長さのDyck路の集合から個のと個のからなるネックレス(高校数学でいう円順列のこと)の集合への全単射を与えます.後者の集合のサイズは容易に求まるので,これにより長さのDyck路の総数を求めることができます.
また,ピークに印を付けた長さのDyck路の集合から個のと個のからなるワードの集合への全単射を与え,ピークに印を付けた長さのDyck路の総数がであることのbijective proofを与えます.
Dyck路とネックレスの対応
Dyck路(Dyck path)
平面におけるからへの経路で,各ステップがまたはからなり,軸より下を通らないものを長さのDyck路という.長さのDyck路には個のと個のからなるワードが自然に対応する.これをDyckワードという.
以下ではDyck路と対応するDyckワードを断りなく同一視します.またDyck路をで表します.
の場合
長さのDyck路は以下の個である.
それぞれに対応するワードは,,,,である.
ネックレス(necklace)
を二つのワードとする.ただしは文字である.ある巡回置換が存在してであるとき,と定める.この同値関係により定まるワードの同値類をネックレスという.
Dyck路とネックレスの対応
長さのDyck路の集合を,個のと個のからなるネックレスの集合を,個のと個のからなるワードの集合をとする.
(1) で定まる写像は全単射である.
(2) で定まる写像は対である.
(3)
- 写像を以下で定める.とする.を平面における原点から出発する経路と同一視する.における座標が最も小さい点で最も左にあるものをとする.を原点から点までの経路と点以降の経路に分ける.このときと定める.この写像はwell-definedであり,の逆写像となることがわかる.
- 個のと個のと個のからなるネックレスの集合をとする.で定まる写像は明らかに全単射である.またをへ置き換えることで定まる写像は明らかに対である.より,は対である.
- (1)より.また(2)より.
ピークに印を付けたDyck路とワードの対応
ピークに印を付けたDyck路
をDyck路とする.のあるピークをに置き換えたワードをで表し,ピークに印を付けたDyck路という.はのある部分列を用いてと表すことができる.のピークに印を付けたDyck路としての長さをの長さで定める.
ピークに印を付けたDyck路のワードとしての長さはである.
の場合
ピークに印を付けた長さのDyck路は以下の個である.
ピークに印を付けたDyck路とワードの対応
ピークに印を付けた長さのDyck路の集合を,個のと個のからなるワードの集合をとする.
(1) で定まる写像は全単射である.
(2)
- 定義5を一般化し,とからなるワードのある部分列をに置き換えたワードをで表し,その同値類をピークに印を付けたネックレスということにする.個のと個のからなるピークに印を付けたネックレスの集合をとする.定理1(1)の全単射は,Dyck路のピークとネックレスのピークの対対応を与えるから,で定まる写像は全単射である.一方で定まる写像は明らかにwell-definedかつ全単射である.より,は全単射である.
- (1)より.または明らかである.