2

コーシーの関数方程式の「安定性」

72
0
$$$$

有名な関数方程式であるコーシーの関数方程式ですが,興味深い変種を見つけたので記事にしようと思いました.

$\delta$-加法的な関数

$X,Y$をノルム空間とする.写像$f:X\to Y$は,ある$\delta >0$が存在して任意の$x,y\in X$に対して$\|f(x+y)-f(x)-f(y)\|<\delta$を満たすとき$\delta$-加法的であるという.

コーシーの関数方程式を差を抑える不等式の形にした条件ですがこれに関して次の定理が成り立ちます.

$E,E^{\prime}$をBanach空間とする.$f:E\to E^{\prime}$$\delta $-加法的ならある線形作用素$l:E\to E^{\prime}$が存在して任意の$x\in E$に対し$\|f(x)-l(x)\|<\delta$を満たす.この$l$は一意に定まる.

$\delta$-加法的だから任意の$x\in E$に対して$ \|f(x)-2f(\frac{1}{2}x)\|<\dfrac{\delta}{2}$.帰納法で任意の$x\in E$に対し
$\|2^{-n}f(x)-f(2^{-n}x)\|<\delta(1-2^{-n})$が成立することを示す.$n=1$のときは示した.これから
$\|\frac{1}{2}f(2^{-n}x)-f(2^{-n-1}x)\|<\dfrac{\delta}{2}$.
一方,帰納法の仮定から
$\|2^{-n}f(x)-f(2^{-n}x)\|<\delta (1-2^{-n})$
この$2$つを用いて
$\|2^{-n-1}f(x)-f(2^{-n-1}x)\|$
$\leq\|2^{-n-1}f(x)-\frac{1}{2}f(2^{-n}x)\|+\|\frac{1}{2}f(2^{-n}x)-f(2^{-n-1}x)\|$
$<\dfrac{\delta}{2}(1-2^{-n})+\dfrac{\delta}{2}=\delta (1-2^{-n-1})$
よって帰納法で示される.
$x\in E$に対し$q_n(x)=\dfrac{f(2^n x)}{2^n}$とおく.$m< n$として
$q_n(x)-q_m(x)=\dfrac{f(2^{m-n}2^n x)-2^{m-n}f(2^n x)}{2^m}$
なので示した不等式から
$\|q_m(x)-q_n(x)\|<\delta \dfrac{1-2^{m-n}}{2^m}$.よって$\{q_n(x)\}_n$はコーシー列である.$E$は完備だから$l(x)=\displaystyle\lim_{n\to \infty}q_n(x)$とおける.$\delta$-加法的であることから任意の$x,y\in E$に対して
$\|f(2^n x+2^n y)-f(2^n x)-f(2^n y)\|<\delta$.
両辺を$2^n$で割って$l(x+y)=l(x)+l(y)$.
示した不等式で$x$$2^n x$でおきかえて
$\left \| \dfrac{f(2^n x)}{2^n}-f(x)\right \|<\delta (1-2^{-n})$.よって
$\|l(x)-f(x)\|\leq \delta$.

一意性を示す.線形変換$L(x)$が任意の$x\in E$に対し$\|L(x)-f(x)\|\leq \delta$を満たすとする.ある$y\in E$が存在して$l(y)\neq L(y)$とする.$n>\dfrac{2\delta}{\|l(y)-L(y)\|}$を満たす正整数$n$に対し$\|l(ny)-L(ny)\|>2\delta$.これは$\|L(ny)-f(ny)\|\leq \delta$かつ$\|l(ny)-f(ny)\|\leq\delta$であることに矛盾する.

さらに連続性について次のことがいえます.

前定理の仮定の下$f(x)$$E$$1$$y$で連続なら$l(x)$$E$の任意の点で連続である.

$l(x)$が連続でないとする.線形作用素に対しては原点で連続であれば任意の点で連続だから,ある正整数$k$$0$に収束する$E$の点列$\{x_n\}_n$が存在して任意の正整数$n$に対して$\|l(x_n)\|>\dfrac{1}{k}$.$m$$m>3k\delta$を満たす正整数とする.
$\|l(x_n+y)-l(x_n)\|=\|l(x_n)\|>3\delta$
一方,$f$$y$での連続性から十分大きな$n$に対して
$\|l(x_n+y)-l(y)\|\leq \|l(x_n+y)-f(x_n+y)\|$
$+\|f(mx_n+y)-f(y)\|+\|f(y)-l(y)\|<3\delta$.
これは矛盾.

位相群などでも同じような問題が考えられると論文にコメントがありました.他にもいろいろ考えられそうです.

参考文献
On the Stability of the Linear Functional Equation
D. H. Hyers
April 15, 1941

投稿日:44

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

qq_pp
qq_pp
2
1215

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中