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大学数学基礎解説
文献あり

牛刀割鶏 2 (円円対応)

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$$\newcommand{Lvec}[1]{\overrightarrow{\mathrm{#1}}} $$

導入

 今回は,円円対応について考えてみたいと思います.大学入試の問題でも,これをテーマにした問題は頻出です.しかも分野を跨いで出題されます.例えば,複素数平面での変換であったり,座標平面での変換であったり.本質は同じなのに付けてる仮面は違う,という感じです.
 今回は,そんな円円対応について紹介し,大学入試問題を解いていこうと思います.まあ,大学数学すげえ!たのしい!ってなりたいだけなんですけどね

牛刀の準備

 まず,無限遠点と広義の円を定義します.

無限遠点(ふんわりとした定義)

 平面の,無限の彼方を表す点$(\infty,\ \infty)$無限遠点と呼び,点$\infty$と書く.

 わざわざこのような点を考える意義はあとで触れます.無限の彼方を表す仮想的な点を考え,平面$\mathbb{R}^2$に追加して新たな空間$\mathbb{R}^2 \cup \{\infty\}$を考えることで,反転を統一的にみることが出来ます.

広義の円

 狭義の円(つまり,ある定点からの距離が一定となる点の集合)および直線を広義の円と呼ぶことにする.

 これは所謂「普通の円」に加えて,直線も円の仲間に加えようということです.これは直線を無限遠点を中心とする半径無限大の円とみなすことで自然な解釈が出来ると思います.
 次に,反転について紹介します.

反転(図形Ver.)

 原点を$\mathrm{O}$とし,$\mathrm{O}$を中心とし半径が$r$となる円を$C$とする.点$\mathrm{P}$を,$\mathrm{OP} \times \mathrm{OQ} = r^2$を満たす半直線$\mathrm{OP}$上の点$\mathrm{Q}$に移す変換を$C$による反転という.

座標平面表示にして,ゴリゴリ計算すると以下の定義も得ます.

反転(座標平面Ver.)

 点$(x,\ y)$を点$\left(\dfrac{x}{x^2 + y^2},\ \dfrac{y}{x^2 + y^2}\right)$に移す変換を反転と呼ぶ.ただし,原点$(0,\ 0)$を反転させると無限遠点$(\infty,\ \infty)$に,無限遠点$(\infty,\ \infty)$を反転させると原点$(0,\ 0)$に移るとする.

 $z = x + y i$とすると$\dfrac{1}{\bar{z}} = \dfrac{x + y i}{x^2 + y^2}$となるので,上記の定義を複素数表示に書き換えると,以下のようになります.

反転(複素数平面Ver.)

 点$z$を点$w = \dfrac{1}{\bar{z}}$に移す変換を反転と呼ぶ(メビウス変換ともいう).ただし,原点$z = 0$を反転させると無限遠点$w = \infty$に,無限遠点$z = \infty$を反転させると原点$w = 0$に移るとする.

 続いて,この複素数平面での表示を用いて,反転に関する以下の定理を紹介します.

反転の円円対応

 複素数平面上において,点$z$が広義の円$C$上を動くとき,点$w = \dfrac{1}{z}$も広義の円$C'$上を動く.

 まず点$z$が狭義の円上を動くとき,複素数$\alpha$と正実数$r$を用いて$|z - \alpha| = r$が成立する.$z = 0$$w = \infty$,また$z = \infty$$w = 0$を対応付ければ$z = 1/w$と書けて
$$ \left|\frac{1}{w} - \alpha\right| = r, \qquad \therefore |\alpha w - 1| = r |w|. $$
これは$\alpha = 0$では直線,$\alpha \neq 0$では広義の円を表す.
 点$z$が直線上を動くとき,相異なる複素数$\alpha$$\beta$を用いて$|z - \alpha| = |z - \beta|$とおける.同様に$z = 0$$w = \infty$,また$z = \infty$$w = 0$と対応させれば,いかなる場合でも$z = 1/w$と書けて
$$ \left|\frac{1}{w} - \alpha\right| = \left|\frac{1}{w} - \beta\right|, \qquad \therefore |\alpha w - 1| = |\beta w - 1|. $$
$\alpha$$\beta$がともに$0$でないなら,これは広義の円を描く.どちらかが$0$なら,これは狭義の円を描く.

 複素共役をとる操作は,$x$軸(実軸)に対称に折り返す操作です.そのため「反転しても円は円に対応する」という定理に対しては,$w = 1/z$で考えても$w = 1/\bar{z}$で考えても,どちらかで示せば十分です.そのため,よりきれいな$w = 1/z$の場合で証明しました.

 次に,反転などを含めたより一般化された変換として,1次分数変換を紹介します.

1次分数変換

 点$z \in \mathbb{C}$に対して,点$w \in \mathbb{C}$
$$ w = \frac{\alpha z + \beta}{\gamma z + \delta} \qquad (\alpha,\ \beta,\ \gamma,\ \delta \in \mathbb{C}) $$
と対応させる変換を1次分数変換という.

1次分数変換の分解

 1次分数変換は,複素数平面上での平行移動伸縮回転反転の合成によって表される.

 1次分数変換は
$$ w = \begin{cases} \dfrac{\alpha}{\delta} z + \dfrac{\beta}{\delta} & (\gamma = 0) \\ \dfrac{\alpha}{\gamma} + \dfrac{\beta \gamma - \alpha \delta}{\gamma^2} \dfrac{1}{z + \frac{\delta}{\gamma}} & (\gamma \neq 0) \end{cases} $$
と書ける.これは3つの基本変換
\begin{align} \text{平行移動}&: w = z + a, \\ \text{伸縮回転}&: w = b z, \\ \text{反転}&: w = \frac{1}{z}, \end{align}
の合成である.

1次分数変換の円円対応

 点$z$が広義の円$C$を描くとき,点$w = \dfrac{\alpha z + \beta}{\gamma z + \delta}$も広義の円$C'$を描く.

 補題2より,$w$は平行移動・伸縮拡大・反転の組み合わせで変換される.点$z$が広義の円を描くとき,平行移動・伸縮拡大した点が広義の円を描くのは明らか.また定理1から,反転した場合でも変換後の点は広義の円を描く.

大学入試問題で牛刀割鶏

2007 大阪大

2007 大阪大 理系 第3問

 $xy$平面において,原点$\mathrm{O}$を通る半径$r\ (r>0)$の円を$C$とし,その中心を$\mathrm{A}$とする.$\mathrm{O}$を除く$C$上の点$\mathrm{P}$に対し,次の条件(a),(b)で定まる点$\mathrm{Q}$を考える.
\begin{align*} & (\mathrm{a}) \ \Lvec{OP} \text{と} \Lvec{OQ} \text{の向きが同じ.} \\ & (\mathrm{b}) \ |\Lvec{OP}| |\Lvec{OQ}| = 1. \end{align*}
以下の問いに答えよ.

  1. $\mathrm{P}$$\mathrm{O}$を除く$C$上を動くとき,点$\mathrm{Q}$$\Lvec{OA}$に直交する直線上を動くことを示せ.
  2. (1)の直線を$l$とする.$l$$C$と2点で交わるとき,$r$のとりうる値の範囲を求めよ.
解答
  1. $\mathrm{P}(X,\ Y) \neq (0,\ 0)$に対して,条件(a)より点$\mathrm{Q}(k X,\ k Y)\ (k>0)$と書ける.そして条件(b)から$\sqrt{X^2 + Y^2} \cdot k \sqrt{X^2 + Y^2} = 1$ゆえ$k = \dfrac{1}{X^2 + Y^2}$を得る.よって$\mathrm{P}(X,\ Y) \neq (0,\ 0)$は,点$\mathrm{Q}\left(\dfrac{X}{X^2 + Y^2},\ \dfrac{Y}{X^2 + Y^2}\right)$に移る.これは反転変換である.この変換により原点は無限遠点に移るから,点$\mathrm{Q}$は直線を描く.$\Lvec{OP} = 2 \Lvec{OA} = 2r(\cos{\theta},\ \sin{\theta})$なる点は点$\mathrm{Q}_1\left(\dfrac{\cos{\theta}}{2r},\ \dfrac{\sin{\theta}}{2r}\right)$に移り,点$\mathrm{P}(r(\cos{\theta}- \sin{\theta}),\ r(\sin{\theta} + \cos{\theta}))$は点$\mathrm{Q}_2\left(\dfrac{\cos{\theta} - \sin{\theta}}{2r},\ \dfrac{\cos{\theta} + \sin{\theta}}{2r}\right)$に移る.よって点$\mathrm{Q}$は直線$\mathrm{Q_1 Q_2}$を描く.この直線の方向ベクトルとして$\vec{d} = (\sin{\theta},\ - \cos{\theta})$がとれて,$\vec{d} \cdot \Lvec{OA} = 0$より$\vec{d} \perp \Lvec{OA}$となるので,示された.
  2. 省略.

2022 大阪大

2022 大阪大 理系 第1問

 $r$を正の実数とする.複素数平面上で,点$z$が点$\dfrac{3}{2}$を中心とする半径$r$の円周上を動くとき,
$$ z + w = z w $$
を満たす点$w$が描く図形を求めよ.

解答

 点$z$$|z - 3/2| = r$上を動く.そして$z + w = z w$より$w = \dfrac{z}{z - 1}$を得る.ただし平面に無限遠点を追加し,$z = 1$のときは$w = \infty$であると対応づける.すると,$w$は広義の円を描くことが分かる.そして
$$ z = \frac{3}{2} \pm r \quad \text{のとき} \quad w = \frac{3 \pm 2 r}{1 \pm 2 r}, \qquad z = \frac{3}{2} \pm r i \quad \text{のとき} \quad w = \frac{3 \pm 2 r i}{1 \pm 2 r i} = \frac{3 + 4 r^2 \mp 4 r i}{1 + 4 r^2} $$
に移る.

  1. $r = 1/2$のとき,点$z = 1, 2$は点$w = \infty, 2$に移る.よって$w$は点$2$を通る直線を描くことが分かり,点$z = (3 \pm i)/2$は点$w = 2 \mp i$に移る.以上のことから,点$w$虚軸に平行で,点$2$を通る直線全体を描く.
  2. $r \neq 1/2$のとき,2点$\dfrac{3 \pm 2 r}{1 \pm 2 r}$は互いに異なり,2点$\dfrac{3 + 4 r^2 \mp 4 r i}{1 + 4 r^2}$も互いに異なり実軸上になく,加えて実軸との距離が等しい.したがって,$w$は狭義の円全体を描き,中心は実軸上にある.よって2点$\dfrac{3 \pm 2 r}{1 \pm 2 r}$の中点$\dfrac{3 - 4 r^2}{1 - 4 r^2}$が円の中心となるので,$w$中心$\dfrac{3 - 4 r^2}{1 - 4 r^2}$および半径$\dfrac{4 r}{|1 - 4 r^2|}$の円全体を描く.

2017 東京大

2017 東京大 理系 第3問

 複素数平面上の原点以外の点$z$に対して,$w = \dfrac{1}{z}$とする.
(1) $\alpha$$0$でない複素数とし,点$\alpha$と原点$\mathrm{O}$を結ぶ線分の垂直二等分線を$L$とする.点$z$が直線$L$上を動くとき,点$w$の軌跡は円から1点を除いたものになる.この円の中心と半径を求めよ.
(2) 1の3乗根のうち,虚部が正であるものを$\beta$とする.点$\beta$と点$\beta^2$を結ぶ線分上を点$z$が動くときの点$w$の軌跡を求め,複素数平面上に図示せよ.

解答
  1. 平面に無限遠点を追加して考える.点$\alpha/2 \in L$は点$2/\alpha$に移り,点$\alpha(1 + i)/2 \in L$は点$(1 - i)/\alpha$に移る.また,点$\infty$は点$0$に移る.$w$が描く円の中心を$\gamma$とする.$\gamma$$|\gamma| = |\gamma - 2/\alpha| = |\gamma - (1-i)/\alpha|$を満たす.これを計算すると
    $$ \gamma \bar{\gamma} = \left(\gamma - \frac{2}{\alpha}\right) \left(\bar{\gamma} - \frac{2}{\bar{\alpha}}\right) = \left(\gamma - \frac{1-i}{\alpha}\right)\left(\bar{\gamma} - \frac{1+i}{\bar{\alpha}}\right) \qquad \therefore \gamma = \frac{1}{\alpha}. $$
    以上のことから,$w$の軌跡は中心$\dfrac{1}{\alpha}$,半径$\left|\dfrac{2}{\alpha} - \dfrac{1}{\alpha}\right| = \dfrac{1}{|\alpha|}$となる円から原点を除いたものになる.
  2. $x^3 = 1$を解いて$\beta = \dfrac{- 1 + \sqrt{3} i}{2}$$\beta^2 = \dfrac{-1-\sqrt{3}i}{2}$を得る.$z$が動く範囲を$\ell$とすると,$\ell$は直線の一部ゆえ$w$の軌跡は広義の円の一部になる.点$\beta \in \ell$$1/\beta = \beta^2$に移り,点$\beta^2 \in \ell$は点$1/\beta^2 = \beta$に移る.また,点$-1/2 \in \ell$は点$-2$に移る.これら3点は同一直線上にないので,点$w$の軌跡は3点$\beta,\ \beta^2,\ -2$を通る円弧となる(図示は省略).
補足

 (1)に関しては,$z = 1/w$として$L : |z| = |z - \alpha|$に代入した方が早いですね.絶対に

参考文献

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更新日:317

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