今回は,円円対応について考えてみたいと思います.大学入試の問題でも,これをテーマにした問題は頻出です.しかも分野を跨いで出題されます.例えば,複素数平面での変換であったり,座標平面での変換であったり.本質は同じなのに付けてる仮面は違う,という感じです.
今回は,そんな円円対応について紹介し,大学入試問題を解いていこうと思います.まあ,大学数学すげえ!たのしい!ってなりたいだけなんですけどね
まず,無限遠点と広義の円を定義します.
平面の,無限の彼方を表す点$(\infty,\ \infty)$を無限遠点と呼び,点$\infty$と書く.
わざわざこのような点を考える意義はあとで触れます.無限の彼方を表す仮想的な点を考え,平面$\mathbb{R}^2$に追加して新たな空間$\mathbb{R}^2 \cup \{\infty\}$を考えることで,反転を統一的にみることが出来ます.
狭義の円(つまり,ある定点からの距離が一定となる点の集合)および直線を広義の円と呼ぶことにする.
これは所謂「普通の円」に加えて,直線も円の仲間に加えようということです.これは直線を無限遠点を中心とする半径無限大の円とみなすことで自然な解釈が出来ると思います.
次に,反転について紹介します.
原点を$\mathrm{O}$とし,$\mathrm{O}$を中心とし半径が$r$となる円を$C$とする.点$\mathrm{P}$を,$\mathrm{OP} \times \mathrm{OQ} = r^2$を満たす半直線$\mathrm{OP}$上の点$\mathrm{Q}$に移す変換を円$C$による反転という.
座標平面表示にして,ゴリゴリ計算すると以下の定義も得ます.
点$(x,\ y)$を点$\left(\dfrac{x}{x^2 + y^2},\ \dfrac{y}{x^2 + y^2}\right)$に移す変換を反転と呼ぶ.ただし,原点$(0,\ 0)$を反転させると無限遠点$(\infty,\ \infty)$に,無限遠点$(\infty,\ \infty)$を反転させると原点$(0,\ 0)$に移るとする.
$z = x + y i$とすると$\dfrac{1}{\bar{z}} = \dfrac{x + y i}{x^2 + y^2}$となるので,上記の定義を複素数表示に書き換えると,以下のようになります.
点$z$を点$w = \dfrac{1}{\bar{z}}$に移す変換を反転と呼ぶ(メビウス変換ともいう).ただし,原点$z = 0$を反転させると無限遠点$w = \infty$に,無限遠点$z = \infty$を反転させると原点$w = 0$に移るとする.
続いて,この複素数平面での表示を用いて,反転に関する以下の定理を紹介します.
複素数平面上において,点$z$が広義の円$C$上を動くとき,点$w = \dfrac{1}{z}$も広義の円$C'$上を動く.
まず点$z$が狭義の円上を動くとき,複素数$\alpha$と正実数$r$を用いて$|z - \alpha| = r$が成立する.$z = 0$と$w = \infty$,また$z = \infty$と$w = 0$を対応付ければ$z = 1/w$と書けて
$$
\left|\frac{1}{w} - \alpha\right| = r, \qquad \therefore |\alpha w - 1| = r |w|.
$$
これは$\alpha = 0$では直線,$\alpha \neq 0$では広義の円を表す.
点$z$が直線上を動くとき,相異なる複素数$\alpha$と$\beta$を用いて$|z - \alpha| = |z - \beta|$とおける.同様に$z = 0$で$w = \infty$,また$z = \infty$で$w = 0$と対応させれば,いかなる場合でも$z = 1/w$と書けて
$$
\left|\frac{1}{w} - \alpha\right| = \left|\frac{1}{w} - \beta\right|, \qquad \therefore |\alpha w - 1| = |\beta w - 1|.
$$
$\alpha$と$\beta$がともに$0$でないなら,これは広義の円を描く.どちらかが$0$なら,これは狭義の円を描く.
複素共役をとる操作は,$x$軸(実軸)に対称に折り返す操作です.そのため「反転しても円は円に対応する」という定理に対しては,$w = 1/z$で考えても$w = 1/\bar{z}$で考えても,どちらかで示せば十分です.そのため,よりきれいな$w = 1/z$の場合で証明しました.
次に,反転などを含めたより一般化された変換として,1次分数変換を紹介します.
点$z \in \mathbb{C}$に対して,点$w \in \mathbb{C}$を
$$
w = \frac{\alpha z + \beta}{\gamma z + \delta}
\qquad (\alpha,\ \beta,\ \gamma,\ \delta \in \mathbb{C})
$$
と対応させる変換を1次分数変換という.
1次分数変換は,複素数平面上での平行移動・伸縮回転・反転の合成によって表される.
1次分数変換は
$$
w =
\begin{cases}
\dfrac{\alpha}{\delta} z + \dfrac{\beta}{\delta} & (\gamma = 0) \\
\dfrac{\alpha}{\gamma} + \dfrac{\beta \gamma - \alpha \delta}{\gamma^2} \dfrac{1}{z + \frac{\delta}{\gamma}} & (\gamma \neq 0)
\end{cases}
$$
と書ける.これは3つの基本変換
\begin{align}
\text{平行移動}&: w = z + a, \\
\text{伸縮回転}&: w = b z, \\
\text{反転}&: w = \frac{1}{z},
\end{align}
の合成である.
点$z$が広義の円$C$を描くとき,点$w = \dfrac{\alpha z + \beta}{\gamma z + \delta}$も広義の円$C'$を描く.
補題2より,$w$は平行移動・伸縮拡大・反転の組み合わせで変換される.点$z$が広義の円を描くとき,平行移動・伸縮拡大した点が広義の円を描くのは明らか.また定理1から,反転した場合でも変換後の点は広義の円を描く.
$xy$平面において,原点$\mathrm{O}$を通る半径$r\ (r>0)$の円を$C$とし,その中心を$\mathrm{A}$とする.$\mathrm{O}$を除く$C$上の点$\mathrm{P}$に対し,次の条件(a),(b)で定まる点$\mathrm{Q}$を考える.
\begin{align*}
& (\mathrm{a}) \ \Lvec{OP} \text{と} \Lvec{OQ} \text{の向きが同じ.} \\
& (\mathrm{b}) \ |\Lvec{OP}| |\Lvec{OQ}| = 1.
\end{align*}
以下の問いに答えよ.
$r$を正の実数とする.複素数平面上で,点$z$が点$\dfrac{3}{2}$を中心とする半径$r$の円周上を動くとき,
$$
z + w = z w
$$
を満たす点$w$が描く図形を求めよ.
点$z$は$|z - 3/2| = r$上を動く.そして$z + w = z w$より$w = \dfrac{z}{z - 1}$を得る.ただし平面に無限遠点を追加し,$z = 1$のときは$w = \infty$であると対応づける.すると,$w$は広義の円を描くことが分かる.そして
$$
z = \frac{3}{2} \pm r \quad \text{のとき} \quad w = \frac{3 \pm 2 r}{1 \pm 2 r},
\qquad
z = \frac{3}{2} \pm r i \quad \text{のとき} \quad w = \frac{3 \pm 2 r i}{1 \pm 2 r i} = \frac{3 + 4 r^2 \mp 4 r i}{1 + 4 r^2}
$$
に移る.
複素数平面上の原点以外の点$z$に対して,$w = \dfrac{1}{z}$とする.
(1) $\alpha$を$0$でない複素数とし,点$\alpha$と原点$\mathrm{O}$を結ぶ線分の垂直二等分線を$L$とする.点$z$が直線$L$上を動くとき,点$w$の軌跡は円から1点を除いたものになる.この円の中心と半径を求めよ.
(2) 1の3乗根のうち,虚部が正であるものを$\beta$とする.点$\beta$と点$\beta^2$を結ぶ線分上を点$z$が動くときの点$w$の軌跡を求め,複素数平面上に図示せよ.
(1)に関しては,$z = 1/w$として$L : |z| = |z - \alpha|$に代入した方が早いですね.絶対に