0

𝐐 ≅ 𝐐\{0}(𝐐 は一点抜いても同相)

968
0
$$$$

前回の記事で引っ越しを機にアウトプットを増やしたいと言ってから既に 2 クォーター分が経過しました.UDA です.ちなみに,富山大学は一部学部を除き前期/後期制から移行し 4 クォーター制が採用されています.下の学年は既に 4Q 制で授業が進んでおり今はちょうど過渡期にあります.まぁ,この四月に赴任したばかりの私は前期/後期制だった時代の事情も何も知らない訳でありますが.

$\mathbf{Q}$ は一点抜いても同相!?

さて,アウトプットを増やすため $\mathbf{Q}$ の話をします.クォーターのことではないです.有理数全体が為す空間 $\mathbf{Q}$の話です.

実は,位相空間 $\mathbf{Q}$ とそこから一点を抜いた $\mathbf{Q} \setminus \set{0}$ は同相です.トポロジーに慣れていないと「え? そうなの? 流石に違くない?」と思うかもしれませんが,実は正しく成り立つのです.主張にギョッとした人はすみませんが,記事の趣旨は直観的な説明をすることではなく,どう証明するかという点になります.元ネタは相変わらず Twitter 眺めてたら流れてきた話題です.元は Haru さんのツイート で,これに Alwe さんが「往復論法定期」 と空中リプで反応していました.(なお,空中リプライとはリプライも引用もせずに特定の話題に言及するツイート形態を指すものとします.え? リポスト? $\mathbb{X}$? なんですかそれは?)

Haru さんが言っていた飛び道具を使う方も気になるとは思いますが,今回の記事は Alwe さんが教えてくれた「往復論法」による証明をちゃんと書き起こして解説をつけるのが目的です.

実際に示していく定理の主張

$\mathbf{Q}$$\mathbf{Q} \setminus \{0\}$ は同相である.ただし,いずれもユークリッド直線の標準的な位相からの相対位相を考えるものとする.

証明したいのは上記ですが,ちょっとだけ強い以下の形でこれを証明します.

数の間の標準的な大小関係に関する順序を考え,順序空間として $\mathbf{Q}$$\mathbf{Q} \setminus \{0\}$ は同型である.すなわち,$\mathbf{Q}$$\mathbf{Q} \setminus \{0\}$ の間に,連続かつ順序を保つ全単射であって逆写像も連続かつ順序を保つようなものが存在する.

順序空間として同型ならば,当然それらは位相空間として同型(同相)です.ここでの順序空間というのは単に位相(特にこの場合は順序位相)が入った順序集合のことですが,本質ではないので以後この用語は登場しません.なお,順序空間としての同型というのはもちろん順序を保つ連続写像を射とする圏における同型のことなんですが,その程度のことで圏を登場させると圏論ユーザーからも非圏論ユーザーからも怒られるので取り上げません(滝ガレ構文=いやこれもう十分喋っちゃったな).まぁ,順序空間という用語にも諸説あったりしますが本当に関係ないので本当に省略します.順序位相については証明のあとで軽く補足します.

記法と定義

証明する前に,言葉と記法の定義だけしておきます.有限数列と無限数列を同時に扱いたい場面があるので,順序数に慣れていない人には少しトリッキーな記法をわざわざ採用しているように見えるかもしれませんが我慢してください.逆に,順序数を知っている人にはおかしな言い回しをしているように見えるかもしれませんが,知らない人向けに最低限の用語を導入していると思って我慢してください.

順序数(ただし$\omega$まで)

各自然数 $n$ とフォン・ノイマン構成の自然数 $\set{0, 1, \dots, n-1}$ を以後同一視する.$\omega = \set{0, 1, 2, \dots}$ で自然数全体の為す集合を表す.$\alpha, \beta \in \omega \cup \set{\omega}$ に対し,$\alpha \subseteq \beta$ のとき順序 $\alpha \le \beta$ が成り立つと定義する.

$0$ は自然数です.自然数全体の集合が $\mathbf{N}$ ではなく $\omega$ になっているのは単に Alwe さんからいただいた解説ツイートをなぞった記法にしただけです.もちろん,先述のように有限数列と無限数列を同時に扱いたい場面もあって後々便利だから「順序数」を使っているというのもあります.「順序数」の間の順序については,以後「$\alpha \le \omega$ $\Leftrightarrow$ $\alpha < \omega$(有限)または $\alpha = \omega$(無限)」の短縮形としてだけ出て来ます.

数え上げ

$X$ を高々可算な集合,$x \colon \alpha \to X$ ($\alpha \le \omega$) を写像とする.$x$ が全単射であるとき,$x$$X$ の(要素の)数え上げと呼ぶ.

要素の数え上げ $x$ による $i \in \alpha$ の写像先は $x_i$ と下付き添え字で書くものと約束します.本稿では高々可算な集合の数え上げしかしないので可算集合に限っています.

順序同型

$(X, \le)$, $(Y, \le)$ を順序集合とし,$f \colon X \to Y$ を写像とする.$f$ が順序を保つとは,全ての $x, x' \in X$ に対して $x \le x'$ ならば $f(x) \le f(x')$ が成り立つことである.$f$ が順序同型写像であるとは,$f$ が順序を保つ全単射であって,逆写像 $f^{-1}$ も順序を保つことである.$X$$Y$ の間の順序同型写像が存在する時,$X$$Y$ は順序同型であるという.

証明で使うので順序同型も一応定義しておきました.

点列の順序同型

$\alpha \le \omega$ とし,順序集合 $(X, \le)$ の点列 $(x_i)_{i \in \alpha}$ と順序集合 $(Y, \le)$ の点列 $(y_i)_{i \in \alpha}$ を考え,それぞれ点列の要素は重複しないものと仮定する.対応 $x_i \mapsto y_i$ が部分順序集合 $\set{x_i \mid i \in \alpha}$$\set{y_i \mid i \in \alpha}$ の間の順序同型を与えるとき,点列 $(x_i)_{i \in \alpha}$$(y_i)_{i \in \alpha}$ は順序同型であると呼ぶことにする.

要素が重複しないということはつまり(部分的な)数え上げです.要素の数え上げ方が所与であるときに,数え上げと整合する写像方法に限定した特別な順序同型を扱うための用語を定義したということです.これは以下の証明で用いるためのここだけの用語です.

定理の証明

さて,$\mathbf{Q}$$\mathbf{Q} \setminus \{0\}$ も可算なので数え上げが取れます.その数え上げを元に別の上手い数え上げを作り,要素間の対応関係により順序空間同型を作る方針で定理を証明していきます.

$\mathbf{Q}$$\mathbf{Q}\setminus\set{0}$ はいずれも可算無限集合なので,それぞれ要素の数え上げ $p \colon \omega \to \mathbf{Q}$, $q \colon \omega \to \mathbf{Q}\setminus \set{0}$ を取る.

$\mathbf{Q}$ の数列 $x$$\mathbf{Q}\setminus\set{0}$ の数列 $y$ を順序同型となるよう構成していく.まず,$x_0 \coloneqq p_0$, $y_0 \coloneqq q_0$ と定める.各 $k \in \omega$に対し交互再帰的に数列 $(x_i)_{i \in \omega}$, $(y_i)_{i \in \omega}$ を以下で定義する:

  1. $x_{2k}$$y_{2k}$ まで定まっているとき,$p_n$$x_0, \dots, x_{2k}$ のいずれとも異なるような最小の $n$ を選んで $x_{2k+1} \coloneqq p_n$ と定める.
  2. $x_{2k+1}$$y_{2k}$ まで定まっているとき,$(x_0, \dots, x_{2k+1})$$(y_0, \dots, y_{2k}, q_n)$ が点列として順序同型となるような最小の $n$ を選んで $y_{2k+1} \coloneqq q_n$ と定める.
  3. $x_{2k+1}$$y_{2k+1}$ まで定まっているとき,$q_n$$y_0, \dots, y_{2k+1}$ のいずれとも異なるような最小の $n$ を選んで $y_{2k+2} \coloneqq q_n$ と定める.
  4. $x_{2k+1}$$y_{2k+2}$ まで定まっているとき,$(x_0, \dots, x_{2k+1}, q_n)$$(y_0, \dots, y_{2k+2})$ が点列として順序同型となるような最小の $n$ を選んで $x_{2k+2} \coloneqq p_n$ と定める.

全ての $i \in \omega$ に対して,$(x_0, \dots, x_i)$$(y_0, \dots, y_i)$ はそれぞれ重複しない要素から為り ($\because$(i), (iii)) かつ順序同型である ($\because$(ii), (iv)) ことが分かる.特に,全ての $i, j \in \omega$ に対して,$x_i \le x_j$ であることと $y_i \le y_j$ であることは必要十分である.ゆえに,数列全体 $x$$y$ は数え上げを為し,点列として順序同型である.対応 $x_i \mapsto y_i$ ($i \in \omega$) で写像 $f \colon \mathbf{Q} \to \mathbf{Q} \setminus\set{0}$ を定義すれば順序同型となる.

最後に,$\mathbf{Q}$$\mathbf{Q}\setminus\set{0}$ の位相はいずれも順序位相(※)であるから,順序同型写像が順序位相を保つことより $f$ は同相であることが分かる.

数列の交互再帰的定義について補足しておきます.まず,どのステップでも条件を満たすような最小の $n$ を選んで数列の次の有理数を決めて行っています.(i), (iii) は $p_n, q_n$ を消費してただ追加するだけというイメージです.この操作で片方要素数が増えて長くなります.(ii), (iv) は直前に追加した方と同じ順序配置になるよう $p_n, q_n$ を追加して長さを再び揃えます.(ii), (iv) の順序同型という条件は「追加要素は既存のいずれの要素とも異なる」という (i), (iii) と同様の条件を含んでいることに注意してください.小さい方の $n$ から優先して取り出していくので,$4k$ 回の追加後は $k$ 以下の全ての添え字 $n$ について $p_n, q_n$ が消費済みでなければなりません.無限に繰り返すので取り残されてしまう有理数が出ることはありません.有理数の稠密性により (ii), (iv) で「条件を満たす要素が取れない」ということもありません.直前に追加した要素と順序が整合する要素が常に存在しています.したがって,これらのルールで繰り返し数列に要素を追加していけば,余すことなく全ての有理数($y$ の方は $0$ を除く)を取り尽くし新たな数え上げを構成できます.

※順序位相

最後に,証明の〆の順序位相についても補足しておきます.全順序集合 $(X, \le)$ の順序位相とは,$X$ 上の全ての開区間から生成される位相のことです.ここで,開区間とは部分集合 $(a, b) = \set{x \in X \mid a < x < b}$ のことで,$a = -\infty$$b = \infty$ の場合の(半)無限開区間も許すものとします.順序位相を考える際は,位相が先にあって「開」区間と言っているのではなく,順序が先にあって順序から定まる特定の形の部分集合を「開」区間と呼んでいるということに注意してください.

なぜ開区間から生成される位相が順序同型で保たれるかというと,順序のみに依って開基が定まっているからです.実際,$f \colon (X, \le) \to (Y, \le)$ を全順序集合の間の順序同型とすると,$X$$Y$ の開区間全体の集合の間に $f$ による全単射が自然に定まります.つまり,$f[(a, b)] = (f(a), f(b))$$f^{-1}[(a, b)] = (f^{-1}(a), f^{-1}(b))$ が成り立ちます(半無限開区間の場合も同様の対応が成り立ちます).これがまさに開基の間の一対一対応になっていますから,順序位相に関して $f$$X$$Y$ の間の同相写像ということになります.

また,$\mathbf{Q}$ の位相はユークリッド直線 $\mathbf{R}$ の標準位相からの相対位相としていましたが,実は順序位相と一致します.まず,$\mathbf{R}$ の標準位相も順序位相です.したがって,$\mathbf{Q}$ での相対位相は $\mathbf{Q} \cap \set{x \in \mathbf{R} \mid a < x < b}$ ($a, b \in \mathbf{R}$) という形の集合全体から生成されます.一方で,$\mathbf{Q}$ 上の開区間は $\set{x \in \mathbf{Q} \mid a < x < b}$ ($a, b \in \mathbf{Q}$) なので,一見すると順序位相の方が粗い(開基が「少ない」)ようにみえます.しかし,下端上端 $a, b$ いずれかが無理数である場合の開集合 $\mathbf{Q} \cap \set{x \in \mathbf{R} \mid a < x < b}$ は下端上端がともに有理数であるような $\mathbf{Q}$ 上の開区間のある可算無限和として表すことが常にできますから,結局相対位相と順序位相は一致します.一点を抜いても同じです.

終わりに

おかしい. Alwe さんの 2 ツイート分の証明 を書き出すだけだから一瞬だと思っていたのにやたらと長くなってしまいました.交互再帰的定義の要件を正確に書き出そうとして点列順序同型のくだりを導入する羽目になったのが敗因です.順序位相の補足を書き始めたのもいかんかったな.まぁ,正確になる分にはいっか.

そういう訳で,今回はせっかくなのでと教えてもらった証明方針を清書してみました.構成自体は具体的とはいえ,得られた順序同型はカノニカルな分かりやすい形をしている訳ではないので,直観的にイメージしづらいという人もいると思います.うまく飲み込んでください.ともかく,無事 $\mathbf{Q}$ から一点抜いても同相であることが分かりましたね.なお,学生諸氏におかれましては 1 クォーターも抜かさずちゃんと頑張ってください.

投稿日:815

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

UDA です.応用数学をしています.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中