この記事では,実数列の収束を
で定義し,極限の基本的な性質をいくつか証明します.
※いろいろ書いてたら準備が長くなってしまったので,適宜読み飛ばしてください.
(本題へ飛ぶ)
拡大実数
拡大実数全体の集合を導入し,その部分集合が必ず上限・下限を持つことを示す.
(次の節へ飛ぶ)
全順序集合
全順序集合
集合上の全順序とは,上の二項関係であって,次の4条件を満たすもののことである.
- 任意のに対して,が成り立つ.(反射律)
- かつを満たす任意のに対して,が成り立つ.(反対称律)
- かつを満たす任意のに対して,が成り立つ.(推移律)
- 任意のに対して,またはが成り立つ.
このとき,集合とその上の全順序の組を全順序集合という.また,上の二項関係を
で定める.
全順序が文脈上明らかな場合には,全順序集合を単にと書くことも多い.
また,であることをと書いたり,であることをと書いたりする.
上界・下界
を全順序集合,をの部分集合とする.
- の上界とは,元であって,任意のに対してを満たすもののことをいう.
- の下界とは,元であって,任意のに対してを満たすもののことをいう.
上に有界・下に有界
を全順序集合,をの部分集合とする.
- が上に有界であるとは,の上界が存在することをいう.
- が下に有界であるとは,の下界が存在することをいう.
- が有界であるとは,が上に有界かつ下に有界であることをいう.
最大元・最小元
を全順序集合,をの部分集合とする.
- の最大元とは,の上界となる元のことをいう.
- の最小元とは,の下界となる元のことをいう.
最大元・最小元の一意性
を全順序集合,をの部分集合とする.このとき,の最大元・最小元は,存在すればそれぞれ一意である.
よって,の最大元が存在すればそれをと書き,の最小元が存在すればそれをと書く.
がともにの最大元であるときとなることを示せばよい.まず,がの上界であることとからが成り立つ.また,がの上界であることとからが成り立つ.よっての反対称律からを得る.
最小元の一意性も同様に示せる.
上限・下限
を全順序集合,をの部分集合とする.
- の上限とは,の上界全体の集合の最小元のことをいう.
- の下限とは,の下界全体の集合の最大元のことをいう.
の上限・下限は存在すれば一意だから,の上限が存在すればそれをと書き,の下限が存在すればそれをと書く.
上界・下界・最大元・最小元・上限・下限は存在しないこともある.
また,の上限や下限が存在したとしても,それらがに属するとは限らない.
2点集合の上限・下限
全順序集合と2元について,集合の最大元と最小元が存在する.
特に,が成り立つ.
の場合は,がの上界だからであり,がの下界だからである.
の場合も同様に,とがわかる.
和集合の上限・下限
全順序集合との部分集合について,の上限がともに存在していればが成り立つ.また,の下限がともに存在していればが成り立つ.
- を任意に取る.の場合はが,の場合はがそれぞれ成り立つから,いずれの場合であってもが成り立つ.つまりはの上界である.
- の上界を任意に取る.このときはの上界でもあるからが成り立ち,はの上界でもあるからが成り立つ.よってが成り立つから,はの上界の最小元である.
有限集合の上限・下限
全順序集合との部分集合に対して,が空でない有限集合であれば,最大元と最小元が存在する.
の元の個数に関する帰納法
の場合は既に示した.
の場合,を任意に取りとおく.を満たすの任意の部分集合についてとの存在が示されていると仮定すると
が成り立つ.
実数の順序完備性
実数全体の集合は,よく知られた四則演算と全順序を持ち,さらに次の性質を満たしている.
の順序完備性
の任意の部分集合について,かつが上に有界であれば,その上限が存在する.
拡大実数
実数全体をはじめとする順序集合では,一般に部分集合の上限・下限が存在するとは限らない.
ここでは議論を簡単にするため,に2つの元を付け加えて,すべての部分集合に上限・下限が存在するようにする.
拡大実数
を実数でない元とし,の元を拡大実数という.
拡大実数の順序や演算は,次のように定める.
- の全順序をとするとき,上の二項関係をで定義すると,は上の全順序となる(証明略).
説明の都合上とを区別したが,以降は区別せずと書く. - の和を,積をとするとき,の和と積をとで定義する.
説明の都合上と,とを区別したが,以降は区別せずやと書く.
また実数のときと同様に,積の記号や括弧を適宜省略したり,をと書いたりする. - に対して,とする.
また,以降と表記する.このとき,もちろん,である.
不定形
では,次の形の和や積は定義しない.(※との積は定義する流儀もある)
拡大実数と実数に対して,次のことが成り立つ.
- ならば,である.
- かつならば,である.
- ならば,である.
の任意の部分集合はを上界,を下界に持ち,したがっての中で有界になる.
これでは有界性という概念を考える意味が無いため,ここからは(順序集合の一般論と異なる用法だが,便宜上),の部分集合について有界と言ったときには上界・下界として実数が取れることを意味することにする.
の部分集合の有界性
をの部分集合とする.
- が上に有界であるとは,の上界となる実数が存在することをいう.
- が下に有界であるとは,の下界となる実数が存在することをいう.
- が有界であるとは,(1), (2) の意味でが上に有界かつ下に有界であることをいう.
実数を拡大実数へと拡げることで,上限・下限が常に存在するようになるというメリットがある.
- の場合は
が成り立つから,以降の場合を考える.このときはの上界になり得ないことに注意(もしがの上界だと,となってに矛盾するため). - が上に有界でない場合,の上界はしかないからである.
- かつが上に有界である場合,の順序完備性よりが存在する.また上の注意から,に(の中で)より小さい上界は存在しない.したがっては(の中でも)の上限である.
,とおくと,でありは有限集合だから,の上限・下限がともに存在して
が成り立つ.(※とが成り立つから,でも問題ない)
簡単のためと書く.任意のに対してつまりが成り立つから,はの下界である.またの下界を任意に取ると,任意のに対してつまりが成り立つから,はの上界でありつまりを得る.よってはの下限である.
他方の等式も同様に示せる.
簡単のためと書く.任意のに対してつまりが成り立つから,はの上界である.またの上界を任意に取ると,任意のに対してつまりが成り立つから,はの上界でありつまりを得る.よってはの上限である.
他方の等式も同様に示せる.
拡大実数列
からへの写像を拡大実数列という.拡大実数列とに対してと書き,列自体をと書く.
また,値域がに含まれている拡大実数列を実数列という.
を拡大実数列とする.
- が単調増加であるとは,任意のに対してが成り立つことをいう.
が単調減少であるとは,任意のに対してが成り立つことをいう. - が上に有界であるとは,の部分集合が上に有界であることをいう.
が下に有界であるとは,の部分集合が下に有界であることをいう.
が有界であるとは,の部分集合が有界であることをいう. - がの部分列であるとは,次の2条件を満たす写像が存在することをいう.
- 任意のに対してが成り立つ.
- 任意のに対してが成り立つ.
拡大実数列の上限・下限
拡大実数列の上限・下限を定義し,その基本性質を調べる.
(次の節へ飛ぶ)
拡大実数列の上限・下限は(拡大実数として)必ず存在するが,(たとえが実数列であっても)上限・下限が実数とは限らない(になることがある).
ただし,常にである場合を除いて上限はにならず,常にである場合を除いて下限はにならない.
大小関係の保存
拡大実数列と非負整数が,任意の非負整数に対してを満たすならば
が成り立つ.
任意の非負整数に対して
が成り立つから,最右辺はの上界であり,ゆえにを得る.
他方の不等式も同様に示せる.
の上限・下限(その1)
を値に取らない拡大実数列に対して,次式が成り立つ:
を値に取らない拡大実数列に対して,次式が成り立つ:
任意の非負整数に対して,とより
が成り立つから,を得る.他方の不等式も同様に示せる.
の上限・下限(その2)
を値に取らない単調増加な拡大実数列に対して,次式が成り立つ:
を値に取らない単調減少な実数列に対して,次式が成り立つ:
任意の非負整数に対して,の単調増加性より
が成り立つから,まずについて上限を取れば,任意の非負整数に対して
が成り立ち,次にについて上限を取れば
を得る.他方の等式も同様に示せる.
実数列の上極限・下極限
実数列の上極限・下極限を定義し,その基本性質を調べる.
(次の節へ飛ぶ)
実数列に対して,拡大実数列の下限,上限を考えることで,上極限や下極限が定義される.
実数列の上極限・下極限
実数列に対して,
をの上極限といい,
をの下極限という.
実数列の上極限・下極限は(拡大実数として)常に存在するが,実数になるとは限らない(になることがある).
ただしが有界であれば,上極限・下極限は必ず実数になる.
大小関係の保存
実数列が,任意の非負整数に対してを満たすならば
が成り立つ.特に,有界な実数列の上極限・下極限はともに実数である.
任意の非負整数に対して
が成り立つから,それぞれ下限,上限を取れば所望の不等式を得る.
上に有界上極限
実数列が上に有界であることと,の上極限がでないことは同値である.
実数列が下に有界であることと,の下極限がでないことは同値である.
上に有界な実数列の上極限がでないことは既に示した.実数列が上に有界でないとき,非負整数と実数を任意に取ると,を満たす非負整数が取れる.この取り方によってとが成り立つから,の任意性より
が成り立ち,の任意性より
を得る.下極限についても同様に示せる.
任意のに対して
が成り立つから,まずについて上限を取れば,任意のに対して
を得る.次にについて下限を取れば
となり所望の不等式が示された.
3つ目の不等号については,任意の非負整数に対して
が成り立つから,下限を取れば
を得る.1つ目の不等号も同様に示せる.
が単調減少であることに注意すれば
下極限についても同様に示せる.
が単調減少な実数列であることに注意すれば
下極限についても同様に示せる.
2つ目の不等号については
として,両端辺に実数を足せばよい.他方の不等号も同様に示せる.
一般に
が成り立つが,仮定より上の不等号はすべて等号となる.下極限についても同様に示せる.
実数列の極限
上極限を用いて実数列の極限を定義し,その基本性質を調べる.
実数列の収束
実数列が実数に収束するとは,
が成り立つことをいう.
より実数列は上に有界だから,ある実数が存在して,任意のに対してが成り立つ.このとき任意のに対して
が成り立つから,は有界である.
収束部分列も収束
実数列が実数に収束するとき,の任意の部分列もに収束する.
大小関係の保存
実数列が任意のに対してを満たし,かつがそれぞれ実数に収束するとき,である.
任意のに対してが成り立つから,前命題よりかつ,つまりを得る.
はさみうちの原理
実数列が任意のに対してを満たし,かつがともに実数に収束するとき,もに収束する.
極限と四則演算
実数列がそれぞれ実数に収束するとき,次のことが成り立つ.
- はに収束する.
- はに収束する.
- はに収束する.
- であり,かつ任意のに対してであれば,はに収束する.
任意のに対してが成り立つから
任意のに対して
が成り立つから
は有界だから,ある正実数が存在して,任意のに対してが成り立つ.このとき任意のに対して
が成り立つから
の場合だけ考えれば十分.まず
だから,あるが存在してが成り立つ.すると以上の任意のに対して
より
が成り立つから
が上に有界だから,は実数である.さらにの単調増加性より
極限の定義の同値性
実数列と実数について,次の3条件は同値である.
- がに収束する.(つまり,が成り立つ.)
- が成り立つ.
- 任意の正実数に対してあるが存在して,以上の任意のに対してが成り立つ.(-論法)
(1)(2)(3)(1) の順で示す.
(1)(2):
任意のに対して
が成り立つから
(2)(3):
正実数を任意に取る.まず
より,あるが存在してが成り立つ.また
より,あるが存在してが成り立つ.すると,以上の任意のに対してつまりが成り立つ.
(3)(1):
正実数を任意に取ると,(3) よりあるが存在して,以上の任意のに対してが成り立つ.このとき各に対して
が成り立ち,最右辺は(の関数として)のときに最小値を取るから
となる.いまは任意だったから,が示された.
誤りなどあれば教えていただけると幸いです.
ここまでお読みいただきありがとうございました.