0

東大数理院試過去問解答例(2024B03)

30
0
$$$$

ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B03の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2024B03

多項式環$S=\mathbb{C}[x_1,\cdots,x_n]$の極大イデアル$I=(x_1,\cdots,x_n)$について、$S$加群$M=I^{\ell}/I^{\ell+2}$を考える。

  1. $S$上の任意の自己準同型$f:M\to M$について、ある$\alpha\in\mathbb{C}$が存在して、$\mathrm{Im}(f-\alpha1_M)\subseteq I^{\ell+1}/I^{\ell+2}$かつ$(f-\alpha 1_M)^2=0$が成り立っていることを示しなさい。
  2. $M$$S$-加群として直既約でない、つまり$2$つの$0$でない$S$加群$M_1,M_2$$M=M_1\oplus M_2$を満たすものは存在しないことを示しなさい。
  1. まず$\mathbb{C}$-線型写像$f:M\to M$$I^{\ell+1}/I^{\ell+2}$を保存するから、$f$の固有ベクトルからなる基底$m_1,\cdots,m_{{}_{n+\ell-1}C_{n-1}},n_1,\cdots,n_t$$n_i\in I^{\ell+1}/I^{\ell+2}$を満たすものが取れる。ここで$m_i$たちは$\mathbb{C}$$I^{\ell}/I^{\ell+1}$を生成するから、中山の補題から$S/I^2$加群として$M$を生成する。以上と$m_i$たちが線型独立であることを合わせて、$I$$S$加群としての生成系$\{m_i\}_{i=1}^{{}_{n+\ell-1}C_{n-1}}$たちを生成系$\{x_1^{N_1}\cdots x_{n}^{N_n}|\sum_{i}N_i=\ell\}$に移す$S/I^2$上の自己同型$g:M\simeq M$が存在する。よって所望の結果を示すに当たって、$f$$\left\{x_1^{N_1}\cdots x_{n}^{N_n}\middle|\sum_{i}N_i=\ell\right\}$を固有ベクトルに持つとして良い。いま$x_1^{N_1}\cdots x_s^{N_s}x_{s+1}^{N_{s+1}}\cdots x_n^{N_n}$$x_1^{N_1}\cdots x_s^{N_s+1}x_{s+1}^{N_{s+1}-1}\cdots x_n^{N_n}$がそれぞれ固有値$a,b$を持つとき、これらは$x_1^{N_1}\cdots x_s^{N_s+1}x_{s+1}^{N_{s+1}}\cdots x_n^{N_n}$の固有値でもあるから、これによって$a=b$が従う。以上から$f$の固有値は$1$つのみである。これを$\alpha$とする。
    次に$f$$f-\alpha$で置き換えることで、$f$の固有値が$0$のとき$\mathrm{Im}(f)\subseteq I^{\ell+1}/I^{\ell+2}$であることと$f^2=0$であることを示せば良い。まず前者を示す。$f(\prod x_i^{n_i})=F$と表せたとする。このとき$f(x_k\prod x_i^{n_i})=x_kF$になり、このとき$n_j>0$なる$j$について$f(\frac{x_k}{x_j}\prod x_i^{n_i})$の像は$x_j$倍すると$x_kF$になる元$G\in M$になる。この計算を繰り返すことで、$F$は単項$\left(\prod_i x_i^{n_i}\right)$の元で代表される$M$の元であることがわかる。ここで$f$の固有値が全て$0$であることと併せて、$F\in I^{\ell+1}/I^{\ell+2}$であることが従うから、$\mathrm{Im}(f)\subseteq I^{\ell+1}/I^{\ell+2}$がわかる。あとはこの結果と$I^{\ell+1}=\sum_ix_iI^{\ell}$であることから$f^2=0$が従う。以上で所望の結果が全て示せた。
  2. 背理法で示す。直既約でないとし、それを実現する直和分解を$M=M_1\oplus M_2$とすると、$S$加群の準同型$\mathrm{id}_{M_1}\oplus(-\mathrm{id}_{M_2})$は固有値$\pm1$を持つから(1)の結果の反する。以上から$M$は直既約である。
投稿日:22日前

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中