0
大学数学基礎解説
文献あり

数学特有の言い回し(いわゆる数学語)について

59
0
$$$$

はじめに

私が大学数学を学び始め、数学の本を読むようになってから、数学特有の言い回し、数学用語に少々引っ掛かることがありました。日常用語とだいぶ使い方が違ったりするものもあって面白いなあと思ったので記事にしてまとめてみました。

高々

日常生活では「高々」というと、例えば、うまい棒を買うかどうか迷っている人に対して「高々税込16円だからいいじゃん」のような使い方をします(?)が、
数学では、英語のat mostに対応する単語で、「多くとも」、「〜以下」という意味になります。
使い方の例は以下の通りです
高々可算個
高々$10^{-k}$の誤差である
高々有限個
などがあります。
だいぶ日常用語と使い方が違うなぁと思いました。

天下り的に

日常生活(普段使うかは謎ですが)では「天下り」というのは「官僚などがその官庁とつながりの深い民間企業やなどに幹部として再就職すること」をいいますが、数学では「この式や概念がどこから降りてきたのかは置いといて一旦私の話を聞いてほしい」のような意味になります。
使い方としては、
・ロルの定理から平均値の定理を導くとき
天下り的だが、関数$F(x)$を以下のように設定する
$F(x)=f(x)-\Big \lbrace f(a)+\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}(x-a)\Big\rbrace $
だったり、

$\displaystyle\int\dfrac{1}{\cos x}dx$を計算したい時に

天下り的だが$t=\tan{\dfrac{x}{2}}$置換を施すと...

などがあります。

ユニーク

日常生活では、「あの先生はだいぶユニークな人だね」などというように「独特な」という意味合いで使いますが、数学においてはユニークとは「一意的に」という意味で使われます。
使用例としては
・この方程式の解はユニークに定まる
・正方行列$A$に対し、逆行列$B$が存在するならば、その$B$ユニークである
・数列$\lbrace a_n \rbrace$が収束するとき、その極限値$\lim_{n \to \infty}a_n$ユニークである
などがあります。

適当

これはだいぶ有名な例ですが、日常生活で適当と言うと、多くの人が「いい加減だ」という意味でとらえると思います。「君の考えは適当だね」と言われた場合、数学に明るい人とそうでない人には解釈に大きな違いが出そうです。
一方で数学における「適当」というのは「適切な」や「ほどよくあてはまる」という意味で、使用例としては
・任意の$\varepsilon>0$に対してある適当な$N>0$が存在して...
・関数 $f(x)$が閉区間$[a,b]$で連続であり、$f(a)<0< f(b)$ならば、
$ f(c)=0$ を満たす適当な実数$c$が開区間$(a,b)$のなかに存在する(中間値の定理)
などがあります。

または

日常生活では、AまたはBというと「A、Bのどちらか」を指し、論理回路でいうXOR回路と同じ扱いになります。
例えば、レストランなどで「コーヒーまたは紅茶どちらにいたしますか」と言われた際、紅茶とコーヒーのどちらかを頼みますよね。
しかし数学における「または」は、論理和$ \lor $(集合でいう$\cup$)の意味でとらえられることが多いです。
なので、AまたはBというと「A、Bのどちらかと、AとBの共通部分の両方」(OR回路と同じ扱い)になります。
先ほどのコーヒーと紅茶の例でいうと、数学における「コーヒーまたは紅茶」はコーヒーと紅茶のどちらかに加えてコーヒー、紅茶両方も加わります。

任意の/全ての

日常生活で任意のというと、「任意の自動車保険」や「任意提出」など「やってもやらなくてもどちらでもよい」という意味でよく使われます。
一方で数学における「任意の」というのは「全ての」とほぼ同じ意味で用いられます。
使用例としては
任意の正数$\varepsilon>0$に対してある$\delta>0$が存在して...
任意の実数$a,b$について$a+b=b+a$が成り立つ
任意の実数$x$に対して$∣x∣≥0$である
などがあります

任意のと全てのの違いについて

基本的には任意と全てはほとんど同じ意味なのですが、一応明確な違いがあります。

・任意の(any)

「対象の集合から、どれでもいいのでランダムに1つ選ぶ」という意味で使われます。
よくあるじゃんけんの例えで言うと、「相手がどんな手を出してきてもそれに勝つ手を後出しで出せる」ということです。

・すべての(all)

「対象となる集合の要素全体を、ひっくるめて”同時に”相手にする」という意味で使われます。
じゃんけんの例でいうと「相手が出せるすべての手に対して勝てるような最強の手は存在しませんね。

ここでいうじゃんけんというのは日本で遊ばれている「グー」「チョキ」「パー」のみで構成されている一般的なじゃんけんであり、フランス式のじゃんけんなどは除きます。

要するに

相手が繰り出す任意の$x$に対して、自分が勝つ手$y$が存在する。

自分が繰り出すある手$y$が存在して、相手が出し得るすべての$x$に勝つことができる

この二つの命題の真偽に関して先ほどの説明から、命題1は真となり、命題2は偽となることがわかります。

至る所

日常生活で至る所というと、「春になると町の至る所で桜が咲くねぇ」や「体の至る所を蚊に刺された」などの「あちこちに、そこらじゅうに、いろいろなところに」という意味でよく使われます。
一方で、数学で「至る所〜」は「定義域の、ただの一点の例外もなく100%すべてで〜」という意味で使われます。
例として、「関数$f(x)$至る所微分可能だ」と言われたら$f(x)$の定義域内の全ての点において微分可能だということになります。
「体の至る所を蚊に刺される」という命題の「至る所」を数学のときと同じ意味で解釈すると体の皮膚を一点の曇りもなく蚊に刺されていなければこの命題は偽となります。

病的な

病的という言葉は日常生活ではあまり使わない気がしますが、強いていうなら、「一般的な常識の範囲をはるかに超えていて、まるで病気の一症状であるかのように異常、極端な様子」という意味で使われる気がします。
一方で数学で病的というと、「その性質が変則的であったり、奇妙で直感に反する性質を持つ」という意味で用いられます。
例えば、有名なものでいうと病的な関数というものがあり、「連続だが至る所微分不可能」な高木関数やワイエルシュトラス関数などがあります。

自明/明らか

日常生活で自明というのは「当たり前、いうまでもない、見ればわかる」というように「常識」という意味でよく使われます。
一方で数学における自明というのは「証明するまでもなく明らか」「定義からすぐに導かれる」の他にも「つまらない(trivial)」という意味でも用いられます。
使用例として
・一次独立の定義について
$n$個のベクトル$v_1,v_2, \cdots ,v_n$に対して
$c_1v_1 + c_2v_2 + \dots + c_nv_n=0$$(c_1,c_2 \cdots ,c_n\in\mathbb{R},) \Longrightarrow c_1 = c_2 = \dots = c_n = 0$
が成立するときベクトル$v_n$は1次独立であるといい、$ c_1 = c_2 = \dots = c_n = 0$のことを自明な解という

・集合$S$がただ1つの元からなる集合$S=\lbrace p \rbrace$である場合、$S$における位相は明らか$\mathfrak{O}=\lbrace \varnothing,S \rbrace$のみである。(松坂和夫 集合・位相入門 P.153より引用)

などがあります。

自明/明らかの使い方や性質についてさらに知りたいかたは、佐藤文広著「数学ビギナーズマニュアル」という本に詳しく書かれているのでぜひ読んでみてください。

おわりに

「高々」や「適当」は日常用語と数学語でほぼ真逆の意味になっていると思いました。
先ほど紹介した佐藤文広著「数学ビギナーズマニュアル」という本には、これから大学数学を新たに学び始めるかたが知っておくべきことが書かれているので、非常におすすめです。


少し冗長になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
何か間違っているところだったり、新たに面白い用語などがありましたらコメントしていただけると幸いです。

参考文献

[1]
佐藤文広, 数学ビギナーズマニュアル 第2版, 2023
投稿日:2日前
更新日:1日前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

pigeon
pigeon
1
427
大学1年 位相空間論を勉強中です

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中