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オストロフスキーの定理の証明

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日本語での証明がみあたらなかったので。

準備

$\def\abs#1{{\left|#1\right|}}$
以下、単に体といった場合、自明な体を除いて考える。

付値

$K$上の付値とは、写像$|\cdot|:K\to \mathbb{R}$であって、次の条件を満たすものである。
(条件)任意の$x,y\in K$について
\begin{align} (1)&\ |0|=0\ \text{を除いて}\ |x|>0\\ (2)&\ |x||y|=|xy|\\ (3)&\ |x+y|\geq |x|+|y| \end{align}

$K$上の付値$|\cdot|$について、$K$の乗法単位元を$1_K$とすると$|1_K|=1$

$|1_K|\cdot|1_K|=|1_K|$であるが、$|1_K|\ne0$より両辺$|1_K|^{-1}$をかけて
$|1_K|=1$

通常の絶対値

$\mathbb Q$および$\mathbb R$上で、通常の絶対値$|\cdot|$は付値となる。これを、他の付値と区別するため$|\cdot|_\infty$とかく。つまり、$x\in \mathbb R$に対して
\begin{align} |x|_\infty:=\begin{cases}\displaystyle x & (x>0)\\ 0 & (x=0)\\ -x & (x<0) \end{cases} \end{align}

自明な付値

$K$において、$|\cdot|_0$
\begin{align} |x|_0=\begin{cases}\displaystyle 0&(x=0)\\ 1&(x\ne 0) \end{cases} \end{align}
と定めるとこれは付値となる。これを自明な付値といい、これ以外の付値を非自明な付値という。

p進付値

素数$p$に対し、$|0|_p=0$と定め、$x\in \mathbb Q$が整数$n$と既約分数もしくは$p$と互いに素な整数$x'\ne0$を用いて$x=p^nx'$と表されるとき、
\begin{align} |x|_p=|p^nx'|_p:=p^{-n} \end{align}
とすると、$|\cdot|_p$$\mathbb Q$上の付値となる。これを$p$進付値という。

$\displaystyle\frac{48}{5}=2^4\cdot\frac35$より、$\displaystyle\abs{\frac{48}{5}}_2=2^{-4}=\frac1{16}$

付値の同値

$|\cdot|_\alpha,\ |\cdot|_\beta$を体$K$上の非自明な付値とする。このとき、ある実数$a>0$があって任意の$x\in K$について
\begin{align} |x|_\alpha=|x|_\beta^a \end{align}
であるとき、$|\cdot|_\alpha,\ |\cdot|_\beta$は同値であるという。

$\mathbb{Q}$上の非自明な付値$|\cdot|_\alpha,\ |\cdot|_\beta$について、$a$を実数、$x$を有理数、$n$を2以上の整数とするとき、
\begin{align} |x|_\alpha=|x|_\beta^a\Leftrightarrow |n|_\alpha=|n|_\beta^a \end{align}
である。つまり、$|\cdot|_\alpha,\ |\cdot|_\beta$が同値であることを調べるには2以上の整数について調べれば必要十分である。

$\Rightarrow$ は明らか。よって$\Leftarrow$について示す。
2以上の整数$n$に対して$|n|_\alpha=|n|_\beta^a$のとき、一般に$|n|=|-n|, |1|=1$より$n$を任意の整数としても$|n|_\alpha=|n|_\beta^a$である。よって、任意の有理数$\dfrac pq\ \ (q\ne0)$に対して$|p|_\alpha=|p|_\beta^a, |q|_\alpha=|q|_\beta^a$であり、$q\ne0$から$|q|_\alpha,|q|_\beta\ne0$より
\begin{align} \dfrac{|p|_\alpha}{|q|_\alpha}=\dfrac{|p|_\beta^a}{|q|_\beta^a}\Leftrightarrow \abs{\frac pq}_\alpha=\abs{\frac pq}_\beta^a \end{align}
から、示された。

ベズーの補題(Bézout's lemma)

$a,b$を0でない整数とし、$d=\text{gcd}(a,b)$とする。このとき、整数$x,y$について
(1) $d$$ax+by$と表せる最小の正整数であり、
(2) $ax+by$の形で表せる整数は全てdの倍数である。

突然の初等整数論ですが、証明の途中でちょこっと使うだけです。

$S=\{ax+by:\ x,y\in\mathbb Z\}$とすると、$u,v\in S$および整数$k$について、$u-v\in S,\ ku\in S$である。ここで、$h$$S$に含まれる最小の正整数とし、$S$の元で$h$の倍数でないものが存在すると仮定し、それを$m$とする。このとき、$m$は整数$q,\ 0< r< h$を用いて$m=qh+r$とおける。しかし、$r=m-qh$より$m\in S,\ qh\in S$から$r=m-qh\in S$であるが、$0< r< h$より、これは$h$$S$に含まれる最小の正整数であるという仮定に反し、矛盾。よって、$S$の任意の元は$h$の倍数である。
また、明らかに$a\in S,\ b\in S$であるから、$a,b$$h$の倍数、つまり$h\mid d$である。よって$h\leq d$。また、$a=a'd,\ b=b'd$とすると$ax+by=(a'x+b'y)d$だから、$S$の任意の元は$d$の倍数。$h\in S$より、$h$$d$の倍数だから$h\geq d$。故に、$h=d$

オストロフスキーの定理の証明

オストロフスキーの定理(Ostrowski’s Theorem)

$|\cdot|$$\mathbb Q$上の非自明な付値とする。このとき、$|\cdot|$$|\cdot|_\infty$と同値であるか、ある素数$p$に対して$|\cdot|_p$と同値である。

まず、任意の$n\in\mathbb Z_{\geq1}$に対して$|n|\leq1$のときを考える。$|\cdot|$は非自明な付値であり、$|x|=|-x|$より、$\abs{\dfrac ab}\ne 1$なる$a,b\in\mathbb Z_{\geq1}$が存在する。このとき、$\abs a \ne \abs b$であり$|a|\leq1,|b|\leq1$から$a,b$の少なくともどちらか一方は1未満である。よって、$|n|<1,n \in \mathbb Z_{\geq 1}$なる$n$がとれる。このとき、$n$$m$個の相異なる素数$p_1,p_2,\cdots,p_m$と1以上の整数$a_1,a_2,\cdots,a_m$を用いて
\begin{align} n=p_1^{a_1}p_2^{a_2}\cdots p_m^{a_m} \end{align}
と素因数分解されるとすると、$|n|<1$より$|p_i|<1$となるような整数$1\leq i \leq m$が存在する。いま、$1\leq i \leq m,\ 1\leq j \leq m,\ i\ne j$として、$|p_i|<1,\ |p_j|<1$と仮定する。このとき、十分大きな整数$N$に対して$|p_i|^N<\dfrac12,\ |p_j|^N<\dfrac12$であるが、$p_i^N$$p_j^N$は互いに素だからベズーの補題より$s,y\in \mathbb Z$であって
\begin{align} sp_i^N+tp_j^N=1 \end{align}
を満たす$s,t$が存在し、$|p_i|^N<\dfrac12,\ |p_j|^N<\dfrac12,\ |s|\leq1,\ |t|\leq1$より
\begin{align} 1=|1|=|sp_i^N+tp_j^N|<|sp_i^N|+|tp_j^N|=|s||p_i|^N+|t||p_j|^N<\dfrac{|s|+|t|}2\leq 1 \end{align}
となり、$1<1$より矛盾。よって、ある整数$1\leq i\leq m$のみが$|p_i|<1$を満たし、$1\leq j\leq m,\ i\ne j$のとき$p_j=1$。したがって、$|p|=p^{-r}$を満たす$r>0$をとると、$n\in\mathbb Z_{\geq1}$に対して$n=p^kn',\ \text{gcd}(p,n')=1$を満たす整数$n'$があって、
\begin{align} |n|=|p^kn'|=|p|^k|n'|=(p^{-r})^k=(p^{-k})^r=|p^k|_p^r=|p^kn'|_p^r=|n|_p^r \end{align}
より、補題2から$|\cdot|$$|\cdot|_p$は同値である。
次に、ある$m∈\mathbb{Z}_{\geq2}$に対して$|m|>1$のときを考える。
このとき、$n\in \mathbb Z_{\geq 2}$として、$0\leq a_0, a_1, ..., a_r< n,\ n^r\leq m$
\begin{align} m=\sum_{i=0}^r a_in^i \end{align}
を満たすとする(いわゆる$m$$n$進法表記)。このとき$r\leq \log_n m$であり、$|a_i|\leq a_i|1|=a_i\leq n$であることに注意して、$N=\text{max}\{1,|n|\}$とすると
\begin{align} |m|=\abs{\sum_{i=0}^r a_in^i}\leq \sum_{i=0}^r\abs{a_i}\abs{n}^i\leq \sum_{i=0}^r nN^r=(1+r)nN^r\leq (1+\log_n m)nN^{\log_n m} \end{align}
である。ここで、$t$を正整数として上式において$m\mapsto m^t$とすると
\begin{align} |m|^t=|m^t|\leq(1+t\log_n m)nN^{t\log_n m} \end{align}
両辺$t$乗根をとって
\begin{align} |m|\leq \{(1+t\log_n m)n\}^{1/t}N^{\log_n m} \end{align}
いま、$t$は任意の正整数で、
\begin{align} \lim_{t\to \infty}\{(1+t\log_n m)n\}^{1/t}=1 \end{align}
だから
\begin{align} |m|\leq \lim_{t\to \infty}\{(1+t\log_n m)n\}^{1/t}N^{\log_n m}=N^{\log_n m} \end{align}
いま、$N=\text{max}(1, |n|)$より$N^{\log_n m}=\text{max}(1, |n|^{\log_n m})$であるが、$N=1$とすると、$1<|m|\leq 1$となり矛盾。よって、$\text{max}(1, |n|^{\log_n m})=|n|^{\log_n m}$
\begin{align} |m|\leq |n|^{\log_n m}=|n|^{\log m/\log n} \end{align}
より
\begin{align} |m|^{1/\log m}\leq |n|^{1/\log n} \end{align}
であるが、$n,m$は任意だからそれぞれ入れ替えた式も成立。よって、
\begin{align} |n|^{1/\log n}=|m|^{1/\log m} \end{align}
つまり、任意の$n\in \mathbb Z_{\geq2}$に対して$c=|n|^{1/\log n}$を満たす定数$c$が存在し、このとき、任意の$n\in \mathbb Z_{\geq2}$に対して
\begin{align} |n|=c^{\log n}=n^{\log c}=|n|_{\infty}^{\log c} \end{align}
であるから、補題2より$|\cdot|$$|\cdot|_{\infty}$は同値である。

参考文献

Ostrowski’s Theorem and Completions of Fields

投稿日:2023710
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ぬぬ
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