直積環上の加群の一般論についてメモしておく記事です.(自分用のメモという意味合いが強いです.)
記事全体で左加群を単に加群と呼びます.
直積環上の加群
直積環上の加群の構造
は可換とは限らない環とする.直積環上の加群を考える.
加群は加群と加群との内部直和として記述できる.
すなわち部分加群が存在して,は加群,は加群でもあり,加群の同型が存在する.
,
と定めると,これらは自然にそれぞれ加群,加群である.
(などと定める.)
また,はともにの部分加群でもある.
とは簡単に示せる.
を正の整数とし,を環とする.上の加群についても同様の命題が成立する.
を加群とする.
このとき部分加群が存在して,は加群でもあり,加群としてが成り立つ.
既約加群
以下でも先ほどと同じく直積環を考える.
を加群とする.ただしはの部分加群で,加群でもあるとする.の部分加群について次の命題が成立する:
の部分加群は,と書ける.
ただしに対してはの部分加群であり,の部分加群でもある.
既約加群については次の命題が成立する:
が既約加群であるための必要十分条件は,あるが存在して,が加群として既約であり,に対してはとなることである.
特に既約な加群は,既約加群を用いてまたはと書けるもののみである.
直積環のイデアル
環の左イデアルとは,を左加群としてみたときの部分左加群であるから,直積環の左イデアルについて次が成り立つ:
の左イデアルは,と書ける.
ただし,に対してはの左イデアル.
右イデアル,両側イデアルについても同様.
上の命題のの左イデアルについて次の命題が成立する:
がの極小左イデアルであるための必要十分条件は,あるが存在して,がの極小左イデアルであり,に対してはとなることである.
次の命題ではは可換環とする.も可換環である.をのイデアルとする.ただしはのイデアル.
(1)がの素イデアルであるための必要十分条件は,あるが存在して,は素イデアルであり,に対してはとなることである.
(2)がの極大イデアルであるための必要十分条件は,あるが存在して,は極大イデアルであり,に対してはとなることである.
(1)のみ示す.は素イデアルであると仮定して条件を満たすの存在を言う.の場合を示せば,帰納法により一般のの場合が示せるのでとする.
とする.を仮定する.
の元としてであり,仮定よりは素イデアルであるから,またはである.よってまたはとなる.したがってはの素イデアルであるか,である.
(i)の場合.
上の議論と同様にして,はの素イデアルであるか,である.今,よりであるから,はの素イデアルである.
したがってとすれば条件を満たす.
(ii)が素イデアルの場合.
となることを示す.では素イデアルであるのでまたはであるが,なので前者はありえず,を得る.よってで.
したがってとすれば条件を満たす.
逆を示すのは易しい.
特に,の素(極大)イデアルは,の素(極大)イデアルを用いてまたはと書けるもののみである.