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クリスマスイブの夜空にオーロラを作り出す方法

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クリスマスイブの夜空にオーロラを作り出す方法


オーロラは夜明け

 皆さんこんにちは、K2Kです。この記事はPhysics Lab. Advent Calendar2026, シリーズ1の24日目への寄稿です。とうとうクリスマスイブになったということで、空にオーロラを作っていきましょう。
 余談を挟むと、私はクリスマスイブの夜にオーロラを作ったらロマンチックで素敵ではないだろうかと思い、これを企画したわけですが、ラテン語でオーロラは「夜明け」を意味しているらしい。待ちに待ったクリスマスの夜が始まろうかという時に、夜明けを意味するオーロラを作ってしまうなんて、、、。サンタさんも焦ってプレゼントを届け間違えるんじゃないでしょうか。いやはやなんとも業の深い行いに思えてきてしまいましたね。
焦るサンタ 焦るサンタ
 しかし、そんな代償を払っても良いと思えるほどの魅力をオーロラは持っていますよね。ローマ神話では暁の女神の名前「アウロラ」に由来しているらしいではないですか。美しくも儚く、日本ではなかなか実物を見ることが叶わないオーロラ。皆さんもオーロラを見たいと思ってきましたよね。


原理

 ではそもそもオーロラの発光はどのような仕組みで起こっているのでしょうか。
その発生源は太陽から生み出されます。太陽は不定期にプラズマ(水素イオンや電子)の風を宇宙空間に放出する太陽風という現象を起こします。このプラズマ粒子が地球磁気圏に入った時、地球の磁力線に沿って地球の極地付近へと移動していき、大気と衝突します。この衝突によって、大気中の酸素原子や窒素原子が励起され、基底状態に戻る際に放出されるエネルギーの発光がオーロラとして現れているわけです。つまり、オーロラはある決まった色の光でしか光らないということですね。
 オーロラは高度約$80\,\mathrm{km}\sim 500\,\mathrm{km}$の電離層の範囲で発生し、高度がこれより高くなると、大気原子・分子の密度が少なくなり、発光が見えない。逆に高度がこの範囲よりも低いところでは、発光が起こる前に分子・原子同士が衝突をし、その衝突による運動エネルギーなどにエネルギーが奪われます。


オーロラの作り方

 ここまでくればオーロラの作り方はあらかた見当がつくことでしょう。そう、つまりは高度$80\,\mathrm{km}\sim 500\,\mathrm{km}$圏内の夜空にプラズマを打ち込んでやれば良いというわけです。ここでは簡単のため、電子銃を用いて電子ビームを夜空に打ち込むことを考えます。
 では、どのくらいのエネルギーを持った電子を、どのくらいの量打ち込めば良いのでしょうか。電子のエネルギーは加速電圧によって決まり、電子の量はビームの電流によって決まります。
 オーロラの明るさ分類として、天の川と同程度の明るさは$3[\mathrm{erg}/\mathrm{cm}^2\mathrm{sec}^{-1}]$ほどに、満月に照らされた巻雲の明るさは$30[\mathrm{erg}/\mathrm{cm}^2\mathrm{sec}^{-1}]$ほどのエネルギーフラックスに対応するらしいです。なので、今回は満月に照らされた巻雲の明るさレベルがあればオーロラを認識できると考え、$30[\mathrm{erg}/\mathrm{cm}^2\mathrm{sec}^{-1}] = 30[\mathrm{mW}/\mathrm{m}^2]$ほどの電力があれば良いとします。
 また、赤と緑の発光が見られる傾向のある高度$200\,\mathrm{km}$を目標発光高度とし、夜空を見上げた時に一面に発光が広がっている姿をもちろん見たいので、体感的直感により地上からみた天頂角が$0\sim 45$度までの範囲でオーロラが生成されることを目指します。すると、画像 による計算により、
オーロラを発生させる面積 オーロラを発生させる面積
$1.1*10^{11}\,\mathrm{m^2}$にわたる面積に電子ビームを打ち込めば良いこととになります。つまり、最低でも$3 * 10^9\,\mathrm{W}$の電力を消費する電子ビームが必要なことがわかります。ちなみに2024年の日本の総電力生産量$1012\,\mathrm{TWh}$だったらしいです。1年間一定の電力を生産し続けたと仮定すると、2024年はもちろん閏年なので
$$ \frac{1012 * 10^{12}}{366*24} = 1.1 * 10^{11}\ \mathrm{W} $$
の電力を、日本は生産し続けていることになります。
つまり、日本の生産電力の1/100ほどをオーロラ生成に割り当てれば良いことが分かります。これで準備は整いました。無事にオーロラを作ることができた画像をご覧ください。
オーロラ実験の結果 オーロラ実験の結果


想定される被害

 12日目に寄稿された「 お前も物理学徒にならないか? 」においては強い物理学徒(物理的)について議論がなされていましたが、もちろん周りへの配慮もできる倫理的な物理学徒になることも心がけねばなりません。ということで、オーロラを作ることによる被害についても考えていきましょう。ここでは定性的なことに留めます。  

GPSの位置の乱れ

GPSの測位に用いられるGNSSは人工衛星から電波を地球に送りますが、この電波は電離圏での電子密度が大きくなると電波が遅延されます。飛行機のパイロットもびっくりですね。しかし、オーロラを作っている時間は飛行機を飛ばさなければ良いので問題ありません。

オゾン

粒子降下は窒素酸化物を増やしオゾンを減らし得る可能性があります。しかし、数分程度の人口オーロラ発光であれば局所・短期の擾乱に留まるので問題はありません。

衛星運用

電子ビームが入射する事による発熱から大気の熱圏が加熱され膨張することで衛星が力を受け姿勢を変えてしまったり、衛星の寿命を縮める事につながってしまいます。しかし、オーロラを見ることに比べれば問題ありません。
想定される被害 想定される被害

 という事で多方面に配慮しましたが、無事にオーロラを発生させても良いことが分かりました???


最後に

 これを機に、イベントや記念毎を楽しみたい時はオーロラを作ってみることも案に入れてみてください。みなさんの良きオーロラライフを楽しみにしております。

参考文献

  1. うどん, 「お前も物理学徒にならないか?」, Mathlog, (参照 2025-12-22).
    https://mathlog.info/articles/AIdrUwGtlfWmSbRITGO9
  1. オーロラ情報局, 「Aurora-Toha」, Canada Aurora Network, (参照 2025-12-22).
    http://www.canadaauroranetwork.com/index.php?Aurora-Toha#d43ef6d1

  2. 小口 高, 『オーロラの物理学入門』, 名古屋大学太陽地球環境研究所, 2010-10, (参照 2025-12-22).
    https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/26395
    doi:10.18999/28598

  3. T. Kawashima, K. I. Oyama, K. Suzuki, N. Iwagami, S. Teii,
    “A measurement of the N2 number density and the N2 vibrational rotational temperature in the lower thermosphere—Instrumentation and preliminary results”,
    Advances in Space Research, 19(4), pp. 663–666 (1997). doi:10.1016/S0273-1177(97)00160-9
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0273117797001609

  4. ヤムナスカ, 「ヤムナスカのオーロラ完全ガイド | 大気との衝突による発光」, (参照 2025-12-22).
    https://auroranavi.com/aurora/emission.html

  5. Evgeny V. Mishin,
    “Artificial Aurora Experiments and Application to Natural Aurora”,
    Frontiers in Astronomy and Space Sciences, 6:14 (2019). doi:10.3389/fspas.2019.00014
    https://www.frontiersin.org/journals/astronomy-and-space-sciences/articles/10.3389/fspas.2019.00014/full

  6. Enerdata, “Electricity Production Data - World Energy Statistics - Enerdata”, (参照 2025-12-22).
    https://yearbook.enerdata.jp/electricity/world-electricity-production-statistics.html

  7. 喜多充成(文), 久保信明(監修), 「『電離圏』を電波で測る|衛星測位入門」, みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト - 内閣府, 2016-09-30, (参照 2025-12-22).
    https://qzss.go.jp/overview/column/ionosphere_160930.html

  8. 塩川和夫(文), 大村純子(絵), 野田ゆかり(編集),
    『大気のてっぺん50のなぜ』, 名古屋大学 太陽地球環境研究所, 2005-06-01, (参照 2025-12-22).
    https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/pub/naze/taiki.pdf

  9. Wikipedia執筆者, 「オーロラ」, Wikipedia, (参照 2025-12-22).
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%A9

投稿日:6日前
更新日:5日前
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