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大学数学基礎解説
文献あり

曲率がほぼ一定ならほぼ球面?~観察編~

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$$\newcommand{area}[1]{\mathrm{Area}(#1)} \newcommand{div}[1]{\mathrm{div}\left(#1\right)} \newcommand{divS}[1]{\mathrm{div}^{\Sigma}\left(#1\right)} \newcommand{eps}[0]{\varepsilon} \newcommand{inn}[2]{\left \langle {#1}, {#2} \right \rangle} \newcommand{lapS}[0]{\Delta^{\Sigma}} \newcommand{mbb}[1]{\mathbb{#1}} \newcommand{mrm}[1]{\mathrm{#1}} \newcommand{nablaS}[0]{\nabla^{\Sigma}} \newcommand{vol}[1]{\mathrm{Vol}(#1)} $$

先日Xにて以下のようなつぶやきを見かけました. ( 元post )

曲率が正定値な閉曲面だから球しかないって筋書きにしようとしたけど、「曲率が正で"ほぼ"一定なら"ほぼ"球」みたいな安定性定理成り立つっけ?がわからんので手出しできなくなった

続くリプライでのやり取りを踏まえて数学っぽい問にするなら次のような感じでしょうか.

向き付け可能な閉曲面$\Sigma$のガウス曲率$K$がある正定数$k_0$$\eps$に対し$\|K - k_0\|_{\infty} < \eps$を満たしているとする. $\eps$が十分小さい($\eps \ll k_0$)とき, 曲面$\Sigma$と曲率$k_0$の標準球面$S^2_{k_0}$との間の「近さ」を定量的に評価せよ.

曲率のピンチング条件から与えられた曲面の幾何がどれだけ球面の幾何に近いかを問う, 幾何解析では定番の問題です.
今回は, 曲率が「正で”ほぼ”一定」な曲面の色々な幾何学的量の評価を通して, 曲面が「”ほぼ”球面」っぽいことを見ていこうと思います.
以下では簡単のため,$k_0=1$として話を進めます. また, 曲面$\Sigma$の計量を$g$で, 曲率1の標準球面$S^2$の計量を$g_0$で表すことにします.

位相的には球面

手始めに考えている曲面は球面と同相なことを確認しておきましょう. $\eps > 0$が十分小さいとき, $K > k_0 - \eps > 0$となるのでGauss-Bonnetの定理により
\begin{align} 0 < \int_{\Sigma}K = 2 \pi \chi(\Sigma). \end{align}
$\Sigma$は向き付け可能としていたので, $S^2$と同相であることがわかります.

種々の幾何学的量の比較

位相的にはざっくり球面であることはわかったので, 続いて色々な幾何学的な量を計算していきます. ここでは「面積」「直径」「ラプラシアンの第1固有値」の3つを計算します.

面積は”ほぼ”球面

まずは一番簡単な面積の計算をします. 曲率の条件から
\begin{align} 1 - \eps < K < 1 + \eps \end{align}
$\Sigma$の各点で成り立つので, これを積分して
\begin{align} (1 - \eps)\area{\Sigma} \leq \int_{\Sigma}K \leq (1 + \eps)\area{\Sigma}. \end{align}
一方, Gauss-Bonnetの定理より$\int_{\Sigma}K = 4\pi$ となるので, 上式に代入して整理すると
\begin{align} \frac{4\pi}{1 + \eps} \leq \area{\Sigma} \leq \frac{4\pi}{1 - \eps} \end{align}
を得ます. したがって, $\eps < 1/2$ のとき
\begin{align} |\area{\Sigma} - 4\pi| \leq 2\eps \end{align}
すなわち面積は$\eps$オーダーで単位球面に近いことがわかりました.

直径は”ほぼ”球面

次に直径を評価します. ここからはRiemann幾何学の予備知識を仮定します.
$d_\Sigma$$\Sigma$の測地距離としたとき, 直径を$D := \text{Diam}(\Sigma) := \sup_{p, q \in \Sigma}d_{\Sigma}(p, q)$で表します.
曲率が$K > 1 - \eps > 0$を満たしますから, Myersの定理によって, 直径は上から
\begin{align} D \leq \frac{\pi}{\sqrt{1 - \eps}} \end{align}
と抑えられます.
下からの評価にはGromov-Bishopの不等式を使います.
曲率が$K > 1 - \eps$を満たすので, $\area{\Sigma} = \area{B^{\Sigma}_D}$と表せることに注意して, Gromov-Bishopの不等式を($r\to0$として)用いると
\begin{align} \area{\Sigma} = \area{B^{\Sigma}_D} \leq \area{B^{S^2_{1 - \eps}}_D} = \frac{2\pi}{\sqrt{1 - \eps}}(1 - \cos(\sqrt{1 - \eps}D)) \end{align}
となります. ここで, 面積の下からの評価$\area{\Sigma} \geq 4\pi / (1 + \eps)$と合わせて整理すると
\begin{align*} \cos(\sqrt{1 - \eps}D) \leq -1 + \frac{4\eps}{1 + \eps} \end{align*}
したがって$\eps$が小さいとき
\begin{align} D \geq \frac{1}{\sqrt{1 - \eps}}\arccos(-1 + \frac{4\eps}{1 + \eps}) \geq \pi - 2\sqrt{2} \cdot \sqrt{\eps} \end{align}
と評価できます. (最後の不等式には$\cos(\pi - x) = -\cos{x} \leq -1 + x^2/2$を使いました. )
以上より, $\eps$が小さいとき
\begin{align} |\text{Diam}(\Sigma) - \pi| \leq 2\sqrt{2}\cdot\sqrt{\eps} \end{align}
すなわち直径は$\sqrt{\eps}$オーダーで球面に近いことがわかりました.

第1固有値は”ほぼ”球面

最後にラプラシアンの第1固有値を評価します.
曲面$\Sigma$のラプラシアンを$\Delta{u} := \div{\nabla u} = \Sigma_i \inn{e_i}{\nabla_{e_i}\nabla u}$ で定義し, ラプラシアンの固有値を, 恒等的にゼロでないある関数$u$に対して
\begin{align} \Delta{u} + \lambda u = 0 \end{align}
を満たす実数$\lambda$として定義します. 閉曲面のラプラシアンは$\lambda=0$を自明な固有値として持つので, $0$でない最小の固有値を$\lambda_1(\Sigma)$とおき, これをラプラシアンの第1固有値と呼びます. (よく知られているようにコンパクト多様体のラプラシアンの固有値は離散的で, $\lambda_k \to \infty (k \to \infty)$となりますので, この定義は意味を持ちます. )

$K > 1 - \eps$でしたから, Lichnerowicz-Obataの定理により下からの評価
\begin{align} \lambda_1(\Sigma) \geq 2(1 - \eps) \end{align}
が成り立ちます.
上からの評価にはHerschの定理Herを用います.

Herschの定理

閉曲面$\Sigma$は球面$S^2$と同相であるとする. このとき第1固有値$\lambda_1(\Sigma)$について次の不等式が成り立つ:
\begin{align} \lambda_1(\Sigma) \area{\Sigma} \leq\lambda_1(S^2) \area{S^2} = 8\pi. \end{align}
等号成立のための必要十分条件は, $\Sigma$が曲率$\lambda_1(\Sigma)/2$の標準球面であること.

この固有値評価は2次元の場合に成り立つ特別な評価です. 証明の鍵になるのは次の補題です.

重心固定補題

曲面$\Sigma$から球面$S^2$への共形微分同相写像$\Phi: \Sigma \to S^2$が存在したとする. このとき, 以下を成立させる球面上の共形変換 $\gamma: S^2 \to S^2$が存在する:
\begin{align*} \int_{\Sigma}\phi_i = 0, \quad i = 1, 2, 3. \end{align*}
ここで, $\phi_i = x_i \circ \gamma \circ \Phi \in C^{\infty}(\Sigma)$であり, $x_i$$\mathbb{R}^3$の座標関数である.

一意化定理により, $\Sigma$から$S^2$への共形微分同相写像は常に存在することに注意します.

任意の$a \in S^2$$t \in [0, \infty)$に対し, 写像$\gamma_t^a : S^2 \to S^2$
\begin{align} \gamma_t^a(x)= \begin{cases} \Pi_a^{-1}(e^t \Pi_a(x)) & (x \ne a) \\ a & (x = a) \end{cases} \end{align}
で定義する. ここで, $\Pi_a : S^2 \setminus \{a\} \to \mathbb{R}^2$は点$a$に関する立体射影である. 立体射影が共形写像なことに注意すると, $\gamma_t^a$$S^2$上の共形変換であることがわかる. 特に, $\gamma_0^a = \text{id}_{S^2}$, $\gamma_\infty^a = a$(定値写像)に注意する.
いま, 任意の$a \in S^2$と任意の$t \in [0, \infty)$$\int_\Sigma \gamma_t^a \circ \Phi \ne 0$だったとする. ($\gamma_t^a \circ \Phi$$\mathbb{R}^3$値の写像と見て, 成分ごとに積分している.)
このとき, 写像$F : S^2 \times [0, \infty) \to S^2$
\begin{align} F(a, t) = \frac{\int_\Sigma \gamma_t^a \circ \Phi}{|\int_\Sigma \gamma_t^a \circ \Phi|} \end{align}
で定義できる. $F$は連続であり, $F(a, 0) = \int_\Sigma \Phi / |\int_\Sigma \Phi| = \text{const}$, $F(a, \infty) = a$を満たすので$S^2$上の定値写像と恒等写像の間のホモトピーを与えるが, これらの写像度は異なるため写像度のホモトピー不変性と矛盾する.

よって, ある$a \in S^2$$t \in [0, \infty)$に対して$\int_\Sigma \gamma_t^a \circ \Phi = 0$となるので, この$a$$t$に対して$\phi = \gamma_t^a \circ \Phi$とおけばよい.

Herschの定理の証明

一意化定理と重心固定補題により, 共形微分同相写像$\Phi : \Sigma \to S^2$$\int_\Sigma \phi_i = 0$, $i = 1, 2, 3$を満たすものが存在する. 特に$\phi_i$は定数関数と直交するので, 第1固有値の変分による特徴付けにより
\begin{align}\label{eq:phieig} \lambda_1(\Sigma)\int_\Sigma \phi_i^2 \leq \int_\Sigma |\nabla \phi_i|^2, \quad i = 1, 2, 3 \end{align}
が成り立つ. 上式を$i = 1, 2, 3$について和を取ると, $\sum_{i = 1}^3 \phi_i^2 = |\Phi|^2 = 1$に注意して
\begin{align} \lambda_1(\Sigma)\area{\Sigma} &\leq \sum_{i=1}^3 \int_\Sigma |\nabla \phi_i|^2 \\ &= \sum_{i=1}^3 \int_{S^2}|\nabla x_i|^2 \quad \text{(2次元Dirichletエネルギーの共形不変性)} \\ &= -\sum_{i=1}^3 \int_{S^2}x_i \Delta_0 x_i \quad \text{(Greenの公式)} \\ &= \lambda_1(S^2) \sum_{i=1}^3 \int_{S^2} x_i^2 \quad \text{(座標関数は$S^2$の第1固有関数)} \\ &= \lambda_1(S^2)\area{S^2} \end{align}
となり, 求める不等式を得る. (上式で$\Delta. $ )
等号が成立するとき, 特に式\eqref{eq:phieig}においても. 等号が成り立つため, 各$\phi_i$は第1固有関数である.
等式$\sum_{i=1}^3\phi_i^2= 1$より
\begin{align} 0 &= \Delta \sum_{i=1}^3 \phi_i^2 = 2 \sum_{i=1}^3 \phi_i \Delta \phi_i + 2 \sum_{i=1}^3 |\nabla \phi_i|^2 \\ &= -2 \lambda_1(\Sigma) + 2\sum_{i=1}^3 |\nabla \phi_i|^2 \end{align}
よって $\lambda_1(\Sigma) = \sum_{i}|\nabla \phi_i|^2 = |d\Phi|^2$
ここで$\Phi$が共形写像なことに注意して$\Phi^*g_0 = e^{2u}g$ とおくと, $|d\Phi|^2 = 2e^{2u}$となるから,
\begin{align} \Phi^*g_0 = \frac{\lambda_1(\Sigma)}{2}g \end{align}
これは$\Sigma$の計量が曲率$\lambda_1(\Sigma)/2$の球面と等長同型なことを意味する.

Herschの定理により, 第1固有値は上から
\begin{align} \lambda_1(\Sigma) \leq 8\pi \area{\Sigma} \leq 2(1 + \eps) \end{align}
と評価できます. 以上により

\begin{align} |\lambda_1(\Sigma) - 2| \leq 2\eps \end{align}
すなわち第1固有値は$\eps$オーダーで球面に近いことがわかりました.

「近さ」の定式化と主定理(次回予告)

ここまでの観察により, ガウス曲率がほぼ1である曲面の各種幾何学的量は, 標準球面のそれにかなり近いということがわかりました. このことから, 考えている曲面はなんらかの意味で標準球面と「近い」と言えそうです.

実はこの「近さ」は, 次のような「ほぼ等長」な微分同相写像の存在を通して定式化できます.

ガウス曲率に関する球面の安定性

次を満たす正定数$\eps_0$$C$が存在する:
$\eps \in (0, \eps_0)$を任意に取るとき, $\|K - 1\|_{\infty}< \eps$を満たす任意の閉曲面$\Sigma$に対して, ある微分同相写像$\Psi : S^2 \to \Sigma$が存在して
\begin{align} e^{-C\eps}d_{\Sigma}(x, y) \leq d_{S^2}(\Psi(x), \Psi(y)) \leq e^{C\eps}d_{\Sigma}(x, y) \end{align}
が成り立つ. 特に曲面$\Sigma$と球面$S^2$のGromov-Hausdorff距離について
\begin{align} d_{\text{GH}}(\Sigma, S^2) \leq \tilde{C}\eps \end{align}
が成り立つ.

次回以降でこの主張を証明していこうと思います.

参考文献

[1]
J. Hersch, Quatre propri´et´es isop´erim´etriques de membranes sph´eriques homog´enes, C. R. Acad. Sci. Paris A-B 270, 1970, A1645-A1648
投稿日:8時間前
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Torte
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Ph.D(数理学). 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

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