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ここでは科学大数学系の修士課程の院試の2025午後06の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです
2025午後06
$\mathbb{C}$上の領域$D$に対して
$$
L_h^2(D)=\left\{f:D\to\mathbb{C}\middle|f\textsf{ は }D\textsf{ 上正則かつ }\|f\|_2<\infty\right\}
$$
と定義する。但し
$$
\|f\|_2=\sqrt{\int_D|f|^2dxdy}
$$
である。
- $L^2_h(\mathbb{C})=0$を示しなさい。
- $D=\{z\in\mathbb{C}||z|\leq1\}$としたとき、制限写像
$$
L_h^2(D)\to L^2_h(D\backslash\{0\})
$$
は全単射であることを示しなさい。 - $f\in L^2_h(D)$とする。$z_0\in D$及び実数$r$に対し包含
$$
B_r(z_0):=\{z\in\mathbb{C}||z-z_0|\leq r\}\subseteq D
$$
が成り立つとき、不等式
$$
|f(z_0)|^2\leq\frac{\|f\|_2}{\pi r^2}
$$
を示しなさい。 - 関数列$\{f_n\}$は極限
$$
\lim_{m,n\to\infty}\|f_n-f_m\|_2=0
$$
を満たしているとする。このとき
$$
\lim_{n\to\infty}\|f_m-f\|_2=0
$$
を満たすような$f\in L^2_h(D)$が存在することを示せ。
- まず平均値の定理から
$$
\begin{split}
|f(x,y)|^2&=\left|\frac{1}{\pi r^2}\int_{B_r(x,y)}f(s,t)^2dsdt\right|\\
&\leq\frac{1}{\pi r^2}\int_{B_r(x,y)}|f(s,t)|^2dsdt
\end{split}
$$
である。極限$r\to\infty$をとると、任意の$(x,y)$について$f(x,y)=0$がわかるから、所望の結果が得られた。
もしくは$f$のテイラー展開を
$$
f(z)=\sum_{i=-\infty}^\infty a_iz^i
$$
とおく。このときテイラー展開の広義一様収束性を考慮すると、等式
$$
\begin{split}
\int_{\mathbb{C}}|f(s,t)|^2dsdt&=\lim_{R\to\infty}\int_0^R\int_0^{2\pi} \qty(\sum a_nr^ne^{in\theta})\qty(\sum \overline{a_nr^n}e^{-in\theta})d\theta rdr\\
&=\lim_{R\to\infty}\int_0^R\int_0^{2\pi}\sum_{m,n}a_n\overline{a_m}r^{n-m}e^{i(n-m)\theta}d\theta rdr\\
&=\lim_{R\to\infty}\sum_n\int_0^R\int_0^{2\pi} |a_n|^2r^{1+2n}d\theta rdr\\
&=2\pi \lim_{R\to\infty}\sum_n\int_0^R|a_n|^2r^{1+2n}dr\\
\end{split}
$$
が満たされている。よってある$n$に対して$a_n\neq0$であったとすると不等式
$$
\int_{\mathbb{C}}|f(s,t)|^2dsdt\geq2\pi|a_n|^2\lim_{R\to\infty}\int_0^Rr^{1+2n}dr=\infty
$$
であり仮定に反する。よって所望の結果が得られる。 - 単射性は一致の定理から従う。以下全射性を示す。まず任意に取った$f\in L^2_h(D\backslash\{0\})$のローラン展開を
$$
f(z)=\sum_{i=-\infty}^\infty a_iz^i
$$
とおく。このとき(1)の後半と同様にローラン展開の広義一様収束性を考慮すると、等式
$$
\begin{split}
\int_{D\backslash\{0\}}|f(s,t)|^2dsdt&=\lim_{(R,\varepsilon)\to(1,0)}\int_\varepsilon^R\int_0^{2\pi} \qty(\sum a_nr^ne^{in\theta})\qty(\sum \overline{a_nr^n}e^{-in\theta})d\theta rdr\\
&=\lim_{(R,\varepsilon)\to(1,0)}\int_\varepsilon^R\int_0^{2\pi}\sum_{m,n}a_n\overline{a_m}r^{n-m}e^{i(n-m)\theta}d\theta rdr\\
&=\lim_{(R,\varepsilon)\to(1,0)}\sum_n\int_\varepsilon^R\int_0^{2\pi} |a_n|^2r^{1+2n}d\theta rdr\\
&=2\pi \lim_{(R,\varepsilon)\to(1,0)}\sum_n\int_\varepsilon^R|a_n|^2r^{1+2n}dr\\
\end{split}
$$
が満たされている。よってある$n<0$に対して$a_n\neq0$であったとすると不等式
$$
\int_{D^\ast}|f(s,t)|^2dsdt\geq2\pi|a_n|^2\lim_{(R,\varepsilon)\to(1,0)}\int_\varepsilon^Rr^{1+2n}dr=\infty
$$
であり仮定に反する。よって$z=0$は$f$の除去可能特異点であるから、$f$は$L^2_h(D)$の元に拡大される。 - (1)の前半と同様に平均値の定理から不等式
$$
\begin{split}
|f(x,y)|^2&=\left|\frac{1}{\pi r^2}\int_{B_r(x,y)}f(s,t)^2dsdt\right|\\
&\leq\frac{1}{\pi r^2}\int_{B_r(x,y)}|f(s,t)|^2dsdt&\leq\frac{\|f\|_2^2}{\pi r^2}
\end{split}
$$
が得られ、これが所望の結果である。 - まず$L^2(D)$は完備位相空間なので、特に所望の$f\in L^2(D)$が存在する。あとはこの$f$が正則関数であることを示せばよく、そのためには$\{f_n\}$が$f$に広義一様収束することを示せば良い。まず$K$をコンパクト集合とし、$r>0$を任意の$z\in K$に対して$B_r(z)\subseteq D$になるような実数とする。このとき(3)から任意の$z\in K$について
$$
|f(z)-f_n(z)|\leq\frac{\|f-f_n\|_2}{r\sqrt{\pi}}
$$
が満たされている。これにより広義一様収束性が従い、所望の結果が示せた。