最近群論に興味があったので、自己同型群について色々触ってみました。何かが特に分かったわけではないですが、自分が見るとき楽なようにまとめてみようと思います。この記事では赤雪江程度の予備知識は仮定しようと思います。(高度な話はしないので色々調べながら読めば2章までで十分です。)
この記事の内容は全て初等的だろと言われてしまえばその通りなのですが、あくまで僕にとって初等的な性質をやっておきます。
まずは定義から入りましょう。
群Gの自己同型群$Aut(G)$とは集合としては$f:G→G$が群の同型写像となる$f$全体であって、それに写像の合成を演算として群をなすものとする。
これが群というのは簡単に確かめられます。(自己同型写像と自己同型写像の合成は自己同型写像、結合律は自明、単位元は恒等写像、逆元は逆写像。)
次に内部自己同型群の定義をします。
群Gの内部自己同型群$Inn(G)$とは、$G$の元$a$について定まる同型写像$i_{a}$であって、
$i_{a}(g)$=$aga^{-1}$を満たすようなもの全体とする。
これが$Aut(G)$の部分群というのも簡単に分かります。また$i_{a}\circ i_{b}=i_{ab}$なので$G$から$Inn(G)$への全射準同型写像$g→i_{g}$が定まります。また$Inn(G)$から$Aut(G)$を包含写像として、$G→Aut(G)$が得られます。
次に内部自己同型群の構造を調べます。(群$G$の中心$Z(G)$とは任意の$G$の元$g$に対して$ag=ga$を満たす$a$全体を言う。これは$G$の正規部分群となる。)
$Inn(G)\cong G/Z(G)$
$G→Inn(G)$が全射準同型写像なので核が$Z(G)$であることを示せばよく、$i_{a}$が核であることと、任意の$g\in G$について$aga^{-1}=g$,つまり$ag=ga$を満たすことは同値なので示された。
次の系の証明は簡単なので省略する
(1)$G→Aut(G)$が単射であることは$Z(G)$が自明であることと同値である。
(2)$G→Aut(G)$の像が自明であることは$G$が可換群であることと同値である。
次に$Inn(G)$と$Aut(G)$の関係を考えておきます。
$Inn(G)$は$Aut(G)$の正規部分群である。
任意の$a\in G,φ\in Aut(G)$について$φ\circ i_{a}\circ φ^{-1}\in Inn(G)$を示せばよく、これは任意の$g\in G$について、
$φ\circ i_{a}\circ φ^{-1}(g)=φ(a)gφ(a)^{-1}=i_{φ(a)}(g)$
であることに従う。
ここからは私が考えたことやTwitterで議論したときに出てきた定理を雑にまとめていきます。
次は直積と内部自己同型が入れ替えられるという命題です。
$Inn(G_1×G_2)\cong Inn(G_1)×Inn(G_2)$
これは命題1より
$(G_1×G_2)/Z(G_1×G_2)\cong G_1/Z(G_1)×G_2/Z(G_2)$を示すことと同値であるが、$ Z(G_1×G_2)=Z(G_1)×Z(G_2)$であるから示された。
一般に$Aut(G_1×G_2)\cong Aut(G_1)×Aut(G_2)$は成り立たないが簡単な場合、次が言えます。
有限群$G_1,G_2$の位数が互いに素なとき、
$Aut(G_1×G_2)\cong Aut(G_1)×Aut(G_2)$
(1)任意の$φ\in Aut(G_1×G_2)$について,
$φ(g,1_{G_1})=(φ_1(g),1_{G_2})$
$φ(1_{G_1},g’)=(1_{G_1},φ_2(g’))$
となること(つまりそれぞれの単位元がそのまま保たれること)を示せば良い。
なぜならもし上の二つが成り立つなら、
$φ_i\in Aut(G_i)$ $(i=1,2)$を任意にとってきて上のように$φ$を作れるから。また$φ_i$ $(i=1,2)$が自己同型であることは$φ$が自己同型であることによる。
もし$φ(g,1_{G_2})=(h,k)$で$k≠1_{G_2}$ならば、$k$の位数は1より大きく$|G_1|$と互いに素であるから、
$φ(g,1_{G_2})^{|G_1|}=(1_{G_1},1_{G_2})$
$(h,k)^{|G_1|}=(1_{G_1},k^{|G_1|})≠(1_{G_1},1_{G_2})$
より矛盾するから示された。
次は$G→Aut(G)→Aut(Aut(G))→…$を考えるときに出てきた命題です。
$G→Aut(G)$が単射ならば$Aut(G)→Aut(Aut(G))$も単射である。
$Aut(G)$の中心から$φ$をとると、これは少なくとも任意の$g \in G$に対して$φ\circ i_{g}=i_{g} \circ φ$を満たす必要があるが、これは、
$φ\circ i_{g} \circ φ^{-1}=i_g\Longleftrightarrow i_{φ(g)}=i_g\Longleftrightarrow i_{g^{-1}φ(g)}=id_G$
ここで$G$の中心は自明なので、
$g^{-1}φ(g)=1_G$$\Longleftrightarrow φ(g)=g\Longleftrightarrow φ=id_G$
であるから示された。
この部分群の中心の自明性の伝搬ってもっと一般化できないかなって思います。本質的に$Aut(G)$の性質を使ってるわけでもないわけで。
次に本格的に$Z(Aut(G))$について調べたかったのですが一般に考えるのは難しかったため$φ$が内部自己同型の全てと可換になる条件を考えると、命題5と同様の議論で$g \in G$について$g^{-1}φ(g) \in Z(G)$であることが必要十分条件になることが分かります。
まずこのような$φ$全体の集合は明らかに$Z(Aut(G))$を含むので、この性質を調べてみます。
また、次の議論のため一般に次のように定義します。
$I(H)$を$Aut(G)$の部分集合であって、任意の$g\in G$について、$g^{-1}φ(g) \in H$となる$φ$全体の集合とする。
($I(H)$は$Aut^{H}(G)$と書かれることもある。)
$H=Z(G)$の場合を見てみましょう。命題6は命題8(3)によって一般化されます。
$I(Z(G))$は$Aut(G)$の正規部分群である。
($I(Z(G))$は$Aut_{c}(G)$と書かれることもある。)
まず任意の$φ \in Aut(G)$について$φ(Z(G))=Z(G)$であることことを示す。
任意の$G$の元は$φ(g)$の形で表せるから、$φ(g)φ(z)=φ(gz)=φ(zg)=φ(z)φ(g)$となるため、$φ(z)\in Z(G)$であるから。
したがって任意の$φ:G→G$から$φ:G/Z(G)→G/Z(G)$が従う。よって$Aut(G)→Aut(G/Z(G))$が従うので、この写像の核が$I(Z(G))$であるから$Aut(G)$の正規部分群である。
また$φ\in I(Z(G))$を$φ(g)=gδ(g)$と$δ(g)\in Z(G)$を用いて書くと、$δ$は$G$から$Z(G)$への準同型写像となり、また$ψ(g)=gγ(g)$とすれば、$φ\circψ$は$δ・γ・δ\circ γ$に対応する。正直だから何という感じではあるけど。こういう演算の縛りってどんな法則があるんだろう。一般化してみたい。
命題6の議論は本質的に$Z(G)$が$Aut(G)$で不変であることを用いています。一般にこのような性質を持つ部分群を定義しましょう。
$H$が$G$の特性部分群であるとは、任意の$φ\in Aut(G)$について$φ(H)=H$を満たすものを言う。またこのとき$HcharG$と書く。
これに関する基本定理を確認します。
(1)特性部分群は正規部分群である。
(2)$HcharK$かつ$KcharG$ならば$H char G$である。
(3)$HcharG$かつ$KcharG$ならば$H$と$K$で生成される部分群も特性部分群である。
(4)$HcharG$かつ$KcharG$ならば$(H\cap K)charG$
(1)特性部分群が内部自己同型においても不変であることに従う。
(2)$KcharG$より任意の$φ\in Aut(G)$の$K$への制限は$K$の自己同型を引き起こす。また$HcharK$より、この自己同型でHは不変なので$HcharG$である。
(3)$x_1,…,x_n\in H\cup K$について$x_1^{±1}…x_n^{±1}$を任意の$φ\in Aut(G)$で送っても、$φ(x_i)$は$H$または$K$に属するので、全体も$H$と$K$で生成された部分群に含まれる。
(4)任意の$φ\in Aut(G)$,$g\in H\cap K$について、$φ(g)\in H,K$より$φ(g)\in H\cap K$であることに従う。
特性部分群の例としては自明な部分群、その群自身、その群の中心、交換子群などがある。
一般に$G,G’$の特性部分群$H,H’$の直積$H×H’$は$G×G’$の特性部分群とならない。($G=G’$なら$φ(a,b)=(b,a)$は自己同型写像となり、したがって特性部分群$H,H’$が$H≠H’$を満たすならば$H×H’$は特性部分群とならない。)
だが命題4より次の系が従う。(証明は省略する。)
$G_1,G_2$ を位数が互いに素である群とすれば$G_i$ $(i=1,2)$の任意の特性部分群$H_i$の直積$H_1×H_2$は$G_1×G_2$の特性部分群であり、全ての特性部分群はその形で表される。
$H→I(H)$が単射ならいいなと思ってましたが、それは成り立ちませんでした。ですが、次が成り立ちます。
集合$H,K\subset G$について、
(1)$H\subset K$ならば、$I(H)\subset I(K)$
(2)$I(H)\cap I(K)=I(H\cap K)$
(3)$H$が特性部分群なら$I(H)$は正規部分群である。
(1)$φ\in I(H)$ならば、任意の$g\in G$について$g^{-1}φ(g)\in H$であり、$g^{-1}φ(g)\in K$なので、$φ\in I(K)$である。
(2)定義より、$φ\in I(H)$であることは$g^{-1}φ(g)\in H$となることであり、よって$φ\in I(H)\cap I(K)$は$g^{-1}φ(g)\in H\cap K$と同値であるから、これは$I(H\cap K)$となる。
(3)$H$が任意の自己同型で不変であるから、$Aut(G)→Aut(G/H)$が自然に従い、この核が$I(H)$であるから正規部分群である。
次に$I$の逆写像ではないが、それによく似た概念を用意します。
$L\subset Aut(G)$に対して、$φ\in L,g\in G$であって$g^{-1}φ(g)$が生成する$G$の部分群を$A(L)$と書く。
(これも恐らく一般的な記号ではない。)
まず$A(L)$の基本性質を見ます。
(1)$L\subset K$ならば$A(L)\subset A(K)$である。
(2)集合$L,L’$について、$A(L\cup L’)$は$A(L),A(L’)$によって生成される部分群となる。
(3)$L$が正規部分群なら$A(L)$は群$G$の特性部分群となる。
(1)任意の$φ\in L\subset K,g\in G$について$g^{-1}φ(g)\in A(K)$より、$A(L)$の生成元を全て含むので$A(L)\subset A(K)$が得られる。
(2)部分集合$H$で生成される群を$〈H〉$と書くと、生成される群の一般論から、$H,H’$を部分集合とするとy$ 〈〈H〉\cup 〈H’〉〉=〈H\cup H’〉$となることが知られているので、それを用いることで分かる。
(3)任意の$φ\in L,ψ\in Aut(G),ψ(g)\in G$に対して、$L$は正規部分群なので$ψ\circ φ\circ ψ^{-1
}\in L$であるから、$ψ(g)^{-1}ψ\circ φ\circ ψ^{-1} (ψ(g))\in A(L)$
$\Longleftrightarrow ψ(g^{-1})ψ(φ(g))\in A(L)$
$\Longleftrightarrow ψ(g^{-1}φ(g))\in A(L)$
より$A(L)$は$ψ(A(L))$の任意の生成元を含むため、$A(L)=ψ(A(L))$が分かるため特性部分群である。
一般に$A(I(H))=H$や$I(A(L))=L$は成り立たないが、
次のことが言えます。
(1)$H$が$G$の部分群ならば$A(I(H))\subset H$であり、$H$が特性部分群なら$A(I(H))$もそうである。
(2) $L$が$Aut(G)$の部分集合ならば、$L\subset I(A(L))$であり、$L$が正規部分群ならば$I(A(L))$もそうである。
(3)$H$が$G$の部分集合なら$I(A(I(H)))=I(H)$
(4)$L$が$Aut(G$)の部分集合なら$A(I(A(L)))=A(L)$
(1)前半は$A(I(H))$を生成する任意の元は$φ\in I(H)$を用いて、$g^{-1}φ(g)$という形で表されるが、$I(H)$の定義から、明らかに$H$はこれを含むので$A(I(H))\subset H$より分かる。また後半は、命題8(3)と命題9(3)から分かる。
(2)前半は$φ\in L$を任意に取る。このとき$g^{-1}φ(g)\in A(L)$であるため、$I(A(L))$の定義より$φ\in I(A(L))$であるから$L\subset I(A(L))$が分かる。後半は命題9(3)と命題8(3)より分かる。
(3)命題8(1)と命題10(1)より$I(A(I(H)))\subset I(H)$、また命題10(2)において$L=I(H)$とすれば$I(H)\subset I(A(I(H)))$であるから、$I(A(I(H)))=I(H)$である。
(4)命題9(1)と命題10(2)より$A(L)\subset A(I(A(L)))$であり、命題10(1)において$H=A(L)$とすれば、$A(I(A(L)))\subset A(L)$だから$A(I(A(L)))=A(L)$である。
これはガロア接続という一般論があるようです。
簡単な系があります。
(1)$H\subset G$を部分群、$I(H)$を$Aut(G)$の正規部分群とすれば、$K\subset H$である特性部分群があり$I(H)=I(K)$とできる。
(2)$L\subset Aut(G)$を部分集合、$A(L)$が特性部分群であれば、$L\subset K$である正規部分群があり$A(L)=A(K)$とできる
(1)$K=A(I(H))$とすれば良い。
(2)$K=I(A(L))$とすれば良い。
この系はつまり(1)は最初$H$を$G$の部分群としても$I(H)$が正規部分群ならば$I(H)$を固定したとき、最小の特性部分群が$K$があり$I(H)=I(K)$とできるということであり(つまり$I$の像における正規部分群と特性部分群が対応する)、(2)は$L$を単なるAut$(G)$の部分集合としても$A(L)$が特性部分群ならば、最大の正規部分群$K$があり$A(L)=A(K)$とできる(つまり$A$の像における特性部分群と正規部分群は対応する)ということです。
ここまで、例を一つも挙げず話してきたので、最後に具体的な例と有名な概念との関連を示す。
まず、$I,A$が全射でも単射でもないこと示す
$G=\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}$の自己同型群は$Aut(G)\cong \mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$であり、$G$の部分群は${1_G}$,$G$の2つであり、$Aut(G)$の部分群は位数1,2,3,6の部分群がそれぞれ1つずつあるため4つある。
したがって$I$は全射でなく、$A$は単射でない。
$G=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$の自己同型群は$Aut(G)={id_G}$であり、$G$の部分群は${1_G}$,$G$の2つであり、$Aut(G)$の部分群は1つである。
したがって$I$は単射でなく、$A$は全射でない。
次に有名な部分群と$I,A$の関係を見ます。
(1)$I(G)=Aut(G)$
(2)$I(${$1_G$}$)=${$id_G$}
(3)$A(${$id_G$}$)=${$1_G$}
(4)$A(Inn(G))=[G,G]$
(5)$A(I([G,G]))=[G,G]$
(6)$Z(Aut(G))\subset I(Z(G))$
(7)$A(Z(Aut(G)))\subset Z(G)$
これらは簡単に確かめられるので証明は省略する。注意点としては$A(Aut(G))=G$は一般には成り立たないことである。
さて、この例3(2),(6)を用いると命題5は簡単に従う。(仮定より$Z(G)={1_G}$で(2),(6)より、
$Z(Aut(G))\subset I(Z(G))=I(1_G)=${$id_G$}に従う。)
とりあえずこんなものにしておこうと思います。$I,A$はすでによく知られている概念なんですかね。詳しい人教えてください。$I,A$って元の群と自己同型群を繋ぐ結構重要な概念だと思うんですよね。ただ、まだまだ分かってないことの方が多いので、新発見があればまた更新します。ちなみに命題7以降は書きながら思いついたことです。書いてるとやっぱ色んな発見があって楽しいですね。