関数$f(x)$について、$x$が$a$から$b$まで変化するときの平均変化率とは、
$$ \frac {f(b)-f(a)}{b-a}$$
なる値のことでした。これ、$a$と$b$についての対称式ですよね?対称式ってことは基本対称式で表したくなりますよね?ということでやってやりました。
テイラー展開を用いたいので、$f(x)$は無限回微分可能とします。収束半径等はとりあえず気にせず、形式的な式変形のみ考えます。
$f(x)$を$\disp \frac {a+b}2$のまわりでテイラー展開すると
$$ f(x)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}\left( \frac {a+b}2 \right)}{n!}\left( x-\frac {a+b}2 \right)^n$$
となる。したがって、
$$ \begin{eqnarray} \frac {f(b)-f(a)}{b-a} &=& \frac 1{b-a}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}\left( \frac {a+b}2 \right)}{n!}\left\{ \left( b-\frac {a+b}2 \right)^n - \left( a-\frac {a+b}2 \right)^n \right\} \\
&=& \frac 1{b-a}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}\left( \frac {a+b}2 \right)}{n!}\left\{ \left( \frac {b-a}2 \right)^n - \left( \frac {a-b}2 \right)^n \right\} \end{eqnarray} $$
ここで、
$$ \left( \frac {b-a}2 \right)^n - \left( \frac {a-b}2 \right)^n = \begin{cases} 0 & (n\text{ が偶数}) \\ 2\left( \frac {b-a}2 \right)^n & (n \text{ が奇数})
\end{cases}$$
より、偶数次の項は消え、
$$ \begin{eqnarray} \frac {f(b)-f(a)}{b-a} &=& \frac 1{b-a}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(2n+1)}\left( \frac {a+b}2 \right)}{(2n+1)!} \cdot 2 \left( \frac {b-a}2 \right)^{2n+1} \\
&=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(2n+1)}\left( \frac {a+b}2 \right)}{(2n+1)!} \cdot \left( \frac {b-a}2 \right)^{2n} \\
&=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(2n+1)}\left( \frac {a+b}2 \right)}{(2n+1)!} \cdot \left\{ \frac {(a+b)^2-4ab}4 \right\}^{n} \end{eqnarray}$$
となる。これで基本対称式で表すことができた。
以上です!
と、元々はここで終わらせるつもりでした。具体例の1つぐらい欲しいところですが、特に面白いものも見つからず……。しかし、一応もう一晩だけ考えてみるかと粘ったところ、あることを思いつきました。
基本対称式で表せると嬉しいのはどういう時かというと、例えば$a,b$がある2次方程式の解であれば、直接$a,b$を求めずに方程式の係数だけで計算できる、というのがあります。
2次方程式の解……$\disp \frac {f(b)-f(a)}{b-a}$……はっ!
フ ィ ボ ナ ッ チ 数 列 だ
(ピンと来ない方もどうか続けてお読みください。)
ということで、フィボナッチ数列への応用を紹介します!
まずはおさらいから。
以下の漸化式で定まる数列$\{ F_n \}$を、フィボナッチ数列という。
$$ F_0=0, \qquad F_1=1,\qquad F_{n}=F_{n-1}+F_{n-2} \quad (n \geqq 2)$$
フィボナッチ数列の一般項は、以下のように表せることが知られています。
$x^2-x-1=0$の解を$x=\alpha,\beta$とおくと、
$$ F_n= \frac {\beta^n - \alpha^n}{\beta-\alpha}$$
導出については、例えば こちら を参照。
普通に2次方程式を解いて当てはめると
$$ F_n= \frac 1{\sqrt 5}\left\{ \left( \frac{1+\sqrt 5}{2} \right)^n - \left( \frac {1-\sqrt 5}{2} \right)^n \right\}$$
となります。フィボナッチ数列の一般項といえばこの形で書かれることが多いですね。「自然数列なのに$\sqrt{\ \ }$が必要だなんて不思議だね~」なんてのは定番の話題です。
しかし!今回の結果を用いれば、$\disp \frac {\beta^n - \alpha^n}{\beta-\alpha}$を$\alpha$と$\beta$の基本対称式で表すことができます。すなわち、$\sqrt{\ \ }$を使わずに表せるはずです!果たしてどのような表示になるのでしょうか。見てみましょう!
$f(x)=x^n$とおく。$f(x)$は任意の複素数のまわりでテイラー展開可能で、収束半径は$\infty$であるから、任意の複素数に対して上の結果が適用できる。
$\disp F_n=\frac {f(\beta) - f(\alpha)}{\beta-\alpha}$と表せる。解と係数の関係より$\disp \alpha+\beta =1, \ \ \alpha\beta=-1$であるから、上の結果より
$$ F_n = \frac {f(\beta) - f(\alpha)}{\beta-\alpha}=\sum_{k=0}^{\infty} \frac{f^{(2k+1)}\left( \frac {1}2 \right)}{(2k+1)!} \cdot \left( \frac {5}4 \right)^{k}$$
である。ここで、$\disp \frac{f^{(2k+1)}\left( \frac {1}2 \right)}{(2k+1)!}$を求める。$f(x)=x^n$から
$$ f^{(2k+1)}(x)=n(n-1)\cdots(n-2k)x^{n-2k-1}$$
($x \neq 0$の範囲では$n<2k+1$でも成り立つことに注意)
であり、したがって
$$ \frac{f^{(2k+1)}\left( \frac {1}2 \right)}{(2k+1)!} = \frac {n(n-1)\cdots(n-2k)}{(2k+1)!}\cdot\left( \frac 12 \right)^{n-2k-1}={}_n\mathrm C_{2k+1}\cdot\left( \frac 12 \right)^{n-2k-1}$$
である。ここで、$n<2k+1$のときは${}_n\mathrm C_{2k+1}=0$と約束する。これを用いれば、
$$ \begin{eqnarray} F_n&=&\sum_{k=0}^{\infty}{}_n\mathrm C_{2k+1}\cdot\left( \frac 12 \right)^{n-2k-1}\cdot \left( \frac {5}4 \right)^{k} \\
&=& \sum_{k=0}^{\infty}{}_n\mathrm C_{2k+1}\cdot\left( \frac 12 \right)^{n-2k-1}\cdot \left( \frac {1}2 \right)^{2k} \cdot 5^k \\
&=& \sum_{k=0}^{\infty}{}_n\mathrm C_{2k+1}\cdot\left( \frac 12 \right)^{n-1}\cdot 5^k \\
&=& \frac 1{2^{n-1}}\sum_{k=0}^{\infty}{}_n\mathrm C_{2k+1} \cdot 5^k
\end{eqnarray}$$
を得る。なお、$n<2k+1$のときは${}_n\mathrm C_{2k+1}=0$と約束したので、これは有限和である。
$$ F_n= \frac 1{2^{n-1}}\sum_{k=0}^{\infty}{}_n\mathrm C_{2k+1} \cdot 5^k$$
狙い通り、フィボナッチ数列の一般項を$\sqrt{\ \ }$を使わずに表すことができました!(これで「表すことができた」と言って良いのかどうかは個人の判断に任せます。)私はこの表示を知らなかったので驚いたのですが、調べてみたら既出だったようです。 こちらの記事 に解説がありました。カタランの公式というそうですが、検索してもヒット数が少なく、出典が気になるところです。
今度こそ以上です!