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東大数理院試過去問解答例(2024B05)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B05の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2024B05

球面$S^2=\{(x_1,x_2,x_3)\in\mathbb{R}^3|x_1^2+x_2^2+x_3^2=1\}$$\mathbb{R}^3$内の平面の交わりのうち、円周と同相になるようなものを$S^2$の円と呼び、$S^2$の円全体の為す集合を$Y$とおく。ここで写像$\mu:\mathbb{C}^2\backslash\{(0,0)\}\to S^2$
$$ \mu(z,w):=\frac{1}{|z|^2+|w|^2}(2\mathrm{Re}(z\overline{w}),2\mathrm{Im}(z\overline{w}),|z|^2-|w|^2) $$
で定義する。このとき$\mathbb{C}^2$の部分集合$S$に対し$[S]:=\mu(S)$と定める。ここで$4$次元実線型空間$\mathbb{C}^2$$2$次元実線型部分空間$V$で条件

  1. $V\cap iV=0$

を満たすようなもの全体の集合を$X$とおく。

  1. $X$$C^\infty$級多様体の構造を持つことを示しなさい。
  2. $V$が条件(i)を満たさない$2$次元実線型部分空間であるとき、$[V]$はどのような集合であるか答えなさい。
  3. 対応$V\mapsto[V]$は写像$\varphi:X\to Y$を誘導することを示しなさい。またこの写像は全射であることも示しなさい。
  4. 次の主張の正誤を理由もつけて答えなさい。
  • $S^2$上の$0$でない$C^\infty$$1$形式$\alpha$に対して、ある$V\in X$が存在して、$[V]$の適当な向き付けに対して$\int_{[V]}\alpha>0$が成り立つ。
  1. まず
    $$ M=\{(a,b)\in M_{4\times2}(\mathbb{R})|\mathrm{rank}(a,b)=2\} $$
    とおく。ここで$M$の同値関係を
    $$ \begin{split} (a,b)\sim(c,d)&\Leftrightarrow \langle a,b\rangle=\langle c,d\rangle\\ &\Leftrightarrow \exists P\in \mathrm{GL}_2(\mathbb{R})\textsf{ s.t. }(a,b)P=(c,d) \end{split} $$
    で定める。ここで$N=M/\sim$とおく。$M$の部分集合$U_{i,j}$(但し$i,j$$1,2,3,4$のいずれかで$i< j$を満たすもの全てを走る)を$(i,1)$成分・$(i,2)$成分・$(j,1)$成分・$(j,2)$成分の為す$2\times 2$行列が行列式$\neq0$であるようなもの全体とし、$V_{i,j}$をその$M\to N$による像とする。このとき例えば$(a,b)\in U_{1,2}$に対し、$P$及び$(s,t,u,r)\in\mathbb{R}^4$
    $$ (a,b)P=\begin{pmatrix} 1&0\\ 0&1\\ s&t\\ u&r \end{pmatrix} $$
    を満たすように取ったとき、
    $$ \begin{array}{cccc} \varphi_{1,2}:&V_{1,2}&\to&\mathbb{R}^4\\ &(a,b)&\mapsto&(s,t,u,r) \end{array} $$
    と定義する。同様にして各$(i,j)$に対しても$\varphi_{i,j}:V_{i,j}\to\mathbb{R}^4$が定まる。各局所座標系に対して平面とその$i$倍による像の共通部分が$0$でないという条件は$s,t,u,r$に関するある線形多項式が$0$であるという条件と同値であるから、特に$X$$N$の開部分集合になっていて、上記で定義した$4$次元多様体の構造が入ることがわかる。
  2. まず$W=V\cap iV\neq0$であったとする。このとき$W$$i$倍で閉じているから$W=V$が従う。よってこのような$V$及びその元$(z,w)$を取ったとき、$V$の元は$(az,aw)$と書ける。ここで$\mu$は複素数倍で不変であるから、$[V]$一点集合である。
  3. まず円どうしを対応させるような適切な同相$S^2\simeq\mathbb{C}P^1$を合成することで$\mu$
    $$ \begin{array}{ccccc} \mu:\mathbb{C}^\times\backslash\{(0,0)\}&\to&S^2&\simeq&\mathbb{C}P^1\\ (z,w)&\mapsto&&&\frac{z}{w} \end{array} $$
    と書ける。このとき群$\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$の作用を左辺には線型変換で、右辺にはメビウス変換で定めると、$\mu$$\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$の作用と整合的である。ここで
    $$ V_0:=\mathbb{R}^2\subseteq\mathbb{C}^2 $$
    $$ C_0:=\mathbb{R}P^1\subseteq\mathbb{C}P^1 $$
    と置いたとき、$[V_0]=C_0$である。これに加えて任意の$V\in X$に対して$V=gV_0$なる$g\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$が存在し、任意の$C\in Y$に対し$C=hC_0$なる$h\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})$が存在することを考慮すると、ここから
    $$ [V]=gC_0 $$
    $$ [hV_0]=C $$
    が分かり、前者からwell-defined性、後者から全射性が従う。
  4. ベクトル場$V:S^2\to TS^2\subseteq T\mathbb{R}^3$
    $$ V(P)=(-ac,-bc,1-c^2) $$
    で定める(但し$P=(a,b,c)$)。これを自然に$1$形式と見做したものを$\alpha$とする。$C$$S^2$上の任意に取った円とする。このとき$C$の元の$z$座標は常に不変であるか、最大値と最小値を取る点が$1$つずつありその中間値をとる点が$2$つずつあるかのいずれかである。$C$が前者の場合、$C$上の各点でベクトル場と$C$の接ベクトルの内積は$0$になるから、このとき$\int_C\alpha=0$である。次に$C$が後者のとき、$z$座標が等しくなる$2$$Q,R$を取ったとき、$Q$に於ける$C$の単位的接ベクトルと$V(Q)$の内積は$R$のそれの$-1$倍になっている。よってこのときも$\int_C\alpha=0$である。以上から$\alpha$が命題の反例になっていること、つまり主張は誤りであることがわかる。

$\mu$Hopf fibrationと呼ばれる写像です。

投稿日:328
更新日:328
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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント 

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