記の対応から
    $$ \begin{split} \mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2&\simeq(X,Y,XZ,YZ)/(X^2,XY,Y^2,X^2Z^2,XYZ^2,Y^2Z^2,X^2Z,XYZ)\\ &\simeq \mathbb{C}X\oplus\mathbb{C}Y\oplus\mathbb{C}XZ\oplus \mathbb{C}YZ \end{split} $$
    であるから${\color{red}4}$次元である。
  3. (1)から全射環準同型
    $$ \begin{split} f:\mathbb{C}[T_1,T_2,T_3,T_4]&\twoheadrightarrow S\\ f(T_1,T_2,T_3,T_4)&\mapsto f(X,Y,XZ,YZ) \end{split} $$
    によって所望の全射$g:=T=\mathbb{C}[T_1,T_2,T_3,T_4]\twoheadrightarrow R\ast\mathfrak{m}$が誘導される。その核は$f^{-1}(X^2,X^2Z,X^2Z^2,XYZ^2,Y^2Z^2)$であり、これはイデアル$\mathfrak{p}:=(T_1^2,T_1T_3,T_3T_4,T_3^2,T_4^2)$を含んでいる。ここで$T$の元は$\mathfrak{p}$の元と
    $$ \sum_{i=0}^Nf_i(T_1,T_3,T_4,T_1T_4)T_2^i $$
    の型をした元の和で書ける($f_i$$1$次式)。これを$f$で送ると、
    $$ F:=\sum_{i=0}^Nf_i(X,XZ,YZ,XYZ)Y^i $$
    の型をしている。$F$$S$に於いて$0$であったとする。ここで$\mathfrak{n}$$\mathbb{C}$上の線型空間としては$X$についての次数が$2$以上であるか$Z$としての次数が$2$以上であるような一部の$X^aY^bZ^c$によって生成されるから、$F=0$が従う。よって$\mathfrak{p}$が核であり、その生成系として${\color{red}\{T_1^2,T_3^2,T_4^2,T_1T_3,T_3T_4\}}$が挙げられる。
投稿日:20231023

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佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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