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熱力学関係式の一般化

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$$\newcommand{compset}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{del}[0]{\partial} \newcommand{ff}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{im}[0]{\mathop{\mathrm{im}}\nolimits} \newcommand{intset}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{natset}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{realset}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{trans}[0]{\mathrm{T}} $$

 今回は昔に考えた話を放流したいと思います。種類が多くてよく分かりにくい熱力学関数や熱力学関係式ですが、一般化してみると少し見通しが良くなるかもしれません。ただこれは筆者が勝手に考えたもので、物理的な真新しさなどはあまりないかもしれませんので、気軽に読んでいってください。記号が少しややこしいのはご容赦ください。

熱力学関係式の一般化

 なんらかの熱力学変数$X(q_1,\dots,q_N)$が関係式
\begin{equation} dX = \sum_{i=1}^NQ_idq_i \end{equation}
を満たすときを考える。$X$の引数の一部を$\Xi_i$に変えることを考えて、$\xi_i\in\{q_i,Q_i\}$$\Xi_i$$q_i,Q_i$のうち$\xi_i$でない方とする。引数を$Q_i$に変えたものに対応する添字$i$の集合を$\Lambda$で表すことにするとして($\Lambda=\{i\in\{1,\dots,N\}\mid\xi_i=Q_i\}$)、$\delta_\Lambda(i)$$i\in\Lambda$のとき$1$$i\notin\Lambda$のとき$0$をとる関数とすると、
\begin{equation} A_\vb*\xi = X - \sum_{i\in\Lambda}Q_iq_i \end{equation}
は、$\xi_1\dots\xi_N$を引数として以下のような関係式を満たす熱力学関数となる。
\begin{equation} dA_\vb*\xi = \sum_{i=1}^N(-1)^{\delta_\Lambda(i)}\Xi_id\xi_i \end{equation}
これは$\Lambda$に対応する添字について一斉にルジャンドル変換をすることに相当する。この全微分の関係式から
\begin{equation} \left(\frac{\del A_\vb*\xi}{\del\xi_i}\right)_{\xi_j(\neq\xi_i)} = (-1)^{\delta_\Lambda(i)}\Xi_i \end{equation}
や、滑らかな関数$A_\vb*\xi$$\xi_i\to\xi_j$の順で微分したものと$\xi_j\to\xi_i$の順で微分したものが等しいことから、マクスウェルの関係式に対応する
\begin{equation} \left(\frac{\del\Xi_j}{\del\xi_i}\right)_{\xi_k(\neq\xi_i)} = (-1)^{\delta_\Lambda(i)+\delta_\Lambda(j)}\left(\frac{\del\Xi_i}{\del\xi_j}\right)_{\xi_k(\neq\xi_i)} \end{equation}
が得られる。$X(q_1,\dots,q_N)$$A_\vb*\xi(\xi_1,\dots,\xi_N)$の具体的な関数形を得ることができれば、これらの式より状態方程式$\Xi_i=\Xi_i(\xi_1,\dots,\xi_N)$を決定できる。
 次に、$A_{\vb*\xi^{(j)}}$
\begin{align} A_{\vb*\xi^{(j)}} &= \begin{cases} A_\vb*\xi + Q_jq_j\quad(j\in\Lambda)\\ A_\vb*\xi - Q_jq_j\quad(j\notin\Lambda) \end{cases}\\ &= A_\vb*\xi - (-1)^{\delta_\Lambda(j)}\Xi_j\xi_j \end{align}
と定める。これは$\vb*\xi^{(j)}=(\xi_1,\dots,\Xi_j,\dots\xi_N)$を引数として完全な熱力学関数ではあるが、ここに状態方程式を代入し、単に$\xi_1,\dots,\xi_N$の関数と見て、両辺を$\xi_i\ (i\neq j)$で偏微分すると、
\begin{equation} \left(\frac{\del A_{\vb*\xi^{(j)}}}{\del\xi_i}\right)_{\xi_k(\neq\xi_i)} = -(-1)^{\delta_\Lambda(i)}\left[\xi_j\left(\frac{\del\Xi_i}{\del\xi_j}\right)_{\xi_k(\neq\xi_j)} - \Xi_i\right] \end{equation}
となる。これは、いわゆるエネルギー方程式$\left(\frac{\del U}{\del V}\right)_T = T\left(\frac{\del p}{\del T}\right)_V-p$の一般形である。

 $X$が通常の$1\ \text{mol}$の気体(または液体)の内部エネルギー$U$の場合を考える。熱力学の第一法則より$dU=TdS-pdV$が成り立つので、これは$(Q_1,q_1)=(T,S),$ $(Q_2,q_2)=(-p,V)$に対応する。$\Lambda$として$\{1\}$を選べば$(\Xi_1,\xi_1)=(S,T),$ $(\Xi_2,\xi_2)=(-p,V)$であり、$A_\vb*\xi=U-TS$はヘルムホルツの自由エネルギー$F$に対応する。このときマクスウェルの関係式に相当する式は
\begin{equation} \left(\frac{\del S}{\del V}\right)_T = \left(\frac{\del p}{\del T}\right)_V \end{equation}
と確かにマクスウェルの関係式と一致する。さらに$j=1,2$として$A_{\vb*\xi^{(j)}}$を考えると、これは内部エネルギー$U$であり、エネルギー方程式の一般形から
\begin{gather} \left(\frac{\del U}{\del V}\right)_T = T\left(\frac{\del p}{\del T}\right)_V-p\\ \left(\frac{\del G}{\del T}\right)_V = V\left(\frac{\del S}{\del V}\right)_T-S \end{gather}
が得られることがわかる。一本めの式が特にエネルギー方程式と呼ばれており、$\left(\frac{\del U}{\del T}\right)_V=C_V$と合わせて内部エネルギーの$(T,V)$表示を求めるために用いられる。
 また$\Lambda$として$\{1,2\}$を選ぶと、$A_\vb*\xi=U-TS+pV$はギブスの自由エネルギー$G$に対応する。これに対応するエネルギー方程式は、例えば$j=1$を取ると
\begin{equation} \left(\frac{\del H}{\del p}\right)_T = V - T\left(\frac{\del V}{\del T}\right)_p \end{equation}
となる。エンタルピー $H=U+pV=G+TS$$(T,p)$表示は、これと$\left(\frac{\del H}{\del T}\right)_p=C_p$から求めることができる。

統計力学も一般化

 一般のカノ二カル分布についても少し考えてみます。
 ボルツマンの関係式
\begin{equation} S = k_B\ln W \end{equation}
が熱力学エントロピーと等しいことを認める。また系は全体として運動などはしていなく、内部エネルギー$U$は単に全系のエネルギー$E$に等しいとする。このときカノ二カル分布の分配関数は
\begin{equation} Z = \sum_i e^{-\beta E_i} = \sum_{E}e^{-\beta(E-TS)} = \sum_{E}e^{-\beta F} \end{equation}
とかける。ここで、和をとる$E$はミクロな状態のエネルギーであり、縮退があってもそれを無視して、同じエネルギーに対しては一回ずつしか数えない。これに対する熱力学関数$F=E-TS$$F=k_\text{B}T\ln Z$で得られる。これを一般化する。エネルギーが$q_1,\dots,q_N$に対して完全な熱力学関数となっていて、熱力学の場合と同様に
\begin{equation} dE = \sum_{i=1}^NQ_idq_i \end{equation}
を満たすとする($X=E$の場合に相当する)。また$A_\vb*\xi$も熱力学の場合と同様に$A_\vb*\xi = E - \sum_{i\in\Lambda}Q_iq_i,$ $\Lambda=\{i\mid\xi_i=Q_i\}$と定めると、
\begin{equation} \tilde{Z} = \sum_Ee^{-\beta(E-\sum_{i\in\Lambda}Q_iq_i)} = \sum_Ee^{-\beta A_\vb*\xi} \end{equation}
は分配関数に相当し、熱力学ポテンシャルは$A_\vb*\xi=k_\text{B}T\ln\tilde{Z}$から得ることができる。これらの式はいくつかの見方を取ることができる。一つは分配関数$\tilde{Z}$$Z$にラプラス変換を繰り返したものであり、ルジャンドル変換の$\exp$に相当するようなものである。また、熱力学極限ではミクロなエネルギーのマクロな量への効果は、ほとんどある典型的なエネルギー$E=E^*$まわりに集中していて、揺らぎの$E^*$に対する割合は熱力学極限で$0$になると考えることができる。このとき$\tilde{Z}\simeq e^{-\beta A_\vb*\xi(E^*)}$と考えることができて、$A_\vb*\xi$$\tilde{Z}$が対応していることがわかる。

 通常の気体$dE=TdS-pdV+\mu dN=Q_1dq_1+Q_2dq_2+Q_3dq_3$において、$\Lambda=\{2\},\{3\}$としたものはそれぞれ$T$-$p$分布、グランドカノ二カル分布に対応している。一つめの方は、$A_\vb*\xi=F+pV=G$であり、
\begin{equation} \tilde{Z} = \sum_Ee^{-\beta(F+pV)} = \sum_ie^{-\beta(E+pV)} \end{equation}
$T$-$p$分配関数、$G=k_\text{B}T\ln\tilde{Z}$である。二つめの方は$A_\vb*\xi=F-\mu N=J$(グランドポテンシャル)であり、
\begin{equation} \tilde{Z} = \sum_Ee^{-\beta(F-\mu N)} = \sum_ie^{-\beta(E-\mu N)} \end{equation}
は大分配関数、$J=k_\text{B}T\ln\tilde{Z}$である。

あとがき

 今回は熱力学関係式やカノ二カル分布を一般化してみました。とはいっても、大抵は名前のついている関数や分布を使いさえすれば十分であったり、バネの系などでも張力を圧力の$-1$倍、バネの伸びを体積に対応させればいつもの気体と同じように扱うことができ、あまり一般化する恩恵はないかもしれません。もし変な系で熱力学や統計力学を考えることがあった際に、この記事が少しでも参考になれば幸いです。

投稿日:10日前
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Jimmy
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