準同型定理といえば群や環,加群などの代数で成り立つ重要な定理として登場すると思います.あるいは線型空間の準同型定理は次元定理を導くので大学数学初出は線型代数かもしれません.
例えば,群の準同型定理は群準同型$f\c G\to G'$に対し,
$G/{\ker{f}}\cong \Im f$
が成り立つことを主張します.具体的には,同型写像が
$\widetilde{f}\c G/{\ker{f}}\stackrel{\cong}{\to} \Im f,\ x\ker{f}\mapsto f(x)$
という対応で与えられました.
しかし特に構造を持たない集合と写像に対しても,準同型定理に対応する命題を考えることができます.これを通して同値関係や商集合,あるいは代数の準同型定理の理解を深めることができると思います.
(数学をよく知っている人には当たり前のことしか言ってなくて退屈かもしれませんが許してください.)
まず同値関係や商集合を考える上で基本的な考えを共有する.
集合$X$に対し以下は等価である.
(1) $X$上の同値関係$\sim$を与える.
(2) $X$の類別(非交和分割)$\dps X=\bigsqcup_{\lam\in\Lam} C_\lam$を与える.
(1)$\too$(2) 同値関係は剰余類による類別を与える.
(2)$\too$(1) $x,y\in X$に対し,
$$x\sim y \iff \ex \lam\in\Lam,\; x,y\in C_\lam$$
と定めれば同値関係となる.
$X/{\sim}$のイメージ
商集合$X/{\sim}$は分割されたブロックの集合である.
$X$を集合,$\sim$を$X$上の同値関係とする.このとき,
$$\pi\colon X\to X/{\sim},\; x\mapsto [x]$$
を自然な射影という.但し
$$[x]=\{y\in X\mid y\sim x\}$$
は$x$を含む剰余類を表す.
自然な射影は明らかに全射である.
$X,Y$を集合,$\sim_X,\sim_Y$をそれぞれ$X,Y$上の同値関係とする.また,
$$\pi_X\c X\to X/{\sim_X},\ \pi_Y\c Y\to Y/{\sim_Y}$$
を自然な射影とする.写像$f\c X\to Y$に対し,次は同値.
(a) $x_1\sim_X x_2\Longrightarrow f(x_1)\sim_Y f(x_2)$
(b) $\ex! \widetilde{f}\c X/{\sim_X}\to Y/{\sim_Y},\;\widetilde{f}\circ \pi_X=\pi_Y\circ f$
証明の前に(b)の写像がどのような写像かを見ておく.
定理1(b)の$\widetilde{f}\c X/{\sim_X}\to Y/{\sim_Y}$を$f$が誘導する写像という.$\widetilde{f}$は次の図式を可換にする.
可換図式
但し,$[-]_X$と$[-]_Y$をそれぞれ$\sim_X,\sim_Y$の同値類とする.図式から$\widetilde{f}$は対応を明らかにして書くと,
$$\widetilde{f}([x]_X)=[f(x)]_Y$$
となる.
(a)$\too$(b) (a)の下で,
$$\widetilde{f}\c X/{\sim_X}\to Y/{\sim_Y},\;\widetilde{f}([x]_X)=[f(x)]_Y$$
なる写像はwell-definedであり,条件(可換性)を充たす.また可換性を充たすためにはこのように定めるしかなく,一意性も従う.
(b)$\too$(a) $x_1\sim_X x_2$とすると,
\begin{align}
x_1\sim_X x_2 &\iff [x_1]_X=[x_2]_X\\
&\iff \pi_X(x_1)=\pi_X(x_2)
\end{align}
より,
\begin{align}
[f(x_1)]_Y
&=\pi_Y\circ f(x_1)
=\widetilde{f}\circ\pi_X(x_1)\\
&=\widetilde{f}\circ\pi_X(x_2)
=\pi_Y\circ f(x_2)
=[f(x_2)]_Y
\end{align}
よって$f(x_1)\sim_Y f(x_2)$.
定理1の条件がどのような条件か考える.(a)は次のようにいいかえられる.
(c) $\all x\in X,\; f([x]_X)\subset [f(x)]_Y$
つまり任意の同値類$[x]_X$の像は同値類$[f(x)]_Y$に包まれる.
条件(c)
$\widetilde{f}$は$[x]_X$に対し$[f(x)]_Y$を対応させる写像である.もしある$f([x]_X)$がいくつかの同値類にまたがっていたらwell-definedでない.
(a)の$\Longrightarrow$を$\iff$に置き換えた条件を考える.つまり$f$は
(a') $x_1\sim_X x_2\iff f(x_1)\sim_Y f(x_2)$
を充たすとする.このとき,$\widetilde{f}$は単射になる.つまり
(b') $\ex! \widetilde{f}\c X/{\sim_X}\hookrightarrow Y/{\sim_Y},\;\widetilde{f}\circ \pi_X=\pi_Y\circ f$
($\hookrightarrow $は単射を表す.)
が充たされる.
\begin{align} \widetilde{f}([x_1]_X)=\widetilde{f}([x_1]_X) &\iff [f(x_1)]_Y=[f(x_2)]_Y\\ &\iff f(x_1)\sim_Y f(x_2)\\ &\iff x_1\sim_X x_2\\ &\iff [x_1]_X=[x_1]_X \end{align}
逆に(b')$\too$(a')もいえる.(上の同値変形を繋ぎ変えればわかる.)
以上をまとめると,
定理2の状況で,$f$に関して次は同値.
(a') $x_1\sim_X x_2\iff f(x_1)\sim_Y f(x_2)$
(b') $\ex! \widetilde{f}\c X/{\sim_X}\hookrightarrow Y/{\sim_Y},\;\widetilde{f}\circ \pi_X=\pi_Y\circ f$
(a')または(b')を充たすとき,
(c') $\all x\in X,\; f([x]_X)=[f(x)]_Y\cap f(X)$
が成り立つ.
$\subset$は(c)の主張から従う.$\supset$を示す.$f(x')\in [f(x)]_Y\cap f(X)$とすると,$f(x')\sim_Y f(x)$で,(a')より$x'\sim_X x$なので,
$$f(x')\in f([x']_X)=f([x]_X)$$
条件(c')
しかし,(c')$\too$(a')(b')はいえない.実際,(c')だけでは,異なる同値類($\in X/{\sim_X}$)が$\widetilde{f}$によって同じ同値類に移される(つまり単射でない)可能性を排除できない.
定理2において$Y$の同値関係を自明なもの,つまり
$$y_1\sim_Y y_2\ :\!\!\iff y_1=y_2$$
とした場合を考える.このとき,条件(a)は,
(a*) $x_1\sim_X x_2\Longrightarrow f(x_1)=f(x_2)$
となる.今,
$$\all y\in Y,[y]_Y=\{y\}$$
より,
$$\pi_Y\c Y\to Y/{\sim_Y}\;,y\mapsto\{y\}$$
は全単射である.この対応により$Y/{\sim_Y}$を$Y$と見做せば,$\pi_Y$を考える必要はなく,(b)の条件は次のようになる.
(b*) $\ex! \widetilde{f}\c X/{\sim_X}\to Y,\;\widetilde{f}\circ \pi_X=f$
(b*)の可換図式
この$\widetilde{f}$は,$\widetilde{f}([x]_X)=f(x)$という対応である.
条件(a*)
(a*') $x_1\sim_X x_2\iff f(x_1)=f(x_2)$
が成り立つとする.
これまで前提として$X$や$Y$に同値関係が先に与えられている下で,写像$f$についての条件を考えていた.しかし,今回は単に写像$f$が与えられていて,同値関係$\sim_X$を$f$を用いて定義したと考えてもよい.
このとき,(b)に対応する条件は(b*)と(b')より,
(b*') $\ex! \widetilde{f}\c X/{\sim_X}\hookrightarrow Y,\;\widetilde{f}\circ \pi_X=f$
($\hookrightarrow $は単射を表す.)
ここで,終域を$Y$から像$f(X)$に取り換えれば$\widetilde{f}$は全射で取れる.これをまとめて次の定理を得る.
$X,Y$を集合,$f\c X\to Y$を写像とする.$X$上の同値関係$\sim$を
$$x_1\sim x_2 :\!\!\iff f(x_1)=f(x_2)$$
で定めるとき,
$$\ex! \widetilde{f}\c X/{\sim}\stackrel{\cong}{\to} f(X),\;\widetilde{f}\circ \pi_X=f$$
特に,$X/{\sim}\cong f(X)$である.
集合の準同型定理の可換図式
集合の準同型定理
図のように$\widetilde{f}$は$x$の同値類と$f(x)$を対応させる全単射である.
また系として次の定理が得られる.
任意の写像$f\c X\to Y$は全射と単射の合成で表せる.
実際に(b*')の単射$\widetilde{f}$と全射$\pi_X$を考えればよい.
代数の準同型定理との関係を考えてみます.例えば,群準同型$f\c G\to G'$に対し,
\begin{align}
f(x_1)=f(x_2)
&\iff f(x_1 x_2^{-1})=e_{G'}\\
&\iff x_1 x_2^{-1}\in\ker{f}
\end{align}
なので,集合の準同型定理と群の準同型定理は同じ対応になります.
つまり群の準同型定理の対応(商集合と像の間の全単射)自体は集合論的に決まっているということがわかります.しかし,この全単射が群同型になる,という事実が群の準同型定理の重要な主張であり,群構造の偉いところだと思います.
まとめると,集合論の準同型定理を知っておくことで,代数の準同型定理の対応をよりイメージしやすくなるし,その代数の偉さもよりわかるのではないか,ということです.
もし誤りがありましたら教えて頂けると助かります.