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コーシーの関数方程式の「安定性」

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有名な関数方程式であるコーシーの関数方程式ですが,興味深い変種を見つけたので記事にしようと思いました.

δ-加法的な関数

X,Yをノルム空間とする.写像f:XYは,あるδ>0が存在して任意のx,yXに対してf(x+y)f(x)f(y)<δを満たすときδ-加法的であるという.

コーシーの関数方程式を差を抑える不等式の形にした条件ですがこれに関して次の定理が成り立ちます.

E,EをBanach空間とする.f:EEδ-加法的ならある線形作用素l:EEが存在して任意のxEに対しf(x)l(x)<δを満たす.このlは一意に定まる.

δ-加法的だから任意のxEに対してf(x)2f(12x)<δ2.帰納法で任意のxEに対し
2nf(x)f(2nx)<δ(12n)が成立することを示す.n=1のときは示した.これから
12f(2nx)f(2n1x)<δ2.
一方,帰納法の仮定から
2nf(x)f(2nx)<δ(12n)
この2つを用いて
2n1f(x)f(2n1x)
2n1f(x)12f(2nx)+12f(2nx)f(2n1x)
<δ2(12n)+δ2=δ(12n1)
よって帰納法で示される.
xEに対しqn(x)=f(2nx)2nとおく.m<nとして
qn(x)qm(x)=f(2mn2nx)2mnf(2nx)2m
なので示した不等式から
qm(x)qn(x)<δ12mn2m.よって{qn(x)}nはコーシー列である.Eは完備だからl(x)=limnqn(x)とおける.δ-加法的であることから任意のx,yEに対して
f(2nx+2ny)f(2nx)f(2ny)<δ.
両辺を2nで割ってl(x+y)=l(x)+l(y).
示した不等式でx2nxでおきかえて
f(2nx)2nf(x)<δ(12n).よって
l(x)f(x)δ.

一意性を示す.線形変換L(x)が任意のxEに対しL(x)f(x)δを満たすとする.あるyEが存在してl(y)L(y)とする.n>2δl(y)L(y)を満たす正整数nに対しl(ny)L(ny)>2δ.これはL(ny)f(ny)δかつl(ny)f(ny)δであることに矛盾する.

さらに連続性について次のことがいえます.

前定理の仮定の下f(x)E1yで連続ならl(x)Eの任意の点で連続である.

l(x)が連続でないとする.線形作用素に対しては原点で連続であれば任意の点で連続だから,ある正整数k0に収束するEの点列{xn}nが存在して任意の正整数nに対してl(xn)>1k.mm>3kδを満たす正整数とする.
l(xn+y)l(xn)=l(xn)>3δ
一方,fyでの連続性から十分大きなnに対して
l(xn+y)l(y)l(xn+y)f(xn+y)
+f(mxn+y)f(y)+f(y)l(y)<3δ.
これは矛盾.

位相群などでも同じような問題が考えられると論文にコメントがありました.他にもいろいろ考えられそうです.

参考文献
On the Stability of the Linear Functional Equation
D. H. Hyers
April 15, 1941

投稿日:202444
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