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現代数学解説
文献あり

テータ関数の積とLattice Sumの分解公式

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はじめに

 この記事ではI. J. Zucker(1974)にてまとめられているテータ関数θ2,θ3,θ4のLambert-likeな級数展開を鑑賞していきます。

概要

 テータ関数とは|q|<1に対して
θ2(q)=n=q(n+12)2θ3(q)=n=qn2θ4(q)=n=(1)nqn2
と定義される関数のことを言います。
 テータ関数はそれ単体では指数部分がn2という扱いづらい形をしているのに対し、その累乗や積を取ると例えば
θ3(q)2=1+4n=1qn1+q2n
のように比較的簡便な見た目に書き換えられるようです。
 そしてこれを
θ3(q)2=m,n=qm2+n2=1+4n=1m=0(1)mq(2m+1)n
と二通りに表すことでJacobiの二平方定理
#{(m,n)Z2m2+n2=N}=42dN(1)d12
やLattice Sumの分解公式
m,n1(m2+n2)s=4(n=11ns)(m=0(1)m1(2m+1)2)
のような非自明な等式が得られることとなります。ただし
n1,n2,,nd=n1,n2,,nd=(n1,n2,,nd)(0,0,,0)
と表すものとしました。

余談

 ちなみに下で紹介する公式の証明はZucker(1974)に書かれているわけではなく、同論文にはこれらの公式はほぼ全てJacobiの"Fundamenta Nova Theoriae Functionum Ellipticarum"(1829)から引用したものだと書かれています。このJacobiの論文は邦訳"ヤコビ楕円関数原論"(高瀬正仁 訳)が出ており、私は以前にもその一節(楕円関数の変換)にお世話になったことがありますがまさかこんなことまで書いてあるとは、さすが楕円関数論の祖たるJacobi、恐るべし。

記号について

 以下ではm+n=d=1,2,4,6,8における
θ3mθ4n1,θ2mθ3n,θ2mθ4n
q-展開とそれらが誘導するLattice Sum
S(m,n)=l1,l2,,ld(1)lm+1++ld(l12+l22++ld2)sT(m,n)=l1,l2,,ld1((l1+12)2+(lm+12)2+lm+12++ld2)sU(m,n)=l1,l2,,ld(1)lm+1++ld((l1+12)2+(lm+12)2+lm+12++ld2)s
の分解公式についてまとめていきます。
 いまq=etとしたとき
0ts1qNdt=1Ns0ts1et=Γ(s)Ns
が成り立つこと、およびそのことから上のLattice Sumはテータ関数のメリン変換
S(m,n)=1Γ(s)0ts1(θ3mθ4n1)dtT(m,n)=1Γ(s)0ts1(θ2mθ3n)dtU(m,n)=1Γ(s)0ts1(θ2mθ4n)dt
と表せることに注意しましょう。
 またテータ関数の積には
θ2(q)=eπi4θ2(q),θ3(q)=θ4(q),θ3(q)θ4(q)=θ4(q2)2,θ2(q)θ3(q)=12θ2(q12)
などの関係があることにも注意しましょう(これらの関係式は この記事 にて紹介しています)。
 以下
ζ(s)=n=11nsη(s)=n=1(1)n1ns=(121s)ζ(s)λ(s)=n=01(2n+1)s=(12s)ζ(s)β(s)=n=0(1)n(2n+1)sA(s)=n=0(1)n(4n+1)sB(s)=n=0(1)n(4n+3)s
とします。

Table

d=1

θ31=2n=1qn2S(1,0)=2ζ(2s)θ41=2n=1(1)nqn2S(0,1)=2η(2s)θ2=2n=1q(n+12)2T(1,0)=22s+1η(2s)

d=2

θ321=4n=1qn1+q2nS(2,0)=4ζ(s)β(s)θ3θ41=4n=1(1)nq2n1+q4nS(1,1)=42sη(s)β(s)θ421=4n=1(1)nqn1+q2nS(0,2)=4η(s)β(s)θ22=4n=1qn1/21+q2n1T(2,0)=42sλ(s)β(s)θ2θ3=2n=1q(2n1)/41+qn1/2T(1,1)=22s+1λ(s)β(s)θ2θ4=2n=1(1)n(q3(4n1)/41+q4n1qn3/41+q4n3)U(1,1)=22s+1(A(s)2B(s)2)

d=4

θ341=8n=1nqn1+(q)nS(4,0)=8(1222s)ζ(s1)ζ(s)θ32θ421=8n=1(1)nnq2n1+q2nS(2,2)=82sη(s1)η(s)θ441=8n=1(1)nnqn1+qnS(0,4)=8η(s1)η(s)θ241=16n=1(2n1)q2n11q4n2T(4,0)=16λ(s1)λ(s)θ22θ321=4n=1(2n1)qn1/21q2n1T(2,2)=42sλ(s1)λ(s)θ22θ421=4n=1(1)n1(2n1)qn1/21+q2n1U(2,2)=42sβ(s1)β(s)

d=6

θ361=16n=1n2qn1+q2n+4n=1(1)n(2n1)2q2n11q2n1S(6,0)=16ζ(s2)β(s)4β(s2)ζ(s)θ34θ421=4n=1(1)n1(2n1)2q2n11+q2n1S(4,2)=4β(s2)η(s)θ33θ431=16n=1(1)nn2qn/21+qn4n=1(1)n(2n1)2qn1/21+qn1/2S(3,3)=2s(16η(s2)β(s)4β(s2)η(s))θ32θ441=4n=1(1)n(2n1)2q2n11q2n1S(2,4)=4β(s2)ζ(s)θ461=16n=0(1)nn2qn1+q2n4n=1(1)n(2n1)2q2n11+q2n1S(0,6)=16η(s2)β(s)+4β(s2)η(s)θ26=4n=1(2n1)2qn1/21+q2n14n=1(1)n(2n1)2qn1/21+q2n1T(6,0)=42s(λ(s2)β(s)β(s2)λ(s))θ24θ32=16n=1n2qn1+q2nT(4,2)=16ζ(s2)β(s)θ23θ33=12n=1(2n1)2q(2n1)/41+qn1/2+12n=1(1)n(2n1)q(2n1)/41qn1/2T(3,3)=22s1(λ(s2)β(s)β(s2)λ(s))θ22θ34=4n=1(2n1)2qn1/21+q2n1T(2,4)=42sλ(s2)β(s)θ24θ42=16n=1(1)nn2qn1+q2nU(4,2)=16η(s2)β(s)θ23θ43=n=1(1)n((4n3)2q3(4n3)/41+q4n3(4n1)2qn1/41+q4n1)U(3,3)=22s(A(s)B(s2)A(s2)B(s))θ22θ44=4n=1(1)n1(2n1)2qn1/21q2n1U(2,4)=42sβ(s2)λ(s)

d=8

θ381=16n=1n3qn1(q)nS(8,0)=16(121s+242s)ζ(s3)ζ(s)θ34θ441=16n=1(1)nn3q2n1q2nS(4,4)=162sη(s3)ζ(s)θ481=16n=1(1)nn3qn1qnS(0,8)=16η(s3)ζ(s)θ28=256n=1n3q2n1q4nT(8,0)=2562sζ(s3)λ(s)θ24θ34=16n=1n3qn1q2nT(4,4)=16ζ(s3)λ(s)θ24θ44=16n=1(1)nn3qn1q2nU(4,4)=16η(s3)λ(s)

参考文献

[1]
I. J. Zucker, Exact results for some lattice sums in 2, 4, 6 and 8 dimensions, J. Phys. A: Math. Nucl. Gen., 1974, 1568 - 1575
投稿日:2024130
更新日:202423
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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