本稿は、圏の部分対象の定義について集合論から観察した記事である。
圏の対象$A$の部分対象とは、$A$に向かうmonicの同型類のことをいう。この定義は、集合の部分集合の定義と比べてあまり直感的ではない。
そこで、この定義が一体どこから生えてくるのかを、集合論の包含関係の定義から出発して観察していく。
本稿では、「クラス」という用語を、集合とは限らない数学的対象の集まりを指すのに用いる。基礎づけの詳細にはあまり立ち入らない。
また、集合論とは、学部の授業で採用されているようなオーソドックスな集合論を想定する。
圏論に於いて、各対象の部分対象とは何であるか?みんなが圏論よりも親しんでいるであろう集合論から出発して、圏論的な部分対象の定義に考えを巡らせよう。
集合論では、集合$M$が集合$A$の部分集合であることを、元に関する記述で定義できる。
$$
M \subseteq A\quad \overset{\mathrm{def}}{\iff}\quad \forall m . m \in M \Rightarrow m \in A
$$
つまり$M$の全ての元が$A$の元でもあることを以て、$M$は$A$の部分集合であると定義している。
もちろん、この考え方は、圏論では一般に採用できない。必ずしも対象が元を持っているとは限らないからだ。
別のアプローチが必要である。
$M$が$A$の部分集合であることの定義には、言い換えが存在する。
集合$M,A$に対し、$M \subseteq A\ \ \mathrm{iff}\ \ i_M:M \hookrightarrow A$(包含写像)が定義できる。
まず包含写像$i_M \colon M \hookrightarrow A$とは、次の三つ組が定める写像として定義する。
$$
\Gamma \overset{\mathrm{def}}{=} (\Delta_M,M,A),\ \Delta_M \overset{\mathrm{def}}{=}\{(x,x)\mid x \in M \}
$$
集合$\Delta_M$は、$M$の対角線集合である。これが写像のグラフ(左全域的かつ右一意的な二項関係)であることを確かめるのは容易い。
$(\Longrightarrow)M \subseteq A$のとき、$\forall x . x \in M \Rightarrow x \in A$であるから、
$\Delta_M \subseteq M \times A$が成立する。よって$\Gamma$は$M$から$A$への写像として定義可能である。
$(\Longleftarrow)i_M\colon M \hookrightarrow A$が定義できるとき、$\Gamma$が$i_M$を定義することから、$\Delta_M \subseteq M \times A$である。
よって$\forall x . x \in M \Rightarrow (x,x) \in M \times A$であるが、これは$\forall x . x \in M \Rightarrow x \in A$を導く。
これ以降、二項関係の合成がしばしば出現するので、定義を書いておく。
$R$が集合$A,B$上の二項関係であるとは、部分集合$R \subseteq A \times B$であることをいう。
命題1に現れた集合$M$上の対角線集合$\Delta_M$は、$M$上の二項関係である。
$$
\Delta_M = \{ (x,x) \mid x \in M \}
$$
$R$を集合$A,B$上の二項関係、$S$を集合$B,C$上の二項関係とするとき、合成した二項関係$S \circ R \subseteq A \times C$を次で定める。
$$
S \circ R \overset{\mathrm{def}}{=} \{ (a,c) \mid \exists b . (a,b) \in R \land (b,c) \in S \}
$$
写像$f \colon A \to B$は、写像のグラフ$G_f$と定義域、値域の三つ組$(G_f,A,B)$で定義された。$f \colon A \to B,g \colon B \to C$をそれぞれ写像とするとき、
$f,g$の合成を三つ組$(G_{g\circ f},A,C)$で表すとき、写像のグラフは$f,g$の各グラフを二項関係として合成したものとして得られる。
$$
G_{g \circ f} = G_g \circ G_f = \{ (a,c) \mid \exists b . (a,b) \in G_f \land (b,c) \in G_g \}
$$
次の命題が示すように、対角線集合は、二項関係の合成に於いて単位元のように振る舞う。
$R$を集合$X,Y$上の任意の二項関係とする。このとき$\Delta_Y \circ R = R$かつ$R \circ \Delta_X = R$が成り立つ。
$$
\begin{aligned}
\Delta_Y \circ R &= \{ (x,z) \mid \exists y . (x,y) \in R \land (y,z) \in \Delta_Y \}\\
&= \{ (x,z) \mid \exists y . (x,y) \in R \land y = z \}\\
&= \{ (x,z) \mid (x,z) \in R \}\\
&= R
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
R \circ \Delta_X &= \{ (x,z) \mid \exists y . (x,y) \in \Delta_X \land (y,z) \in R \}\\
&= \{ (x,z) \mid \exists y . x = y \land (y,z) \in R \}\\
&= \{ (x,z) \mid (x,z) \in R \}\\
&= R
\end{aligned}
$$
本題に戻る。包含関係$M \subseteq A$は包含写像$i_M \colon M \hookrightarrow A$の存在に言い換えられた。
だとすると、集合$A$を固定したときに、$A$の部分集合の間に成り立つことは、$A$に向かう包含写像の間に成り立つことと対応するはずである。
$A$の部分集合たちは、包含関係に関して順序集合を成す。この順序関係のカウンターパートが、包含写像の間にあるはずだ。
実際に次の関係が成り立つ。
任意の$M,N\subseteq A$に対し、$M \subseteq N\ \mathrm{iff}\ i_M = i_N \circ \theta$を満たす$\theta \colon M \to N$が存在する。
$\Delta_M,\Delta_N$をそれぞれ$M,N$上の対角線集合とする。
$i_M,i_N$の定義はそれぞれ三つ組$(\Delta_M,M,A),(\Delta_N,N,A)$である。
$(\Longrightarrow)M \subseteq N$のとき、包含写像$\theta \colon M \hookrightarrow N$が三つ組$(\Delta_M,M,N)$によって定義可能であるから、$i_M = i_N \circ \theta$が成立する。
$(\Longleftarrow)$ある$\theta \colon M \to N$で$i_M = i_N \circ \theta$を満たすものが存在すると仮定する。
$\theta$を三つ組$(G_\theta,M,N),G_\theta \overset{\mathrm{def}}{=} \{ (x,y) \mid x \in M \land y = \theta(x)\}$で表す。
合成写像$i_N \circ \theta$を定義する三つ組$(G',M,A)$に関して、命題2より、$G' = \Delta_N \circ G_\theta = G_\theta$が成り立つ。
$i_M = i_N \circ \theta$より、写像のグラフの一致から$G' = \Delta_M$でなければならない。よって$G_\theta = \Delta_M$である。
したがって$\theta$は三つ組$(\Delta_M,M,N)$で表されるが、これは$M$から$N$への包含写像と一致する。よって命題1より、$M \subseteq N$が従う。
命題3の事実に基づいて、固定した集合に向かう包含写像の間で包含関係が定義できる。
集合$A$を一つ固定する。$A$に向かう包含写像の全体を、$\mathrm{Inc}_A$と書くことにする。
$$
\mathrm{Inc}_A \overset{\mathrm{def}}{=} \{ i_M \colon M \hookrightarrow A \mid M \subseteq A \}
$$
$\mathrm{Inc}_A$は、$A$の部分集合全体の集合との間に1対1の対応を持つ。実際、包含写像$i_M$とは三つ組$(\Delta_M,M,A)$で定義されたが、
$\Delta_M$は$M$の対角線集合であるから$M$に従属し、また今$A$は固定しているから、$A$に向かう包含写像は$M \subseteq A$と1対1なのである。
$\mathrm{Inc}_A$上の包含関係$\subseteq$を、次で定義する。
$$
i_M \subseteq i_N\ \overset{\mathrm{def}}{\iff}\ i_M = i_N \circ \theta\ \ \text{for some $\theta$}
$$
恒等律は$\theta = 1_M$が適することから、推移律は写像の合成の結合律から、それぞれ従う。反対称律も、命題3より$i_M \subseteq i_N$かつ$i_N \subseteq i_M$ならば$M = N$であるから、
$i_M = i_N$が成り立つことから従う。
さて、集合間の包含関係や、固定した集合の部分集合系に於ける包含順序が、全て包含写像とそれらの間の方程式で書けることが分かった。
これを模倣すれば圏論の部分対象の定義に採用できるのではないか、という気がしてくるが、そうは問屋が卸さない。
なぜならば、包含写像に相当する都合の良い射が必ずしも見つかるとは限らないからだ。
どうすれば良いか。
ところで集合論では、包含関係の定義を拡大解釈することがある。
例えば、自然数の集合$\mathbb N$が与えられたとき、整数の集合$\mathbb Z$を次で定義するのは珍しくない。
$$
\mathbb Z \overset{\mathrm{def}}{=} (\mathbb N \times \mathbb N)/\sim\quad \mathrm{where}\ (a,b) \sim (c,d)\ \mathrm{iff}\ a + d = b + c
$$
この定義に於いて、$\mathbb N$は$\mathbb Z$の部分集合ではない。にも関わらず、$\mathbb N$を$\mathbb Z$の部分だと思うことができる。その根拠は何だろうか。
ちょっと観察すると、$\mathbb N$から$\mathbb Z$への単射が直ちに見つかる。
$$
m \colon \mathbb N \to \mathbb Z,\ n \mapsto [(n,0)]
$$
任意の単射は、定義域と像の間に全単射を誘導する。$\mathbb N$と$\mathrm{Im}(m) = \{ [(n,0)] \mid n \in \mathbb N \}$の間には全単射
$$
\theta \colon \mathbb N \overset{\sim}{\to} \mathrm{Im}(m),\ n \mapsto [(n,0)]
$$
が存在している。
包含関係の拡張
この全単射$\theta$の存在を以て、単射$m$は$\mathbb Z$の部分集合$\mathrm{Im}(m)$を$\mathbb N$によって表しているものと考えられるのである。
単射は、像を定義域によって表示するのである。
さてここで命題3を思い出そう。集合$M,N\subseteq A$が任意に与えられたとき、$M \subseteq N$が成り立つことは、ある$\theta \colon M \to N$が存在して、$i_M = i_N \circ \theta$が成立することと同値であった。
いま$m$は包含写像ではないが、同じ形の方程式$m = i_{\mathrm{Im}(m)} \circ \theta$を満たしている。そこで、$m$と$i_{\mathrm{Im}(m)}$の間には、拡張された包含関係を見出せるのではないかと思うことは妥当な発想だろう。
この拡張された包含関係を、固定した集合に向かう単射の上に定義しよう。
$m_1\colon M \to A,m_2 \colon N \to A$をそれぞれ単射とする。このとき二項関係$\sqsubseteq$を、
$$
m_1 \sqsubseteq m_2\ \overset{\mathrm{def}}{\iff} m_1 = m_2 \circ \theta\ \ \text{for some $\theta$}
$$
と定める。集合$A$に向かう単射の全体のクラスを$\mathrm{Inj}_A$と書くとき、$\sqsubseteq$は$\mathrm{Inj}_A$上の前順序関係となる。(確認することは容易い。)
この拡張された前順序関係を前包含関係と呼ぶことにする。
前包含関係は、$\mathrm{Inj}_A$上に同値関係をもたらす。$m_1 \simeq m_2\ \mathrm{iff}\ m_1 \sqsubseteq m_2$かつ$m_2 \sqsubseteq m_1$。
この同値関係は次を成り立たせる。
商クラス$\mathrm{Inj}_A/\simeq$には順序関係が定まり、特に$\mathrm{Inc}_A$と順序同型である。
まず$\mathrm{Inj}_A/\simeq$が順序関係の定まったクラスであることについて。入る順序関係は、前包含関係$\sqsubseteq$が誘導する順序関係である。
$$
[m_1] \subseteq [m_2]\overset{\mathrm{def}}{\iff} m_1 \sqsubseteq m_2
$$
$\subseteq$の定義は代表元の取り方に依らない。実際、任意に$x \in [m_1],y \in [m_2]$を取るとき、$x \sqsubseteq m_1$かつ$m_1 \sqsubseteq x$、$y \sqsubseteq m_2$かつ$m_2 \sqsubseteq y$が成り立つから、
$m_1 \sqsubseteq m_2$ならば$x \sqsubseteq m_1 \sqsubseteq m_2 \sqsubseteq y$より$x \sqsubseteq y$が従い、逆に$x \sqsubseteq y$ならば$m_1 \sqsubseteq m_2$も然り。
反射律、推移律は$\sqsubseteq$から天下り的に従う。反対称律に関しても、$m_1 \sqsubseteq m_2$かつ$m_2 \sqsubseteq m_1$ならば$m_1 \simeq m_2$より、$[m_1] \subseteq [m_2]$かつ$[m_2]\subseteq [m_1]$ならば$[m_1] = [m_2]$が従う。
次に$\mathrm{Inj}_A/\simeq$が$\mathrm{Inc}_A$と順序同型であることについて。
$\mathrm{Inj}_A/\simeq$の各元(同値類)は、包含写像を標準的な代表元として持つ。
実際、任意の単射$m\colon M \to A$に対し、$m$を像分解することで、$m$は包含写像$i_{\mathrm{Im}(m)}$と同値になる:$m = i_{\mathrm{Im}(m)} \circ \overline{m},\ \overline{m}$は全単射。
特に、各同値類はただ一つの包含写像のみを含むことに注目してほしい。($i_M = i_N \circ \theta$かつ$i_N = i_M \circ \eta$は$M=N$と同値であり、$i_M = i_N$を導く。)
よって、$\mathrm{Inj}_A/\simeq$から$\mathrm{Inc}_A$への写像がwell-definedに定まる。この写像は特に可逆である。つまり、包含写像$i_M$に対し、同値類$[i_M]$を割り当てる操作が逆写像を与える。
$$
\Phi \colon \mathrm{Inj}_A/\simeq\ \to \mathrm{Inc}_A,\ \
[m] \mapsto i_{\mathrm{Im}(m)}
$$
$$
\Psi \colon \mathrm{Inc}_A \to \mathrm{Inj}_A/\simeq,\ \ i_M \mapsto [i_M]
$$
$\Phi,\Psi$はいずれも順序保存写像である。
$\Phi$が順序保存であること。$[m_1]\subseteq [m_2]$のとき、ある$\theta$が存在して$m_1 = m_2 \circ\theta$が成立する。
$m_1 = i_{\mathrm{Im}(m_1)} \circ \overline{m_1},m_2 = i_{\mathrm{Im}(m_2)} \circ \overline{m_2}$と像分解したとき、
$\overline{m_1},\overline{m_2}$は全単射であるから、
$$
\begin{aligned}
m_1 &= m_2 \circ \theta\\
\therefore\ i_{\mathrm{Im}(m_1)} \circ \overline{m_1} &= i_{\mathrm{Im}(m_2)} \circ \overline{m_2} \circ \theta\\
\therefore\ i_{\mathrm{Im}(m_1)} &= i_{\mathrm{Im}(m_2)} \circ \overline{m_2} \circ \theta \circ \overline{m_1}^{-1}
\end{aligned}
$$
したがって$i_{\mathrm{Im}(m_1)} \subseteq i_{\mathrm{Im}(m_2)}$が成立し、$\Phi$は順序を保存する。
$\Psi$が順序保存であること。$i_{M_1} \subseteq i_{M_2}$であるとき、ある$\theta$が存在して$i_{M_1} = i_{M_2}\circ \theta$が成り立つから、
$\mathrm{Inj}_A$にて$i_{M_1} \sqsubseteq i_{M_2}$が成立。よって$[i_{M_1}]\subseteq [i_{M_2}]$が成立し、$\Psi$は順序を保存する。
ここまでの議論で、任意の集合$A$に関して、$A$の部分集合系$\mathcal P A$と$\mathrm{Inc}_A , \mathrm{Inj}_A/\simeq$の間に順序同型が成り立つことがわかった。
よって$\mathcal P A,\mathrm{Inc}_A,\mathrm{Inj}_A/\simeq$のどれを採用しても、集合$A$の部分集合の全体を表示できる。
圏論の場合はどうか?対象$A$の部分対象は、集合$A$の部分集合のように素朴には定義できない。
また、一般の圏に於いて、射の像が存在するとも限らないし、包含写像のような特別な射も必ずしも存在するわけではない。
しかし、$\mathrm{Inj}_A/\simeq$の定義には元も像も包含写像も要らない。必要なのは、単射に相当する射だけだ。
そして任意の圏では、monicという、単射を一般化したものというべき射が初等的に定義できるのである。これならいけるのだ。
射$m$がmonicとは、任意の$x,y$に対し、$m \circ x = m \circ y$ならば$x = y$が従うことをいう。
monicの定義
集合と写像の圏では、単射であることとmonicであることが一致するのを示すのは容易い。
圏の対象$A$を一つ固定したとき、$A$の部分対象とは、$A$に向かうmonicの同型類のことをいう。
$A$に向かうmonic全体のクラスを$\mathrm{Monic}_A$と書く。
このとき、任意の$m_1,m_2 \in \mathrm{Monic}_A$に対し、
$$
m_1 \sqsubseteq m_2\ \overset{\mathrm{def}}{\iff} m_1 = m_2 \circ \theta\ \ \text{for some $\theta$}
$$
によって関係$\sqsubseteq$を定めると、これは$\mathrm{Monic}_A$上の前順序となる。
さらに、
$m_1 \simeq m_2\overset{\mathrm{def}}{\iff} m_1 \sqsubseteq m_2$かつ$m_2 \sqsubseteq m_1$
で同値関係$\simeq$を定め、同値類(同型類)$\mathrm{Monic}_A/\simeq$を構成する。対象$A$の部分対象系とは、この同値類のクラスのことをいう。
各同型類$[m]$に対し、同型類の元のmonic$m\colon M \to A$は、対象$A$の部分対象を表示しているものと解釈する。