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双対と同型でないベクトル束の例

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$$\newcommand{red}[1]{{\color{red}#1}} $$

初めに

本記事では多様体上のランク有限ベクトル束でその双対と同型でないものの例を構成していきます。

初めに「多様体」の意味するところをはっきりさせておきましょう。

多様体とは各点が局所的に$\mathbb{R}^n$の開集合と同相な開近傍を持つ位相空間を指す。

多くの文献で「多様体」の条件として仮定されがちなパラコンパクト性やハウスドルフ性は仮定しません。仮定すると次の定理で書くことがなくなってしまうからです。

パラコンパクトかつハウスドルフな多様体上の任意のベクトル束はその双対束と同型である。

例えば こちら を参照してください。

パラコンパクトでない多様体

上の定理により双対と同型でないベクトルを構成するにはハウスドルフでない例かパラコンパクトでない例を持って来ることになります。ここではパラコンパクトでないものを考えることにしましょう。パラコンパクトでない多様体の(多分)いちばん有名な例である「長い直線」が例になっていることを見ていきます。

そのために「長い直線」を定義していきましょう。初めに$\omega_1$を最小の非可算順序数とします。そして直積集合$\omega\times[0,1)$に辞書式順序を入れ、そこから定まる順序位相を入れます。これを閉じた長い直線と呼び、そこから最小元$(0,0)$を除いた開集合を開いた長い直線と呼びます。ここで閉じた長い直線$L_2$と開いた長い直線$L_1$を用意し、集合$L=L_1\sqcup L_2$を考えます。ここで$L$の全順序を、$s\leq t$であることが

  • $s\in L_1$かつ$t\in L_2$
  • $s,t\in L_1$かつ$t\leq s$
  • $s,t\in L_2$かつ$s\leq t$

のいずれかが満たされていることとして定めます。この全順序による位相が入った$L$長い直線ないしアレクサンドロフ直線と呼びます。

$L$は連結かつハウスドルフな多様体であるが、パラコンパクトではない。

以下概略のみ説明します。ハウスドルフであることは直接確認できます。次に$1$次元多様体であることと連結であることが$\omega_1$の元が全て可算順序数であることから従います。

次にパラコンパクトでないことを見ていきます。まず$L$はハウスドルフなので定理1を接束$TL$に適用することで$L$が距離化可能なことがわかります。そして距離化可能な多様体は第二可算であり、第二可算な位相空間はリンデレーフ(つまり任意の開被覆は可算部分被覆を持つ)です。つまり$L$がリンデレーフでないことを示せば所望の結果が得られます。そこで$L$の被覆として$\alpha\in\omega_1$で添字づけられた開被覆$\{U_\alpha\}$を考えます。但し
$$ U_\alpha=\{x\in L|x\leq(\alpha,0)\} $$
です。この加算部分基底が取れたとし、これを$\{U_{\alpha_k}\}_{k=1}^\infty$とします。このとき$\omega_1$の可算部分集合が$\omega_1$内に上界を持つことから、任意の$k$について$\alpha_k\leq \beta$なる$\beta\in \omega_1$が取れ、$(\beta,0)$$\cup_kU_{\alpha_k}$に含まれていないので矛盾。以上から$L$がリンデレーフでないことが従うので結果が示ました。

$L$及び$TL$が所望の反例になっていること

$\mathbb{R}$上の微分構造から$L$$C^\infty$級の$1$次元多様体と見ることができ、これによって接束$TL$及び余接束$T^\ast L$を考えることができます。ここでいよいよ$TL\not\simeq T^\ast L$が示せます。

$TL\not\simeq T^\ast L$

同型$TL\simeq T^\ast L$が存在したとすると、$L$$1$次元多様体であることから、必要に応じて$-1$倍を合成することでリーマン計量
$$ TL\times TL\to \mathbb{R} $$
が誘導されるとして良い。このときこれと$L$のハウスドルフ性によって$L$の位相はこのリーマン計量から誘導される距離位相になる。しかし距離空間はパラコンパクトであることから補題2に矛盾。よって$TL\not\simeq T^\ast L$である。

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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント

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