0

【メモ】直積環上の加群の一般論

102
0
$$$$

直積環上の加群の一般論についてメモしておく記事です.(自分用のメモという意味合いが強いです.)

記事全体で左加群を単に加群と呼びます.

直積環上の加群

直積環上の加群の構造

$A, B$は可換とは限らない環とする.直積環$A\times B$上の加群$M$を考える.

$A\times B$加群$M$$A$加群$M_A$$B$加群$M_B$との内部直和として記述できる.

すなわち部分$A\times B$加群$M_A,M_B\subset M$が存在して,$M_A$$A$加群,$M_B$$B$加群でもあり,$A\times B$加群の同型$M\rightarrow M_A\oplus M_B$が存在する.

$M_A:=\{m\in M \;|\; \forall b\in B,\;(0,b)m=0\}$

$M_B:=\{m \in M \;\ \forall a\in A,\;(a,0)m=0\}$

と定めると,これらは自然にそれぞれ$A$加群,$B$加群である.
($a\cdot m_A :=(a,0)\cdot m_A$などと定める.)

また,$M_A,\;M_B$はともに$M$の部分$A\times B$加群でもある.

$M=M_A+M_B$$M_A\cap M_B=\{0\}$は簡単に示せる.

$n$を正の整数とし,$A_1,...,A_n$を環とする.$A:=A_1\times...\times A_n$上の加群についても同様の命題が成立する.

$M$$A$加群とする.

このとき部分$A$加群$M_i\subset M(i=1,...,n)$が存在して,$M_i$$A_i$加群でもあり,$A$加群として$M= M_1\oplus...\oplus M_n$が成り立つ.

命題1により,$n$についての帰納法で示せる.

既約加群

以下でも先ほどと同じく直積環$A=A_1\times...\times A_n$を考える.

$M= M_1\oplus...\oplus M_n$$A$加群とする.ただし$M_i$$M$の部分$A$加群で,$A_i$加群でもあるとする.$M$の部分加群について次の命題が成立する:

$M$の部分$A$加群は,$N_1\oplus...\oplus N_n$と書ける.
ただし$i=1,...,n$に対して$N_i$$M$の部分$A$加群であり,$M_i$の部分$A_i$加群でもある.

既約加群については次の命題が成立する:

$M$が既約$A$加群であるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$M_{i_0}$$A_{i_0}$加群として既約であり,$i\not =i_0$に対しては$M_i=0$となることである.

特に既約な$A_1\times A_2$加群は,既約$A_i$加群$M_i$を用いて$M_1\oplus \{0\}$または$\{0\}\oplus M_2$と書けるもののみである.

直積環のイデアル

$A=A_1\times...\times A_n$の左イデアルとは,$A$を左加群としてみたときの部分左$A$加群であるから,直積環$A$の左イデアルについて次が成り立つ:

$A$の左イデアルは,$I=I_1\times...\times I_n$と書ける.
ただし,$i=1,...,n$に対して$I_i$$A_i$の左イデアル.

右イデアル,両側イデアルについても同様.

上の命題の$A$の左イデアル$I=I_1\times...\times I_n$について次の命題が成立する:

$I$$A$の極小左イデアルであるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$I_{i_0}$$A_{i_0}$の極小左イデアルであり,$i\not =i_0$に対しては$I_i=(0)$となることである.

次の命題では$A_1,...,A_n$は可換環とする.$A=A_1\times ...\times A_n$も可換環である.$I=I_1\times ...\times I_n$$A$のイデアルとする.ただし$I_i$$A_i$のイデアル.

(1)$I$$A$の素イデアルであるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$I_{i_0}$は素イデアルであり,$i\not =i_0$に対しては$I_i=A_i$となることである.

(2)$I$$A$の極大イデアルであるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$I_{i_0}$は極大イデアルであり,$i\not =i_0$に対しては$I_i=A_i$となることである.

(1)のみ示す.$I$は素イデアルであると仮定して条件を満たす$i_0$の存在を言う.$n=2$の場合を示せば,帰納法により一般の$n$の場合が示せるので$n=2$とする.

$a_1,b_1\in A_1$とする.$a_1b_1\in I_1$を仮定する.

$A_1\times A_2$の元として$(a_1,0)(b_1,0)=(a_1b_1,0)\in I_1\times I_2=I$であり,仮定より$I$は素イデアルであるから,$(a_1,0)\in I$または$(b_1,0)\in I_1$である.よって$a_1\in I_1$または$b_1\in I_1$となる.したがって$I_1$$A_1$の素イデアルであるか,$I_1=A_1$である.

(i)$I_1=A_1$の場合.
上の議論と同様にして,$I_2$$A_2$の素イデアルであるか,$I_2=A_2$である.今,$I\not =A$より$I_2\not= A_2$であるから,$I_2$$A_2$の素イデアルである.
したがって$i_0=2$とすれば条件を満たす.

(ii)$I_1$が素イデアルの場合.
$I_2=A_2$となることを示す.$(1,0)(0,1)=(0,0)\in I$$I$は素イデアルであるので$(1,0)\in I$または$(0,1)\in I$であるが,$1\not \in I_1$なので前者はありえず,$(0,1)\in I$を得る.よって$1\in I_2$$I_2=A_2$
したがって$i_0=1$とすれば条件を満たす.

逆を示すのは易しい.

特に,$A_1\times A_2$の素(極大)イデアルは,$A_i$の素(極大)イデアル$p_i\subset A_i$を用いて$p_1\times A_2$または$A_1\times p_2$と書けるもののみである.

投稿日:17日前
更新日:17日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

ことり
ことり
107
22776

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中