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大学数学基礎解説
文献あり

Cullis行列式(1) 定義

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Cullis行列式というものを紹介したいと思います.
Cullis行列式とは, 行列式の定義を正方行列以外にも拡張したものです. 以下が具体例になります.
det4,2(10011001)=2
det3,2(142536)=0
本記事では, Cullis行列式の定義を複数挙げ, それらが同値な定義であることを示します.

  • C係数のn×k行列全体の集合をMn,k(C)と書く.

  • Xの随伴行列をXで表す.

  • eiは基本ベクトルを表す.

  • 正の整数nに対し, In:={1,2,,n}.

  • knをみたす正の整数k,nに対し, Ckn:={cIn#c=k}.

  • knをみたす正の整数k,nに対し, Skn:={σσ:IkIn,単射}.

  • cCknに対し, cの元を小さい順にi1,,ikとしたとき, sgn(c):=(1)j=1k(ijj).

  • σSknに対し, cσによるIkの像とし, cの元を小さい順にi1,,ikとしたとき, sgn(σ):=sgn(c)sgn(i1i2ikσ(1)σ(2)σ(k)).

  • cCknに対し, pi={eiic,0icと定め, Pcn:=(p1pn)Mn(R).

  • cCknに対し, cの元を小さい順にi1,,ikとしたとき, Ecn:=(ei1eik)Mn,k(R).

Cullis行列式の定義

nkをみたす正の整数k,nに対して
detn,k:Mn,k(C)Cを以下のように定める.

定義2-I
(a1a2an)Mn,1(C)に対し, detn,1(a1a2an):=i=1n(1)i1ai.
nk2のとき, XMn,k(C)に対し, detn,k(X):=i=1n(1)i1xi,1detn1,k1((EIn{i}n)XEIk{1}k).

定義2-II
detn,k(X):=cCknsgn(c)detk((Ecn)X).

定義2-III
detn,k(X):=σSknsgn(σ)xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k.

定義2-IV
Dn,k:Cn×Cn××CnkCを交代多重線型形式とし, σSknに対して規格条件Dn,k(eσ(1),eσ(2),,eσ(k))=sgn(σ)が成り立つとする.
このようなDn,k:Cn×Cn××CnkCは一意に定まるのでこれをMn,k(C)Cとみなしたものをdetn,kとする.

計算例

例1

冒頭にも挙げたdet4,2(10011001)
を計算してみます.
定義2-Iに従うと,
det4,2(10011001)=1det3,1(101)+1det3,1(011)=(10+1)+(01+1)=2
となります.

例2

det4,2(11xyxyx2y2)
を計算します.
定義2-Iに従うと,
det4,2(11xyxyx2y2)=det3,1(yyy2)xdet3,1(1yy2)+xdet3,1(1yy2)x2det3,1(1yy)=(yy+y2)x(1y+y2)+x(1y+y2)x2(1y+y)=y2x2
となります.

定義2-IIに従うと,
det4,2(11xyxyx2y2)=det2(11xy)det2(11xy)+det2(11x2y2)+det2(xyxy)det2(xyx2y2)+det2(xyx2y2)=det2(11x2y2)=y2x2
となります.

同値な定義であることの証明

IIII

kに関する帰納法で示す.
k=1のときは, σ:1iに対してsgn(σ)=(1)i1なので正しい.

k2のときを考える.
σSknとする.
fi:In{i}In1を順序を保つ全単射として定め, σ:Ik1+1Ik{1}σIn{σ(1)}fσ(1)In1
と定める.
このとき, σ(j)=fσ(1)(σ(j+1))={σ(j+1)(σ(j+1)<σ(1))σ(j+1)1(σ(j+1)>σ(1))であり, 各iに対して, この対応により, σSknであってσ(1)=iであるものとσSk1n1は一対一に対応する.
また, このとき, σ(2),,σ(k)の中でσ(1)より小さいものがl個であるとすると,
sgn(σ(Ik))=(1)σ(1)k+kl1sgn(σ(Ik1))
sgn(i1i2ikσ(1)σ(2)σ(k))=(1)lsgn(i1ik1σ(1)σ(k1))
であるためsgn(σ)=(1)σ(1)1sgn(σ)が成り立つ.

したがって,
σSknsgn(σ)xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k=i=1nσSknσ(1)=isgn(σ)xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k=i=1nσSknσ(1)=isgn(σ)xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k=i=1nσSk1n1(1)i1sgn(σ)xi,1xfi1(σ(1)),2xfi1(σ(k1)),k=i=1n(1)i1xi,1detn1,k1((EIn{i}n)XEIk{1}k)
となり, k1のとき正しければkのときも正しい.

IIIII

σSknに対し, cσによるIkの像とし, cの元を小さい順にi1,,ikとしたとき, sgn(σ)の定義からsgn(σ)=sgn(c)sgn(i1i2ikσ(1)σ(2)σ(k))
である.
また, Scを全単射cc全体の集合とすると, 各σSknに対し, σScが存在してσ(j)=σ(ij)が成り立つ.
また, この対応によって, σSknであってσ(Ik)=cであるものとσScは一対一に対応する.

したがって,
σSknsgn(σ)xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k=σSknsgn(c)sgn(i1i2ikσ(1)σ(2)σ(k))xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k=cCknsgn(c)σScsgn(i1i2ikσ(i1)σ(i2)σ(ik))$xσ(i1),1xσ(i2),2xσ(ik),k=cCknsgn(c)detk((Ecn)X)
となる.

IIIIV

IIIを用いてDn,k:(Cn)kCを定めると, Dn,kは交代線型形式である.
また, Dn,k(eσ(1),eσ(2),,eσ(k))=sgn(σ)は明らかに成り立つ.

逆に, IVの条件をみたすとき,
Dn,kが線型形式であることから
Dn,k(X)=i1,,ik=1nai1,,ikxi1,1xik,k
と書ける.
Dn,kの交代性からi1,,ikの中に等しいものがあるときはai1,,ik=0である.
規格条件から,
Dn,k(X)=σSknsgn(σ)xσ(1),1xσ(2),2xσ(k),k
が得られる.

参考文献

[1]
中神祥臣/柳井晴夫, 矩形行列の行列式, 丸善出版, 2012
投稿日:18
更新日:117
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  2. 計算例
  3. 同値な定義であることの証明
  4. 参考文献