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大学数学基礎解説
文献あり

Dyck路とピークに印を付けたDyck路の数え上げ

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長さ2nのDyck路の集合からn個のUn+1個のDからなるネックレス(高校数学でいう円順列のこと)の集合への全単射を与えます.後者の集合のサイズは容易に求まるので,これにより長さ2nのDyck路の総数を求めることができます.
また,ピークに印を付けた長さ2nのDyck路の集合からn1個のUn個のDからなるワードの集合への全単射を与え,ピークに印を付けた長さ2nのDyck路の総数が(2n1n)であることのbijective proofを与えます.

Dyck路とネックレスの対応

Dyck路(Dyck path)

xy平面における(0,0)から(2n,0)への経路で,各ステップがU:=(1,1)またはD:=(1,1)からなり,x軸より下を通らないものを長さ2nDyck路という.長さ2nのDyck路にはn個のUn個のDからなるワードが自然に対応する.これをDyckワードという.

以下ではDyck路と対応するDyckワードを断りなく同一視します.またDyck路をwで表します.

n=3の場合

長さ6のDyck路は以下の5個である.

それぞれに対応するワードはUDUDUDUDUUDDUUDUDDUUDDUDUUUDDDである.

Dyck路のピーク(peak)

Dyck路のUDという形の部分列をピークという.

ネックレス(necklace)

w,v=a1a2alを二つのワードとする.ただしa1,a2,,alは文字である.ある巡回置換σ(1,2,,l)が存在してw=aσ(1)aσ(2)aσ(l)であるとき,wvと定める.この同値関係により定まるワードの同値類[w]ネックレスという.

Catalan数(Catalan number)

n0に対し,n番目のCatalan数
Cn=1n+1(2nn)
で定義する.

Dyck路とネックレスの対応

長さ2nのDyck路の集合をDnn個のUn+1個のDからなるネックレスの集合をNnn個のUn個のDからなるワードの集合をWnとする.
(1) f1(w)=[wD]で定まる写像f1:DnNnは全単射である.
(2) f2(w)=[wD]で定まる写像f2:WnNnn+11である.
(3) |Dn|=|Nn|=Cn.

  1. 写像g1:NnDnを以下で定める.[w]Nnとする.wxy平面における原点から出発する経路と同一視する.wにおけるy座標が最も小さい点で最も左にあるものをPとする.wを原点から点Pまでの経路w1Dと点P以降の経路w2に分ける.このときg1([w])=w2w1と定める.この写像g1はwell-definedであり,f1の逆写像となることがわかる.
  2. n個のUn個のD1個のXからなるネックレスの集合をMnとする.g2(w)=[wX]で定まる写像g2:WnMnは明らかに全単射である.またXDへ置き換えることで定まる写像g3:MnNnは明らかにn+11である.f2=g3g2より,f2n+11である.
  3. (1)より|Dn|=|Nn|.また(2)より|Nn|=1n+1|Wn|=Cn

ピークに印を付けたDyck路とワードの対応

ピークに印を付けたDyck路

wをDyck路とする.wのあるピークUDUDに置き換えたワードをw^で表し,ピークに印を付けたDyck路という.w^wのある部分列w1,w2を用いてw^=w1UDw2と表すことができる.w^ピークに印を付けたDyck路としての長さwの長さで定める.

ピークに印を付けたDyck路w^ワードとしての長さ(wの長さ)+1である.

n=3の場合

ピークに印を付けた長さ6のDyck路は以下の10個である.

ピークに印を付けたDyck路とワードの対応

ピークに印を付けた長さ2nのDyck路の集合をD^nn1個のUn個のDからなるワードの集合をVnとする.
(1) f(w1UDw2)=w2Dw1で定まる写像f:D^nVnは全単射である.
(2) |D^n|=|Vn|=(2n1n).

  1. 定義5を一般化し,UDからなるワードwのある部分列UDUDに置き換えたワードをw^で表し,その同値類[w^]をピークに印を付けたネックレスということにする.n個のUn+1個のDからなるピークに印を付けたネックレスの集合をN^nとする.定理1(1)の全単射f1は,Dyck路のピークとネックレスのピークの11対応を与えるから,g(w1UDw2)=[w1UDw2D]で定まる写像g:D^nN^nは全単射である.一方h([w1UDw2])=w2w1で定まる写像h:N^nVnは明らかにwell-definedかつ全単射である.f=hgより,fは全単射である.
  2. (1)より|D^n|=|Vn|.また|Vn|=(2n1n)は明らかである.

参考文献

[1]
Nicholas Loehr, Combinatorics, Discrete Mathematics and its Applications, CRC Press, 2017
投稿日:2023612
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Oddie
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整数論と組合せ論が好きです

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  1. Dyck路とネックレスの対応
  2. ピークに印を付けたDyck路とワードの対応
  3. 参考文献