距離空間$X$上の自己等長写像 (endometry)
\begin{align} f\colon X\to X \end{align}
を考えます.
等長写像 (isometry) の定義から, $f$は単射です.
実際, $f(x)=f(y)$とすると
\begin{align} d(x,y)=d(f(x),f(y))=0 \end{align}
なので, $x=y$となり, $f$の単射性が従います.
$X$がコンパクトのとき, $f$は全射でもあることが, 比較的容易に分かります.
背理法を用いるため, $f(X)\neq X$と仮定する. $x_0\in X\setminus f(X)$を任意に取る.
$f(X)$はコンパクトなので, $X$で閉である. よって
\begin{align}
\delta=d(x_0,f(X))
=
\inf_{y\in X}d(x_0,f(y))
\end{align}
とおくと, $\delta>0$となる.
ここで, 点列
\begin{align}
x_n=f^n(x_0) \qquad (n=0,1,2,\dots)
\end{align}
を考える.
任意の$0\le m< n$について, $f$が等長写像であることから
\begin{align}
d(x_m,x_n)
=
d(f^m(x_0),f^n(x_0))
=
d(x_0,f^{n-m}(x_0))
\end{align}
が成り立つ. ここで, $n-m>0$なので, $f^{n-m}(x_0)\in f(X)$であり, $\delta$の定義より
\begin{align}
d(x_m,x_n)\ge\delta
\end{align}
となる. したがって, 点列$(x_n)$の相異なる二項は互いに$\delta$以上離れている.
よって, $(x_n)$は収束部分列を持たないこととなり, $X$のコンパクト性に矛盾する.
ゆえに, 仮定は誤りであり, $f(X)=X$である.
すなわち, $f$は全射である. ■
この記事では, $X$のコンパクト性の条件を少し弱めても, $f$は全射になることを示します.
特に, $\mathbb{R}^n$の自己等長写像は必ず全射になります.
定理の主張を述べるために, 二つの用語を定義します.
群$G$の位相空間$X$への作用がココンパクト (cocompact) であるとは,商空間$X/G$がコンパクトのときをいう.
距離空間$X$がプロパー (proper) であるとは,任意の有界閉部分集合がコンパクトのときをいう.
$\mathbb{R}^n$はプロパーです (Heine–Borelの定理).
また, $\mathbb{R}^n$の等長変換群の作用は推移的なので, 特に, $\mathbb{R}^n$はココンパクトです.
したがって, 次の定理は, $X=\mathbb{R}^n$に対して成り立ちます.
$X$をプロパーな距離空間とし, 等長変換群$G=\mathrm{Isom}(X)$が$X$にココンパクトに作用しているとする.
このとき, 任意の自己等長写像
\begin{align} f\colon X \to X \end{align}
は全射である.
この定理の名称は, 参考文献2から採りました.
ココンパクト性は定理に必要な条件です.
実際
\begin{align} X = [0,\infty) = \{x\in\mathbb{R} \, | \, x\ge0\} \end{align}
のとき, $X$上の自己等長写像$f(x)=x+1$は全射ではありません.
以下では, この定理を証明します.
開球と閉球をそれぞれ
\begin{align} B_r(x) &= \{y\in X \, | \, d(x,y)< r\}, \\ \overline{B}_r(x) &= \{y\in X \, | \, d(x,y)\le r\} \end{align}
で表すことにします.
$X$は完備であり, $f(X)$も完備である.
特に, $f(X)$は$X$で閉である.
$X$の任意のコーシー列$(x_n)$を取る.
コーシー列は有界なので, $(x_n)$はある有界閉集合に含まれる.
$X$はプロパーなので, その有界閉集合はコンパクトである.
また, 距離空間において, コンパクト性と点列コンパクト性は同値である.
したがって, $(x_n)$は収束部分列を持つ.
コーシー列の部分列が収束すれば, 元のコーシー列が収束するから, $(x_n)$は収束する.
以上より, $X$の完備性が従う.
完備距離空間の等長写像による像は完備である.
また, 距離空間において, 部分集合が完備であることと, 閉であることは同値である.
ゆえに,$f(X)$は完備であり, $X$で閉である.
任意の$x\in X$に対し, ある$r_0>0$が存在して, 任意の$y\in X$に対し
\begin{align} d(x,Gy)< r_0 \end{align}
が成り立つ. ここで
\begin{align} d(x,Gy) = \inf_{g\in G}d(x,gy) \end{align}
である.
任意の$x\in X$に対して, 開集合族
\begin{align} \{p(B_r(x)) \, | \, r>0\} \end{align}
は$X/G$の開被覆である. ここで, $p\colon X\to X/G$は自然な射影である.
$X/G$はコンパクトなので, ある$r_0>0$が存在して
\begin{align} p(B_{r_0}(x)) = X/G \end{align}
となる.
したがって, 任意の$y\in X$に対して, ある$g\in G$が存在して
\begin{align} gy\in B_{r_0}(x) \end{align}
が成り立つ.
すなわち, $d(x,gy)< r_0$なので, $d(x,Gy)< r_0$である.
$X$を距離空間とする.
部分集合$S\subset X$が$\varepsilon$-分離集合 ($\varepsilon$-separated set) であるとは,$S$の相異なる任意の$2$点$x,y$に対して
\begin{align} d(x,y)\ge\varepsilon \end{align}
が成り立つときをいう.
次の補題は, 任意の距離空間$X$に対して成り立ちます.
$S\subset X$を全有界な部分集合とする.
このとき, 任意の$\varepsilon\gt0$に対して,ある正の整数$N$が存在して, $S$に含まれる$\varepsilon$-分離集合の濃度は$N$以下である.
$S$は全有界なので, ある$a_1,\dots,a_N\in X$が存在して
\begin{equation} S \subset \bigcup_{i=1}^N B_{\varepsilon/3}(a_i). \end{equation}
となる.
$A\subset S$が$N+1$個以上の点を含むと仮定する.
このとき, 鳩の巣原理より, 相異なる$2$点$x,y\in A$が存在して, ある$i$に対して
\begin{align} x,y\in B_{\varepsilon/3}(a_i) \end{align}
となる. したがって
\begin{align} d(x,y) &\le d(x,a_i)+d(a_i,y) \\ &\le \varepsilon/3+\varepsilon/3 \\ &< \varepsilon. \end{align}
ゆえに, $A\subset S$が$\varepsilon$-分離集合ならば, $|A|\le N$でなくてはならない.
任意の$\varepsilon>0$と任意の$r>0$に対して, ある正の整数$N$が存在して, 半径$r$の閉球に含まれる$\varepsilon$-分離集合$E\subset X$の濃度は$N$以下である.
$x_0\in X$を一つ取って固定する.
$\varepsilon$-分離集合$E\subset X$が
\begin{align} E\subset\overline{B}_r(x) \qquad (x\in X) \end{align}
を満たすとする.
補題3より, ある$r_0>0$ ($x$によらない) と, $g\in G$が存在して
\begin{align} d(x_0,gx)< r_0 \end{align}
となる.
$g$の等長性から, $gE$も$\varepsilon$-分離集合であり
\begin{align} gE \subset g\overline{B}_r(x) = \overline{B}_r(gx) \subset \overline{B}_{r+r_0}(x_0) \end{align}
となる.
$X$はプロパーだから, $\overline{B}_{r+r_0}(x_0)$はコンパクトであり, 特に全有界である. よって
\begin{align} N = \sup\left\{|F| \, \middle| \, \text{$F\subset\overline{B}_{r+r_0}(x_0)$ は $\varepsilon$-分離集合}\right\} \end{align}
とおくと, 補題4より$N$は有限であり, $|gE|\le N$が成り立つ.
$|E|=|gE|$なので, $|E|\le N$が従う.
以下の証明の方針は, Mathematics Stack ExchangeにおけるYCor氏の回答 を参考にしました.
背理法を用いるため, $f(X)\neq X$と仮定する. $x\in X\setminus f(X)$を任意に取る.
補題2より, $f(X)$は$X$で閉なので
\begin{align} r=d(x,f(X)) = \inf_{y\in X}d(x,f(y)) \end{align}
とおくと, $r>0$である.
さらに, ある$y\in X$が存在して, $r=d(x,f(y))$となる.
$f(X)$は$X$で閉であり, $X$はプロパーだから, $f(X)\cap\overline{B}_{r+1}(x)\neq\emptyset$はコンパクトである.
したがって, ある$y'\in f(X)\cap\overline{B}_{r+1}(x)$が存在して, $r=d(x,y')$となる.
そこで, 任意の$y\in f^{-1}(y')$を取ればよい. ■
\begin{align} N = \sup\left\{|E|\,\middle|\,\text{$E\subset X$ は半径 $r+r_0$ の閉球に含まれる $r$-分離集合}\right\} \end{align}
とおく.
補題5より$N$は有限である.
したがって, ある$r$-分離集合
\begin{align} E\subset \overline{B}_{r+r_0}(z) \qquad (z\in X) \end{align}
が存在して$|E|=N$となる.
$z$を適当な等長変換で動かすことで, $d(y,z)< r_0$としてよいことが分かる.
補題3より, ある$g\in G$が存在して, $d(y,gz)< r_0$.
$g$は等長写像だから, $gE$も$r$-分離集合であり
\begin{align}
gE\subset\overline{B}_{r+r_0}(gz), \qquad |gE|=N
\end{align}
が成り立つ.
したがって, $z$を$gz$に置き換えればよい. ■
$f$は等長写像なので, $f(E)$も$r$-分離集合である.
$r$の定義より, $f(E)\cup\{x\}$も$r$-分離集合になる.
また
\begin{align} d(x,f(z)) &\le d(x,f(y))+d(f(y),f(z)) \\ &\le r+r_0 \end{align}
となるので, $f(E)\cup\{x\}$は$\overline{B}_{r+r_0}(f(z))$に含まれる.
しかし, $|f(E)\cup\{x\}|=N+1$なので, $N$の定義から矛盾である.
ゆえに, 仮定は誤りであり, $f(X)=X$が成り立つ.
すなわち, $f$は全射である.