直積環上の加群の一般論についてメモしておく記事です.(自分用のメモという意味合いが強いです.)
記事全体で左加群を単に加群と呼びます.
$A, B$は可換とは限らない環とする.直積環$A\times B$上の加群$M$を考える.
$A\times B$加群$M$は$A$加群$M_A$と$B$加群$M_B$との内部直和として記述できる.
すなわち部分$A\times B$加群$M_A,M_B\subset M$が存在して,$M_A$は$A$加群,$M_B$は$B$加群でもあり,$A\times B$加群の同型$M\rightarrow M_A\oplus M_B$が存在する.
$M_A:=\{m\in M \;|\; \forall b\in B,\;(0,b)m=0\}$,
$M_B:=\{m \in M \;\ \forall a\in A,\;(a,0)m=0\}$
と定めると,これらは自然にそれぞれ$A$加群,$B$加群である.
($a\cdot m_A
:=(a,0)\cdot m_A$などと定める.)
また,$M_A,\;M_B$はともに$M$の部分$A\times B$加群でもある.
$M=M_A+M_B$と$M_A\cap M_B=\{0\}$は簡単に示せる.
$n$を正の整数とし,$A_1,...,A_n$を環とする.$A:=A_1\times...\times A_n$上の加群についても同様の命題が成立する.
$M$を$A$加群とする.
このとき部分$A$加群$M_i\subset M(i=1,...,n)$が存在して,$M_i$は$A_i$加群でもあり,$A$加群として$M= M_1\oplus...\oplus M_n$が成り立つ.
命題1により,$n$についての帰納法で示せる.
以下でも先ほどと同じく直積環$A=A_1\times...\times A_n$を考える.
$M= M_1\oplus...\oplus M_n$を$A$加群とする.ただし$M_i$は$M$の部分$A$加群で,$A_i$加群でもあるとする.$M$の部分加群について次の命題が成立する:
$M$の部分$A$加群は,$N_1\oplus...\oplus N_n$と書ける.
ただし$i=1,...,n$に対して$N_i$は$M$の部分$A$加群であり,$M_i$の部分$A_i$加群でもある.
既約加群については次の命題が成立する:
$M$が既約$A$加群であるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$M_{i_0}$が$A_{i_0}$加群として既約であり,$i\not =i_0$に対しては$M_i=0$となることである.
特に既約な$A_1\times A_2$加群は,既約$A_i$加群$M_i$を用いて$M_1\oplus \{0\}$または$\{0\}\oplus M_2$と書けるもののみである.
環$A=A_1\times...\times A_n$の左イデアルとは,$A$を左加群としてみたときの部分左$A$加群であるから,直積環$A$の左イデアルについて次が成り立つ:
$A$の左イデアルは,$I=I_1\times...\times I_n$と書ける.
ただし,$i=1,...,n$に対して$I_i$は$A_i$の左イデアル.
右イデアル,両側イデアルについても同様.
上の命題の$A$の左イデアル$I=I_1\times...\times I_n$について次の命題が成立する:
$I$が$A$の極小左イデアルであるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$I_{i_0}$が$A_{i_0}$の極小左イデアルであり,$i\not =i_0$に対しては$I_i=(0)$となることである.
次の命題では$A_1,...,A_n$は可換環とする.$A=A_1\times ...\times A_n$も可換環である.$I=I_1\times ...\times I_n$を$A$のイデアルとする.ただし$I_i$は$A_i$のイデアル.
(1)$I$が$A$の素イデアルであるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$I_{i_0}$は素イデアルであり,$i\not =i_0$に対しては$I_i=A_i$となることである.
(2)$I$が$A$の極大イデアルであるための必要十分条件は,ある$i_0$が存在して,$I_{i_0}$は極大イデアルであり,$i\not =i_0$に対しては$I_i=A_i$となることである.
(1)のみ示す.$I$は素イデアルであると仮定して条件を満たす$i_0$の存在を言う.$n=2$の場合を示せば,帰納法により一般の$n$の場合が示せるので$n=2$とする.
$a_1,b_1\in A_1$とする.$a_1b_1\in I_1$を仮定する.
$A_1\times A_2$の元として$(a_1,0)(b_1,0)=(a_1b_1,0)\in I_1\times I_2=I$であり,仮定より$I$は素イデアルであるから,$(a_1,0)\in I$または$(b_1,0)\in I_1$である.よって$a_1\in I_1$または$b_1\in I_1$となる.したがって$I_1$は$A_1$の素イデアルであるか,$I_1=A_1$である.
(i)$I_1=A_1$の場合.
上の議論と同様にして,$I_2$は$A_2$の素イデアルであるか,$I_2=A_2$である.今,$I\not =A$より$I_2\not= A_2$であるから,$I_2$は$A_2$の素イデアルである.
したがって$i_0=2$とすれば条件を満たす.
(ii)$I_1$が素イデアルの場合.
$I_2=A_2$となることを示す.$(1,0)(0,1)=(0,0)\in I$で$I$は素イデアルであるので$(1,0)\in I$または$(0,1)\in I$であるが,$1\not \in I_1$なので前者はありえず,$(0,1)\in I$を得る.よって$1\in I_2$で$I_2=A_2$.
したがって$i_0=1$とすれば条件を満たす.
逆を示すのは易しい.
特に,$A_1\times A_2$の素(極大)イデアルは,$A_i$の素(極大)イデアル$p_i\subset A_i$を用いて$p_1\times A_2$または$A_1\times p_2$と書けるもののみである.