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東大数理院試過去問解答例(2023B05)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2021B05の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2023B05

$\mathbb{R}^3$の同値関係$(x,y,z)\sim (x',y',z')$を、ある整数$m,n,\ell$
$$ (x+\ell,y+m,z+mx+n)=(x',y',z') $$
を満たすものが存在することとして定義する。ここで商空間$X=\mathbb{R}^3/\sim$を考え、$\pi:\mathbb{R}^3\to X$を自然な射影遠する。
(1) $X$は、$\pi$$C^\infty$になるような$C^\infty$級多様体の構造を持つことを示せ。
(2) $\mathbb{R}^3$上の$2$次形式$\omega=dx\wedge dy$を考える。このとき、$\omega=\pi^\ast(d\eta)$を満たすような$X$上の$1$次形式は存在しないことを示せ。
(3) $\mathbb{R}^3$上の$2$次形式$\omega=dy\wedge dz$を考える。このとき、$\omega=\pi^\ast(d\eta)$を満たすような$X$上の$1$次形式$\eta$は存在しないことを示せ。

  1. まず$\pi$は局所的に同相であるから、各$p\in\mathbb{R}^3$の充分小さい近傍$U_p$$\pi$で送ることで$X$$\pi(p)$に於ける近傍$V_{\pi(p)}$が定義できる。ここで$p=(x_p,y_p,z_p)$に対して$q=(x_p+\ell,y_p+m,z_p+mx_p+n)$とおき、$q$の近傍$U_q:=\{(x+\ell,y+m,z_p+mx_p+n)|(x,y,z)\in U_p\}$をとる。これが$C^\infty$級多様体であることを示すには、$\pi|_{U_q}^{-1}\circ\pi|_{U_p}$$C^\infty$級であることを示せば良いが、これは$U_p$$(x,y,z)\mapsto (x+\ell,y+m,z+mx+n)$で表されるから$C^\infty$級である。またこの座標の下、$\pi$は局所的に恒等写像、特に$C^\infty$写像になっている。以上から$X$$\pi$$C^\infty$級にするような$C^\infty$多様体の構造を持つ。
  2. まず$dx\wedge dy$$X$上の微分形式の引き戻しとして表される。これも$dx\wedge dy$とする。ここで$S=\pi(\{z=0\})$とすると、これはトーラスである。このとき条件を満たす$\eta$が存在したとすると、
    $$ \int_Sdx\wedge dy=\int_{S}d\eta=\int_{\partial S}\eta $$
    が成り立つ。しかし右辺は$S$が境界を持たないから$0$である一方で、左辺はトーラスの面積に等しいから$0$でないので矛盾する。よって条件を満たす$\eta$は存在しない。
  3. $\omega=dy\wedge dz$について
    $$ d(y+1)\wedge d(z+x)=dy\wedge dz-dx\wedge dy\neq dy\wedge dz $$
    であるから、これは$X$の微分形式の引き戻しとして表せない。特に条件を満たす$\eta$は存在しない。
投稿日:20231030

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投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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