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微分積分・解析の院試で「明らかに収束する」が通用しなかった日——ε-δと一様収束を答案で示す

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六月の半ば、梅雨の雨が窓を伝う大学図書館の四階で、私は去年の自分の答案をもう一度広げていた。工学部から理学系の数学を志した外部生で、計算には自信があった。級数の和を出す、極限を求める、積分を計算する——その種の問題はほとんど落とさない。なのに、模試の解析の大問はいつも七割で頭打ちだった。

つまずきの正体に気づいたのは、添削が返ってきたときだった。関数列 $f_n(x)=x^n$$[0,1]$ で考え、その極限を論じる問題で、私は「$n\to\infty$ で明らかに $0$ に収束する」と書いて先へ進んでいた。赤ペンには大きく「どの意味で?」とあった。各点収束なら極限関数は $x=1$$1$、それ以外で $0$ という不連続関数になる。一様収束ではない。私は「収束する」という一語に、まったく別の二つの概念を押し込めていたのだ。

院試の解析は、答えの数値が合うかではなく、「どの意味で、なぜ成り立つのか」を答案の上で示せるかを見ている。そう指導教員に言われて、私は計算用のノートとは別に「論証用」のノートを作り直した。

まず $\varepsilon\text{-}\delta$ の書き方から立て直した。「$x\to a$$f(x)\to L$」とは、

$$\forall \varepsilon>0,\ \exists \delta>0\ \text{s.t.}\ 0<|x-a|<\delta \implies |f(x)-L|<\varepsilon$$

である。答案では、与えられた $\varepsilon$ に対して $\delta$ を具体的に「こう取る」と宣言し、その $\delta$ で不等式が閉じることを示す。この「$\delta$ を先に置く」一行があるだけで、論証の骨格が採点者に伝わる。イプシロンデルタは院試で最も差がつく型だと思う。

具体例で言えば、$f(x)=x^2$$x=a$ で連続であることを示すなら、$|x^2-a^2|=|x-a|\,|x+a|$ と分け、$|x-a|<1$ の範囲で $|x+a|\le 2|a|+1$ と上から押さえる。あとは $\delta=\min\!\bigl(1,\ \varepsilon/(2|a|+1)\bigr)$ と取れば $|f(x)-f(a)|<\varepsilon$ が言える。答案では「この $\delta$ を取る」と書き切ることが大事で、$\delta$ がどこから来たのかを採点者に探させない。

次に各点収束と一様収束を分けて書く訓練をした。各点収束は各 $x$ ごとに $f_n(x)\to f(x)$ という主張にすぎない。一様収束は

$$\sup_{x\in I}|f_n(x)-f(x)|\to 0\quad(n\to\infty)$$

という、$x$ に関して一様な評価である。先ほどの $x^n$ なら $\sup_{[0,1]}|x^n-f(x)|=1$ のままで $0$ に行かない。だから一様収束しない、と一行で書ける。逆に一様収束が言えれば、連続性の保存や積分との順序交換が正当化できる。

連続と一様連続の違いも、答案では意識して書き分けた。各点連続は「各点ごとに $\delta$ を取り直してよい」が、一様連続は「$\delta$ を点に依らず一つ取れる」という強い条件である。$f(x)=1/x$ が開区間 $(0,1)$ で一様連続でないのは、$a$$0$ に近づくほど必要な $\delta$ が小さくなり続けるからだ。一方、有界閉区間上の連続関数は一様連続になる(Heine–Cantor の定理)。この定理を一行引けるかどうかで、積分の評価や項別操作の正当化がぐっと楽になる。

一様収束を示す実用的な道具として、Weierstrass の $M$ 判定法も答案で使いやすい。各項に $|u_n(x)|\le M_n$$M_n$$x$ によらない定数)が取れて $\sum_{n} M_n<\infty$ なら、級数 $\sum_n u_n(x)$ は一様収束する。答案では「$M_n=\dots$ と取れて $\sum M_n$ は収束するから一様収束」と書けば、項別積分・項別微分の前提が一息で揃う。

級数や広義積分の収束判定も、結論だけ書くと減点される。正項級数なら、ダランベールの判定法 $\lim_{n\to\infty}\left|\dfrac{a_{n+1}}{a_n}\right|<1$ かコーシーの判定法 $\limsup_{n\to\infty}\sqrt[n]{|a_n|}<1$ のどちらを使ったかを明記する。広義積分なら $\int_1^\infty x^{-p}\,dx$$p>1$ で収束、という基準と比較する形に持ち込む。「どの判定法で、何と比較したか」が論証の核になる。

そして本番でいちばん効いたのが、「順序交換の根拠を必ず一行添える」という習慣だった。項別積分や項別微分、極限と積分の交換は無条件には許されない。一様収束していれば

$$\int_a^b \lim_{n\to\infty} f_n(x)\,dx=\lim_{n\to\infty}\int_a^b f_n(x)\,dx$$

が言える、と私は答案で宣言するようにした。Lebesgue 積分まで踏み込む大学なら、優収束定理を使う場面で「$|f_n|\le g$ かつ $g$ は可積分」という支配関数 $g$ の存在を先に明示してから交換する。条件を書かずに交換した瞬間に大きく減点される——それが私の七割の壁の正体だった。

夏が終わる頃には、解析の答案の最初の数行が変わっていた。計算に飛びつく前に、「どの収束の意味か」「順序交換の根拠は何か」を宣言してから手を動かす。点数は計算力ではなく、この宣言の有無で動いていた。

微分積分・解析の院試対策で苦しいのは、たいてい「自分の答案が何点なのか分からない」ことだと思う。数値が合っていても論証が抜けていれば点は来ないし、その抜けは自分ではいちばん見えにくい。私は模範解答と自分の答案を一行ずつ突き合わせて、どこで論理が飛んだかを潰していった。出発点は、計算の速さより「答案を論証として読み直す」ことにある。

解析や微分積分の答案づくりをもう少し体系的に確かめたい人は、院試hub の解析・微積トピック( https://inshihub.com/topics/calculus-analysis)をのぞいてみてほしい。同じ「計算は合うのに点が来ない」を抜けるきっかけになれば嬉しい。

投稿日:1日前
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